Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症におけるCPAP療法の禁忌 ―floppy epiglottis(喉頭軟化症)―

2011年05月25日 | 脊髄小脳変性症
最も頻度の高い脊髄小脳変性症である多系統萎縮症(MSA)では,高率に睡眠中の呼吸障害がみられる.その結果,夜間の低酸素血症を合併するような場合には,非侵襲的陽圧管理療法(CPAP)による無呼吸・低呼吸の治療が必要である.私ども新潟大学では,神経内科,呼吸器内科,耳鼻咽喉科,循環器科,摂食嚥下科がチームを作り,MSA症例の治療・ケアに取り組んできた.そのなかで,MSAの睡眠呼吸障害は,よく知られている声帯レベルの狭窄のみならず,舌・軟口蓋・喉頭蓋レベルにおける閉塞・狭窄によっても生じうることを報告した(Arch Neurol 2007).とくに喉頭蓋レベルの閉塞・狭窄はfloppy epiglottis(喉頭軟化症・ぐにゃぐにゃ喉頭蓋)と呼ばれている.喉頭蓋が吸気時に奥に引きこまれて気道を閉塞・狭窄させるのである.これは小児では先天的な軟骨の形成異常などで生じることが知られているが,MSAにおける機序についてはよくわかっていない.われわれは成人型アレキサンダー病でfloppy epiglottisを来した症例を経験しているが(Mov Disord 2010),両者とも脳幹の萎縮を呈する疾患であり,脳幹の神経変性が関与しているものと考えられる.

さてこのfloppy epiglottisの臨床上の問題は,この合併をみとめた場合,CPAPを行っても大丈夫なのかということである.つまり,陽圧をかけて,さらに喉頭蓋が気道の奥に押し込まれ,窒息がおこらないかという心配である.われわれのチームはこの問題に取り組むため,睡眠呼吸障害を認める患者さんに対し,プロポフォール鎮静下での声帯や喉頭蓋の観察を行なってきた.実際にマスクをつけて陽圧をかけ,声帯や喉頭蓋にどのような変化が生じるかを確認した.今回,17名の患者さん(probable MSAの診断)に関する検討をまとめNeurology誌に報告した.

罹病期間は平均54ヶ月,重症度はUMSARSで平均43点(中等症が多い).病型は,14名が小脳型,3名がパーキンソン型であった.ポリグラフ検査では無呼吸・低呼吸指数は39.5と高く,16名に睡眠呼吸障害の合併を認めた.喉頭内視鏡では覚醒時には1名もfloppy epiglottisは見られなかったが,プロポフォール鎮静後に観察すると12名(71%)に軽度のfloppy epiglottisが出現した(他の神経疾患・喉頭疾患でも多数の検査を行なっているが,前述のアレキサンダー病を除き経験はない).3名が重度(ほぼ気道を覆うタイプ),9名が軽度と分類された.重度例では,CPAPによる陽圧で気道狭窄が明らかに改善したといえる症例なし.9名の軽度例のうち,2名はCPAPにより喉頭蓋が奥に押し込まれてしまい,気道狭窄が悪化,酸素飽和度も低下した.残り7名では気道狭窄は改善した.軽度例のうち3名で検査の1年後に再検査を行なったが, 1名が重度化がみられた.

以上より,3点のことが分かった.①MSA,とくにprobable MSAの診断がつく症例では,軽度のfloppy epiglottisは稀ではないこと,②floppy epiglottisは進行しうる病態であり,定期的な鎮静下喉頭内視鏡による観察が必要であること,③従来から有効と考えられ行われてきたCPAPが,floppy epiglottis合併例では,かえって睡眠呼吸障害を悪化しうること,である.③は特に重要で,MSAではCPAPを行っても経過中に突然死が生じうることを経験しており(J Neurol 2008),そのような症例の一部にはfloppy epiglottisによる窒息が含まれていた可能性もあるのかもしれない.今後,MSAの睡眠呼吸障害に対するCPAPは,耳鼻咽喉科医との連携の上,鎮静下の喉頭内視鏡検査を行い,floppy epiglottisの有無に注意しながら行う必要が示唆された.

Floppy epiglottis as a contraindication of CPAP in patients with multiple system atrophy
Neurology 2011;76 1841-1842 
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しゃっくり(吃逆)を止めたい!

2011年05月16日 | その他
テレビ新潟のディレクターさんからのお願いで,今回は身体のふしぎについて質問が届いた.「しゃっくりはどうして起こるのか?どうすれば止められるのか?」という質問だ.
難しいが,たしかにこれは,神経内科の守備範囲である.

