今回のキーワードはトリアージ,胸部CT,PCRの再陽性化,無症状感染者,死亡の危険因子,医療者の精神衛生である.良いニュースは,診断用ELISA kitの目処がたったこと,多数の臨床試験が開始され,ワクチンもすでに第1相に入ったこと,悪いニュースとしては日本の患者発生予測数が,上海並みの厳しい対策を行ったとしても,15~45万人(!)に達すると報告されたことでである.大半が中国からの報告であり,日本は中国の経験や科学から真摯に学び,厳しい眼前の危機に立ち向かう必要がある.
◆ 中国CDCが72,314名の患者の臨床情報をJAMA誌に報告した.80歳以上の罹患は3%で,10歳未満および10歳代はともに1%とやはり子供の罹患は少ない.呼吸不全,ショック,多臓器不全を認める最重症例は5%,呼吸困難,低酸素血症(SpO2≦93%)等を認める重症例は14%,また無症状のキャリアは1%であった.死亡率は全体で2.3%,80歳以上で14.8%,70歳代で8.0%,最重症例では49.0%であった.医療従事者は全患者の3.8%で,うち重症・最重症は14.8%,5名が死亡.(JAMA. 2020 Feb 24)
◆中国人1014名の検討で,咽頭ぬぐい液RT-PCRより胸部CTが,より感度が高いことが報告された(それぞれ59%,88%).胸部CTに異常を認める割合はPCR陽性患者の97%,陰性患者の75%だった.ちなみにRT-PCR検査が陰転するのに平均6.9日を要している.(Radiology 2020 Feb 26:200642)
◆同じ号のRadiology誌にCOVID-19の胸部CT所見の要約が掲載された.①風邪様症状の初発から0~2日では胸部CTでは異常を認めない.②RT-PCRの感度は60~70%であり,上記の通り,陰性であっても胸部CT異常は出現しうる.③初期は局所ないし多発性のすりガラス様陰影(GGO)を,50~75%の症例で両側性に認める.④進行期はメロンの皮様所見(crazy paving),コンソリデーションを呈し,9~13日にピークに達して,1ヵ月以上かけて徐々に消退する.
◆華中科技大学病院からトリアージの方法が報告された.悪寒,咽頭痛,咳嗽で来院した患者にまずSpO2と血算,白血球分画,CRPを検査する.SpO2<93あるいは呼吸困難があれば,疑い例として隔離病棟に入院させ,キノロンまたはザイボックスの点滴と抗インフルエンザ薬(アルビドル)を投与しつつ,RT-PCRを行い,感染症指定病院への移送を検討する.37.3℃の発熱またはリンパ球<1100である場合,胸部CTでウィルス性肺炎の所見であれば上記と同じ対応をする.図1のように5つの対応に分けられる.外来での混乱を避けるために有用.またPCR検査の是非が盛んに議論されているが,ただ検査数が増えればよいというものではない.このように症例を選定した上で行えば当然その意義は高まり,陽性適中率も上昇する.(Lancet Respir Med. 2020 Feb 13)
◆NEJM誌は医学的緊急事態における医学雑誌のあり方をEditorialで表明.迅速査読の実施,許可を得た上でのWHOとの情報共有,さらにプレプリントサーバー(査読つき学術誌に投稿前の論文を,完成した時点で一足早く公開する際に使用されるサーバ)への積極的投稿の呼びかけを挙げている.査読されていないため注意深く読む必要があるが,有用な情報をいち早く入手できる.
