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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新たな心血管系疾患の危険因子としてのマイクロ・ナノプラスチック@STROKE2025(大阪)

2025年03月08日 | 脳血管障害
STROKE2025,日本脳卒中学会等3学会合同シンポジウム「脳卒中医学・医療の近未来を予見する」において,豊田一則大会長に貴重な機会をいただき,標題の発表をさせていただきました.マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)は環境問題としてだけでなく,人体への健康リスクとしても近年,非常に注目され,次々に新たな研究が発表されています.心血管疾患や脳卒中,認知症との関連が指摘され,病態機序の解明が進められています.講演では,基本的な知識,心血管疾患との関連,そして病態メカニズムについて概説しました.全スライドは以下からご覧いただけます.
https://www.docswell.com/s/8003883581/ZXE3GY-2025-03-08-075513

1)MNPs総論
マイクロプラスチックは2004年に概念化され,5 mm以下のプラスチック片として定義されました.さらに微細な1 μm未満のものはナノプラスチックと呼ばれ,より吸収されやすい性質を持ちます.MNPsは,消化管にとどまるだけでなく,さまざまな臓器に蓄積することが明らかになっています.



特にナノプラスチックは,血液脳関門を通過し,脳内に顕著に蓄積する(10g=クレヨン1本分!)ことが指摘されています.



MNPsの発生源としては,化粧品のマイクロビーズ,自動車タイヤの摩耗による微粒子,布地の繊維,さらにはペットボトルの水やティーバッグからの放出が挙げられます.MNPsには有害な化学物質が含まれており,特にビスフェノールA,フタル酸エステル,臭素系難燃剤などは,循環器障害,内分泌障害,神経毒性を引き起こすことが知られています.



欧州ではMNPsへの規制が進んでおり,化粧品中のマイクロプラスチック使用禁止や洗濯機のフィルター義務化などが行われています.しかし,日本では直接的な規制が進んでおらず,啓発活動や調査研究も遅れています.

2)脳卒中や心血管疾患との関連
近年,MNPsが心血管系の疾患と密接に関わることが報告されています.イタリアの研究では,頸動脈プラークの58%からMNPsが検出され,その存在が心血管イベントの複合リスクを4.53倍に増加させることが示されました.



MNPsがプラーク内の炎症を増強させることが関与しており,特にIL-18,IL-1β,TNF-α,IL-6などの炎症性サイトカインの発現が増加していることが確認されています.

また,中国の報告では,脳動脈や冠動脈,深部静脈血栓の80%にMNPsが検出されました.さらに,MNPsが血栓中に高濃度で存在する患者ではD-ダイマー値が上昇し,脳卒中の重症度を示すNIHSSスコアも有意に高くなっていました.

3)病態機序
MNPsは血管内皮細胞に直接影響を及ぼし,酸化ストレスや炎症を引き起こします.動物実験では,ポリスチレンナノプラスチックが大動脈内皮細胞に蓄積し,腸由来の細胞によって吸収させることが確認されています.また,JAK1/STAT3/TFシグナル経路が活性化し,凝固能が亢進することで血栓形成が促進されることが示されました.

このような病態が進行すると,血管障害が生じ,動脈硬化,心筋梗塞,脳卒中のリスクが高まります.さらに,MNPsが神経系にも影響を与え,認知機能低下に関連する可能性があることも指摘されています.

MNPsによる健康被害を防ぐためには,個人レベルと社会レベルの両面での対策が求められます.個人レベルでは,ペットボトルの水やプラスチック製のティーバッグの使用を控える,合成繊維製品の使用を減らす,電子レンジでプラスチック容器を加熱しないといった対応が重要です.一方,社会レベルでは,食品・飲料のプラスチック包装削減,MNPsの生産抑制,人体への影響調査の強化が必要と考えられます.



