Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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神経Sweet病の診断基準

2005年05月27日 | その他
 Sweet病(Acute febrile neutrophilic dermatosis)は,全身倦怠感,発熱,好中球増加,有痛性浮腫性紅斑を呈する皮膚疾患として知られている.皮膚生検にて血管炎を伴わない真皮(表皮は除く)への好中球の浸潤を認めることにより診断が可能である.検査所見として血沈亢進,末梢好中球増加,CRP 増加がみられる.Sweet病では皮膚以外の臓器症状(眼,肺,肝,腎,消化器,骨髄,筋)を呈することがあり,神経症状を呈した症例報告も散見される(神経 Sweet病; NSD).第一にベーチェット病と異同が問題になるが,①HLA-B51 ではなく B54 との関連が指摘され,②皮膚生検にて血管炎を伴わない好中球の浸潤を認めることより,神経ベーチェット病とは異なる独立した疾患である可能性が指摘されていた.
 今回,国療宮城病院等のグループにより神経 Sweet病に関する全国調査の結果が報告されている.自験例16例に加え文献例26例,計42例について解析し,最後に診断基準を提唱している.結果としては,うち13例がベーチェット病の診断基準(Lancet 1990)を満たしていた.のちに提示する診断基準でprobable NSDと診断した27例の特徴は,①男女差なし(ベーチェット病は男性に多い),②発症年齢30~70歳に好発(ベーチェット病は20~30歳代に多い),③神経症状としてはステロイド反応性の再発性脳炎・髄膜炎が多い,④病変部位(CT低信号,MRI-T2高信号)は様々な部位に出現し(大脳皮質・皮質下,基底核,海馬,視床,小脳,脳幹,脊髄,髄膜肥厚),結果として症状も様々,症状の消失と同期して信号異常も消退することが多い,⑤ヒト白血球抗原Cw1 がほぼ全例(15/16例)で陽性(日本人正常対照は 28%),⑥ステロイド全身投与が著効することが多く後遺症は生じにくいが(ベーチェット病は後遺症多い),予後不良例もみられる,⑦眼科所見としては上強膜炎や結膜炎が多い(ベーチェット病はブドウ膜炎)である.他に鑑別すべき疾患としてヘルペス性辺縁系脳炎や橋本脳症が挙げられている.一般に神経症状が皮膚症状に先行する場合があり診断に苦慮する.再発を示した症例は約4割である.再発予防の方法は確立されていない.
 いずれにしてもベーチェット病ではステロイド投与により症状が増悪する例もみられるが,Sweet 病はステロイドに対する反応性がよく,神経症状,皮膚症状とも予後が良好であり,治療法を選択する際に鑑別が重要になってくる.以下,診断基準を示す.

【神経 Sweet病の診断基準】
(1)神経所見;ステロイドが著効する,しばしば発熱(38度以上)を伴う再発性の脳炎・髄膜炎を認める
(2)皮膚所見
a)顔面・頸部・上肢・体幹上半部に好発する有痛性浮腫性紅斑・結節
b)真皮への好中球優位の細胞浸潤(血管炎を伴わず,表皮には浸潤しない)
(3)その他の所見
a)ベーチェット病にみられる血管炎・血栓を伴う皮膚症状は呈さない
b)ベーチェット病にみられる典型的ぶどう膜炎は呈さない
(4)検査所見 HLA-Cw1 または B54 を示し、B51 は示さない 
Probable NSD:(1)(2)(3)全項目 
Possible NSD:なんらかの神経症状、および(2)(4)のいずれか、(3)1項目以上 ただし、神経症状を説明できる他の神経疾患(ベーチェット病を除く)がないこと

