今回のキーワードは,ワクチン未接種のLong COVID患者の症状改善にワクチン接種は有効で,sIL-6Rが上昇した人で効果を認める,ワクチン接種をした非入院者に対しパキロビッドはLong COVIDの発症を抑制しない,シンバイオティクスはLong COVIDの症状の改善に有効である,腸管粘膜組織は感染後数ヵ月間,SARS-CoV-2ウイルスを保持する,Long COVIDではアンチトロンビンIIIは低下し,トロンボスポンジン1とvWF因子は増加する,労作後倦怠感の原因として骨格筋の構造・機能異常があり,激しい運動で増悪する,中脳ドパミンニューロンにおけるSARS-CoV-2ウイルス感染後の炎症と細胞老化による消失です.
Long COVIDの治療に関する論文を3つ,病態に関する論文を3つ,そしてパーキンソン病の原因となる中脳ドパミンニューロンの消失がSARS-CoV-2ウイルス感染による生じうるという論文の紹介です.治療に関して,Long COVID患者でワクチン未接種であった人は今からでも接種したほうが良さそうです.Long COVIDに対する抗ウイルス薬の効果(PaxLC試験)は今後発表される予定ですが,急性期に内服してもLong COVIDの予防効果はなさそうです.Long COVIDの機序にひとつに腸脳連関による脳障害がありますが,シンバイオティクスは腸内細菌叢障害を改善する薬で有望かもしれません.アルツハイマー病の危険因子としてのCOVID-19はほぼ確立していますが,同様のことがパーキンソン病でもいえそうな雰囲気になってきました.第10波中ですが,脳を守るために感染予防とワクチン接種を心がける必要があります.
◆ワクチン未接種のLong COVID患者の症状改善にワクチン接種は有効で,sIL-6Rが上昇した人で効果を認める.
米国Yale大学を含む複数施設が,COVID-19ワクチン未接種のLong COVID患者16人を対象に,ワクチン接種後の症状および免疫応答を検討した前方視的研究が報告された.結果は,ワクチン接種後12週目の自己報告では,16人中10人が健康状態の改善,3人が変化なし,1人が悪化,2人がわずかな変化を認めた(図1).ワクチン接種6週後および12週後に,SARS-CoV-2スパイク蛋白質特異的IgGおよびT細胞の増加がほとんどの患者で認められた.ヘルペスウイルスや自己抗原に対する反応性に変化は認めなかった.また症状の改善と関連するのはベースラインのsIL-6Rが高いことで,改善なしと関連するのはIFN-βとCNTFが高いことであった.以上よりワクチン未接種のLong COVOD患者に対するワクチン接種の有効性が示唆されるが,少人数の検討であることからさらなる検証が必要である.
medRxiv 2024.01.11.24300929(doi.org/10.1101/2024.01.11.24300929)
◆ワクチン接種をした非入院者に対しパキロビッドはLong COVIDの発症を抑制しない.
急性期経口治療薬ニルマトルビル/リトナビル(パキロビッド)がLong COVIDの発症リスクを低下させるかを検討した観察コホート研究が米国から報告された.ワクチン接種済みで,COVID-19に初めて感染した非入院患者にうち,パキロビッドを使用した353人と非使用の1258人におけるLong COVID発症率は,感染後5.4±1.3ヵ月の時点で16%と14%で,パキロビッド使用とLong COVIDとの関連は認められなかった(OR 1.15;95%CI 0.80-1.64;p=0.45).
J Med Virol. 2024 Jan;96(1):e29333.(doi.org/10.1002/jmv.29333)
◆シンバイオティクスはLong COVIDの症状の改善に有効である.
Long COVIDの病態機序の一つとしてdysbiosis(腸内細菌叢のバランスが乱れた状態)がある.シンバイオティクスとは生きた有用菌とその栄養源を同時に摂取することで腸内環境を整える.香港からシンバイオティクス製剤(SIM01)の6ヵ月間経口内服がLong COVIDの14種類の症状緩和に有効か検討した無作為化二重盲検試験が報告された.SIM01投与群232名と偽薬群231名に無作為に割り付けた.6ヵ月後,SIM01投与群では疲労(OR 2.273,p=0.0001),記憶障害(1.967,p=0.0024),集中力低下(2.644,p<0.0001),胃腸の不調(1.995,p=0.0014),全身倦怠感(2.360,p=0.0008)は偽薬群と比較して改善した.有害事象の発生率は同程度であった.症状改善の予測因子は,SIM01による治療,オミクロン変異株の感染,ワクチン接種,軽症感染であった.