まとめ
MNPsは,環境汚染の問題だけでなく,心血管疾患や脳卒中の新たな危険因子として認識されるべき物質です.特に,ナノプラスチックは血液脳関門を通過し,脳への影響も懸念されます.動物モデルや臨床研究を通じて,MNPsによる病態機序の解明が進んでいますが,日本では対策が遅れており,今後の研究と政策の整備が急務です.

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頭蓋骨の骨髄は他の長骨と異なり,妊娠や脳梗塞などに対してダイナミックに変化する!

2024年11月19日 | 脳血管障害
先日,日本神経学会のresidentホームページに「近未来の脳神経内科は頭蓋骨から診断し治療する!」というエッセイを執筆しました.またCOVID-19のSARS-CoV-2ウイルスが脳に侵入する経路として,頭蓋骨の骨髄ニッチが注目されていることも過去にブログでご紹介しました.頭蓋骨の骨髄は現在,脳との関連でとても注目を集めています.

この内容に関連する研究が,ドイツのマックス・プランク分子生物医学研究所をはじめとする多国籍の研究チームによりNature誌に報告されました.この研究では,成人の頭蓋骨の骨髄が生涯を通じて造血能力を維持し,それどころか拡張し続けるという驚くべき特性を持つこと,さらに生理的・病的な変化に対してダイナミックに適応することが示されました.

まず頭蓋骨の骨髄は加齢とともに血管が拡大し,とくに造血幹細胞(HSCs)の増加を伴いました.この血管と骨髄の拡大は,これまで研究されてきた大腿骨などの長骨とは異なり,老化の影響を受けにくいことが確認されました.図にあるように,若年期→中年期→壮年期→老年期にかけてのマウス頭蓋骨の血管領域は拡大し,血管の面積や直径が大きくなり,特に女性でその拡大が顕著でした.血管内皮細胞の表面に存在する糖タンパク質であるエンドムチン(endomucin)の発現も加齢に伴い有意に増加し,頭蓋骨骨髄の血管構造の安定性とHSCs機能の維持に寄与していました.この血管の拡大はHSCsやその前駆細胞の増加を支え,全身の造血量を増やします.頭蓋骨の骨髄は加齢性変化に対して保護されているということのようです.



さらに頭蓋骨骨髄が生理的・病的な変化に対しても迅速に適応を行うことも示されました.具体的には妊娠,脳梗塞モデル,血液腫瘍モデル(慢性骨髄性白血病),骨粗鬆症に対する副甲状腺ホルモン(PTH)の影響が検討されています.これらは頭蓋骨の血管および造血細胞に顕著な変化を引き起こし,骨髄は拡大していきます.例えば妊娠中に血管が拡張し,造血幹細胞やその前駆細胞が増加することで,母体の血液量や赤血球の需要を満たすための迅速な対応が可能になります.また,脳卒中モデルにおいても頭蓋骨骨髄が迅速に反応し,造血細胞が活性化され,回復に向けた支援を行うことが示唆されました.これに対し,長骨の骨髄はこれらの変化に対して限定的な反応しか示しません.さらに妊娠や脳卒中時,PTH治療時において血管内皮増殖因子(VEGFA)が増加し,骨髄内で血管の拡張と造血が促進されることも示されました.つまりVEGFA-VEGFR2シグナル経路が頭蓋骨骨髄の成長において重要な役割を果たしているようです.

頭蓋骨の骨髄ニッチについてまとめると,以下の特性を持っているようです.
1)老化耐性:加齢に伴う脂肪形成や炎症性サイトカインの増加,血管構造の劣化に対して耐性がある.
2)血管ネットワークとの連携:エンドムチン陽性洞様血管の拡張や血管密度の増加により造血細胞を支えている.これにより妊娠や脳卒中などに迅速に適応する.
3)分子特性:長骨と異なり,HSCの維持に寄与する特有の分子プロファイルを持っている.

