Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)の診かた@第44回日本頭痛学会

2016年10月23日 | 頭痛や痛み
第44回日本頭痛学会@京都に参加した.頭痛の診療は奥が深いとあらためて感じた.頭痛は有病率の高い疾患であるが,そのなかには診断を誤りやすいもの,難治性のもの,場合によっては命にかかわるものがあり,それらに適切に対処するため,医師は診療のレベルアップをはかる必要がある.そのためにはまずは頭痛の国際分類を理解し,正しく診断を行なうことが重要である.日本頭痛学会総会ではこのための充実したプログラムを多数組んでおり,神経内科だけでなく多くの診療科(脳外科,ペインクリニック科,小児科,精神科等)の先生方のレクチャーを聴くことができる.

さて日本頭痛学会総会(2016年10月21日~22日)の生涯教育セミナーで,TACsが集中的に取り上げられ,非常に勉強になったのでまとめておきたい.国際頭痛分類第3版(ICHD3beta)において,TACsに分類される頭痛は,通常一側性で,しばしば頭痛と同側で一側性の顕著な頭部副交感神経系の自律神経症状を呈するという共通の臨床症候を呈する.このなかには3.1群発頭痛,3.2発作性片側頭痛,3.3.1 SUNCT,3.3.2 SUNA,3.4 持続性片側頭痛などが含まれる.PETやMRSの評価で,これらTACsに共通するメカニズムとして,視床下部の活性化が報告されている.



A. 群発頭痛

(病態と診断)
発症機序については非常に多くの説がある(視床下部,メラトニン,オレキシン,CGRP,翼口蓋神経節).
悪心や体動での増悪が多く,片頭痛と診断される恐れがある.
慢性群発頭痛は日本人では少ない.
鑑別すべき二次性頭痛として下垂体腫瘍などがあるが,MRIを撮像すれば見逃しは防げる.
(治療)
ガイドラインに則って行なう.
1)急性期治療
Grade A;スマトリプタン皮下注(1日2回まで.キットが良い),酸素(7L/min 15分間;発作3回以上のときはスマトリプタン皮下注が使えなくなるので,併用すると良い)
Grade B;スマトリプタン点鼻,ゾルミトリプタン経口
反復性群発頭痛を,片頭痛と誤診し,トリプタン錠の処方が大量にされていることがある.
2)予防療法
Grade B;カルシウム拮抗薬(ベラパミル:ワソラン®),副腎皮質ステロイド,適応外使用.
アメリカ頭痛学会のガイドラインでは,後頭神経ステロイド注射がGrade Aとして推奨されている.また無効であり,使用を避けるべきものとして,バルプロ酸,スマトリプタン経口,DBSがある.とくにスマトリプタン経口は臨床現場で行われている可能性が高く,注意が必要.
(注意すべき点)
心疾患のない,若年者であれば,ベラパミルは240 mg/日から使用してよい(問題があれば120 mgから開始する). 順番は副作用の少ないベラパミルから開始して,予防が難しければ,ステロイドを併用する.ステロイドをやめるときは漸減し,中止する.


B. SUNCT/SUNA

(病態と診断)
Short-lasting unilateral neuralgiform headache attacksのサブタイプとして,「結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)」と「頭部自律神経症状を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNA)」が並記されている.SUNAはSUNCTと似た病態だが,自律神経症状のみ認め,結膜充血と流涙は伴わない.両者とも従来「痛みの持続時間は5〜240秒」とされていたが,ICHD3betaでは最長600秒となっている.
群発頭痛の1/10,女性がやや多い.あまり有効な治療がなく,難治に陥ることがある.
反復性と慢性のタイプがあるが,アジア人では慢性例が少ない可能性がある.
発作中は目を押さえ,ベッドでのたうち回るような状態になるが,1-2分で落ち着いてくる.
鑑別診断は後述する発作性片側頭痛で,鑑別にはインドメタシンを使用する.一部の症例では,三叉神経の血管による圧迫が見られ,治療としてdecompressionが有効な症例がある.
(治療)
1)急性期治療
リドカイン静注(1-4 mg/min)で改善する.この量は,日本で不整脈に使用される場合とほぼ同等.
4~7日間継続する.保険病名として難治性疼痛にすれば,リドカインは使用できる.
2)予防療法
第一選択はラモトリギンで,25から200mgへ漸増する(皮疹に注意).ただし,ガイドラインではグレードCである.その他,トピラマート,ガバペンチンが使用される.


