Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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緑色の血液を見たときにチェックすること

2023年11月07日 | 頭痛や痛み
海外のTwitterを眺めていたところ「緑色の血液(図1,2)」についての議論がありました.原因としてとくに脳神経内科医が知っておくべきものがあります.過去にLancet誌に症例報告として掲載されています.片頭痛の男性がコンパートメント症候群のため緊急手術を行うことになり,オペ室で動脈採血をしたところ深緑色の血液が採取され,みな息を呑んだというものです.



緑色の血液は,酸素を運ぶ赤血球中のヘモグロビンが,その構造内に硫黄原子を取り込み,スルフヘモグロビン血症(sulfhemoglobinemia)を来したため生じたものです.ヘモグロビンは酸素と鉄が結合して赤くなりますが,スルフヘモグロビンでは硫黄原子のため酸素と鉄が結合できず,紺や緑色に見えるのだそうです.当然,酸素と結合しないためにチアノーゼを起こしますし(図3),酸素飽和度モニターも不正確になります.



このような硫黄族物質は,一部の薬剤に含まれています.この男性は片頭痛に対するスマトリプタンを大量に服用していたことが判明し(medication overuse headache),中止してもらったところ,5週後には血液が普通の赤色に戻りました(赤血球寿命は約100日なので時間がかかります).

緑色の血液を見たときには慌てず,スルホンアミドを含む薬(スマトリプタンやフロセミドなど)や硝酸塩肥料など,硫黄を含む化合物に過剰に暴露していないかチェックする必要があります.

Flexman AM, et al. Dark green blood in the operating theatre. Lancet. 2007 Jun 9;369(9577):1972.

There’s a condition that can cause human blood to turn green

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血清αCGRPレベルは慢性片頭痛の初めてのバイオマーカーである

2023年04月18日 | 頭痛や痛み
Ann Neurol誌のオンライン版に,慢性片頭痛(chronic migraine;CM)患者におけるCGRP関連抗体治療期間中の血清αおよびβCGRPレベルの推移を検討した研究がスペインから報告されています.1984年にカルシトニン遺伝子関連ペプチドとして初めて単離されたものがCGRPで,中枢・末梢神経系に幅広く分布します.αとβの2種類が存在し,産生量は身体の部位によって異なります.感覚ニューロンでは,αCGRPはβCGRPの約6倍存在し,消化管においてはβCGRPのみ認めます.CGRP関連抗体治療の副作用である便秘はβCGRPの抑制によるものと推測されています.

対象はCGRP関連抗体投与を開始したCM患者103人と,健常対照者(HC)78人で,初回投与前,2週間後(M0.5),3ヶ月後(M3)に血清を採取,αおよびβCGRPの血清レベルを各々に特異的なELISAを用いて測定しました.

さて結果ですが,ベースラインのαCGRP値は,CM患者で中央値50.3 pg/mL,HC で37.5 pg/mLと,CM患者で有意に上昇し,かつ抗体治療(n=96)で有意に減少しました(M0.5: 40.4 pg/mL; M3: 40.9 pg/mL).このαCGRP低下は,月間の片頭痛日数の減少と正の相関がありました.さらにpatient global impression of change scaleおよび鎮痛剤の過剰使用の改善と有意に関連していました.一方,βCGRPは,CM患者(4.2 pg/mL)とHC(4.4 pg/mL)で差がなく,抗体治療でも変化しませんでした(M0.5 : 4.5 pg/mL; M3: 4.6 pg/mL ).さらに便秘を認めるCM群と認めないCM群の間にも差はありませんでした.



以上より,CMに対する抗体治療は上昇したαCGRPレベルを正常化し,かつその変化は有効性の指標と相関することから,αCGRPはCMの初めてのバイオマーカーとなるものと考えられました.今後,αCGRPを測定してからCGRP関連抗体の処方を決めたり,中止の目安になったりするのかもしれません.

