Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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遺伝性脊髄小脳変性症の発症年齢に影響を与える因子

2005年03月31日 | 脊髄小脳変性症
 常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症(dominant SCAs)の発症にCAG repeat数が大きな影響を与えることは周知の事実であるが,その決定係数(coefficient of determination;重相関係数Rの2乗.寄与率とも呼ばれる)を見た場合,CAG repeat数のみでその発症年齢がすべて予測できるわけではなく,それ以外の修飾因子の存在が疑われる.例えば同じCAG repeat病であるHuntington病では,GluR6遺伝子のpolymorphismが発症年齢の修飾因子であることが知られている(PNAS 94:3872-6, 1997).
 今回,dominant SCAsの発症年齢修飾因子に関する研究がフランスより報告された.対象は802名のdominant SCAs患者で,病型(SCA1, SCA2, MJD, SCA6, SCA7),発症年齢,CAG repeat数(正常および伸長アリル),患者本人と病気を伝播した親の性別,家族歴を検討した.回帰モデルは[log10 (age at onset) = k - b CAGexp + e]に従い,決定係数を計算した.ちなみに決定係数は独立変数が従属変数のどれくらいを説明できるかを表す値であり,決定係数の値が低いということは,得られた重回帰式の予測能力が低いことを意味する.結果としては,SCA1, SCA2, MJD, SCA6, SCA7でR2を計算し,それぞれ,0.66, 0.73, 0.45, 0.44, 0.75であった(MJD, SCA6はことのほか低く,何らかの影響因子の存在が示唆される).また上記計算式のb値(すなわち,CAG repeatと発症年齢間の負の相関の傾き)は,SCA2のみ-0.044と大きく(他のおよそ2倍),SCA2ではポリグルタミンが及ぼす影響が他の疾患と比べ異なっている可能性を示唆する(注;ataxin-2の細胞内局在が他疾患と異なることを考えると興味深い).また各家族におけるtrans-acting factorの存在を仮定した場合(発症に影響を及ぼす遺伝因子,もしくは環境因子の存在),SCA2とSCA3において発症年齢予測がそれぞれ17.1%および45.5%改善した(しかしその家族因子が具体的に何であるのかは不明).さらにSCA1とSCA6では正常アリルのCAG repeat数も発症に影響を及ぼすことも分かった.
 CAG repeat数はすでに個人において決まっているものなので如何ともしがたいが,未特定の家族因子が何であるのか非常に興味深い.すなわち,特定の家族では発症年齢が早くなったり,別の家族では遅くなったりするというわけである.おそらく病因遺伝子以外の遺伝子多型がtransに作用して発症年齢を修飾するか,もしくは特定の環境因子が存在するのであろう.この家族因子の解明は発症や病気の進行を遅らせる可能性もあり,今後,注目すべきである.しかし上記結果は Dutch-French population における結果であり,日本人に当てはまるかは不明である.

Ann Neurol 57; 505-512, 2005

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高濃度酸素療法は脳梗塞のtherapeutic time windowを延長する

2005年03月29日 | 脳血管障害
 脳梗塞におけるt-PA治療の開始を目前に控え,いかにt-PA使用可能な症例を増やすかということが今後の重要な課題となる.今回,MGHよりラットを用いた動物モデルにおいて,大気圧下における高濃度酸素療法がtherapeutic time windowを2時間延長するという報告があった.モデルはsuture model(頚動脈からMCAへナイロン糸を挿入する方法)を用いている.永久虚血,ないし一過性虚血(虚血時間1, 2, 3, 4hrで糸を抜去)を行い,48時間後に梗塞のサイズを比較すると,一過性虚血の時間が1時間までであれば梗塞のサイズは永久虚血群と比較し,有意に小さいことが分かり,このモデルでのtherapeutic time windowは1時間と2時間の間であることが言える.一方,虚血開始5分後より100%酸素を使用した群では(対照群は30%酸素),同様の実験の結果,therapeutic time windowは3時間と4時間の間であることが分かった.また高濃度酸素使用によりfree radical産生や,酸化的ストレスにより誘導されるmetalloptoteinase(MMP)の誘導が心配されたため(注;MMPは血液脳関門を破壊する),それぞれをhydroxyethidineによる組織染色,および抗MMP-2, MMP-9抗体によるWestern blotにて両群間を比較したところ有意差を認めなかった.以上の結果は,intraischemicに行う高濃度酸素療法は少なくともラットsuture modelにおいてはfree radicalやMMPの産生を誘導することなく,脳梗塞therapeutic time windowを延長することを意味する.
 非常に興味深いものの,問題点は,①作用機序が分からないこと,②100%酸素投与が虚血開始後5分という時間に開始されるということは,実際の臨床の場ではありえない,ということである.はたして救急車が到着してから,病院でt-PAが使用されるまでの間に高濃度酸素を使用するだけでもtherapeutic time windowが延長するのか,今後の検討が必要であろう.