 まずしゃっくりは何のために起こるのか,意味があることなのかということを自分は考えてしまうが,どうも生理的意義は不明らしい.

 つぎにメカニズムについて.しゃっくりを起こす刺激としては,以下のものが知られているそうだ.
1.胃腸やその周辺の温度の急激な変化(温かいあるいは冷たいものを飲んだ時)
2.胃の拡張(空気を飲み込んでしまう呑気症,食べ過ぎ,飲酒,炭酸飲料)
3.急に生じた感情の変化
4.タバコ

しゃっくりの神経経路(反射弓)については紆余曲折があり,現在,以下のように考えられている.

1.求心路(脳に向かう感覚入力)・・・鼻咽頭→舌咽神経咽頭枝,交感神経(Th6-12)
2.遠心路(脳から出て筋肉を動かす運動う出力)・・・
舌咽神経延髄孤束核→延髄網様体 →横隔神経→横隔膜・・・横隔膜が瞬間的に収縮する
    →迷走神経→声門・・・息の吸い込みと声門の閉鎖が起こる

ではどう止めるか?非薬物療法(身体刺激療法)としては反射弓の求心路を刺激して抑制するものが多い.

・ 舌の牽引
・ 外耳道圧迫(舌咽神経咽頭枝領域が何らかの変形・刺激をうけるらしい)
・ スプーンによる口蓋垂(のどちんこ)の圧迫
・ 綿棒による咽頭刺激
・ 水でのうがい
・ 氷水を飲む
・ 砂糖を飲む
・ レモンを噛む
舌の牽引と外耳道圧迫の有効率が高いという報告がある(近藤ら.2005).
また横隔膜の圧迫刺激が良いという報告もある.具体的には「膝を抱えて胸部に引き寄せる運動」を行う.
実は昨日,うちの娘がたまたましゃっくりしていたので,舌の牽引,外耳道圧迫を順に試した.いずれも無効.その後,膝抱えを行ったところ,即座にぴたっと止まった.膝抱えはもしかしたらお勧めかも知れない(笑).

一方,病的な吃逆も知られている.器質性と心因性,特発性(原因不明)に分類される.
器質性・・・脳梗塞,脳腫瘍,多発性硬化症,延髄脊髄炎など
心因性・・・転換反応,ヒステリー,神経性食思不振症など

持続性吃逆の症状としては,疲労,栄養不良,脱水,体重減少,不眠などが生じ,基礎疾患によっては生命にかかわることもある.

薬物療法としては,
抗精神病薬・・・ハロペリドール,クロルプロマジン
抗けいれん薬・・・バルプロ酸,カルバマゼピン
その他・・・バクロフェンなど

さてしゃっくりが4週間止まらなくて,全米の注目を集めた少女がいた.インターネットで彼女のしゃっくりを治す方法を募集して話題になった.でも動画を見てみると会話中には出ていなかったり,少し心因性の要素も気にはなるような気がするがどうなのでしょう.ちなみに睡眠中も出ているようなら病的なものといわれている.

http://www.youtube.com/watch?v=T-d8rXfKQhE&feature=related



玉岡晃.しゃっくりの臨床.Brain Med 17; 133-140, 2005(非常に詳しくかつ分かりやすい総説)
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ALSにおける声門狭窄

2011年05月15日 | 運動ニューロン疾患
声門レベルでの狭窄は,嗄声や小声,声が長く続かない,喘鳴,呼吸困難といった症状を来しうる.神経疾患で声門狭窄を伴うものとして有名なのは多系統萎縮症であるが,ALSにおいても起こりうることが知られている.最新の論文ではないが,紹介したい.

Arch Neurol. 2009 Nov;66(11):1329-33.
Vocal cord dysfunction in amyotrophic lateral sclerosis: four cases and a review of the literature.
van der Graaff MM, et al.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19901163

この論文の中では声門レベルでの狭窄をきたした4例ALS症例を報告している.

1例目. 家族性ALS(FLAS)で,症状としては夜間の突然の呼吸困難(所見としては上位運動ニューロン徴候のみ)
2例目. 夜間の突然の呼吸困難・喘鳴(所見は下位のみ)
3例目. 突然の喉の狭窄感(所見は上位+下位)
4例目. 突然の喉の狭窄感(所見は上位+下位)
突然の息のつまり感じは「喉頭痙攣」により生じ,吸気性喘鳴は「声帯外転麻痺」により生じると報告している.剖検例はない.

