Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新しい「Neurology誌」登場

2007年01月23日 | 医学と医療
 最新号のNeurologyが届いた。2007年最初の号から編集長がProf. Robert C Griggsから,Mayo ClinicのProf. John H Noseworthy に変更になっていた.彼はAANのannual meetingに出席したことのある人ならおそらく皆知っている,いつも軽妙な司会をしているハンサムな御仁である.

 これまでの雑誌との違いは,第1に週刊誌になったことだ.週刊誌である学会誌としてはCirculationに次ぐもののらしい.第2の変更点は,Brief communicationがなくなって,ArticleとClinical/Scientific Noteのみになってしまったこと.第3は月4回の発行のうち,第1週ではNeurology Clinical Pathological Conference が始まり,3週目にはClinical Implications of Neuroscience Researchが始まることである.後者はtranslational researchが重要であるという認識を反映したものであろうし,前者ではどんなCPCが繰り広げられるのかとても楽しみだ.そして何と言ってもいままでと違うのは雑誌の厚さである.何といつもの1/3の厚さになっていた!いまでの厚さだと,かばんに入れて持ち歩く気には到底ならなかったが,これからは週刊誌感覚で持ち歩けそうである.あとはGriggs先生時代には他雑誌と比べてややそっけない印象があったreview systemがどう変わったかであるが,これは頑張って投稿するしか知るすべはない.ちなみにJohn H NoseworthyによるEditorialには,6つの領域のeditor名が記載されているので参照されたい.

Neurology 68; 6-8, 2007

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SARA -新しい小脳失調の評価スケール-

2007年01月21日 | 脊髄小脳変性症
 従来,小脳失調の評価スケールとしてはICARS(International Cooperative Ataxia Rating Scale;J Neurol Sci 145: 205-211; 1997)や,多系統萎縮症の評価スケールとしてUMSARS(united multiple system atrophy rating scale)が広く用いられてきたが,評価項目が多いため日常診察のなかで簡便に使用するには困難なことが多い.最近,新しい小脳失調の評価スケールとして,SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)がヨーロッパのワーキンググループより提唱された.

 本スケールの売りは何と言っても,ICARSと比較し,評価項目が少なく簡便に使用できるという点である.評価項目数は,ICARSが19項目であるのに対し,SARAは半分以下の8項目である(歩行,立位,坐位,言語障害,指追い試験,指鼻試験,大腿部での手首の回内・回外運動,膝踵試験).所要時間は原著によると,14.2±7.5分(5~40分)とあるが,実際やってみて10分かからず可能であった。慣れればもっと短くて済む印象がある.

 このスケールの評価は,失調症の病期ごとの変化,ICARSやBarthel index,ハンチントン病評価スケールのpart IV(UHDRS-IV)との比較にて行われた.この結果, ①SARAは評価者間での変動が少ないこと,②試験・再試験信頼度や,各試験項目の内部整合性が高いこと(Cronbach α 信頼性係数0.94),③病期と相関して増加すること,④Barthel index(ADL評価)やUHDRS-IVスコア(機能評価)と有意な相関を示すこと,⑤罹病期間とは弱い相関しか示さないこと,をSCD患者286名による検討で明らかにした.

 以上より,SARAはSCD患者の診察,とくに忙しい外来診療では,積極的に取り入れることを検討すべき評価スケールであると考えられた.なお英語版は以下のページを参照してほしい.日本語版はまだ発表されていない.

SARA(英語版)

Neurology 66; 1717-2000, 2006
Comments (2)
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生きる力――神経難病ALS患者たちからのメッセージ

2007年01月15日 | 運動ニューロン疾患
 ALS患者さんにとって,病名告知の衝撃をどのように受容するか,昨日できたことが今日できなくなる悲しみや今日できることが明日できなくなる恐怖をどのように克服するか,そして人工呼吸器を装着することを決断するか否か,いずれの問題も答えを出すことが非常に難しい.とくに人工呼吸器装着の問題は生きるか死ぬかの決断である.「先生ならどうしますか?」と質問されることがあるが,今は正直なところ返事に窮してしまう.自分は困難に立ち向かい生きる決意をできるのだろうか?

 表題として紹介した本は,2005年秋,11人のALS患者さんが発起人になり,日本で初めて体験記を募集して編集した本である.上記の困難な問題にどのように向きあい,乗り越えたのか,さらに生きることを通して再発見したものは何なのかについて多彩な文章で語られたエッセイ集である.ぜひ,「生きる力」とか何なのか,生きることを選ぶ理由は何であったのか,読んでいただきたい.また以下のホームページを参照しながら読まれることをお勧めする.

生きる力―神経難病ALS患者たちからのメッセージ
(クリックするとAmazonにリンクします)

生きる力――神経難病ALS患者たちからのメッセージ
(エッセイをかかれた患者さんのホームページなどの情報を知ることができます)

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Holmes型小脳失調症の原因遺伝子が見つかる??