Ann Neurol 57; 571-575, 2005

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筋萎縮性側索硬化症の重症度と相関する新しいマーカー

2005年03月28日 | 運動ニューロン疾患
中枢神経系における軸索再生を阻害する要因として,成熟神経細胞自身の内因性の再生能力の低下に加え,神経再生を抑制する因子の存在が重視されている.とくに後者のうち,中枢ミエリン由来の軸索伸長抑制因子については,近年,相次いで報告があり,Nogo,MAG,OMgpといった複数の分子が存在することが明らかとなった.またNogo, MAGと強い親和性を示す神経細胞側の受容体としてNogo受容体(NgR)も同定されている.ちなみにNogo遺伝子はalternative splicing,あるいは異なるpromoter領域を使用することにより,Nogo-A, B, Cという3つのvariantに転写されることが知られている.
今回,フランスより,ALSの筋組織におけるNogo発現と重症度の関連についての研究が報告された.この研究の背景となったのは2002年に同グループより報告された研究で,SOD1 Tg mice (G86R)や孤発性ALS患者の筋組織においてNogo発現パターンに異常が認められるというものである.通常,胎児では認められるが,成人の筋組織では認められないNogo-A, Bが増加し,逆に通常成人でも発現しているNogo-Cが減少しているというものである.しかしこれらのNogo発現パターンは患者間で大きく異なっており,その機序については不明であった.
本論文で同研究グループは,ALSの重症度とNogo発現との関係を検討した.患者はclinically probableないしdefiniteのALS 15症例で,重症度の評価にはALS-FRSを使用した(重症ほど点数が低下する).この結果,Nogo-A, B発現はALS-FRSと有意に逆相関した(p=0.0005, 0.0133).またNogo-A, B発現はtype I fiberの占める面積と逆相関した(p=0.0284, 0.0380).逆にNogo-C発現はtype II fiberの占める面積と相関した(p= 0.0365).以上の結果は,ALS重症例ほど,筋組織におけるNogo-A, B発現が高くなり,それはtype I fiber萎縮と相関するということを示す.すなわち,Nogo-A, B発現はALSの筋線維における神経再生過程を阻害している可能性を示唆するものと言える.NogoはALSの進行の程度を表す組織マーカーとして有効なだけではなく,治療ターゲットとなる可能性が出てきた.