一方,βCGRPの減少が便秘の原因という仮説は証明できませんでした.この理由として,αCGRPと比較しβCGRPの濃度が約10分の1と低いことから,血清がβCGRP測定に適した試料ではない可能性が示唆されました.血清より唾液でははるかに高いペプチド濃度を示すことが確認され,今後,検討が必要と著者は述べています.
Gárate G, et al. Serum alpha and beta-CGRP levels in chronic migraine patients before and after monoclonal antibodies against CGRP or its receptor. Ann Neurol. 2023 Apr 11.(doi.org/10.1002/ana.26658)

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カラフルだった城郭視(teichopsia)ー片頭痛における歴史的意義ー

2023年02月11日 | 頭痛や痛み
閃輝暗点は片頭痛の前兆で,視野にギザギザ模様の光の波が現れ,徐々に広がり,その場所が見えなくなる現象です.私は片頭痛の講義で閃輝暗点を教える際,どこかから引用したモノクロの図を使用してきました.ところが岩田誠先生による「片頭痛の視覚前兆―その歴史的展開―(日本頭痛学会誌48:549-52, 2022)」を拝読し,そのなかにオリジナルの図をみつけて,赤・青・黄・緑・オレンジととてもカラフルであることを知って仰天しました.さらに図の歴史的意義についても初めて学びました.左図は岩田先生が有り難くもお送りくださったものですが,1873年,英国の医師Edward Liveingの著書に掲載されたものだと伺いました.


図の説明:
1-4:左城壁視の初期の像.見ている部位の直ぐ側から始まる.Oの文字が見ている場所を指す.
5-8:同様の左城壁視の初期の像.見ている部位の左下方から始まった場合.
9:完全に出来上がった左城壁視.δ 2つ目の発作の開始.しかし対側に生じない限り完全に出来上がることはない.

この図を書いたHubert Airy(1838-1903;図)先生は,ケンブリッジ大学で学ぶ31歳の英国人医師で,ご自身が片頭痛患者でした.発症後の16年間で100回以上,この現象を経験しました.かならずしも色がついていたわけではなかったそうです.天文学者として有名な父George Airy卿も,頭痛はなかったものの同じ現象を経験していました.Hubert Airyはこの現象を論文「on a distinct form of Transient Hemiopsia (1870)」にまとめ,まずtransient hemiopsiaという新語を用いました.しかし表現が不正確,不十分であると考えteichopsia(城郭視)という新語をさらに提唱しました.一種のメタファーであり,ギリシア語の「町の壁」と「視覚」に由来する造語です.詳しくは岩田先生の総説に解説されていますが,「町の壁」はVauban型城郭(日本では函館の五稜郭や佐久の龍岡城)を上から見た形,つまり要塞のように角張っている形に似ていることに由来しています.そしてAiry先生は「病巣を推測する以上のことは現在のところ不可能である」としながらも「視交叉の後方のどこかにあるはずだ」とし,眼自体の異常ではなく,脳の異常と考えました.これは当時として画期的な考察であったと思います.


図の説明:Hubert Airyと兄のWilfrid Airy

その後,この図は多くの医学者に使用されることになります.1873年には前述のようにEdward Livingが著書のなかで,Thomas Willis(Willis 輪のWillis先生です)による「片頭痛血管説」に反論する際に用いています.またJean-Martin Charcotも1887年の火曜講義のなかで言及しています.William Oslerの教科書「医学の原理と実際(1892)」のなかにも記載されています.さらに広く使われるようになったのは神経学者William Gowersのためと言われています.Teichopsiaはその後,auraや拡延性抑制の概念に発展していきます.次回の学生講義では,この図の歴史とその意義についてもきちんと話してあげたいと思います.

Weatherall MW. From "Transient Hemiopsia" to Migraine Aura. Vision (Basel). 2021;5:54. doi.org/10.3390/vision5040054.

Lepore FE. Dr. Airy's "morbid affection of the eyesight": lessons from Teichopsia Circa 1870. J Neuroophthalmol. 2014;34:311-4. doi.org/10.1097/WNO.0000000000000133.

Eadie MJ. Hubert Airy, contemporary men of science and the migraine aura. J R Coll Physicians Edinb. 2009;39:263-7.