2007年01月07日 | 脊髄小脳変性症
 常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性の新たな原因遺伝子が報告された.この脊髄小脳変性症(SCD)はrecessive ataxia of Beauceと呼ばれていたものであるが,Beauceとはカナダ・ケベック州のボース地域を指す.ボース地域のFrench-Canadian家系に認められるSCDである.その臨床像は,発症は平均30.4歳(17―46歳)で,進行は緩徐,興味深いことに腱反射がbriskな症例が1/4ほど存在するものの,それ以外は小脳症状のみを示す(純粋小脳型).
 そして,今回明らかにされた原因遺伝子はChromosome 6q25に存在するSynaptic nuclear envelope protein 1 をコードする遺伝子(SYNE1)である.この遺伝子はかなり大きく,147 exonからなり,27652 kbのmRNA,8797アミノ酸をコードしている.遺伝子変異に関してはexonおよびintronにおいて複数発見され,premature terminationが生じさせるものが多い.Syne-1 proteinはspectrin domainを持つ巨大な蛋白で,小脳Purkinje細胞やオリーブ核ニューロンに高発現している.今回,この疾患はARCA1(autosomal recessive cerebellar ataxia 1)と名づけられたが,これまでに報告されている劣性遺伝性SCD(フリードライヒ失調症,ビタミンE欠乏症,ataxia telangiectasia,ARSACS,AOA1,AOA2)のなかで純粋小脳型のものは知られておらず,とても興味深い.

 さてこの論文を注意深く読むと,臨床症状をまとめた表の説明で,「Holmes型小脳失調症と似ている」こと,さらに「Holmes型小脳失調症は両親に異常を認めなかったことから,おそらく劣性遺伝性疾患であろう」と述べ,暗にこのARCA1の遺伝子の解明はHolmes型小脳失調症の遺伝子を解明したようなニュアンスを持たせている.Holmes型小脳失調症とは遺伝性小脳皮質萎縮症のことで,ほぼ純粋にPurkinje細胞が障害され,純粋な小脳失調症を呈する疾患であるが,いままでHolmes型というと,SCA6とか16q-ADCCAといった常染色体優性遺伝性のSCDを連想してきたので,Holmes型は常染色体劣性疾患であるという記載にはいささか驚いた.そこでHolmes型SCDの原著を確認してみることにした.

 論文タイトルは [A form of familial degeneration of the cerebellum] で,今からちょうど100年前の1907年に,ロンドンの国立神経病院のGordon Holmes(1876-1966;小脳機能の局在に関する古典的研究を行った英国神経学会の指導者の一人)が,病理変化が小脳皮質だけに限局した遺伝性小脳萎縮症の臨床及び病理所見を記載した論文である(長文・難解な論文だが,その所見の詳細な記載には驚く).さて問題の原著家系の記載についてであるが,確かに両親は70歳,89歳で亡くなるまで異常はなく,血族婚の記載はない.同胞は8人いて,うち4人が発症している.発症年齢は30代後半で,神経所見としては小脳失調が主体であるが,体格が小さく,外性器が未発達といった特徴がある.剖検所見は「小脳病変はまったく左右対称性.ほぼ正常に保たれている場所は小脳扁桃,虫部垂,虫部小節,中心小葉の一部のみ.小脳虫部および外側葉には非常に強い変性がみられる.病変は小脳に限られていた」と記載されている.原著により分かることは,同胞内の発症率が1/2と劣性疾患にしては高く,浸透率が高くない疾患と考えれば優性遺伝の可能性も出てくるし,確かに臨床病理学的に純粋小脳型であるものの,小柄な体格,外性器発達不良という特徴を認め,hypogonadismを伴う失調症(OMIM %212840)の可能性も存在する.実際,OMIMでCEREBELLAR ATAXIA AND HYPOGONADOTROPIC HYPOGONADISMの項を調べてみると,GORDON HOLMES syndromeを含む疾患概念との記載があり,Holmesの原著症例の原因がSYNE1遺伝子異常症と断定してしまってよいものか議論の余地があるように思われる.

 ひとつの原因遺伝子発見に関する論文をきっかけに,100年前の原著論文の記載を読み,そのきわめて綿密な臨床・病理の記載に度肝を抜かれた.また図書館で読んだその原著が載っているBrain誌のページが,おそらくかなりたくさんの先輩神経内科医により繰り返し繰り返し読まれ,ページがぼろぼろになっていたことには感銘を受けた.神経学の歴史とか,時間を越えても変わらない神経学への真摯さを目の当たりにしたという意味で,今回の論文はとてもワクワクしながら読むことができた.

Nat Genet 39; 80-85, 2007
Brain 30; 466-489, 1907
神経内科 1992; 37:499-512
Comments (7)
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