Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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原発性側索硬化症と上位運動ニューロン徴候を主徴とするALSは初診時に鑑別可能か?

2009年06月08日 | 運動ニューロン疾患
 原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis;PLS)は,上位運動ニューロンのみが障害される非常にまれな神経変性疾患である.成人期に発症し,主に痙性対麻痺を呈するが,数十年にわたり非常に緩徐に進行し,予後が良好な点が特徴的である.一方,上位運動ニューロン徴候(UMN sign)を主徴とし,発症から長期間経過しながらも,一部の筋にのみ筋力低下・筋萎縮(下位運動ニューロン徴候;LMN sign)を呈する症例も存在する.最近,個人的にも病棟で後者の病型と思われる患者さんを経験した.このような症例はPLSではなく,上位運動ニューロン徴候を主徴とするALS(upper motor neuron dominant ALS; UMN-D ALS)と分類される.これまでの研究で,「PLS>UMN-D ALS>一般的なALS」の順に予後が良いことが判明している.よってこれらの病型の鑑別は,予後の推定や患者さんの発症後の生活設計などに重要な情報を与えるが,PLSとUMN-D ALSの鑑別は,発症早期において困難であることが予想される.しかし,もし両者において,初診時,ないし経過中の臨床像の違いがあるならば,鑑別も可能かもしれない.最近,Neurology誌に掲載されたフランスからの論文を紹介したい.

 対象は臨床的に診断されたPLS 9例,UMN-D ALS 15例,一般的なALS 10例である(計34例;1984-2007).PLSの診断は,まず遺伝性痙性対麻痺を遺伝子診断で除外し,他のUMN signを呈しうる疾患も除外する.その上で,発症後4年間において,UMN signのみを呈し,いかなる筋においても針筋電図での異常所見を認めない症例をPLSと定義している.一方,UMN-D ALSはUMN signを主徴とするが,同じく発症後の4年間においてLMN signないし針筋電図異常を1~2個の筋においてのみ認める症例と定義している.なぜ「発症4年か」というと,先行研究や自験データで,UMN-D ALSでは,発症後4年以内にLMN signを呈するようになるということが根拠らしい.

 結果としては,初診時においては,もっとも筋力低下が強かった筋のMRCによるMMTスコア(P<0.001),筋力低下の出現部位(P=0.041),受診までに要した期間(P=0.05)において有意差がみられた.具体的には,PLSはUMN-D ALSと比較し,筋力低下が目立たず(最低MMT 4.92 vs. 4.38),進行が遅く(受診までの期間57.7ヵ月 vs. 12.2ヵ月),かつ四肢での発症が多かった(89% vs. 67%).初診時の最低MMTスコアが4以下である場合,PLSの診断は否定的であった.
 以上の結果に基づいて考えれば,初診時にUMN signのみを呈する症例は以下のように考える.
① 遺伝性痙性対麻痺など,他のUMN signを呈する疾患を除外する.
② 初診時,一部の筋に筋力低下を認める,もしくは球麻痺発症の場合,UMN-D ALSとなる可能性が高い.
③ 経過中,体重減少,筋力やALSFRSの低下,肺活量低下がみられればUMN-D ALSとなる可能性が高い.
 
 すなわち,初診時にUMN signのみを呈する症例では,筋力低下とその部位,ALSFRS,体重,肺活量に注意して経過観察を行うことで病型を推定できる可能性がある.

Neurology 72;1948-1952, 2009 
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