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知っておくべき市販の頭痛薬による脳症

2022年09月21日 | 頭痛や痛み
カンファレンスで「ブロムワレリル尿素」による急性中毒について解説しました.この成分を含む市販頭痛薬の過量内服もしくは依存により,急性ないし慢性中毒が生じます.私自身は数例経験があります.上述の通り,「ブロモバレリル尿素」は一部の市販の鎮痛薬に含まれています.非常に依存が生じやすいので避けたほうが安全です.米国などではすでに医薬品としては禁止されていますが,日本はどういうわけか簡単に手に入ります.具体的には「ナロン錠」「ナロンエース」「ウット」などです.病歴でこれらの薬剤が出てきたら疑ってかかります.

「ブロムワレリル尿素」は有機臭素化合物です.暴露後,直ちに臭化物イオンに代謝され中枢神経に毒性を発揮します.悪心,嘔吐,傾眠,せん妄,錯乱,興奮が生じ,精神疾患と誤診されることがあります.重篤になると昏睡,痙攣重積発作,呼吸抑制・停止が生じます.頻脈と紅斑様皮疹を認めることがあります.検査では,臭化物イオンが塩化物イオンに置換されるために生じる「偽性クロール血症」が診断のヒントになります.また腹部単純X線で薬の塊を認めることがあります(X線透過性が低いため).また私は初めて経験しましたが,頭部MRIで異常信号を呈することがあります.両側視床内側(図),被殻,中脳水道周囲灰白質,小脳歯状核病変の異常信号を呈し,Wernicke脳症(ビタミンB1欠乏)が当初疑われた2症例が報告されています(当然本邦からです).その報告では,視床血流の増加と大脳皮質血流の抑制を認めることや,血液脳関門破綻による浸透圧の変化がWernicke脳症と共通の病態機序ではないかと議論されています.いずれにしても,市販頭痛薬の常用,精神症状,偽性クロール血症等から本症を疑い,なるべく早期に治療開始することで後遺症の軽減を図る必要があります.具体的には臭化物濃度の低下を目的に,生食負荷と利尿剤投与,血液透析を行います.



★あらためて市販頭痛薬に関して,医療者も製薬企業も①連用により慢性頭痛が生じること(薬剤の使用過多による頭痛;薬物乱用頭痛)と②依存性が高いものがあることをさらに周知する必要があると思いました.
Biyajima M, et al. BMC Neurol. 2022 May 16;22(1):181.

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COVID-19と頭痛@第49回日本頭痛学会

2021年11月22日 | 頭痛や痛み
11月19日~21日に第49回日本頭痛学会(大会長;静岡赤十字病院今井昇先生)が開催されました.現地・リモート参加を合わせると過去最高の参加者と伺いました.大変,企画が充実し,活気ある学会でした.私はシンポジウム1「COVID-19と頭痛」を大会長の今井先生とともに企画させていただきました.頭痛はCOVID-19の急性期から慢性期,ワクチン後に至るまで重要な症状であるものの,その診断や治療は容易ではないためです.テーマは5つで,病態機序(下畑),脳症と頭痛(髙橋牧郎先生;医学研究所北野病院),急性期の頭痛(秋山久尚先生;聖マリアンナ医科大学),後遺症としての頭痛(鈴木圭輔先生;獨協医科大学),抗抗体治療・ワクチンと頭痛(柴田護先生;東京歯科大学)でした.以下,重要なポイントを列記します.

*急性期では,感染後の症状(発熱,呼吸器症状)が出現してから1~3日後ぐらいに頭痛が出現することが多い.
*急性期に頭痛を合併する頻度は報告により大きな差がある.軽症例で頭痛の合併が多いという報告もあるが,重症例では頭痛を訴えにくい状況である可能性もある.
両側性で前頭部に強い頭痛が多い.性状はさまざまで,片頭痛様の頭痛を呈する患者もいる.
*一次性頭痛との鑑別が重要であり,COVID-19感染症を示唆するred flagsを確認する必要がある.
*筋痛,関節痛などのその他の部位の疼痛症候群を合併する症例が多い.
*アセトアミノフェンやイブプロフェンといった鎮痛剤が奏効しない症例が多い
*ボツリヌス注射やトリプタン,抗CGRP抗体は有効な患者とそうでない患者が存在する.つまり病態の多様性が示唆される.
*急性期の頭痛では,脳炎・脳症,脳静脈洞血栓症のような予後不良となる神経合併症を見逃さず,免疫療法,抗凝固療法など適切な治療を開始する必要がある.
*感染により既存の頭痛の悪化を認める症例や,新規発症持続性連日性頭痛 (NDPH)をきたす症例がある.
*IVIGに加え,トシリズマブ,コロナ中和抗体カクテル療法後にも無菌性髄膜炎を含む頭痛が生じうる.
*ワクチン接種の直後から,ないし遅発性に頭痛が生じ,長期持続するケースがある.産生されるサイトカインが関与する可能性もあるが病態は不明である.