C. 発作性片側頭痛(paroxysmal hemicrania; PH)
(病態と診断)
発作(側頭部・後眼窩の痛み,流涙,結膜充血,鼻閉,鼻漏)が20回/日以上ある.2-30分持続するが,インドメタシンで寛解する.40歳前後の発症で,誘因としてアルコールが知られる.
三叉神経第1枝が多い(三叉神経痛との鑑別が重要で,移行例もある).
反復性,慢性のタイプがある.
頻度は群発頭痛の2割程度で,SUNCT/SUNAよりは多い.
夜間発作もある.REM期に生じる(群発も夜間に多い)
1日5回以上が多い.1日8回を超えると群発頭痛の可能性が減り,PHやSUNCT/SUNAを疑う必要がある.

(治療)
1)急性期治療
Grade A;インドメタシンで寛解する.150 mg/日を3-6回に分けて内服する(1週間以上ためす.即効錠,徐放錠いずれがよいということはない).筋注で効果があるか,テストも行なってもよい.


D. 持続性片側頭痛(hemicranias continua)
(病態と診断)
もともとは群発頭痛の亜型として報告された.
頭痛増悪時に片側性に結膜充血や流涙,鼻閉,鼻漏,眼瞼下垂,縮瞳などの自律神経症状が発現する.他のTACsは持続時間が極めて短時間であり,数秒~数分で消失するが,PHは数カ月から数年間続く.ICHD3betaからTACsに追加されたが,他のTAC同様に自律神経症状が極めて著明であることと,インドメタシンが治療に有効であることが理由である.HCはTACsと片頭痛の病態がオーバーラップしていると言われている.鑑別診断は,慢性片頭痛,新規発症持続性連日性頭痛,MOHで,インドメタシン反応性で鑑別可能である.
(治療)
インドメタシンで完全寛解する(効果は初回投与の72時間以内に見られることが多い).ただし,二次性頭痛でインドメタシンが効く症例もあり,注意を要する.日本ではインドメタシンの上限は75mgになっている(25 mgを1日2-3回で試す).胃薬を併用する(プロドラッグであるインフリー250 mgは,インドメタシン25mgに相当する).徐々に減量する.

図はBritish J Pain 2012;6(3);106-123より引用

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第10回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2016)@京都

2016年10月09日 | パーキンソン病
標題の学会が10月6日から8日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまであり大変充実した学会ですが,とくに学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するイブニング・ビデオセッションは人気企画です.不随意運動の診かたに関するこの領域の先輩の先生方のコメントを聞くともっと勉強しなければならないと思います.では今年の15症例の一覧を記載します.

【問題編】
症例1.左下肢のコレア様の不随意運動を呈した83歳女性
既往歴として高血圧,糖尿病.突然,左下肢の不随意運動で発症.発症後,数日,経過してから入院.左下肢の不随意運動のため立位でバランスを崩す.ヘミバリスムほど激しい運動ではないが....診断は?

症例2.突然の異常行動にて発症した46歳女性
突然,奇声を発し,全裸になる興奮状態にて発症.頸部から体幹・四肢にコレア様の不随意運動.頭部MRIでびまん性白質病変.既往歴に関節リウマチがあり,プレドニゾロン7 mg,MTX(メトトレキサート) 8 mg,ブシラミン200 mgなど内服していた.家族歴として常染色体優性の脊髄小脳変性症.診断は?