可能性として2つの病態を推定している.
① 核性・核下性→後輪状披裂筋麻痺→麻痺性声門狭窄(声帯外転麻痺)
② 核上性→内転筋の活動亢進→非麻痺性声門狭窄(喉頭痙攣)

治療としては,中等~重症では気管切開を推奨しているが,軽症~中等症において多系統萎縮症のように非侵襲的陽圧換気療法(CPAP)で改善するのかまったく不明.

頻度の高い病態ではないものと思われるが,著者らはALSにおける突然死に関与している可能性も指摘していため,ALSにおいてもこのようなことが生じうることを認識しておいたほうが良いものと思われる.

Arch Neurol 66:1329-1233, 2009

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五月病

2011年05月12日 | 医学と医療
「五月病は,脳や自律神経が春からの新しい生活で疲れてしまった結果,生じるものなのですか?」という質問を新潟のテレビ局のディレクターさんからいただいた.「五月病」は本来,神経内科が専門の疾患ではないのだが,よい機会なので勉強をしてみた.

「五月病」は「やる気が出ない」「疲れやすい」「抑うつ気分」「考えがまとまらない」「不安」「焦り」「食欲がない」「不眠」といった症状を呈するといわれている.

ご存知かもしれないが,「五月病」は正式な医学用語ではない.決まった定義も見つからない.元来,大学に入学した学生が5月のゴールデンウィーク明けごろ,わけもなく憂うつな気分に陥ることから「5月病」という言葉ができたらしい.新社会人でも同様の症状が見られる.新社会人の場合は,新人研修などが終わって実際の仕事をはじめた後の6月頃に見られることが多いため「六月病」と呼ばれる場合もあるそうだ.具体的な原因としては,

新しい環境や人間関係についていけない
想像していた新生活と現実のギャップについていけない
入試・入社といった目標を達成したあとの目標の喪失
張り詰めていた緊張の糸がGWの休暇で切れてしまう

などが考えられる.

医学的な診断名としては「適応障害」が最も近いといわれているようだ.「適応障害」とは,新しい環境や生活に馴染めず,「何とか適応しなくては」と焦りと頑張りが空回りして,一時的に強いストレス状態にさらされ,それに適応できなかった場合,心や身体の症状が現れることをいう.通常は2~3ヶ月でストレスに対しても慣れが生じ,徐々に改善する.もし何ヶ月たっても改善しない場合にはうつ病などの他の病気の可能性もあるので病院(心療内科や精神科)への受診をしたほうが良い.

しかし,「適応障害」は進学や就職のような場合だけに生じるわけではない.2011年5月3日の読売新聞に「震災五月病ご用心」という記事が掲載されたが,今年は東日本大震災も大きな影響を与えている.
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=40360
 つまり被災された方は,まさに人間関係や環境が大きく変わり,大きなストレスに遭遇し,そのストレスにどのように適応していくかは極めて重要である.一方,直接の被災はない人も,津波のニュース映像や余震,計画停電,そして「自分は被災者の方々に何もしてあげられていない」などの気持ちが大きなストレスになっている可能性がある.

いかにストレスから乗り切るべきか?ストレスをためないよう心がけるのが良いと書かいてある本もあるが無理な話である.私は海外で研究生活を行なった際に,最初の1~2ヶ月が五月病に近い状態だった.その時の経験を参考にして対策を考えると, 以下のような感じになる.

1人で悩みを貯めこまない.人と話をする.家族や以前の環境の友人と話したり,会ったりするのも良い
現在の症状はストレスに適応する過程で誰にも起こること,時間がたてば慣れてくることを認識する(あともう少し時間が立てば乗りきれる,いつまでも続くものではないと考える)
気分転換を心がける
規則正しい生活をし,食生活や睡眠に気をつける(食事やアルコールに頼りすぎると,摂食障害やアルコール依存など,別の問題を引き起こしうるためお勧めしない)

最後に,はじめに書いた「脳や自律神経の疲れが原因か?」の答えだが,「脳も自律神経も疲れない」といわれてる.脳は1日中,起きている時も寝ている時も活動している.仕事を続けていると疲れてしまうのは脳ではなく,むしろ目とか肩,首筋,腰などである.脳の疲れについては「海馬―脳は疲れない (新潮文庫)」という面白い本があるのでご一読をお勧めしたい.

TeNY新潟一番(5月13日放送)
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脳動脈瘤破裂の8つの誘因

2011年05月10日 | 脳血管障害
脳動脈瘤の破裂(すなわちクモ膜下出血)の誘因に関するオランダからの報告.誘因を知り予防に活かすことが目的である.
対象は,過去3年間250例の脳動脈瘤破裂症例で,質問票を作成し考えられる30項目の誘因の関与の有無についての症例対照検討を行った.