Lancet Infect Dis. 2023 Dec 7:S1473-3099(23)00685-0. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00685-0.
◆腸管粘膜組織は感染後数ヵ月間,SARS-CoV-2ウイルスを保持する.
エジプトからCOVID-19の既往のある患者における持続性腸内感染の陽性率を検討した研究が報告された.対象は上部消化管内視鏡による生検を受けた166例と下部消化管内視鏡による生検を受けた83例.ヌクレオカプシド蛋白に対する免疫染色陽性の頻度は,上部で37.34%,下部で16.87%(図2),有意に上部で高かった(P = 0.002).喫煙者および糖尿病患者は,持続的なウイルス腸内感染のリスクが高い可能性がある.以上より,腸管粘膜組織はSARS-CoV-2ウイルスのリザーバーであることが示された.
Endosc Int Open. 2024 Jan 5;12(1):E11-E22.(doi.org/10.1055/a-2180-9872)
◆Long COVIDではアンチトロンビンIIIは低下し,トロンボスポンジン1とvWF因子は増加する.
COVID-19罹患者113人を初回感染後1年間追跡調査し,Long COVIDに関連するバイオマーカーを同定したスイスからの研究である.6ヵ月後の追跡調査では,40人の患者がLong COVIDの状態であった.プロテオミクスにより血清中の6500以上のタンパク質を測定した.この結果,Long COVID患者は急性期に補体の活性が亢進し,6ヵ月後の追跡調査でも持続していたが,回復したlong COVID患者で補体レベルは正常化していた(補体系は感染に対抗したり,感染し傷害した細胞を除去する作用がある).補体系の活性化の結果,補体C5b-C9からなる終末補体複合体(TCC)が形成され細胞膜に結合し,細胞溶解を引き起こす.これを反映し,C5bC6複合体は増加,C7を含むTCCは細胞膜に取り込まれて減少,TCCにより細胞膜が損傷する(このため血管内皮障害マーカーvWF↑,赤血球溶解マーカーHeme↑)(図3).またC5活性化のためのトロンビン↑となるため,これを抑制するアンチトロンビンIIIが消費され↓.また血小板が刺激されるため血小板活性化マーカー:トロンボスポンジン1と血小板・単球凝集体↑.さらに抗CMVおよび抗EBV IgG抗体レベルの上昇と関連していた.以上よりLong COVIDは,補体活性化,血管内皮障害,血小板活性化,ウイルス再活性化といった特徴を示す.
Science. 2024 Jan 19;383(6680):eadg7942.(doi.org/10.1126/science.adg7942)
◆労作後倦怠感の原因として骨格筋の構造・機能異常があり,激しい運動で増悪する.
オランダからLong COVIDにおける労作後倦怠感の病態機序を検討するために,患者25名を対象とした縦断的症例対照研究が報告された.これらの患者では広範な骨格筋の傷害を認め,患者の運動能力の低下と関連していた.さらに骨格筋のミトコンドリア機能異常と代謝障害を認め,労作後倦怠感の誘発後に悪化した(→よって,Long COVID患者にとって激しい運動は良くない).またアミロイドを含む沈着物を筋線維のあいだに患者でより多く認め,この所見は激しい運動を行うと増加した(図4).ウイルスの持続感染が関与している可能性を考え,ヌクレオカプシドタンパクを免疫染色で評価したところ,long COVID患者と感染後に回復した人は同程度であった.労作後倦怠感を軽減するためには,現時点では激しい運動を避けることを勧めるしかない.
Nat Commun. 2024 Jan 4;15(1):17.(doi.org/10.1038/s41467-023-44432-3)
◆中脳ドパミンニューロンにおけるSARS-CoV-2ウイルス感染後の炎症と細胞老化による消失.
米国からヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の中脳ドパミン(DA)ニューロンが,SARS-CoV-2ウイルス感染に対して選択的に感受性を持つことが報告された.まず上記DAニューロンへのSARS-CoV-2感染は,炎症と細胞老化(cellular senescence)を引き起こした.この細胞を用いてハイスループットスクリーニングを行い,感染による細胞老化反応を抑制できる薬剤として,イマチニブ,リルゾール,メトホルミンを同定した(図5).さらにCOVID-19感染剖検患者の黒質において,炎症と細胞老化のシグネチャーと低レベルのSARS-CoV-2転写産物を同定した.加えて重症例では,ニューロメラニン陽性,かつチロシンヒドロキシラーゼ陽性DAニューロンと神経線維の数が減少していることが分かった.以上より,COVID-19罹患者における将来のパーキンソン病発症に関して,注意深い長期的観察が必要である.