頭蓋骨の骨髄ニッチが,脳の免疫を担う細胞を供給すること,脳と直接的なやりとりが可能な経路(頭蓋骨―髄膜結合)が存在することを考えると,頭蓋骨の骨髄が神経系の病態に対し防御的な役割を果たしている可能性は高く,将来,脳神経疾患の治療標的になる可能性を示すものと思われます.
Koh BI, et al. Adult skull bone marrow is an expanding and resilient haematopoietic reservoir. Nature. 2024 Nov 13.(doi.org/10.1038/s41586-024-08163-9

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なぜ小脳の脳梗塞でなくても四肢の(小脳性)運動失調が生じるのか?

2024年09月05日 | 脳血管障害
脳卒中後に認められる運動失調は,一般に小脳が損傷されたために生じます.しかし小脳が直接損傷を受けていない場合でも,四肢の運動失調が生じることがあります.フィンランドからそのメカニズムを検討した興味深い研究が,最新号のNeurology誌に報告されました.

まず四肢の運動失調を呈し,画像上,病変部位が同定された脳卒中患者を39名(うち35名は急性期から運動失調を呈した)集積しました.驚いたことに患者の54%が,小脳や小脳脚以外の部位に病変を認めました(図1).つまり,四肢の運動失調は小脳以外の脳の部位でも少なからず生じうることが示されました.



つぎに「なぜ小脳外病変が運動失調を引き起こすのか?」という問題を解決するために,VLSM(Voxel-Based Lesion-Symptom Mapping)とLNM(Lesion Network Mapping)という解析を行いました.VLSMは特定の脳部位と症状の直接的な関連を調べる方法で,LNMは脳全体のネットワーク(コネクトーム)を考慮して,病変がどのようにして症状を引き起こすかを調べる方法です.この結果,VLSMでは特定の病変部位と四肢失調には関連を見いだせませんでしたが,LNMでは病変はさまざまな部位に散在していても,四肢運動失調のネットワークハブ(歯状核や中位核:interposed nucleiなどから構成される)に関連した領域であることが分かりました(図2).つまりこのネットワークの調整に重要な役割を果たしている領域が障害を受けると運動失調を来すということになります.



図3は,上述した「四肢運動失調のネットワークハブ」とそれに関連する領域の模式図です.赤い円で示されているのが「ネットワークハブ」で,この領域は四肢の正確な動きの調整に重要な役割を果たします.そしてここに入力する経路が2つあります.1つは脊髄小脳路を通じて身体からの感覚情報を受け取り,下小脳脚から入力するもの,もう1つは大脳の運動皮質から橋核を介して,中小脳脚から入力するものです.一方,小脳からの出力は,上小脳脚を通して中脳で交差し,視床腹外側核→一次運動皮質,運動前野,補足運動野に送られます.これらのネットワークのどこかに病変があった場合も四肢の運動失調が生じるというわけです.



以上より,小脳のネットワークハブと密接に結びついたネットワークが損傷されることで,たとえ病変が大脳などの小脳以外の部位にあっても,運動失調が出現する可能性が示されました.結論として運動失調は単一の部位ではなく,複数の領域が絡み合ったネットワークの障害として生じると言えます.
Liesmäki O, et al. Localization and Network Connectivity of Lesions Causing Limb Ataxia in Patients With Stroke. Neurology. 2024 Sep 24;103(6):e209803.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000209803

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魚の骨の誤嚥は椎骨動脈を損傷しうる!

2024年08月31日 | 脳血管障害
Stroke誌にびっくりする写真が掲載されていました.84歳の中国人男性が魚の骨を誤って飲み込み,喉の不快感と血痰にて受診.CTアンギオグラフィーによってC4椎骨の上縁に3.0 cmの高密度線状物体(=魚の骨)が確認され,その骨がなんと左椎骨動脈を貫通していました(図A).また咽頭壁は腫脹していました.X線では左咽頭側および食道周囲に空気が検出されました.耳鼻咽喉科医と脳神経内科医がチームを作り,喉頭鏡を使用して咽頭から魚の骨を取り除くことができたそうです.しかし左椎骨動脈のV2セグメントからの造影剤の漏出が確認されたため(図B),止血のために被覆ステントが動脈に挿入され,出血は止まりました(図C).その後,患者は抗生物質治療を1週間受け,無事に退院しました.図Dは摘出された魚の骨です(大きいですが,何の魚か分かりませんでした).