◆そのプレプリントサーバーmed Rxivを覗くと,タイトルにJapanと書かれた論文にまず気がついた.残念ながら中国からの報告で,武漢のデータをもとに将来の患者発生件数を予測する数理モデルについての報告だった.中国各地域の患者件数に当てはめ,モデルの有用性を示した後,日本の今後の患者発生を予測している.初期の患者発症状況は武漢と似ており(図2),このまま有効な手段を講じないと深刻な大流行が生じると強い危惧を示している.上海並みの厳しい対策が2月22日から開始されれば15万人,遅れて29日からであれば45万人に達すると予測している(絶句!!).まさに日本が危機的状況にあることを政府が本気で正しく伝えなければ,小中高休校のような有効な対策も批判され,その意義が伝わらない.(medRxiv 2020.02.21.20026070)
◆予後としての死亡の危険因子についての検討も報告されている.以下,オッズ比とともに示すと60歳以上18.8,併存症では心疾患12.8,慢性呼吸器疾患7.7のリスクが高い.また男性のほうがリスクは高く1.9であった.(medRxiv 2020.02.24.20027268)
◆中国人の無症状感染者24名の検討.うち5名(20.8%)が経過観察の入院中に発症した.17名(70.8%)で胸部CT異常あり.症状も画像異常も認めなかった7名(29.2%)は平均14歳の若年者であった.感染者との濃厚接触のある場合,無症状であっても臨床像と胸部CTを追跡し,PCR検査を行うべきと強調し,クルーズ船での無症状感染者に対する厳重な経過観察の必要性を指摘している.また1度PCR陰性になった患者が再び陽性になった症例が6名記載されている.(medRxiv 2020.02.20.20025619)
◆ 日本でも話題になっているRT-PCR陰性化後の再陽性化についてはJAMA誌にもレターが報告された. 4名の医療者である患者(3名が軽症~中等症,1名が無症状)は,発症後12~32日後に症状が改善した.経過観察に加え,念入りにPCR検査を繰り返して行い,2回連続して陰性を確認したものの,全例でその次の検査で陽性となっている!この間,他の患者との接触はなかった.2回続けて検体処理の問題等による偽陰性は考えにくく,1部の患者ではウィルスキャリアとなる可能性が示唆される.RT-PCR陽性が即,感染性を持つかは不明であるが,感染した医療者の職場復帰時期については悩ましい問題となるだろう.(JAMA Feb 27)
◆診療にあたる中国人医療者の精神状態に関する2論文.一方は5393人が回答し,不安,うつ,不眠がそれぞれ5.9%,28%,34.3%.もう一方はストレス29.8%,うつ13.5%,不安24.1%.危険因子は精神疾患の既往,慢性疾患の既往,患者との接触,第一線での勤務,女性など.(medRxiv 2020.02.20.20025338; medRxiv 2020.02.23.20026872)
◆基礎研究・治療について.まずクライオ電顕を用いたCOVID-19のウィルスの構造解析が報告された(図3).すでに報告されているようにウィルスの受容体結合ドメイン(RBD)は,主に気道に存在するACE2に,SARSウィルスと比べても強い親和性を持って結合する.SARSウィルスに対する複数のモノクローナル抗体はCOVID-19のRBDには結合が乏しい.すなわち2つのウィルスのRBDへの抗体の交差反応性は乏しいことになる.(Science Feb 19)
◆中国のAbMax Bitechnology社等が,COVID-19ウィルス核タンパクの複数の合成ペプチドを用いてマウスおよびウサギを免疫し,モノクローナルおよびポリクローナル抗体を作成した.免疫ブロット,組織染色で疾患特異性を確認し,COVID-19の診断に使用できることを確認した(図4).現在,ポイントオブケア検査(POCT;臨床現場即時検査)としてのウィルス核タンパク濃度を定量するサンドイッチELISAキットの作成が急ピッチで進められている.完成すれば診察室での診断が可能になる.(medRxiv 2020.02.20.20025999)
◆一方,シンガポールDuke-NUS Medical Schoolの研究者はすでに患者血清中の抗体を測定し診断することに成功している.この検査により感染源の分からなかった2つのクラスターの特定に成功している(図5).このリンクは必見で,感染源追跡に並々ならぬ努力をしたことが窺われる.早々に感染源不明ケースが続出した日本とは対照的である.NUSとはシンガポール国立大学のことで,昨年のアジア大学ランキング一位である(東大は11位).残念ながら,長年に渡り医療・科学分野に投資した国とそうでない国の差が如実に現れたと思う.
◆臨床試験も進行している.ClinicalTrials.govを確認すると2月29日の時点で,検査や臨床的特徴の確認を含む56の研究が登録されている.中国で非常に多くの臨床試験が進行中で,かつ第3相に進んでいるものが少なからずあり非常に驚く(表1).また米国ではModerna社が驚くべきスピードで,ワクチンmRNA-1273の第1相をすでに開始,さらにクルーズ船からの帰国者を対象とした抗ウィルス薬Remdesivir(Gilead Sciences)の第2相試験が始まっている.