Cell Stem Cell. Jan 17, 2024(doi.org/10.1016/j.stem.2023.12.012)
Long COVIDの治療に関する論文を3つ,病態に関する論文を3つ,そしてパーキンソン病の原因となる中脳ドパミンニューロンの消失がSARS-CoV-2ウイルス感染による生じうるという論文の紹介です.治療に関して,Long COVID患者でワクチン未接種であった人は今からでも接種したほうが良さそうです.Long COVIDに対する抗ウイルス薬の効果(PaxLC試験)は今後発表される予定ですが,急性期に内服してもLong COVIDの予防効果はなさそうです.Long COVIDの機序にひとつに腸脳連関による脳障害がありますが,シンバイオティクスは腸内細菌叢障害を改善する薬で有望かもしれません.アルツハイマー病の危険因子としてのCOVID-19はほぼ確立していますが,同様のことがパーキンソン病でもいえそうな雰囲気になってきました.第10波中ですが,脳を守るために感染予防とワクチン接種を心がける必要があります.
◆ワクチン未接種のLong COVID患者の症状改善にワクチン接種は有効で,sIL-6Rが上昇した人で効果を認める.
米国Yale大学を含む複数施設が,COVID-19ワクチン未接種のLong COVID患者16人を対象に,ワクチン接種後の症状および免疫応答を検討した前方視的研究が報告された.結果は,ワクチン接種後12週目の自己報告では,16人中10人が健康状態の改善,3人が変化なし,1人が悪化,2人がわずかな変化を認めた(図1).ワクチン接種6週後および12週後に,SARS-CoV-2スパイク蛋白質特異的IgGおよびT細胞の増加がほとんどの患者で認められた.ヘルペスウイルスや自己抗原に対する反応性に変化は認めなかった.また症状の改善と関連するのはベースラインのsIL-6Rが高いことで,改善なしと関連するのはIFN-βとCNTFが高いことであった.以上よりワクチン未接種のLong COVOD患者に対するワクチン接種の有効性が示唆されるが,少人数の検討であることからさらなる検証が必要である.
medRxiv 2024.01.11.24300929(doi.org/10.1101/2024.01.11.24300929)
◆ワクチン接種をした非入院者に対しパキロビッドはLong COVIDの発症を抑制しない.
急性期経口治療薬ニルマトルビル/リトナビル(パキロビッド)がLong COVIDの発症リスクを低下させるかを検討した観察コホート研究が米国から報告された.ワクチン接種済みで,COVID-19に初めて感染した非入院患者にうち,パキロビッドを使用した353人と非使用の1258人におけるLong COVID発症率は,感染後5.4±1.3ヵ月の時点で16%と14%で,パキロビッド使用とLong COVIDとの関連は認められなかった(OR 1.15;95%CI 0.80-1.64;p=0.45).
J Med Virol. 2024 Jan;96(1):e29333.(doi.org/10.1002/jmv.29333)
◆シンバイオティクスはLong COVIDの症状の改善に有効である.
Long COVIDの病態機序の一つとしてdysbiosis(腸内細菌叢のバランスが乱れた状態)がある.シンバイオティクスとは生きた有用菌とその栄養源を同時に摂取することで腸内環境を整える.香港からシンバイオティクス製剤(SIM01)の6ヵ月間経口内服がLong COVIDの14種類の症状緩和に有効か検討した無作為化二重盲検試験が報告された.SIM01投与群232名と偽薬群231名に無作為に割り付けた.6ヵ月後,SIM01投与群では疲労(OR 2.273,p=0.0001),記憶障害(1.967,p=0.0024),集中力低下(2.644,p<0.0001),胃腸の不調(1.995,p=0.0014),全身倦怠感(2.360,p=0.0008)は偽薬群と比較して改善した.有害事象の発生率は同程度であった.症状改善の予測因子は,SIM01による治療,オミクロン変異株の感染,ワクチン接種,軽症感染であった.
Lancet Infect Dis. 2023 Dec 7:S1473-3099(23)00685-0. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00685-0.
◆腸管粘膜組織は感染後数ヵ月間,SARS-CoV-2ウイルスを保持する.