それにしても「魚の骨が椎骨動脈を損傷しうるのか!」と驚いて,咽頭と椎骨動脈の位置関係をアトラスで確認しました.案外近いことを理解しました.魚の骨による椎骨動脈損傷の診断と治療の流れがよく分かる症例報告でした.
Wang J, e al. Vertebral Artery Rupture due to Ingestion of a Fish Bone. Stroke. 2024 Sep;55(9):e254-e255.(doi.org/10.1161/STROKEAHA.124.048326

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血栓回収術後の脳卒中後運動異常症は遅発性に発症し,かつ稀ではない

2024年04月10日 | 脳血管障害
大脳基底核は解剖学的および代謝学的特徴から虚血の影響を受けやすいと言われています.また虚血性病変により「脳卒中後運動障害(post-stroke movement disorders;PMDs)」を呈することも知られています.責任病変は線条体,淡蒼球,視床です.運動異常症の種類は,急性期イベントからの潜時と関連があり,舞踏病が最も早く(数時間から数日),ジストニアが最も遅い(最大で数年後)と言われています.また血栓回収術を施行したMCA近位部閉塞による急性虚血性脳卒中(AIS)は,大脳基底核の選択的損傷モデルとも言われています(図1).Eur J Neurol誌の最新号に,イタリアから,血栓回収術による再灌流に成功したAIS患者におけるPMDsの頻度と特徴を検討した研究が報告されています.



対象は血栓回収術を施行したMCA近位部閉塞によるAIS患者連続64例で,ベースライン時,6ヵ月後,12ヵ月後にPMDsについて運動異常症の専門医が評価しました.

さて結果ですが,亜急性期にPMDsを呈した者はいませんでした.しかし6ヵ月後には7/25人(28%),12ヵ月後には7/13人(53.8%)がPMDsを呈しました.6ヵ月後の7名の内訳はパーキンソニズム3人,ジストニア3人,パーキンソニズム+ジストニア1人,12ヵ月後の7名の内訳はパーキンソニズム2人,ジストニア2人,パーキンソニズム+ジストニア2人,ジストニア+舞踏運動1人でした(図2).ほとんどの患者の症状は虚血病変の対側でしたが,一部では両側性であったり顕著な体軸性の徴候を呈しました.ベースライン時の臨床的特徴や虚血病変の部位は,サンプル数が限られていたためか,PMDsの発症と有意な相関はみられませんでした.



以上より,再灌流に成功したAISの長期経過観察において,PMDsは稀ではないことが分かりました.6ヶ月後より12ヶ月後に頻度が増加していますが,これもサンプル数が小さいためさらなる検証が必要です.機序については,虚血による急性損傷というより,神経可塑性の不適応や代償回路の異常が原因と推測されます.

感想ですが,血栓回収術後,大脳基底核の選択的病変を有する患者では,たとえ退院時に無症状であっても,慎重なフォローアップを要することが分かりました.パーキンソニズムとジストニアは専門家が診察しないと運動麻痺と誤って判断される可能性もあるように思います.私は血栓回収術後の患者さんをフォローすることはほとんどないのですが,実際にパーキンソニズムやジストニアを呈する患者さんを経験されますでしょうか?また変性疾患と誤ることなくPMDsと診断されているのか?PMDsの治療反応性はどうなのか?いろいろ気になりました.
Rigon L, et al. Movement disorders following mechanical thrombectomy resulting in ischemic lesions of the basal ganglia: An emerging clinical entity. Eur J Neurol. 2024 May;31(5):e16219.(doi.org/10.1111/ene.16219

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頸動脈の動脈硬化性病変の58%からプラスチックが検出され,炎症を増強し,死亡リスクを増加させていた!!