Ann Neurol 57; 553-556, 2005

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大脳白質が「消えてしまう」白質脳症の病態機序

2005年03月27日 | 白質脳症
Leukoencephalopathy with vanishing white matter(VWM)は,髄鞘形成不全を認める常染色体劣性遺伝形式の白質脳症で,臨床的には小脳失調・痙性を主徴とする.通常,小児期に発症し,慢性進行性の経過をたどることから,神経内科医にはあまり馴染みのない疾患であるが,新潟大から成人発症したVWMも報告されており(進行性痴呆,不穏,痙性を主徴とした;Neurology 62:1601-1603, 2004),原因不明の白質脳症では鑑別診断として考慮する必要がある.診断の決め手となるのは,①発熱やminor trauma後に症状が急速に悪化すること(ときにcomaに陥ることがある),および②MRI所見である.MRIではびまん性で比較的均一な白質病変を認めるが,病名の由来になっているように,MRIの各シークエンスにおいて白質の異常信号の一部が,斑状にすべて髄液のintensityに置き換わり,あたかも白質が消失してしまったような部位が認められる(この部分は病理学的にもスポンジ状で,髄液が侵入している).
さて今回,VWMに関してふたつの興味深い報告があった.ひとつは急性増悪の誘因に関する報告で,VWMを発見し,原因遺伝子EIF2B5を同定したオランダのグループからの報告である.上述のようにVWMの増悪因子として発熱やminor traumaが知られていたが,今回,飛行機に乗った後に急速に増悪した2症例が報告されている.この機序については不明であるが,EIF2B5が蛋白の翻訳開始に必要なことから,これらのストレスから脳を防御する際に通常合成されるストレス蛋白(HSPなど)が,これらの患者ではうまく合成できない可能性が考えられている.
もうひとつの報告は,本症の病態機序の本質に迫るもので,EIF2B5遺伝子変異を有し,明らかな白質病変を画像上認めた患者の剖検脳からcell cultureを確立し,解析を行っている.まず異常が予測されたoligodendrocyteは,不思議なことにほとんど正常であった.その一方,初代培養を行ってもGFAP陽性のastrocyteはごくわずかしか認められなかった.Lateral ventricular zoneよりneural progenitor cellを抽出し,培養後BMP-4やFBSを添加しastrocyteを誘導してみても,astrocyteへの誘導はきわめて不良で,まれに誘導された細胞も形態や抗原発現に異常が認められた.これらの結果から患者剖検脳に戻ってGFAP染色を行ったところGFAP陽性astrocyteが欠如していることが判明した.以上の結果を検証する目的で,正常のヒトglial progenitor cellに対しRNAiを用いたEIF2B5遺伝子発現抑制を行ったところ,同様にGFAP陽性細胞への誘導の障害が確認された.以上の結果は,EIF2B5遺伝子変異により,glial progenitorからastrocyteへの誘導が障害され,VWMでは白質の形成障害が生じる可能性が高くなった.すなわちEIF2B5は白質の形成段階で,さらにストレス後の段階で重要な役割を果たしている蛋白であることが予想される.

Ann Neurol 57; 560-563, 2005
Nat Med 11; 277-283, 2005
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多発性硬化症に対するインターフェロンβ療法は自己免疫現象を惹起しない

2005年03月25日 | 脱髄疾患
インターフェロン(IFN)α,βは,ウイルスが感染した細胞が産生するウイルス増殖抑制物質として発見された.ともに分子量約2万の類似性の高いタンパク質で,βには糖鎖がついている.その後の研究により,抗ウイルス作用のほか,細胞増殖抑制作用や免疫調節作用を有することも明らかになり,現在,MSのほかに腎癌,多発性骨髄腫,ウイルス性肝炎等の疾患に用いられている.
 近年,国内でIFNα製剤投与中の甲状腺機能低下症,および甲状腺機能亢進症が報告されている.これらの症例の中でIFNα製剤投与後に甲状腺刺激抗体,抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体,および抗核抗体,抗ミクロソーム抗体,抗サイログロブリン抗体等の自己抗体が陽性化していたことなどから,これらの甲状腺機能異常症はIFNαが関与した自己免疫現象に関連していることが疑われた.また,このほかにもSLEの動物モデルにおいてIFNが病態の進展に関与しているという報告や,IFNα製剤による自己免疫現象との関連を疑う報告としてRA,自己免疫性肝炎,溶血性貧血,悪性貧血,血小板減少症等がある.一方,IFNβ製剤と自己免疫現象との関連は明らかでない.
 今回,オランダよりIFNβ製剤投与と自己免疫現象との関連について報告があった.対象はEuropean placebo-controlled double-blind, multicenter studyに登録したsecondary progressive MS (SPMS)患者とし,IFNβ製剤投与前と治療開始後6ヵ月毎の24ヶ月間において血液を採取し,生化学検査に加え,抗核抗体, 抗ミトコンドリア抗体, 抗平滑筋抗体,抗ミクロソーム抗体,抗サイログロブリン抗体を調べた.結果としてIFNβ製剤を投与した355名と偽薬を投与した353名を比較.両群間で治療開始後に自己抗体があらたに陽性になった割合は有意差なし.IFNβ製剤投与後,肝機能障害が出現する症例もあるが,肝酵素上昇と抗核抗体, 抗ミトコンドリア抗体, 抗平滑筋抗体との間に相関なし.甲状腺機能障害に関しては治療開始前において甲状腺機能障害と抗甲状腺マイクロソーム・サイログロブリン抗体は有意の相関を認めたが,治療開始後には相関はなかった.また抗核抗体上昇を伴う血管炎やRAの出現もなかった.
 以上の結果は,少なくともSPMSのコホートにおいては,IFNβ製剤は自己免疫現象を惹起することはないという結果を示唆するものである.