エジプトからCOVID-19の既往のある患者における持続性腸内感染の陽性率を検討した研究が報告された.対象は上部消化管内視鏡による生検を受けた166例と下部消化管内視鏡による生検を受けた83例.ヌクレオカプシド蛋白に対する免疫染色陽性の頻度は,上部で37.34%,下部で16.87%(図2),有意に上部で高かった(P = 0.002).喫煙者および糖尿病患者は,持続的なウイルス腸内感染のリスクが高い可能性がある.以上より,腸管粘膜組織はSARS-CoV-2ウイルスのリザーバーであることが示された.
Endosc Int Open. 2024 Jan 5;12(1):E11-E22.(doi.org/10.1055/a-2180-9872)
◆Long COVIDではアンチトロンビンIIIは低下し,トロンボスポンジン1とvWF因子は増加する.
COVID-19罹患者113人を初回感染後1年間追跡調査し,Long COVIDに関連するバイオマーカーを同定したスイスからの研究である.6ヵ月後の追跡調査では,40人の患者がLong COVIDの状態であった.プロテオミクスにより血清中の6500以上のタンパク質を測定した.この結果,Long COVID患者は急性期に補体の活性が亢進し,6ヵ月後の追跡調査でも持続していたが,回復したlong COVID患者で補体レベルは正常化していた(補体系は感染に対抗したり,感染し傷害した細胞を除去する作用がある).補体系の活性化の結果,補体C5b-C9からなる終末補体複合体(TCC)が形成され細胞膜に結合し,細胞溶解を引き起こす.これを反映し,C5bC6複合体は増加,C7を含むTCCは細胞膜に取り込まれて減少,TCCにより細胞膜が損傷する(このため血管内皮障害マーカーvWF↑,赤血球溶解マーカーHeme↑)(図3).またC5活性化のためのトロンビン↑となるため,これを抑制するアンチトロンビンIIIが消費され↓.また血小板が刺激されるため血小板活性化マーカー:トロンボスポンジン1と血小板・単球凝集体↑.さらに抗CMVおよび抗EBV IgG抗体レベルの上昇と関連していた.以上よりLong COVIDは,補体活性化,血管内皮障害,血小板活性化,ウイルス再活性化といった特徴を示す.
Science. 2024 Jan 19;383(6680):eadg7942.(doi.org/10.1126/science.adg7942)
◆労作後倦怠感の原因として骨格筋の構造・機能異常があり,激しい運動で増悪する.
オランダからLong COVIDにおける労作後倦怠感の病態機序を検討するために,患者25名を対象とした縦断的症例対照研究が報告された.これらの患者では広範な骨格筋の傷害を認め,患者の運動能力の低下と関連していた.さらに骨格筋のミトコンドリア機能異常と代謝障害を認め,労作後倦怠感の誘発後に悪化した(→よって,Long COVID患者にとって激しい運動は良くない).またアミロイドを含む沈着物を筋線維のあいだに患者でより多く認め,この所見は激しい運動を行うと増加した(図4).ウイルスの持続感染が関与している可能性を考え,ヌクレオカプシドタンパクを免疫染色で評価したところ,long COVID患者と感染後に回復した人は同程度であった.労作後倦怠感を軽減するためには,現時点では激しい運動を避けることを勧めるしかない.
Nat Commun. 2024 Jan 4;15(1):17.(doi.org/10.1038/s41467-023-44432-3)
◆中脳ドパミンニューロンにおけるSARS-CoV-2ウイルス感染後の炎症と細胞老化による消失.
米国からヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の中脳ドパミン(DA)ニューロンが,SARS-CoV-2ウイルス感染に対して選択的に感受性を持つことが報告された.まず上記DAニューロンへのSARS-CoV-2感染は,炎症と細胞老化(cellular senescence)を引き起こした.この細胞を用いてハイスループットスクリーニングを行い,感染による細胞老化反応を抑制できる薬剤として,イマチニブ,リルゾール,メトホルミンを同定した(図5).さらにCOVID-19感染剖検患者の黒質において,炎症と細胞老化のシグネチャーと低レベルのSARS-CoV-2転写産物を同定した.加えて重症例では,ニューロメラニン陽性,かつチロシンヒドロキシラーゼ陽性DAニューロンと神経線維の数が減少していることが分かった.以上より,COVID-19罹患者における将来のパーキンソン病発症に関して,注意深い長期的観察が必要である.
Cell Stem Cell. Jan 17, 2024(doi.org/10.1016/j.stem.2023.12.012)