以上より痛感したことは,COVID-19に伴う頭痛の病態機序は三叉神経血管系の関与が示唆されるものの,まだほとんど分かっていないこと,とくに重症例ほど頭痛の評価は困難であり,研究自体が難しい可能性があることです.今後,病期ごとの頭痛のメカニズムの解明と診断・治療のエビデンスの確立が求められます.

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大幅改訂した頭痛の診療ガイドライン2021

2021年10月22日 | 頭痛や痛み
頭痛の診療ガイドライン2021」が発刊されました.最新エビデンスに基づいて「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」が 8年ぶりの大幅改訂です.大きな変更点は,二次性頭痛の項目が追加されたことと(このためタイトルも慢性頭痛から頭痛に変更になりました),抗CGRP関連抗体による片頭痛治療が含まれたことになります(図右下).このため368ページから512ページに増えました.私も2019年2月のガイドライン作成委員会(荒木信夫委員長,竹島多賀夫副委員長)から勉強させていただき,「CQ2-1-1片頭痛はどのように分類・診断するのか」「CQ2-1-7片頭痛の予後はどうか(片頭痛自然史,片頭痛の慢性化も触れる)」を担当しました.国際頭痛分類第3版と本書は,まさに「頭痛診療のバイブル」です.ぜひお手元でご活用いただければと思います.

頭痛の診療ガイドライン2021





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起立性低血圧に合併するcoat-hanger pain/ache

2020年11月19日 | 頭痛や痛み
回診でcoat-hanger painについて説明しました.これは図のような後頸部から両肩にかけて,起立時に出現する痛みで,コートのハンガーのような形であるため,この名称で報告されました(Spinal Cord. 2002;40:77-82. doi.org/10.1038/sj.sc.3101259).



この論文では脊髄損傷における合併を検討していますが,pure autonomic failure(PAF)や多系統萎縮症など自律神経障害を呈する疾患では合併することがあります.立位をとったときに一過性に生じる,締め付けられるような,ズキズキする中等度の痛みを生じます.横になると改善します.起立性の失神の前駆症状としても重要です.後頸部筋の虚血により生じると報告されています.国際頭痛分類第3版(ICHD3)の2次性頭痛のなかには含まれておらず,追加するよう求める研究者がいます(Curr Pain Headache Rep. 2018;22:54. doi.org/10.1007/s11916-018-0706-4).臨床医は,①起立に伴い出現する一過性の頭痛・頸部痛が存在すること,ならびに②起立性低血圧に対する生活指導や治療で改善しるうることを知っておく必要があります.

このような脳神経内科に関する症候や画像所見などを,岐阜大学脳神経内科のホームページのコラムでまとめて紹介しております.こちらもご参照いただければと思います.





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「二日酔い頭痛」とは何か?

2020年11月11日 | 頭痛や痛み
二日酔いによる頭痛は,頭痛診療のバイブルである国際頭痛障害分類第3版(ICHD-3)では,8.1.4.2遅発性アルコール誘発性頭痛(Delayed Alcohol-induced Headache;DAIH)と正式に記載されている.そして診断基準には以下の項目が含まれる.

1)頭痛はアルコール摂取後5~12時間以内に発現する.
2)頭痛は発現後72時間以内に自然消失する.
3)頭痛は以下の3つの特徴のうち少なくとも1項目を満たす:a) 両側性,b)拍動性,c)身体的活動により増悪.
項目は経験的に作られたのではないかと思われる(笑).この頭痛は生涯有病率72%ともっとも頻度の高い二次性頭痛でありながら,研究する者はほとんどなく,謎に包まれた頭痛とも言える.ところが最新号のNeurology誌にDAIHの大規模研究が掲載されており非常に驚いた!スペインのグループが2018年に行った調査で,DAIHの臨床表現型を明らかにすることが目的であった.著者らは,DAIHが片頭痛ないし低髄液圧性頭痛の特徴を有するのではないかという仮説のもと研究を行っている.

