マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)汚染は,世界的に重大な環境問題ですが,今年になりヒトへの直接の健康被害が明らかになりました.3月にNew Engl J Med誌に掲載されたイタリアからの前方視的研究では,頸動脈の動脈硬化病変(プラーク)を切除する頸動脈内膜切除術を受けた312人のうち,検討を完了した257人中150人(58%)からポリエチレンが検出され,電子顕微鏡検査ではギザギザしたMNPsが確認されました(図).MNPsが検出された患者では,心筋梗塞,脳卒中等による死亡リスクが,ハザード比4.53(!)とMNPsが検出されない患者と比較し顕著に高いことが示されました.これはMNPsがさまざまな化学添加剤(発がん性物質,神経毒性物質,内分泌かく乱物質)を含むため炎症反応が高度になるためと考えられます.つまりMNPsは心血管系疾患の新たな危険因子と考えられます.ペットボトル1本にMNPsは約24万個(9割がナノプラスチック)含まれることも報告されています.詳細はこちらのブログをご参照ください.
今回,中国より患者30人の3つの部位(脳動脈,冠動脈,下肢深部静脈)から採取した血栓中のMNPs(論文ではMPsと記載)の濃度,ポリマーの種類などを検討した研究がeBioMedicine誌に報告されました.MNPsの同定と濃度の定量には,熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析法(Py-GC/MS)を用いています.さらにレーザー直接赤外分光法(LDIR)と走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いてMNPsの物理的性質を分析しました.
結果ですが,虚血性脳卒中,心筋梗塞,深部静脈血栓症の患者から得られた血栓の80%(24/30)でMNPsが検出され,濃度の中央値はそれぞれ61.75,141.80,69.62μg/gでした.またMNPs検出群のD-ダイマー濃度はMNPs未検出群より有意に高値でした(8.3±1.5μg/L vs 6.6±0.5μg/L,p<0.001).10種類ポリマーのうち,ポリアミド66(PA66),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリエチレン(PE)が同定されました.LDIR分析では既報同様,ポリエチレンが優勢で,全体の53.6%を占め,平均直径は35.6μmでした.LDIRとSEMで検出されたポリマーの形状は不均一でした(図A).
虚血性脳卒中に限定すると,MNPs濃度と血栓の大きさに関連はなし.統計的には有意ではないものの,後方循環の濃度は前方循環より高い傾向を示しました[131.1μg/g対60.68μg/g](図B).濃度が高い患者ではNIHSSスコアは有意に高値でした(22.0±7.5 vs 12.6±3.5,p<0.05)(図C).さらに線形回帰分析によりNIHSSスコアと血栓中濃度との間に正の相関があることが示されました!(調整β=7.72,95%CI:2.01-13.43,p<0.05).
考察では血栓中のMMPs濃度と重症度の間に用量依存関係がある可能性があること,その機序としてはMNPsが酸化ストレス,アポトーシス,パイロトーシス,炎症,ならびに免疫細胞や内皮細胞との相互作用を通じて血栓形成を促進する可能性があると述べられています.曝露源を特定することと,症例数を増やした今後の研究が早急に必要であると述べています.社会全体で取り組むべき課題であり,まずこの問題を多くの人に知っていただくきたいと思います.
Wang T, et al. Multimodal detection and analysis of microplastics in human thrombi from multiple anatomically distinct sites. eBioMedicine. 2024 May;103:105118.(doi.org/10.1016/j.ebiom.2024.105118)
今回,中国より患者30人の3つの部位(脳動脈,冠動脈,下肢深部静脈)から採取した血栓中のMNPs(論文ではMPsと記載)の濃度,ポリマーの種類などを検討した研究がeBioMedicine誌に報告されました.MNPsの同定と濃度の定量には,熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析法(Py-GC/MS)を用いています.さらにレーザー直接赤外分光法(LDIR)と走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いてMNPsの物理的性質を分析しました.
結果ですが,虚血性脳卒中,心筋梗塞,深部静脈血栓症の患者から得られた血栓の80%(24/30)でMNPsが検出され,濃度の中央値はそれぞれ61.75,141.80,69.62μg/gでした.またMNPs検出群のD-ダイマー濃度はMNPs未検出群より有意に高値でした(8.3±1.5μg/L vs 6.6±0.5μg/L,p<0.001).10種類ポリマーのうち,ポリアミド66(PA66),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリエチレン(PE)が同定されました.LDIR分析では既報同様,ポリエチレンが優勢で,全体の53.6%を占め,平均直径は35.6μmでした.LDIRとSEMで検出されたポリマーの形状は不均一でした(図A).
虚血性脳卒中に限定すると,MNPs濃度と血栓の大きさに関連はなし.統計的には有意ではないものの,後方循環の濃度は前方循環より高い傾向を示しました[131.1μg/g対60.68μg/g](図B).濃度が高い患者ではNIHSSスコアは有意に高値でした(22.0±7.5 vs 12.6±3.5,p<0.05)(図C).さらに線形回帰分析によりNIHSSスコアと血栓中濃度との間に正の相関があることが示されました!(調整β=7.72,95%CI:2.01-13.43,p<0.05).
考察では血栓中のMMPs濃度と重症度の間に用量依存関係がある可能性があること,その機序としてはMNPsが酸化ストレス,アポトーシス,パイロトーシス,炎症,ならびに免疫細胞や内皮細胞との相互作用を通じて血栓形成を促進する可能性があると述べられています.曝露源を特定することと,症例数を増やした今後の研究が早急に必要であると述べています.社会全体で取り組むべき課題であり,まずこの問題を多くの人に知っていただくきたいと思います.
Wang T, et al. Multimodal detection and analysis of microplastics in human thrombi from multiple anatomically distinct sites. eBioMedicine. 2024 May;103:105118.(doi.org/10.1016/j.ebiom.2024.105118)