Neurology 64; 1756-1761, 2005 

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ヘロインによる白質脳症

2005年05月26日 | 白質脳症
 ヘロインは乱用薬物の頂点に位置するアヘン類に属する物質で,アメリカでは濫用者に最も好まれているそうだ.ヘロインは化学的加工によりモルヒネから製造され(つまりモルヒネの誘導体),その効力はモルヒネの3倍といわれ,中毒性・依存性も非常に高い.
今回,ヘロインによる白質脳症のMRIが報告されている.49歳男性で約1週間の経過で昏迷が増強.この患者は“Chasing the Dragon”と呼ばれる方法(アルミ箔で包んだ粉末状のヘロインを火であぶり,昇ってきた煙を吸引する方法)でヘロインを吸入している.この患者は小脳失調,記銘力障害,無為,錐体路症状などを呈した.MRIでは大脳および橋の白質にT2, FLAIRでびまん性の高信号を認めた.髄液ではMBPは上昇していたが,OCBは陰性であった.HASL; Heroin-associated spongiform leukoencephalopathyと診断された.
HASLはヘロイン吸引を繰り返し行うと生じるといわれ,病理学的にはミエリン内における空胞形成を伴う海綿状変性を呈することが知られている.MRIでは大脳,小脳,脳幹にT2, FLAIRでびまん性の高信号を認めることが報告されている.こんな病気を鑑別診断に挙げないですむような世の中になることを心の底から願いたい.

Neurology 64; 1755, 2005 

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遺伝性脊髄小脳変性症26型(SCA26)

2005年05月21日 | 脊髄小脳変性症
もはや follow up しきれなくなったレアな遺伝性脊髄小脳変性症の報告.今回,ノルウェー人に祖先を持ち6世代にわたり緩徐進行性の純粋小脳失調を呈した1家系に関する連鎖解析の報告.発症年齢は26~60歳.MRIは小脳の萎縮のみで脳幹は保たれる.全ゲノムスキャンによる連鎖解析が行われ,染色体19p13.3における15.55cMの領域(D19S886とD19S894の間)をSCA26 locusと命名した.この遺伝子座はCayman ataxia(MIM601238. Cayman Islandで認められた常染色体劣性のSCD.精神運動発達遅延と小脳失調を呈する.原因遺伝子産物Caytaxin)とSCA6の遺伝子座位の近傍である.この領域には3.3 MbのDNAとおよそ100の遺伝子が存在している.候補遺伝子アプローチを4つの遺伝子に対して行ったが,coding領域に変異なし.
 最近のレアな遺伝性脊髄小脳変性症に関しては2004年11月25日にSCA23について記載したが,そのほかSCA24は常染色体劣性(!)で,小脳失調,錐体路症状,ミオクローヌス,眼球運動障害,pes cavusを呈する家系(Ann. N.Y. Acad. Sci. 956: 441-444, 2002.).SCA25は常染色体優性のフランス人1家系で,小脳失調をほとんど呈さない感覚性ニューロパチータイプから,小脳失調も合併するフリードライヒ型まで家族内の症状は様々.染色体2番短腕に連鎖し,剖検組織の1C2抗体(抗ポリグルタミン抗体)ではよくに陽性に染色される構造物は認めていない(Ann Neurol 55: 97-104, 2004).いずれにしても1家系のみの報告なので,今後の候補領域の絞込みは大変そうである.