Neurology 64; 996-1000, 2005

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C型肝炎ウイルスによる筋炎 ―筋線維内にウイルスがいた!―

2005年03月24日 | 筋疾患
C型肝炎ウイルス(HCV)は様々な肝外症状を呈することが知られており,筋炎もそのひとつである.その発症機序として自己免疫が関与している可能性が指摘されていたが,その詳細についてはいまだ不明である.今回,本邦よりHCV陽性の筋炎患者の筋組織において,初めてHCVウイルスの存在が確認された.
 対象はHCV抗体陽性・HCV-RNA陽性である4名の筋炎患者(進行性,近位筋優位の筋炎).方法は筋生検を行い,通常の筋病理検査に加え,muscle homogenateを用いたHCV-RNAに対するreal time-PCRと,HCV-RNAを検出するantisenseおよびsenseのds-cDNA probeを用いたin situ hybridization(ISH)を行った.結果として2名でmuscle homogenateにおけるHCV-RNAを検出し,さらにISHにおいて,同じ2名の患者において筋線維内のHCV-RNAを検出した.筋線維内のHCV-RNAのパターンはびまん性で,これらの筋線維は萎縮していた.いずれの患者でもHCV-RNA陽性筋線維は約5%であった.さらに筋線維周囲に浸潤するリンパ球においてもHCV-RNAが検出された.筋線維内にHCV-RNAを検出した2名の患者はステロイド(40 or 60 mg/day)に対する治療反応性が,その他の2名より良好であった.
 これまでHCV関連筋炎において筋組織内におけるHCV-RNAは検出されておらず,直接のウイルス感染より自己免疫がその病態において重要だろうと推測されてきた.しかし,今回の結果はウイルスによる筋組織への直接感染が病態に重要である可能性を示唆するものである.ただし,今回のケースでも,HCV-RNAが検出された2名ではステロイド反応性が良好であったことから,自己免疫的機序が関与している可能性は十分考えられる.ただ個人的にステロイドが効きにくいHCV陽性の筋炎患者も経験している.このような場合は,偶然,HCV陽性を合併したほかの筋疾患を考えるか,もしくは重症のHCV筋炎で,HCVに対する抗ウイルス薬をトライし,その効果を判定すべきなのかもしれない.

Neurology 64; 1073-1075, 2005

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小脳がないとどうなるか? ― 結構,大丈夫.

2005年03月22日 | 脊髄小脳変性症
 小脳がないとどれほどの失調症状を呈するのであろうか?Cerebellar agenesis(小脳無形成)を呈するイタリア人少年のMRI画像と神経所見が報告されている.まずMRIは完全な小脳の欠損で,テント下の小脳が存在すべきスペースは完全に髄液で置換されている.病歴は新生児で低緊張を指摘され,4歳時に小脳失調を小児科医に指摘されている.17歳の現在,四肢・体幹に失調を認めるものの,自力歩行は可能で,指鼻試験も軽度のdysmetriaを認める程度である(これらはWeb上でビデオ画像を見ることができる).眼振はない.神経心理検査では軽度のmental retardationを認めるが,普通学校に通学するレベルである(しかも自転車に乗って通学している).
 過去にも小脳無形成~低形成の症例報告はあるようだが,早期の死亡から本例のように症状が軽微なケースまで様々のようだ.本例から示唆されるように欠損が大きいほど症状が強いというわけでもない.これは小脳の形成が胚形成の早期に起きるため,脳の可塑性により機能の代償が起きているものと推測されているが,どこが小脳の代償機能を担うのか見当がつかない.