方法は自発的に(笑)アルコールを摂取し,頭痛を経験した大学生を対象に横断的研究を行っている.臨床データ等を各自,調査票に記入するアンケート形式で行われた.さて結果だが,計1,108 名も参加している(女性 58%,平均年齢 23 歳,頭痛の既往歴 41%).頭痛出現前の平均アルコール摂取量は158gと,ビール中瓶8本,ワイン2本に相当し(!),蒸留酒は参加者の60%,ビールは41%,ワインは18%が摂取していた(100%を超えるのは一部の人は複数飲むため).ICHD3のDAIH診断基準を95%の参加者が満たしていた.頭痛の持続時間は平均6.7時間で,総飲酒量と相関していた(r = 0.62,p = 0.03).85%の患者で両側性であり,前頭部痛が多く見られた(42.9%).痛みの性状は圧迫性(60%)または脈動性(39%)で,83%で身体活動による悪化がみられた.仮説に関しては,ICHD3の低髄圧による頭痛の基準を58%で満たし,片頭痛の基準を36%で満たした.



以上より,DAIHは典型的には両側性,前頭部優位で,圧迫感を呈する頭痛であることが分かった.また片頭痛と低髄圧による頭痛の両方の特徴を持つこともわかった.面白かったのは,この論文の限界が「想起バイアス」と記載されていたことである.つまりどれだけ飲んだのかとか,どんな頭痛だったのかとか,酔ってきちんと覚えていないことが研究結果を歪める恐れがあるということだ.
Clinical characterization of delayed alcohol-induced headache: A study of 1,108 participants
Neurology. Sep 1, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010607)


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プライマリーケア医が知っておくべき“治療可能な”2次性頭痛@第47回日本頭痛学会

2019年11月17日 | 頭痛や痛み
第47回日本頭痛学会(浦和)にて標題のシンポジウムを北海道大学矢部一郎先生とともに企画した.企画の理由は「もっと早く診断・治療ができたら良かったのに・・・」と思う二次性頭痛症例が少なからず存在するためだ.テーマとした疾患は,肥厚性硬膜炎,MELAS,脳アミロイドアンギオパチー関連炎症,自己免疫性脳炎,てんかん,慢性骨髄増殖性腫瘍と本学会のシンポジウムではほとんど議論がなされたことのないものだ.以下の点を認識する必要がある.

【認識すべき点】
① 肥厚性硬膜炎,MELAS,NMDA受容体抗体脳炎,真性多血症・本態性血小板血症は片頭痛様頭痛を呈しうる.
② MELASでは誤診によるトリプタンの使用で,脳卒中を来しうる.
③ 慢性骨髄増殖性腫瘍である真性多血症・本態性血小板血症に伴う頭痛は正しく診断し,アスピリンを使用すると著効する.


【各疾患のポイント】
A.肥厚性硬膜炎の頭痛:
慢性の強い連日性頭痛が主体だが,一部は前兆を伴う片頭痛に類似した頭痛を呈する.日本人に多いMPO-ANCA陽性例は硬膜に限局するのに対し,PR3-ANCA陽性例は軟膜にも及び,頭痛が重篤となるほか,脳神経麻痺等,多彩な症状を呈する.

B. MELASの頭痛:
片頭痛様の頭痛を呈する.診断を誤ってトリプタンが使用され,脳梗塞を来たした症例が報告されている(トリプタンは禁忌である).片頭痛患者で,既往歴,家族歴に糖尿病,難聴,卒中様発作,低身長,筋力低下があれば,(半年以内に保険収載され測定が可能となる)ミトコンドリア病診断マーカーGDF15(感度,特異度98%)を測定し,MELASを除外する.治療としてL-アルギニン療法が有効である.急性期ステロイドパルス療法は増悪を招くため行わない.

C.アミロイドアンギオパチー関連炎症の頭痛:
56%で頭痛を合併する.そのほか,認知機能障害,異常行動,痙攣を呈する.頭部MRIで大脳白質の異常信号,造影病変,髄液細胞数増多,蛋白上昇を認める.微小なクモ膜下出血ないし血管炎症が頭痛の原因と議論されている.