Ann Neurol 57: 349-354, 2005

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家族性脊髄小脳変性症14型(SCA14)の遺伝子解析

2005年05月19日 | 脊髄小脳変性症
SCA14は常染色体優性遺伝形式を示す遺伝性脊髄小脳変性症のひとつで,本邦からは北大から症例が報告されている.臨床的には,小脳失調,構音障害,眼球運動障害を主徴とするが,知能低下,てんかん,視力障害,末梢神経障害,パーキンソニズムは伴わない.生命予後は良好.特徴として発症年齢の多様性が指摘され,5~60歳に及ぶ(平均33.8歳).原因遺伝子はprotein kinase C gamma(PRKCG)遺伝子である.遺伝性脊髄小脳変性の多くはCAG リピート病であるが,本疾患はひとつの遺伝子のミスセンス変異にて生じることが判明し,小脳変性の機序の解明に有効な手がかりになるのではないかと期待されている.
 さて今回,ワシントン大やミネソタ大,北大などの多施設により,SCA14の頻度,遺伝子変異の種類,さらに表現型との関連について検討した研究が報告された.まず遺伝子解析の結果,既報と合わせ9家系8つの遺伝子変異を明らかにした.今回,新たに分かったことは,①エクソン4及び5がミスセンス変異のホットスポットであること(ただしこれ以外でも生じうる;18エクソン中5エクソンで変異が発見された),②ミスセンス変異以外にも,6塩基欠失とsplice donor siteに影響を及ぼす変異でも発症すること,③60歳になっても未発症のキャリアが存在していて,浸透率が高い疾患ではない可能性があること,である(以上を考え合わせると,遺伝子診断はなかなか容易でないことが分かる).また遺伝子変異と表現型の関係についてはQ127Rが若年発症,かつaxial myoclonusを呈する(北大),とか,F643L変異のフランスの家系がうつとミオクローヌスを呈するといったことが示され,若年発症例は錐体外路症状を呈する可能性が指摘されている.
 問題はなぜPKCgammaで小脳変性が起きるかだ.PKCgammaにはC末のキナーゼとしての活性領域と,N末の制御領域があるが,アミノ酸変異はC末に存在している.また1995年にはPKCgammaのKOマウスも報告されているが神経症状を呈していないことから,おそらくPKCgammaの変異によりtoxic gain of functionが生じたものと思われる.今後はPKCgammaによるリン酸化の標的(とくにプルキンエ細胞に存在するもの)は何か?変異によってリン酸化能が変わるのか,もしそうならリン酸化によってどのシグナル伝達経路に変化が生じるのかが検討されていくことになるのだろう.

Neurology 64; 1258-1260, 2005

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Becker型・Duchenne型筋ジストロフィーの遺伝子診断がネガティブであったとき検討すべき疾患

2005年05月16日 | 筋疾患
 臨床的にBecker型筋ジストロフィーないしDuchenne型筋ジストロフィー(BMD/DMD;dystrophinopathy)を疑い,遺伝子診断を依頼したのに関わらず,dystrophin遺伝子における異常(deletion/duplication)がなかったという報告を受けた経験はないであろうか?もちろんdystrophin遺伝子はきわめて巨大な遺伝子であり,すべての点変異の有無を確認できるわけではないので(点変異を有するケースは全体の30%前後と考えられている),臨床所見に加え,筋生検におけるdystrophin染色の結果をもとに最終的な診断をするのが普通であろう.
一方,近年,肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の遺伝子解析が進み,少なくとも15の原因遺伝子の存在が示唆されている.このなかでFKRP遺伝子(fukutin-related protein gene)はLGMD2Iと先天性筋ジストロフィーの原因遺伝子として知られているが,じつはこのLGMD2Iとdystrophinopathyは似た所見を呈しうる.ともに近位筋の萎縮・筋力低下,ふくらはぎと舌の仮性肥大,心筋症の合併,CKの上昇を呈する.LGMD2Iの多くの症例は軽症のBMDと似た経過をとり成人まで歩行可能であるが,なかには重症でDMDと同様,10代で歩行不能,呼吸器装着という経過をとることもある.遺伝形式はBMD/DMDは伴性劣性,LGMD2Iは常染色体劣性なので,症例が弧発例で男児であった場合,遺伝形式からの区別がつかない.
 今回,デンマークよりBMD/DMDと臨床診断された患者におけるLGMD2Iの存在の有無に関する研究が報告された.遺伝子診断を行った40%の患者(102名)においてdystrophin遺伝子におけるdeletion/duplicationが認められなかった.これらの患者は弧発例で,当然すべて男性であった.これらの症例に対してLGMD2Iにおいて,これまでのすべての症例で存在が証明されている遺伝子変異であるL276I(c.826C>A)の有無を調べた(homoないしcompound heterozygoteとして認められ,後者のほうが重症となることが知られている).この結果,13例にL276I変異が認められた(9例はhomo,4例はcompound heterozygote).臨床的にはhomo例は1例を除き全例歩行可能,heteroは10-20歳代で歩行不能,ふくらはぎの仮性肥大はhomoでは8/9,heteroでは1/4に認められている.逆に舌の仮性肥大はhomoでは0/9,heteroでは3/4に認められている.問題の筋生検所見は検討可能な7例中正常4例,dystrophin染色性低下2名,irregularな染色パターン 1名であった.すなわちdystrophin染色は必ずしも信頼できる検査ではないということになる!
 いずれにしてもBMD/DMDの遺伝子診断がネガティブであったときは念のため,L276I変異の有無の確認は必要である.幸いなことにこれまでのLGMD2I症例は必ずひとつ以上のL276I変異を有しているので,シークエンスしてこの変異の有無だけを確認するだけでとりあえずよいものと思われる.もちろん現時点で診断によって本人に対する治療が大きく変わるわけではないが,本人,家族に対する遺伝相談を行う上で両者の鑑別は極めて大きな意味を持つということを認識しておく必要がある.