ちなみにWeb上で他の症例のcerebellar agenesisのMRIが見ることができる.参考までに.
http://www.uiowa.edu/~c064s01/nr223.htm

Neurology 2005;64 E21
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反射性交感神経性ジストロフィー(RSD/CRPS type 1)は免疫疾患か?IVIgが効くのか?

2005年03月21日 | その他
 1900年 ドイツの医師 Sudeck は足部外傷後や手術後に過剰な炎症反応がおき,結果として骨萎縮が遅発性に生じることを報告した(いわゆるSudeck 骨萎縮).1946年 Evans は,Sudeck 骨萎縮と類似の病態を反射性交感神経性ジストロフィー (RSD)と名付けた.この理由は,この疾患の症状において交感神経の関与(発赤・腫脹・発汗異常など)が大きいと考えたからである.1994年,国際疼痛学会 (IASP) はRSDの中に交感神経非依存性痛が存在することから,RSD を複合性局所疼痛症候群1型 (Complex Regional Pain Syndrome type I: CRPS type I) と新たに命名した.type I は神経損傷がないもの,type II を神経損傷と関連する causalgia としている.発症機序については十分に解明されていない.当初より交感神経系の異常亢進に起因している可能性が示唆されてきたが,IASPは前述の通り交感神経非依存性の病態も含まれることを重視し,その原因を複雑かつ多岐に及ぶ不明のものと考えている.しかし基本的には 1) 求心性信号の異常増加,2) 感覚神経細胞の感受性増大や感作,3) 神経回路の再構築による異常回路の形成,4) 疼痛抑制系の低下,などの病態が考えられている.
今回,Oxfordのグループより興味深い症例が報告された.この症例はCRPS type1の女性で,IVIg施行後6週間にわたり疼痛の減少と自律神経症状の改善を認めた(3回のIVIgを行い,そのたび有効であった).免疫学的機序の関与が疑われたため,各IVIg施行前に採血し,患者血清(IgG分画,および非IgG分画)を精製,C57B16マウスに2-5日間注射した.対照のマウスには健常者血清(IgG分画,非IgG分画)を注射した.この結果,独立した3回の実験で(計60マウス),施行2日後までに患者血清を注射したマウス群において開放探索(open-field exploration)における明らかな行動異常(これはげっ歯類では痛みを反映するらしい),およびrearing(立ち上がり)の減少を認めた(p<0.001).非IgG分画注射群ではこの異常は生じなかった.以上の結果は,CRPS type 1における免疫学的機序の関与を示唆するものである.しかし,一流雑誌にアクセプトされた論文ではあるものの,あくまでも参考程度に考えたほうがよさそうだ.というのは①本症例が本当にCRPS type 1かの検証が不明,②かりにCRPS type 1であったとしても,CRPS type 1がheterogeneousな疾患である可能性がある,③CRPS type 1にIVIgが有効であったという症例はPubMed MeSH検索してもほかに見つからない(論文ではchronic painに有効であったIVIgの1例を引用している).plasma exchange有効例の報告もない,④受動免疫でdisease transferが可能であったとしても,わずか1例のみの検討であり多数例の血清での検討が必要である.いずれにしても今後の検証が非常に重要である.もしこの論文が本当であれば,難攻不落と思われたCRPS type 1の一部ではIVIgやplasma exchangeが今後,積極的に行われることになるであろう. Ann Neurol 57; 463-464, 2005

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RNA干渉で筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスの発症と進行を抑制できる