D.自己免疫性脳炎の頭痛:
自己免疫性脳炎のなかで頭痛を呈するのはNMDA受容体抗体脳炎である.前駆期に片頭痛様の頭痛を合併し,頭痛単独でも発症する.NMDA受容体は皮質拡延性抑制(CSD)に関わることから,抗体はおそらく頭痛を抑制する方向に作用している!頭痛の機序には無菌性髄膜炎が関与するという説がある.

E.てんかんの頭痛:
3つのタイプがあり,片頭痛前兆により誘発される痙攣発作(いわゆるICHD-2のmigralepsy),てんかん性片側頭痛(hemicrania epileptica),てんかん発作後頭痛(post-ictal headache)に分類できる.てんかんと頭痛には類似した特徴があり,視覚性前兆(ただし様式は異なる),抗てんかん薬(VPA,TPM,LEV,GBP)が有効であるといった点は共通する.

F.慢性骨髄増殖性腫瘍の頭痛:
JAK2V617F遺伝子変異に伴う真性多血症(PV)や本態性血小板血症(ET)は,約半数に片頭痛様頭痛を合併する.閃輝暗点も合併し,片頭痛との鑑別が難しい.病態としては血小板の活性化・凝集が指摘されており,治療もアスピリンが著効する.

多くの学会員が参加してくださり,有意義なシンポジウムだったとの感想をいただき,とても嬉しく思った.講師の先生方,どうもありがとうございました.

【講師の先生方】
血管炎・肥厚性硬膜炎 河内泉先生(新潟大学脳神経内科,総合医学研究センター)
MELAS 古賀靖敏先生(久留米大学医学部小児科)
脳アミロイドアンギオパチー関連炎症 坂井健二先生(金沢大学脳神経内科)
自己免疫性髄膜・脳炎 木村暁夫先生(岐阜大学脳神経内科)
てんかん発作による頭痛 高橋牧郎先生(大阪赤十字病院脳神経内科)
慢性骨髄性腫瘍と頭痛 長井弘一郎先生(日本医科大学脳神経内科)











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国際頭痛学会2019@ダブリン―新しい片頭痛治療の夜明け―

2019年09月07日 | 頭痛や痛み
2年毎に開催される国際頭痛学会の今回のテーマは「新しい治療の夜明け」です.標的はカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)シグナルです.知っておくべき知見は以下になります.

1)片頭痛発作中にCGRP放出は増加する.
2)三叉神経血管反射の中枢である三叉神経節は,通常,血管収縮に防御的に作用するが,片頭痛患者ではこのシステムがトリガーとなり,痛みを知覚する.
3)三叉神経節において,CGRPはC-fiberに発現し,CGRP受容体はAδ-fibereに発現する.
4)三叉神経節や硬膜は血液脳関門を欠くため,CGRPやその受容体を標的とした治療薬の可能性が生じる(CGRPは末梢で作用するため,血液脳関門を通過しない抗体薬が効果を発揮しうる).
5)実際にCGRP受容体拮抗薬に加えて,抗CGRP抗体(eptinezumab, fremanezumab,galcanezumab)あるいは抗CGRP受容体抗体(erenumab)が片頭痛発作の予防に対して有効,かつ副作用が稀であることを示す臨床試験が複数発表された.
6)片頭痛の慢性化は神経原性神経炎症,つまり三叉神経血管系における神経細胞,グリア細胞におけるプロテインキナーゼ活性化(CGRPシグナルの下流にあるcAMP依存性PKAの活性化)を介したサイトカイン放出により生じるという説が有力になりつつある.

CGRPカスケードと各種抗体薬の効果に関する図は以下になります(Nat Rev Neurol. 2018;14:338-50.より引用)



今回の学会は,プレナリーから教育講演にいたるまで,ほとんどがCGRP関連です.2年前の本会とは打って変わって,エキシビションでも多数の製薬企業のブースが並び,大きな変化を感じます(写真はAmgenのAimovig®とTevaのAjovy®のブース).日本でも臨床試験が進行中で,近い未来に片頭痛治療の新しい時代が来ることは間違いありません.




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