Neurology 84; 1635-1637, 2005
Comments (2)
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ハンチントン病に対する高用量クレアチン治療の結果

2005年05月13日 | 舞踏病
 体内にあるクレアチンのほとんど(95~98%)は骨格筋に貯えられており,残りの数パーセントが心臓,脳,精巣に貯えられている.生体内のクレアチンは約6割がクレアチンリン酸の形で存在し,ATP供給に関与している.このため,エネルギー代謝に異常のある疾患でクレアチン投与が有効ではないかと考えられ,ミトコンドリア脳筋症や糖原病などの代謝性疾患,筋ジストロフィー,筋萎縮性側索硬化症などでその効果が検討されている(ただし有効性が確立した疾患はないようである).ハンチントン病のモデルマウスR6/2でも発症前からの経口投与で生存期間の延長,運動機能障害の進行抑制,体重減少・脳萎縮の抑制が報告されている.すでに臨床試験も開始されていて,placebo-controlled pilot study(1日5gのクレアチン内服1年間の内服,患者数26名)で効果は見られなかったものの(Neurology 61; 925-930, 2003),1日10gのクレアチン内服(マウスに投与した用量に相当する)にて行った1-year open label pilot studyで,実際に脳内のクレアチン量が増加し,かつ内服1年後に運動機能,高次機能検査にてベースラインと比較し明らかな進行を認めなかったと報告された(Neurology 61; 141-142, 2003).
 今回,内服2年後の結果が短報として報告されている.当初13名の患者と4名の配偶者に対して始まったstudyだが,血清クレアチン値の上昇(1名)とコンプライアンスの問題で,8名の患者と1名の配偶者の評価に減少している.結果として10g使用にて臨床上問題となる副作用はなく,UHDRSによる評価でも運動機能,高次機能ともベースラインと比較し,若干の増悪傾向を認めるものの有意差を認めるほどではなかった.また患者間で効果にばらつきがあり,ある患者に対しては有効であった.結論としては症状の進行を抑制しているのかについては分からないという結果となった.
 クレアチンはサプリメントとして購入可能であるが(運動選手の筋力アップなどに使われるらしい),今のところopen label pilot studyでも効果がはっきりしないのであまり積極的にクレアチン治療を勧める気にはなれない.現在,8gクレアチンを用いたcontrolled double-blind studyが進行中であり,その結果を待ちたい.