結果として,8つの因子の暴露にてクモ膜下出血のrelative riskが増加した.

・驚き (RR, 23.3; 95% CI, 4.2–128)
・性行為 (RR, 11.2; 95% CI, 5.3–24)
・排便緊張 (RR, 7.3; 95% CI, 2.9–19)
・怒り (RR, 6.3; 95% CI, 4.6–25)
・コーラ摂取 (RR, 3.4; 95% CI,1.5–7.9)
・鼻をかむこと (RR, 2.4; 95% CI, 1.3–4.5)
・激しい肉体運動 (RR, 2.4; 95% CI, 1.2–4.2)
・コーヒー摂取 (RR, 1.7; 95% CI, 1.2–2.4)

いずれも急激な血圧の上昇をきたしうるもので理屈にあっている.このなかで予防可能そうなものもあるので,生活指導に用いることができるだろう.

Stroke. 2011
Published online before print May 5, 2011, doi: 10.1161/STROKEAHA.110.606558
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独立した臨床サブタイプとしての “PSP with cerebellar ataxia”(小脳失調を呈する進行性核上性麻痺)

2011年05月07日 | その他の変性疾患
最新号のActa Neuropathologicaに,神経病理学の巨人Kurt Jellinger先生を称える論説が掲載された.パーキンソン病やアルツハイマー病の病理学的・生化学的研究に大きな貢献を果たし,そして長年に渡り同誌のeditorを努められた先生である.80才の誕生日を迎えた今もなお現役で研究を継続されておられる.そして今でも最もreviewが早いrefereeとしても知られている(論文を受け取って24時間以内には返す).

さて,話が代わって標題の進行性核上性麻痺(PSP)について.PSPの臨床概念は近年,大きな変貌を遂げた.このきっかけとなったのは,2005年にBrain誌に発表されたWilliamsらによる英国での臨床病理研究である.この研究は,①病初期に核上性垂直性眼球運動麻痺,転倒,姿勢反射障害,認知障害を呈する古典的なRichardson症候群(RS)は約半数のみであること,②非対称性発症,振戦,L-DOPA反応性良好を呈し,病初期にはパーキンソン病と鑑別が困難なPSP-parkinsonism(PSP-P)が約1/3存在することを示した.その後,いずれにも属さない,失行などの大脳皮質症状を主徴とする症例も報告された.

2009年,私どもは,同様の方法で,病理学的に診断が確定したPSP症例の臨床像を検討し報告した.
Cerebellar involvement in progressive supranuclear palsy: A clinicopathological study.
Kanazawa M, Shimohata T, Toyoshima Y, Tada M, Kakita A, Morita T, Ozawa T, Takahashi H, Nishizawa M.
Mov Disord. 24:1312-1218, 2009
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19412943

対象は,病理学的にPSPと診断した22例.RS が10例,PSP-Pが8例と分類できた.のこりの4例のうち3例は,初発症状や主要症状が失調症状で,1例は大脳皮質症状を主徴とした.失調症状を呈した3例は,失調症状を呈さなかったほかのPSP症例と比較して,小脳歯状核の高度のグリオーシスを伴う神経脱落とcoiled body(PSPで認めるミクログリアのタウ病理)が特徴的で,かつプルキンエ細胞内にはタウ陽性構造物を認めた.この結果から,日本人でもPSP-Pが存在すること,そして小脳失調症状を呈するPSPが存在することを初めて指摘した.

本論文はインパクトのある内容と思うが,いくつかの学術誌に認めてもらえなかったり,国際学会の場でも「本当ですか?」という反応が少なくなかった.欧米では小脳失調を主徴とするPSPが存在しないため,懐疑的に捉えた人が少なからずいたということなのだろう.実際,この論文に対する反応は海外ではほとんどなかったのだが,Kurt Jellinger先生がMov Disord. 誌のLetterという形で自験例の検討を以下のように報告してくださった.

“PSP with cerebellar ataxia”はPSPのひとつの臨床サブタイプといえよう.自験30例(オーストリア)の検討を行った.RSは18例,PSP-Pは12例で,1例も小脳失調を初発ないし主要症状とした症例は存在しなかった.しかし2例(6.7%)が,進行期に小脳失調を呈した.病理学的検討では,RSのうちの2例でのみ,プルキンエ細胞内のタウ陽性構造物を認めた.その2名は進行期における小脳失調を呈した症例だった!結論として,“PSP with cerebellar ataxia”という病型は,人種ないし遺伝学的素因を背景の相違が反映されるのかもしれない,と結んでいる.Jellinger先生からのLetterはとても光栄で,研究を行う励みにもなった.