症例3.立位で下肢のふるえ,DATスキャンで低下をみとめた60歳男性
54歳,歩行時の足のもつれにて発症.55歳,右大腿のふるえが出現し,やがて両側にひろがる(表面筋電図では振戦).注視眼振,四肢筋強剛あり.家系内にパーキンソン病と脊髄小脳変性症あり(常染色体優性遺伝,表現促進現象あり).小脳軽度萎縮,MIBG正常,DATスキャンで被殻の低下あり.診断は?

症例4.突然発症のパーキンソニズムを呈した67歳男性(最優秀演題)
起床時から動作が鈍くなった.無動,筋強剛.腎不全も合併した.腎不全改後,パーキンソニズム精査.筋強剛,すり足,姿勢保持障害あり.頭部MRIは,T2WIで両側淡蒼球ややhigh,DWIで両側淡蒼球明瞭にhigh.DATスキャンで左尾状核の低下.診断は?

症例5.重いカバンを持たないと歩けない69歳男性(優秀演題)
10才台から転倒.何かにつかまらないと歩けない(転倒が多い人に見られるprotective gaitないしcautious gaitの所見である).しかしペットボトルを入れた重いカバンを持つと,歩くことができる.聴覚性,触覚性刺激により過剰な驚愕反射を呈する.3人の娘も転倒する.診断は?

症例6.つねに笑っている61歳男性
59才,借金をかかえて路上生活となる.60才,両下肢が動かなくなり,路上生活ができなくなる.このころ,常に笑っているようになる.病識欠如,仮性球麻痺,腱反射亢進,病的反射陽性.左前頭から側頭葉の萎縮.診断は?

症例7.長時間歩行で内反尖足が出現する35歳女性
27歳,てんかんの既往.20歳,長時間歩行で左足の強直が出現.27歳,包丁でまな板を長い時間,叩いていると右手にも強直が出現.軽度の痙性歩行,軽度の知能低下.トレッドミルの誘発試験で,1時間歩いてもらい,運動誘発性ジストニアを確認した.歩行をやめるとすぐに消失する.診断は?

症例8.舌が出てしまい食事を取れなくなった36歳女性
25歳,食事中に舌が出るようになる.転倒も出現.34歳,水が飲みにくくなる.35歳,舌の動きで,食べ物を吐き出してしまうようになる.このため10 kgの体重減少.口腔粘膜びらん.CK高値.頭部MRIでは,両側尾状核,被殻の萎縮あり.診断は?

症例9.眼球運動制限と凹足をみとめた常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の64歳男性
小学生で酩酊様歩行,両親が血族婚.発語不明瞭,凹足,腱反射消失,バビンスキー反射陽性.眼球運動の瞬目による改善なし,head thrustなし.網膜の有髄神経の増生なし.診断は?

症例10.筋力低下がないのに右肩の挙上ができない23歳女性例
右肩の挙上困難が,自転車での転倒を契機に増悪.筋力は正常.仰臥位になると改善する.表面筋電図では主動筋と拮抗筋の相反性が消失(共収縮).診断と治療は?

症例11.右手の運動障害が,筋力低下,錐体外路症状,失行の判断が難しかった74歳女性例
74歳,右手の書字障害,階段上りにくくなる.この右手の運動障害が,筋力低下か,錐体外路徴候か,失行かの判断が難しかった.皮質性感覚障害なし.76歳,起立困難になる.四肢筋力低下し,ALSが疑われる.78歳,無動.80歳,意思疎通困難.画像では発症2年目に前頭葉萎縮,8年目に白質病変.SPECTで左中心前回,運動前野に血流低下.診断は?