Neurology 64; 1655-1656, 2005 

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核間性眼筋麻痺は多発性硬化症とは限らない

2005年05月12日 | その他
 内側縦束が侵された結果生じる内側縦束症候群(MLF症候群,核間性眼筋麻痺;INO)が両側性に認められた場合,多発性硬化症を疑え,と誰からともなく教えられた.もちろん脳梗塞でも同様の所見を認めるが,INOイコールMSという図式が何となく存在している(国家試験のせい?).でもどのぐらいの確率でそう断言できるのであろうか?
 今回,INOの原因についてのcase seriesが報告された.著者は南カルフォルニア大学の神経内科医1名(!)で,33年間にわたる自験例の総まとめのようだ(論文の主語がI(アイ)である論文を読むことは案外,珍しい).何と症例数は410名のINOを呈した患者.計算してみると,毎月1人のINO患者を診ていることになり,ちょっと多すぎる気がしないでもない.結果として,INOの原因の最多は脳梗塞で157名(38%),次がMSが139名(34%),そのほかの稀な原因は計114名(28%)であった.その内訳としては,外傷(20例),テントヘルニア(20例:硬膜外・頭蓋内出血に伴う),感染症(17例:AIDS,Cysticercosis,梅毒,髄膜炎,敗血症など),脳腫瘍(17例;medulloblastoma,橋グリオーマ,リンパ腫など),iatrogenic injury(12例:腫瘍や動脈瘤に対する手術時など),脳出血(13例),血管炎(7例:SLE),その他(8例)であった.また一側性のINOの割合は脳梗塞では87%,MSでは27%,脳梗塞・MS以外の原因では42%であった.病変が一側性か両側性かの頻度は原疾患によって異なり診断のヒントとなる.
 以上の結果は,INOの原因としてMSは1/3程度であること,MSや脳梗塞以外の原因は4分の1以上を占めることを示唆している.すなわち少なくともINOの鑑別はMS,脳梗塞,その他の3つのカテゴリーを念頭に置き行うことが重要であり,MS,脳梗塞以外の原因も少なからず存在することを認識する必要がある.

Arch Neurol 62; 714-717, 2005 

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多発性頚部動脈解離の原因

2005年05月11日 | 脳血管障害
頚部動脈解離の再発率は年1%との報告がある(NEJM 330; 393-397, 1994).しかし,頚部動脈解離の原因はおそらく単一のものではなく,heterogeneousな病態が含まれている可能性が高い.よって原因によっては,再発率がさらに高くなることもあるし,一生再発しないこともありうる.つまり,頚部動脈解離の背景因子を知ることは,予後を推定し,予防的投薬・生活指導などをする上で重要なはずであるが,現実的にはその背景因子を同定することは難しい(というか,通常,あまり積極的に検索してはいない?)
症例は両側の椎骨動脈解離の既往がある49歳男性.左内包の脳梗塞を認め,血管造影上,左内頚動脈に新しい解離を認めた.結合織病の症状はなかったが,皮膚生検(エラスチン染色)を行ったところ,光顕にて,通常では認められない弾性線維の著明な断片化が認められた.これまで多発性の動脈解離を認めた症例で電顕的に結合組織の異常を認めた症例の報告はあるが,結合織病としての臨床症状を伴わず光顕でも分かる結合織異常を認めた症例は珍しいらしい.問題はこの症例がきわめて珍しい症例と考えてよいのか,それとも頚動脈解離を来たす症例の中には同様の病態が少なからず隠れているかである.再発性・多発性の頚動脈解離を来たす症例については本人とよく相談した上で,皮膚生検を検討してみても良いのかもしれない.ただし,もし本例と同様の異常所見を見つた場合,どう予防すべきか悩むところではある.

Neurology 64; 1585, 2005

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アスピリンは手術の何日前から中止すべきか?

2005年05月09日 | 脳血管障害
 アスピリン内服している患者に対し,手術前何日前から服用を中止すべきか?いろいろ説があると思うが7日~9日間ぐらいを目安にしている医師が多いのではないだろうか?個人的にはどこかの教科書で見た7日前を目安に中止していた(血小板寿命が7日間であり,説得力があった;ただし血小板寿命も必ずしも7日というわけではないらしく,今回,調べてみると7日~10日と様々の記載があった).早くやめれば当然,出血性合併症のリスクは減るが,あまり早くに止めてしまうと,今度は血栓症のリスクが増すという心配もあり,悩むところである.
 今回,アイルランドよりアスピリンをいつ中止することが最適であるのかについての研究が報告された.方法はprospective studyで,ボランティア51名を対象とした.対象をランダム化した上で3群に分け,グループ1はプラセボ,グループ2ないし3はアスピリン75 mgないし300 mgを内服.いずれも内服期間は14日間.出血時間と血小板機能検査を内服前後に施行し,内服中止後,これらの指標が治療前値まで回復するまでの期間を調べた.結果として38名が検査を終了.出血時間は全例で96時間以内に正常化.また血小板機能は服用中止後144時間で正常化した.またアスピリン75 mgと300 mgの比較で,これらの期間に明らかな差を認めなかった.以上より,アスピリン服用中止6日目に手術を実施すればよい,という結果になった.
 少し話はそれるが,75 mgと300 mgの比較で差がなかったことは興味深い.血小板機能の抑制には75mg程度で十分であり,それ以上は不要というこれまでの認識をサポートするものである.一方,脳梗塞急性期の治療の際に使用されるアスピリンは300mgであり(NNT=100と強力な治療ではないが,その効果についてはエビデンスあり),単純に抗血小板作用により治療効果が生まれるわけではないということになるのであろう(おそらく抗炎症作用).
 今回の研究は,日本人における検討ではないものの,アスピリン服用中止6日目に手術を実施すれば十分という根拠ができたことになる.しかし実際には,手術の侵襲の程度,外科医・歯科医等と認識の共有,患者への説明など,いろいろな側面を考えた上で時期を決定すべきであろう.