2005年03月20日 | 運動ニューロン疾患
ALS患者のごく一部でSOD1遺伝子の変異が原因であることが分かっている(FALS1).このSOD1遺伝子変異のひとつであるヒトG93A変異(93位のグリシンがアラニンに置換)を導入したTg mice(G93Aマウス)は商業ベースで購入できることもあり,よく治療研究に用いられている.例えば,このマウスに対してcaspase広域阻害薬であるzVAD-fmkの脳室内投与をすると発症と死亡が遅延したといった報告があり,このマウスではアポトーシスが病態に関与する可能性が示唆されている(Science 288: 335-339, 2000).
今回,このG93A miceを用いて,RNA干渉(RNAi)による変異SOD1遺伝子発現の特異的な抑制が,発症と進行を遅らせることを2つの研究チーム(一方はイギリス,他方はスイス・フランス)が報告している.RNAiを導入するウイルスベクターとしてはともにレンチウイルス・ベクターを使用している.スイス・チームは40day-oldのマウスの腰髄L3-4にstreotactic にベクターを注射し,イギリス・チームは7day-oldのマウスの複数の筋肉群(後肢,横隔膜・肋間筋,顔面・舌→これらは運動,呼吸,嚥下に関わるという意味で重要)に注射している.結果は変異SOD1遺伝子発現をきちんと抑制し,運動ニューロンの生存の延長を病理学的に確認し,かつ運動機能,発症時期,生存期間を改善したというものである.RNAiが常染色体優性遺伝の神経変性疾患に有効であることを動物モデルで示したのはSCA1に続いてふたつ目であるが,今後,RNAiを用いた治療の検討がますます積極的に行われるものと思われる.
 ただ何となく違和感を覚える.まず変異遺伝子の発現量を増やした疾患マウスを人為的に作っておいて,それを別の方法で発現の抑制をして,それも生後7日とか40日という早期の段階で抑制をして,「とても長生きしました」というのも変な話である.またこの方法は家族性ALSのなかのさらに一部の変異を持つマウスに効果があったわけであって,大多数を占める孤発性ALSの治療研究にどう関与するのか(しないのか)一切分からない.さらに一番の問題はレンチウイルス・ベクターの問題である.オンコウイルス由来のベクターとは異なり非分裂細胞にも導入できるため,神経系への遺伝子導入には良く使用されるが,現在主に開発されているものはHIVをベースにしているので,とくに神経変性疾患のように長期間の発現が必要である場合の安全性の検証は十分ではない.確かにホットな領域であり,論文としては面白いし,国もこういう研究には多額の研究費を出すのであろうが,臨床にtranslateできる研究であるかどうかはまた別の問題でもある.

Nat Med. 2005 Mar 13; [Epub ahead of print]

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脳梗塞急性期における増悪が予測される症例とは?

2005年03月18日 | 脳血管障害
脳梗塞急性期における増悪を予測する因子は何であるかについてドイツから多施設共同研究の結果が報告された.対象は発症4時間以内に来院した患者に限定し,入院時と入院48~72時間後にNIHSSを評価した.結果として1964名の患者が発症4時間以内に来院し,うち256名(13.0%)が入院48~72時間後にNIHSSが1点以上増悪した(4ポイント以上の増悪は148名(7.5%)で認められた).NIHSS増悪の原因は進行性脳梗塞が33.6%,頭蓋内圧亢進が27.3%,脳梗塞再発が11.3%,二次的な脳出血が10.5%であった.多変量ロジスティック回帰の結果,①内頚動脈閉塞,②MCA M1閉塞,③境界域梗塞,④脳幹梗塞,⑤糖尿病,がNIHSSの増悪を予見する独立した予後因子であることが判明した.
以上の結果は超急性期であっても超音波や画像所見を使用することで,症状増悪の危険性を予見することができることを意味する.多変量解析の結果は予想可能な妥当なものと思われるが,このような11施設による大規模なstudyを2年間という短期間にぱっとやってしまうところは立派だと思う.あとNIHSSの習得は日本でも今後不可欠のものとなるだろう(簡単なようで,実は難しいところもあって,説明書きをよく読むことと練習が必要).

Arch Neurol 62; 393-397, 2005

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