Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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抗パーキンソン病薬(ドパミン・アゴニスト)と心臓弁膜症

2006年11月18日 | パーキンソン病
ドパミンアゴニストは大別すると,構造の違いから麦角アルカロイド性アゴニストと非麦角のアゴニストに分類できる.

麦角系;カバサール,ペルマックス,ブロモクリプチン
非麦角系;ドミン,ビ・シフロール,レキップ

麦角系のカバサールとペルマックスの利点は何と言っても半減期が長いことで(カバサールでは43~72時間),とくにカバサールの1日1回内服は,内服する薬の種類や数が多いパーキンソン病(PD)患者さんにとってはありがたい.しかしドパミンアゴニストには以下のような厄介な副作用があり注意を要する.

妄想・せん妄
突発的睡眠
病的賭博・性欲過剰・衝動的買い物
胸膜,心膜,後腹膜線維化・心臓弁膜症

とくに心臓弁膜症は2002年にブロモクリプチンにおいて初めて報告されたが,その後も麦角系アゴニストのペルマックス,とくに高容量使用者において心臓弁膜症が報告された.しかし,いずれの報告も比較的少数例での検討であった.

今回,本邦のPD患者を対象にして,ドパミンアゴニストの使用と心臓弁膜症の発生頻度の関連を調べた研究結果が報告された.対象は香川県立中央病院に入院した210例のPD患者(2004年9月~2005年9月.retrospective study)で,以下の5群に分類し,心電図と経胸壁心エコーを施行した.

①カバサール治療群(16名)
②ペルマックス治療群(66名)
③ビ・シフロール治療群(16名)
④過去に麦角系で治療を受けた群(27名)
⑤非治療群(85名;L-DOPAを含め治療されていない群)

研究デザインは非治療群を対象としたcase-control studyで,多重ロジスティックモデルを用いて,年齢,性別,罹病期間といった因子に関しても相対危険度の計算を行っている.

結果だが,非治療群に比べ,カバサール治療群の心臓弁膜症発生頻度は有意に高かった(17.6% vs 68.8%).ペルマックス群とビ・シフロール群では発生頻度に差はなかった(28.8% vs 25%).交絡因子の調整を行ったオッズ比の検討では,カバサール治療群では,ペルマックスやビ・シフロール治療群と比較して有意に高かった.

カバサール12.96(95%CI 3.59-46.85) 一日の平均投与量3.8mg
ペルマックス2.18(95%CI 0.90-5.30) 1.4mg
ビ・シフロール1.62(95%CI 0.45-5.87)1.7mg
(ちなみに年齢は1.04,罹病期間は1.01,性差は1.88であった.)

さらにカバサール治療患者において,心臓弁膜症の有無で2群に分けて比較してみると,弁膜症患者ではカバサールの累積投与量が有意に高く,かつ治療期間も有意に長かった.カバサールによる弁膜症(閉鎖不全)は,A弁,M弁,T弁いずれにおいても認められ,とくに弁による特異性はなかった.

以上より,カバサールの累積投与量と長期にわたる治療は,心臓弁膜症の危険因子であることが明らかとなった.この研究ではカバサールによる心臓弁膜症の症状や予後については検討されていないものの,臨床的にきわめて重要な指摘である.いずれにしても現在,麦角系アゴニストを使用中の患者さんにおいて,無症状であっても心エコーの確認,使用量の見直し,弁膜症合併患者における非麦角系への切り替えは必要になるだろう.

ちなみに麦角系アゴニストによる弁膜症の機序については十分に分かっていないが, 5-HT2B受容体に作用して,培養heart valve cellの線維化を引き起こし,その作用はカバサールでとくに強いという報告がある.

Neurology 67:1225-1229, 2006 
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ギラン・バレー症候群の「予想外」の予後因子

2006年11月05日 | 末梢神経疾患

 ギラン・バレー症候群(GBS)は免疫グロブリン大量静注療法が導入されて以来,その予後は大幅に改善したが,それでも11%の症例では死に至り,16%の症例では長期の後遺症が残存するという報告がある.予後不良因子としては,高齢発症,最も症状が悪い状態になるまでの期間が長いこと,人工呼吸器の使用,先行する下痢症状,電気生理学的に軸索変性を示唆する所見,といったものが挙げられる.

 今回,東北大学から,新しいGBSの予後因子が報告がされた.彼らが着目したのは何と髄液タウ蛋白である.タウ蛋白は神経細胞に局在する細胞骨格蛋白で,神経細胞が障害を受けると,細胞質から髄液に放出されるが,予想外なことに末梢神経にも存在するそうである.つまりGBSの予後不良群では髄液タウ蛋白が上昇するのではないかという仮説を検証したわけである.

 対象は26名のGBS患者で,発症6ヵ月後に予後判定を行い,Hughes分類の0ないしI を予後良好群,II~IVを不良群に分類した.この結果,予後良好群は20名,不良群は6名になった.結果として,下痢症状や電気生理検査の軸索障害パターンは予後不良群で多いものの有意差はなかったが,人工呼吸器管理と髄液タウ蛋白上昇は予後不良群で有意に認められた(髄液タウ蛋白;159.6±67.4 ng/mL vs 341.445±44.5 ng/mL;p<0.0005).順序ロジスティック回帰解析の単変量モデルでは,GBSにおける予後不良は人工呼吸器(p<0.05),軸索変性パターン(p<0.05),髄液タウ蛋白上昇(p<0.01)であり,多変量モデルでは髄液タウ蛋白上昇(p<0.01)のみであった.また髄液タウ蛋白が上昇していた6例中5例で,抗GalNAc-GD1aないしGM1抗体が陽性であった.

 以上の結果より,まだ少数例での検討ながら,髄液タウ蛋白は軸索変性を伴うGBSでは上昇し,GBSの良い予後予測因子となる可能性が考えられた.もしこの結果が本当であれば,ほかの軸索変性型の末梢神経障害でも髄液タウ蛋白が上昇しても不思議はなく,アルツハイマー病やタウオパチーで髄液タウ蛋白濃度を測定する際には,高度の末梢神経障害が存在する症例の場合は結果の解釈は少し慎重に行うことが必要になってくるかもしれない(あまり頻度の高いことではないと思うが・・・).

Neurology 67; 1470-1472,2006


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