J Am Coll Surg. 200:564-73, 2005 

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脳梗塞後,head upは急ぐべきか?

2005年05月08日 | 脳血管障害
脳梗塞直後の安静度,とくにhead positionの指示はどうしたらよいのであろうか?いわゆる「何度まで可」という角度のことである.「リハビリは急ぐべき」という漠然とした認識に基づき,head upを急ぎたい気持ちはないだろうか?ここで日本の5学会合同脳卒中治療ガイドラインをWEBで見てみると,1-6.病型別リハビリテーションの進め方(特に急性期)の部分にこう書かれている.
【推奨】 リハビリテーション(座位訓練)は、JCS 1桁で,(中略)ラクナ梗塞では診断が確定した日より,主幹動脈閉塞および脳出血では神経症候の増悪がないことを確認してから可及的早く開始することが勧められているが,十分な科学的根拠はない.
正直に言ってこれでは,主幹動脈閉塞ではいつから座位訓練を行ってよいのか分からないし,ラクナ梗塞であれば即,座位を取らせても大丈夫なのだろうか?ちなみにアメリカでは30度のhead upというものが一般的に行われているらしい.
さて冷静に考えてみると,頭部の位置は脳梗塞急性期において重要な意味を持つはずだ.一つは脳血流への影響である.当然,挙上すれば重力の関係で脳血流が減る可能性がある.これは発症早期であればpenumbra領域の神経細胞死を促進してしまう.また頭蓋内圧は頭部挙上により下がるであろう.しかし脳梗塞後,頭蓋内圧が上昇しピークを迎えるのは発症48時間以降と言われており,発症24時間以内で頭蓋内圧が問題になることは稀であろう.
今回,テキサス大学から脳梗塞発症後,頭部の位置が脳血流にどのような影響を与えるか,経頭蓋ドップラー検査(TCD)にて評価した研究が報告された.対象はanterior circulationの脳梗塞を示した症例(発症後24時間以内)で,TCDにてMCAの血流の残存が確認されたものとした(出血性脳梗塞は除外).頭部の位置を0度(水平),15度,30度にし,MCAの平均血流速度(MFV)を測定.結果,20名を評価し(NIHSS平均14点),全例で頭部の角度を下げるとMFVは増加し,30度と比べると平均20%の増加であった(30度から15度で12%増加,15度から0度で8%増加する).血圧や脈拍はこの間変化なし.3例では頭部の位置を変えたことにより,平均NIHSS 3点の運動機能の改善が認められた.以上より,少なくとも発症後24時間以内においては,頭部を挙上しないほうが脳血流にとってはよい可能性が考えられる.
非常に興味深い報告であるが,脳血流速度というsurrogate outcomeを用いた研究であることと,24時間以内のみの評価であるという点は少し問題であろう.静脈還流のことを考えれば,頭部が低いほど頭蓋内圧が上昇しうる可能性がある.つまり,いつまでhead upしない効果があるのか,また脳梗塞の病型や重症度に関わらず,画一的に頭部の位置を決めてよいのかなど疑問も残る.いずれにしても脳梗塞後の治療の際,どうすることが本当に良いことなのかひとつひとつ検証していくという姿勢が重要なのだろう.

Neurology 64; 1354-1357, 2005

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