Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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MDSJ 2010@京都

2010年10月10日 | 医学と医療
今年もMDSJに参加した.例年,この学会のことはブログに書いているが,朝から夜までみっちり勉強をさせていただける(ビデオセッションのある2日目は22時半までかかった).大好きな京都の街の散策もまったくする時間もなく,鴨川と高瀬川だけ眺めて戻ってきたが,それでもとても楽しい3日間であった.夜ホテルに戻ってから,印象に残ったことをまとめてtweetしたが,少し手を加えて,以下に記載する.

1.歩行障害(歩行は何とも奥が深い.「重心」や「膝の屈曲」というキーワードを加えると歩行の見方が変わってくる)

Post-fall syndrome:一度,転倒すると,恐怖心のため積極的な活動ができなくなる.これが動作困難や自立性の喪失につながる.

パーキンソン病では足底圧中心は健常者より後方になる.進行性核上性麻痺ではさらに後方になる.このため歩行障害や易転倒性が生じる.

膝関節が屈曲すると床反力が重心の前方に来なくなる.このため前に倒れ込む重力の影響を推進力として使えなくなる.「またぐ」動作の連続のような歩行になる.膝を伸ばす工夫が必要.

歩行器により膝の屈曲を矯正することで,歩行が改善しうる.歩行器も横型キャリーバックが適しているとのこと.

2.神経疾患と鉄(同じ原因遺伝子でありながら,小児と成人で臨床像の差があるとき,考慮すべき要素として神経系の発達があることを瀬川先生から学ぶ)

Neuroferritinopathyはフェリチン軽鎖をコードするFTL1遺伝子のexon 4フレームシフトで発症することが多く,その結果,血清フェリチンが低下するが,低下が認められない症例も存在する.

成人のPKANではパーキンソニズムを呈するが,小児ではジストニアが主体.これはパーキンソニズムを呈するほど神経系(※)が小児ではまだ発達していないため(15~20歳まで成長すれば出現しうる).
※ どの経路かはよく聞き取れず.

3.パーキンソン病の睡眠障害
REM期の意義としては,身体を休める,記憶の固定,ストレスの発散,ケガの修復が挙げられる.

ヘモグロビン濃度も日内変動(サーカディアンリズム)する.午前中に高値になることが脳梗塞の発症の時間帯に関与している可能性が指摘されている.

レストレスレッグス症候群(RLS)の日本人における有病率は1~4%である.女性が多い.アルコール,カフェイン,ニコチンも増悪因子として重要.

本邦PDにおけるRLSの頻度,鳥取12%(Nomura),福岡14%(坪井),新潟5%(下畑).この差の原因は対象の病期,治療内容,県民性の差?

4.新しい治療

本邦で使用不可のPD治療薬として,①ドパミン補充Duodopa,Stalevo,②ドパミン・アゴニストのapomorphine(D2),rotigotine(D3/D2/D1),③MAOB阻害剤Rasagiline、④日ドパミン作動薬A2AR拮抗istradefyllineがある

(PDにおけるdelayed startによる神経保護効果評価法の話題のあとに)変性疾患で治療薬のdisease modificationの効果をいかに評価していくかが今後の課題

5.SCDとPDの遺伝子

遺伝性SCDにおいてポリグルタミン病では病変は多系統に及び、画像も小脳以外に萎縮が出現する.一方,conventionalな遺伝子変異にて発症するタイプは病変はプルキンエ細胞に限局し,画像でも小脳に限局する.

ポリグルタミン病の病態も伸長ポリグルタミン鎖が共通して転写障害やオリゴマーによる神経障害を起こすという考えから,SCA1で示されているように,ポリグルタミン鎖だけでなくその蛋白全体の機能が病態に重要という考えにシフトしつつある.

遺伝性PDを起こす遺伝子(αSynやLRRK2)はSNP(一塩基遺伝子多型)を介して孤発性PDの発表にも関与する,ある人種においてのみ意義を持つ遺伝子多型(BST1;アジアやMAPT;白人)も報告されている.

孤発性PDの遺伝的危険因子となるGBA(グルコセレブロシダーゼ)遺伝子の保因者の頻度は1/250.

6.パーキンソン病治療ガイドライン2011

治療開始に関して改訂されたのは「非高齢者でも運動障害の改善の要求レベルが高い場合はL-dopaから開始」という選択肢が加わったこと.

wearing off ではエンタカポンがgrade A,ドパミンアゴニストやゾニサミドがgrade Bとなっている.

PDに伴う痛みや感覚障害に対しては,L-dopaがgrade B.

診療ガイドラインは医師や医療に対する一般の人の不信感を背景に生じた.医師が不正な行いをしているという不信感が存在する.ガイドラインとold good physicianの知恵・経験が融合したときにbest treatmentを期待できる.