結論だが,小脳失調で発症したものの,経過中,核上性垂直性眼球運動麻痺,姿勢反射障害,認知障害など多彩な神経所見を合併した場合は,PSPである可能性も検討する必要がある.多系統萎縮症などと診断された症例の中に非典型例として含まれている可能性がある.

Mov Disord. 25:1104-1105, 2010
Acta Neuropathologica 121:565-568, 2011

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100年間の片頭痛研究10大ニュース

2011年05月03日 | 頭痛や痛み
Headache誌の総説に,20世紀を代表する片頭痛研究が紹介されている.

1918;エルゴタミンの単離と臨床への導入

1938;片頭痛における脳内血管拡張とエルゴタミンの血管収縮作用の確認

1941;頭部における疼痛感受性構造物の同定

1941;Lashleyによる視覚性前兆の研究

1944;Leão による 皮質拡延性抑制説(cortical spreading depression;CSD)

1959;セロトニンの関与とメチセルギド(セロトニン受容体拮抗薬;日本では使用されない)の臨床応用

1981;前兆を伴う片頭痛におけるspreading oligemia(片頭痛発作期に後頭葉より2~3㎜/分の速さで,前方に血流低下領域が広がること)の発見

1982;ラットにおける皮質拡延性抑制後のoligemiaの証明

1987;神経原性炎症仮説の提唱

1988;国際頭痛分類第1版発表

1988;スマトリプタンの発見

1990;片頭痛におけるカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide;CGRP)の関与

1995;PET研究と脳幹における"migraine generator"の提唱と

1996;分子遺伝学的研究によるチャネロパチーとして片頭痛

1996;中枢性感作とアロディニア

片頭痛の病態については歴史的にさまざまな仮説があるが,脳外科的手法,脳波,脳血流測定,PET,分子遺伝学など様々な研究手法の発展・開発に伴い,それら病態仮説もより核心に近づきつつあることが分かる.論文には極めて歴史的にも重要,かつ有名なFigureが並んでおり,それらを眺めているだけでもいてとても楽しい論文だ.

Headache 51; 752-778, 2011

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脳深部刺激療法(DBS)を受けた患者に関するアンケート調査報告書

2011年05月01日 | パーキンソン病
全国パーキンソン病友の会(http://www.jpda-net.org/index.php)から標題の調査報告書をお送りいただいた.資料によるとDBSは,2010年までに施術数は7000件に及び,手術可能な施設数も32ヶ所とのことで,2000年の保険適応後飛躍的に増加している.現時点において,手術を受けた患者さん側から見た手術に対する問題点と満足度を明らかにすることは意義のあることである.本資料は,実際にDBSを受けた患者さんが術後どのように考えているかを知るとても貴重な資料といえる.

方法;アンケートにより行われ,有効回答数は232通.
(友の会会員を対象とし,かつ7000件と比較すると例数も少ないため,バイアスの存在は考慮する必要がある)

対象;重症度はYahr分類で3度以上が85%超.平均年齢66歳,ピークは66~70歳と予想以上に高い年齢であった.手術までの期間は発症10年以上が50%以上.

手術;視床下核が82%.手術を決意した要因で最多は「医師の勧め」(56%)であった.

効果;「振戦」は比較的長期にわたり改善される.「筋強剛,無動,すくみ,日内変動,不随意運動」については,5年以内はかなり改善が維持される.「易転倒,流涎,小声,書字困難,物忘れ」は効果乏しく,術後も進行する傾向が見られる.

術後の経過観察;神経内科医60%,脳外科医40%で,予想外に脳外科医が継続して診療をしている.患者会は,DBSを施行する病院を集約し,熟練した脳外科医による手術と,術後の神経内科医とのより良い協力関係を期待している.

満足度;とても満足16%,だいたい満足46%,やや不満29%,不満9%.
不満足の中身は「歩行は良くなったが物忘れが出てきた」など,症状は改善したものの他の症状が出現した,などが多い.

個人的には,①DBSを受けるかの決断には医師の影響が大きいことから,神経内科医はDBSの適応についてより熟知する必要があること,②高い満足度を得るためには,改善しうる症状としにくい症状をよく理解していただく必要があること,③術後管理法について神経内科医も理解し,より積極的に関与すべきであること,を感じた.
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