2024年03月08日 | 脳血管障害
学会で横浜のホテルに滞在中ですが,部屋にペットボトルの水がありません.環境に配慮し,プラスチック使用量減少を目指しているとのことです.ちょうど今週号のNEJM誌を読んで,この取り組みは今後極めて重要になると思いました.

プラスチック(ポリエチレン,ポリ塩化ビニルなど)は化石燃料が主原料で,多くの有毒な化学添加剤を含んでいます.例として発がん性物質,神経毒性物質,内分泌かく乱物質であるビスフェノール類などがあります.プラスチック廃棄物は環境中に存在し,分解されてマイクロプラスチックやナノプラスチック粒子になります.前者は粒径1 µm~5 mm,後者は粒径1μm未満です.今年1月にPNSA誌に出た論文は,両者をあわせたマイクロ/ナノプラスチック(MNPs)を正確に測定できるようになったという報告で,ペットボトル1本に約2.4±1.3×105粒子(24万個!!)と推定され,その約90%がナノプラスチックであったそうです.ナノプラスチックはサイズが小さいため,人体に入りやすく,毒性が強いと考えられています.既報では大腸,胎盤,肝臓,脾臓,リンパ節組織など複数の組織で検出され,米国のデータから,プラスチック添加化学物質がほぼすべての米国人の体内に存在することも示唆されています.またその健康リスクは生産に携わる労働者の間で指摘されていました.

さて今回のNEJM論文はイタリア3施設からのもので,前方視的研究です.頸動脈の動脈硬化病変(プラーク)を外科的に切除する頸動脈内膜切除術を受けた312人のなんと150人(58%)の切除プラークからポリエチレンが検出され,プラーク1mg当たり21.7±24.5μgでした.31人の患者(12.1%)にはポリ塩化ビニルが検出されました.電子顕微鏡検査では,プラークのマクロファージ中に,ギザギザした異物が確認されました(図1).



X線検査では,これらの粒子の一部に塩素が含まれていることが示されました.プラークにMNPsが検出された患者では,検出されなかった患者よりも,34ヵ月の追跡期間において一次エンドポイントイベント(心筋梗塞,脳卒中,または何らかの原因による死亡の心筋梗塞,脳卒中,または何らかの原因による死亡)の複合リスクが高いことが分かりました(ハザード比,4.53;P<0.001;図2).MNPsはプラーク中の炎症反応を著しく増加させ,TNF-α,IL-6,IL-18,IL1-β,CD3,CD68のレベルやコラーゲン含量を増加させました.



以上より,心血管系疾患の新たな危険因子としてMNPsへの暴露を考える必要が考えられます.また他の臓器へのリスクはないかも問題ですし,なによりどうすれば曝露を減らすことができるのかが今後の重要な問題と考えられます.冒頭で述べたようなプラスチックの使い捨てを減らすことが重要で,論文の論評には化石燃料からの脱却が不可欠と述べられています.個人的にはペットボトルの飲料は極力避けようかと思いました.
Qian N, et al. Rapid single-particle chemical imaging of nanoplastics by SRS microscopy. Proc Natl Acad Sci U S A. 2024 Jan 16;121(3):e2300582121.(doi.org/10.1073/pnas.2300582121

Marfella R, et al. Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events. N Engl J Med. 2024 Mar 7;390(10):900-910.(doi.org/10.1056/NEJMoa2309822)

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運転中に発症した脳卒中を診るとき確認すべきこと

2024年02月19日 | 脳血管障害
日本内科学会第252回東海地方会に参加しました.興味深い症例報告がありました.心原性脳塞栓の既往があり抗凝固療法中のトラックドライバーの男性が,運転中に事故を起こし救急搬送されました.左片麻痺があり,右M2閉塞を認め,脳梗塞が原因でした(NIHSS 11点).ただ最終健常確認時刻より4.5時間が過ぎていたこと,かつ頭部外傷を合併している可能性もあることから担当医はt-PAによる血栓溶解療法を躊躇しました.ところが所属する運送会社の機転でドライブレコーダーの提出があり,左片麻痺を来した様子が写っていて発症時間が特定でき,かつ頭部の打撲もないことも分かりました.このためt-PA療法を施行し,患者さんは速やかに症状が改善,早期に退院できました.