7.DBS(DBSの限界,効果持続時間を良く考えて適応の有無を判断する)

STN-DBSはすべての運動症状に効くわけではない.例として会話(小声)の改善の度合いは他の運動症状と比べると僅少(small voiceにはむしろ薬物療法の方が効く).また術後,L-DOPAを減らしすぎるとうつが出現するので注意.

ON時に姿勢反射障害,歩行障害が残存する症例ではSTN-DBSでADLを長期に維持させることは難しい.L-dopa反応性のないすくみ足にはSTN-DBSの効果は乏しい.

8.パーキンソン病の経口摂取不可時

levodopa注,アポモルフィン(APO-go PEN),ロチゴチン,Duodopa.L-dopaは(起きている時間帯の)持続点滴が望ましい.L-dopa 1M=10mg/h.症状を見てポンプで調節.300mg程度必要.

9.PDと痛み(痛みの評価は難しいが,ドパミンと痛みの関連はとても面白い分野.非常に盛り上がる)

PDでは,痛みの閾値が低下している.ドパミンは痛みに対して抑制的に作用している.PDではドパミン活性が低下しているため痛みの閾値が低下している.実際に60~70%の症例に痛みがあると報告されている.

PDに合併する興味深い痛み;①Coat-hunger pain:起立性低血圧に伴う肩周囲の痛み.Frozen shoulder(五十肩):パーキンソニズムの優位側に出現してくる.

PDにおいて注目されているprimary central painの特徴としては,様々な部位に生じる痛み,デルマトームに沿わない,灼熱感や蟻走感などを呈する,といったことが挙げられるが,定義は難しい.

PDにおける痛みはmultiple painful syndromeと言える.原因はheterogeneousでmultifactorialである.Etiological diagnosisとドパミン治療の最適化を平行して進める.

10.ジストニア・ジスキネジアの見方+イブニングビデオセッション(圧倒的なビデオの数!movement disorderはたくさん見ることが大事)

ジストニアは「一定のパターンを持った」筋収縮により随意運動や姿勢が障害される病態.「一定のパターン」が重要で,舞踏運動やバリスム,アテトーゼは一定のパターンがない.

☆ 前方への歩行より,後ろ歩きがうまい場合,ジストニアを考える.

ゾルピデム(マイスリー)が効くジストニア症例が存在することが分かってきた!!

動作特異性(task-specific;例えば楽器の演奏)の高い場合,トリヘキシフェニジル(アーテン)を試す.

Spasmodic dysphoniaは最近増加している.テレフォン・オペレーターが発症することが多い(喉の頻用やストレスが関与?).声帯へのボトックスが有効.

ジストニアに使用する薬剤;アーテン,リオレサール,リボトリール,セレネース,セロクエル,マイスリー,L-dopa.禁煙も有効.

遺伝子異常を伴なうジストニアほどDBSは効きやすい.

心因性ジストニアの特徴;一貫性なし,わざとらしい不安定な歩行,律動性のゆれ,びっくりしやすい,聞き取りにく発語,恣意的に見える遅い動き,口の引き連れが左右に起こる,随意運動をするととまるふるえ

MSA患者の手指にみられる細かな手指の動きはmicropolymyoclonusである.

Orthostatic tremorから発症するパーキンソン病症例がある.この場合,サイクルは4 Hz程度.Orthostatic tremorは13-18 Hzと言われるが,2種類あって4 Hzのものもある.

本態性振戦にエクセグランが有効な症例がある.

喉から顎付近に限局するミオクローヌスとして網様体反射性ミオクローヌスがあるが,頻度としては極めてまれ.

周期性四肢運動症は昼間にも出現することが報告されている.

外傷後に痛みを伴うマネの困難な下肢の不随意運動が出現した場合,painful legs and moving toesを考える.神戸震災のあとの下肢の挫傷のあとに本症を発症した症例が複数ある.

11.うつ

Parkinson病(PD)はうつと間違えられることは少なくないが,逆にPDにうつを合併しても気がつかれないことがある.また,うつとアパシーの鑑別は悲哀感等の有無をもとに行うが,現実には難しい.

PD においてOFF時にうつが見られる場合は,dopaminergicな療法の最適化を行う.これで不十分であれば,抗うつ剤を併用する.ドパミンアゴニストも有用.

12.発汗障害

PDにおける発汗過多は①ジスキネジアのあるON時,もしくは②OFF時,に見られる.他の身体部位で発汗できない場合に代償性に発汗するためらしい(例;下肢で発汗なく,その分,額で発汗する).OFF時の発汗過多はL-DOPAでOFF自体を減らす.その他,エビデンスのある治療なし.

PDにおける発汗異常は悪性症候群との関連で重要.発汗過多は脱水を介して,発汗低下はうつ熱を介して悪性症候群のリスクとなる.

来年は東京です.来年はビデオセッションに演題をだしたいですね.若い神経内科医を育てようという姿勢を持っている先生が多い学会なので,ぜひたくさんの若い先生が参加できるといいですね.
Comments (2)
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