症例12.3歳で脳梗塞による右足のジストニアが出現した32歳女性
3歳で右足にジストニア.CT上,脳梗塞.29歳,たまたま行ったMRIで異常を指摘され精査.HDS-R 25点.右下肢軽度の内反尖足.網膜動脈蛇行.DATスキャン正常.MRIにて白質病変,小脳,基底核んにmicrobleeds多発.診断は?

症例13.小脳性運動失調と舞踏運動を呈した45歳男性
両親血族婚.19歳,ふらつきにて発症.認知機能低下,自咬症.緩徐に進行,40歳で,頸部・顔面の不随意運動(振戦ないし舞踏運動).四肢回内と回旋をくりかえす.嚥下障害による体重減少.小脳性運動失調軽度.同胞にも類症あり,突然死をしている.画像上,小脳萎縮あり.診断は?

症例14.神経ベーチェットの経過中に異常眼球運動を呈した女性
眼球所見で,水平方向に不規則で早い不随意運動.両上肢のすばやいふるえ.T2WIで多発病変.ステロイド+MTXによる治療で改善.診断は?

症例15.歩数をイメージすることによりすくみ足が改善したパーキンソン病.その機序は?

【解答編】
症例1.左視床下核の小脳梗塞
左視床下核の虚血病変によるヘミバリスムは,経過とともに程度が弱くなり,ヘミコレア様になることがあるとのこと.クロナゼパムは無効,ハロペリドールが若干有効だった.

症例2.歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)とMTX脳症の合併の疑い.
MTXの使用が,DRPLAの経過を修飾した可能性が議論された.

症例3.MJD/SCA3(ataxin-3 65/25リピート).
DATスキャンが低下することと,立位で振戦が出てくる点が興味深い.

症例4.硬膜動静脈瘻(DAVF).
DAVFに伴う虚血に伴う,線条体の脆弱性が原因となった症例.画像所見は静脈性浮腫によるものと考えられる.既報ではDAVFで,パーキンソニズムを呈した症例は14例あり,純粋無動も2例あるとのこと.

症例5.グリシン受容体遺伝子変異に伴うびっくり病(Startle disease)/ 過剰驚愕症(Hereditary hyperekplexia).
歩行が固有感覚刺激で改善することを示した点で意義が大きい.クロナゼパムで歩行は改善した.

症例6. 臨床診断ALS-D,病理診断FTLD-TDP(脊髄前角がTDP43陽性に染色される)

症例7.グルコーストランスポーター1(Glut1)欠損症.
グルコースのトランスポーターの欠損により,中枢神経系に取り込まれず生じる代謝性脳症.早期に発作性異常眼球運動,てんかん発作で発症し,経過とともに運動誘発性ジストニア,痙性対麻痺,運動失調などを認める.低髄液糖症が診断の手がかりとなる.ケトン食治療が有効で,QOLを著しく改善させる.

症例8.有棘赤血球舞踏病.

症例9.常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS).
眼球運動制限を認めた症例報告が1例だけだがあるとのこと.通常のARSACSと比べるとかなり非典型的.

症例10. 局所性ジストニアによる一側上肢の挙上困難.
ボツリヌス毒素による治療で挙上可能になった.

症例11.Globular glial tauopathy(GGT)
錐体外路徴候と運動ニューロン徴候を共に認めるときにはGGTを鑑別に加える.

症例12.COL4A1遺伝子変異
COL4A1遺伝子は,IV型コラーゲンα1鎖をコードする遺伝子であり,血管の基底膜の障害の原因となる遺伝子変異.小血管の閉塞や出血が起こる.脳と眼の病変を筆頭に,腎臓などにも病変を形成する.

症例13.Autosomal recessive spinocerebellar ataxia-16 (SCAR16; STUB1遺伝子変異)
10-20歳代で失調にて発症する.認知症,痙性対麻痺を認める.性腺機能障害あり.高度の小脳萎縮を認める.

症例14.オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群

症例15.歩数をイメージが,内因性キューになっている可能性や.頭のなかで数を数えている可能性が議論された.





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