我が国においてトラックドライバーは脳・心疾患による過労死や事故が多い職種として知られているそうです.トラックドライバーに限らず,高齢ドライバーもドライブレコーダーを装備したほうが良いのかもしれません(最近の機種は車内も記録できるそうです).また運転中に発症した脳卒中を救急外来で担当する時,今後,ドライブレコーダー搭載の有無を確認する必要があるのだなと思いました.

ちなみに図はGPT-4に作ってもらいました(笑)

山田由紀乃先生ら(碧南市民病院神経内科).ドライブレコーダーにより発症時間が判明しt-PA療法で症状の改善を認めた1例.日本内科学会第252回東海地方会


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若年者の繰り返す脳出血で確認すべきこと ―屍体硬膜移植に伴う脳アミロイド血管症―

2022年11月13日 | 脳血管障害
金沢市で開催された第164回日本神経学会東海北陸地方会(11月12日)において,名著「神経診察の極意」の著者であり,私が憧れるNeurologistのひとりである廣瀬源二郎先生(浅ノ川総合病院顧問,金沢医科大学名誉教授)御自らご発表された演題について議論したいと思います.臨床のみならず,社会的にも今後,注目すべき重要な問題です.

まず屍体硬膜(ヒト乾燥脳硬膜)とは,悪名高きドイツのBブラウン社による「Lyoduraライオデュラ」のことです.脳外科手術に伴う硬膜欠損部位に,プリオンで汚染された屍体硬膜を移植することで発症する医原性クロイツフェルト・ヤコプ病(CJD)の原因として有名です.ドラマにもなった小説「美丘(石田衣良著)」でも取り上げられました.そのLyoduraはプリオンのみならず,アミロイドβにも汚染されていて,それが早期発症の脳アミロイド血管症をきたすことが近年,分かってきました.

廣瀬先生が発表された症例は42歳男性で,34歳に右後頭葉の脳内出血で発症し,計7回の脳出血を繰り返しました.右後頭葉→右頭頂葉→左後頭葉→右後頭葉→左後頭葉→右前頭葉→左頭頂葉の順番でした.T2*画像でmicrobleedsを認め,脳アミロイド血管症を疑いましたが,Boston criteriaの55歳以上が合わず,原因が不明であったものの,幼少期に頭部外傷歴があり,硬膜外血腫除去に際し,硬膜一部切除と屍体硬膜移植(右頭頂葉のあたり)が行われたことが判明しました.廣瀬先生は考察として,移植部位からのアミロイドβの直接播種(propagation)とアミロイドβ血管周囲ドレナージ機構の破綻に伴う血管症を挙げておられました.

この屍体硬膜移植に伴う脳アミロイド血管症は2018~2019年にかけて濵口毅先生(金沢医科大学)らによる報告を含め複数の報告がなされました(Neurol Sci. 2019;399:3–5).最近読んだStroke誌(Stroke. 2022 Aug;53(8):e369-e374)では2名のLyodura移植の剖検例が示され,脳アミロイド血管症に加え,アルツハイマー病に特徴的な脳実質のアミロイドβ(老人斑)とタウタンパクの沈着(神経原線維変化)を認めたことが報告されています(図).発表後の質疑で確認をしたところ,提示の症例ではこれらアルツハイマー病の病理変化は認めなかったとのことでした.



ちなみに2006年の報告で,全世界で医原性CJD164例が報告され,うち100例以上が日本の症例でした.当時の厚生省が医薬品の危険に対するチェックや規制を適切に行わなかったことが,日本で症例数が圧倒的に多い原因と言われています.1973年厚生省で輸入承認されて以降,1997年に使用を禁止するまで何の措置も取らず,24年間のあいだに少なくとも30万人が移植されました.地方会ではもう1例,脳アミロイドアンギオパチー関連炎症と診断した患者にLyoduraが移植されていたことが議論されました.若年者のmicrobleeds,繰り返す脳出血,認知症では今後,屍体硬膜移植(1973~1997)の既往を確認する必要があります.

過去ブログ:なぜ「ヒト乾燥脳硬膜」による医原性ヤコブ病が日本に多いのか?


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死を望む人に対し医療者は何をすべきか ~難病の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)~

2022年02月13日 | 脳血管障害
名古屋大学 勝野雅央教授に機会をいただき,標題のタイトルにて講義を行いました.ELSI(エルシーと読みます)とは,倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)の頭文字をとったものです.「新しい科学技術・医療技術を開発し,社会実装する際に生じうる,技術的課題以外の課題」を指します.

講義ではまず代表的な難病として,筋萎縮性側索硬化症(ALS)と多系統萎縮症(MSA)を取り上げ,その臨床倫理的問題について解説しました.神経難病において一番影響の大きかった科学技術の実装はなんといってもポータブル人工呼吸器ですが,まずその登場が疾患に及ぼした影響と倫理的問題を議論しました.その後,MSA患者において報道され,患者・家族・医療者に大きな衝撃を与えた医師介助自殺や,ALS患者における嘱託殺人といった事例を紹介し,死を望む人に対し医療者は何をすべきかについて考えました.ぜひご意見やご批判をいただければと思います.参考図書として,以下の本を紹介しました.

◆松田純.「安楽死・尊厳死の現在-最終段階の医療と自己決定 (中公新書)(https://amzn.to/3sziPxt)」
◆フーフェラント―自伝・医の倫理(北樹出版)(https://amzn.to/3HOXPJm)
◆レネー・C. フォックス.生命倫理をみつめて―医療社会学者の半世紀(みすず書房)(https://amzn.to/34QfnX4)
◆シェリー・ケーガン.「死」とは何か(文響社)(https://amzn.to/3LvwKxd)
◆神経倫理ハンドブック( Brain and NERVE 2020年7月号)(医学書院)(https://amzn.to/3HJFUnu)






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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月12日)

2022年02月12日 | 脳血管障害
今回のキーワードは,新規抗ウイルス薬パキロビッドは多くの併用薬剤に影響を与える,long COVIDの神経・精神症状の有病率は高く,とくに精神症状は時間の経過とともに増加する,11~17歳の青年においても感染3ヵ月後の評価でlong COVIDを認める,子供へのワクチン接種の推奨と,子供を対象とする臨床試験の実施が必要である,です.

一昨日,厚労省は,ファイザーの抗ウイルス薬パキロビッド(パクスロビド)を特例承認したと発表しました.軽症者向け内服薬の承認は,メルクの「モルヌピラビル」についで2つめです.日本でもすでに約4万人分が納入済みで,早ければ14日から医療現場に供給を始めると報道されています.ただし重要な問題があります.本剤(nirmatrelvir錠/リトナビル錠併用)は,リトナビルでCYP3Aにおける薬物代謝を阻害して薬剤の血中濃度を保つ薬剤であるため,CYP3Aで代謝される薬剤の血中濃度をほとんどの場合で上昇させます.代表的な薬剤はカルシウム拮抗薬,スタチンですが,とても多くの薬剤が影響を受けます.このため併用薬の確認は厳密に行う必要があります.

その他,今回ご紹介する論文はいずれもlong COVIDに関するものです.小児にもlong COVIDが生じる可能性を議論する論文が複数出ています(図1).とくにNature誌は,小児は重症化しにくいと言って,小児におけるワクチン接種を推進せず,感染拡大を容認する国々に対して厳しい批判を行っています.


◆long COVIDの神経・精神症状の有病率は高く,とくに精神症状は時間の経過とともに増加する.
成人のLong COVIDに関するメタ解析が報告された.発症後3~6か月(中期)および6か月以上(長期)で比較を行った.2020年1月~2021年8月に発表された1458論文のうち,19論文(患者数1万1324名)が対象になった.神経症状の有病率は,疲労37%,ブレイン・フォグ32%,記憶障害27%の順に多く,さらに注意障害22%,筋痛18%,嗅覚障害12%,味覚障害11%,頭痛10%と続いた.精神症状は睡眠障害31%,不安23%,抑うつ12%の順に多かった(図2).



また精神症状は,中期と長期の比較で,いずれも時間経過とともに有病率が大幅に増加した(図3).



入院した患者は,入院していない患者と比較して,感染後3カ月,またはそれ以上経過した時点で,嗅覚障害,不安,抑うつ,味覚障害,疲労,頭痛,筋痛,睡眠障害の有病率は減少した.しかし入院は記憶障害の頻度が高いことと関連した(オッズ比1.9).以上より,long COVIDの主要な神経症状は,疲労,認知障害(ブレイン・フォグ,記憶障害,注意障害),睡眠障害で,精神症状の頻度も高い.さらに経時的に増加する.これらを改善する治療を確立するためのランダム化比較試験が求められる.
J Neurol Sci. 2022 Jan 29;434:120162.(doi.org/10.1016/j.jns.2022.120162)

◆11~17歳の青年においても感染3ヵ月後の評価でlong COVIDを認める.
ロンドンから,非入院の青年におけるlong COVIDを検討したCLoCk研究が報告された.2021年1月から3月の間にPCR陽性となった11~17歳の青年で,質問表に回答した3065人と,陰性の3739人と比較した.それぞれ1084名(35.4%)および309名(8.3%)に症状があり,かつそれぞれ936名(30.5%)および231名(6.2%)が3つ以上の症状を有していた.3ヵ月後,陽性者のうち2038名(66.5%),陰性者のうち1993名(53.3%)が何らかの症状を呈し,また各群928名(30.3%)および603名(16.2%)に3つ以上の症状があった.陽性群で最も多かった症状は,疲労感(39.0%),頭痛(23.2%),息切れ(23.4%)で,陰性群では疲労感(24.4%),頭痛(14.2%),その他(15.8%)であった.PCR陽性群は,陰性群に比べて,長期にわたるCOVID症状を持つ確率が高く,3つ以上の症状を訴える割合が陽性群で29.6%,陰性群で19.3%であった(リスク比1.53).以上より11歳から17歳の青年でも,感染の3ヵ月後,long COVIDを呈する可能性が示された.
Lancet Child Adolesc Health. 2022 Feb 7:S2352-4642(22)00022-0.(doi.org/10.1016/S2352-4642(22)00022-0)

◆子供へのワクチン接種の推奨と,子供を対象とする臨床試験の実施が必要である.
Nature誌が子供のlong COVIDに関連する論評を発表した.まず上述のCLoCk研究を取り上げ,英国だけでも数万人の子どもや若者がlong COVIDに罹患する可能性を議論している.子供の感染が増えれば,子供のlong COVIDが増えるだけでなく,多くの人に感染が拡大することになる.よって子供たちの大半がワクチンを受けていない国において,子供は重症化しにくいからと言って感染拡大を容認することは,政府は責任を放棄していると言える.
また子供のlong COVIDの研究に関して,10代の子供を対象としたものは少なく,11歳以下の子供を対象としたものはさらに少ない.また現在進行中のCOVID-19関連の臨床試験のうち,10代や青年を対象としたものはない.これは医学界では一般的に認められる.大人が先に研究され,子供は後回しにされるのは,安全上の理由もあるが,治療を子供で試す前に大人で試すことができるためである.しかし,今後,臨床試験に若い世代を参加させる必要がある.もちろん,11歳以下の子どもたちのデータを得るのは難しく,また,保護者からのインフォームド・コンセントの取得といった課題もある.それでも,もしこのまま何もしなければ,long COVIDをきたす子どもたちは今後も増えつづけ,そして治療もなく取り残された存在になるであろう.
Nature. 2022 Feb;602(7896):183.(doi.org/10.1038/d41586-022-00334-w)


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