◆ 中国CDCが72,314名の患者の臨床情報をJAMA誌に報告した.80歳以上の罹患は3%で,10歳未満および10歳代はともに1%とやはり子供の罹患は少ない.呼吸不全,ショック,多臓器不全を認める最重症例は5%,呼吸困難,低酸素血症(SpO2≦93%)等を認める重症例は14%,また無症状のキャリアは1%であった.死亡率は全体で2.3%,80歳以上で14.8%,70歳代で8.0%,最重症例では49.0%であった.医療従事者は全患者の3.8%で,うち重症・最重症は14.8%,5名が死亡.(JAMA. 2020 Feb 24)
◆中国人1014名の検討で,咽頭ぬぐい液RT-PCRより胸部CTが,より感度が高いことが報告された(それぞれ59%,88%).胸部CTに異常を認める割合はPCR陽性患者の97%,陰性患者の75%だった.ちなみにRT-PCR検査が陰転するのに平均6.9日を要している.(Radiology 2020 Feb 26:200642)
◆同じ号のRadiology誌にCOVID-19の胸部CT所見の要約が掲載された.①風邪様症状の初発から0~2日では胸部CTでは異常を認めない.②RT-PCRの感度は60~70%であり,上記の通り,陰性であっても胸部CT異常は出現しうる.③初期は局所ないし多発性のすりガラス様陰影(GGO)を,50~75%の症例で両側性に認める.④進行期はメロンの皮様所見(crazy paving),コンソリデーションを呈し,9~13日にピークに達して,1ヵ月以上かけて徐々に消退する.
◆華中科技大学病院からトリアージの方法が報告された.悪寒,咽頭痛,咳嗽で来院した患者にまずSpO2と血算,白血球分画,CRPを検査する.SpO2<93あるいは呼吸困難があれば,疑い例として隔離病棟に入院させ,キノロンまたはザイボックスの点滴と抗インフルエンザ薬(アルビドル)を投与しつつ,RT-PCRを行い,感染症指定病院への移送を検討する.37.3℃の発熱またはリンパ球<1100である場合,胸部CTでウィルス性肺炎の所見であれば上記と同じ対応をする.図1のように5つの対応に分けられる.外来での混乱を避けるために有用.またPCR検査の是非が盛んに議論されているが,ただ検査数が増えればよいというものではない.このように症例を選定した上で行えば当然その意義は高まり,陽性適中率も上昇する.(Lancet Respir Med. 2020 Feb 13)
◆NEJM誌は医学的緊急事態における医学雑誌のあり方をEditorialで表明.迅速査読の実施,許可を得た上でのWHOとの情報共有,さらにプレプリントサーバー(査読つき学術誌に投稿前の論文を,完成した時点で一足早く公開する際に使用されるサーバ)への積極的投稿の呼びかけを挙げている.査読されていないため注意深く読む必要があるが,有用な情報をいち早く入手できる.
◆そのプレプリントサーバーmed Rxivを覗くと,タイトルにJapanと書かれた論文にまず気がついた.残念ながら中国からの報告で,武漢のデータをもとに将来の患者発生件数を予測する数理モデルについての報告だった.中国各地域の患者件数に当てはめ,モデルの有用性を示した後,日本の今後の患者発生を予測している.初期の患者発症状況は武漢と似ており(図2),このまま有効な手段を講じないと深刻な大流行が生じると強い危惧を示している.上海並みの厳しい対策が2月22日から開始されれば15万人,遅れて29日からであれば45万人に達すると予測している(絶句!!).まさに日本が危機的状況にあることを政府が本気で正しく伝えなければ,小中高休校のような有効な対策も批判され,その意義が伝わらない.(medRxiv 2020.02.21.20026070)
◆予後としての死亡の危険因子についての検討も報告されている.以下,オッズ比とともに示すと60歳以上18.8,併存症では心疾患12.8,慢性呼吸器疾患7.7のリスクが高い.また男性のほうがリスクは高く1.9であった.(medRxiv 2020.02.24.20027268)
◆中国人の無症状感染者24名の検討.うち5名(20.8%)が経過観察の入院中に発症した.17名(70.8%)で胸部CT異常あり.症状も画像異常も認めなかった7名(29.2%)は平均14歳の若年者であった.感染者との濃厚接触のある場合,無症状であっても臨床像と胸部CTを追跡し,PCR検査を行うべきと強調し,クルーズ船での無症状感染者に対する厳重な経過観察の必要性を指摘している.また1度PCR陰性になった患者が再び陽性になった症例が6名記載されている.(medRxiv 2020.02.20.20025619)
◆ 日本でも話題になっているRT-PCR陰性化後の再陽性化についてはJAMA誌にもレターが報告された. 4名の医療者である患者(3名が軽症~中等症,1名が無症状)は,発症後12~32日後に症状が改善した.経過観察に加え,念入りにPCR検査を繰り返して行い,2回連続して陰性を確認したものの,全例でその次の検査で陽性となっている!この間,他の患者との接触はなかった.2回続けて検体処理の問題等による偽陰性は考えにくく,1部の患者ではウィルスキャリアとなる可能性が示唆される.RT-PCR陽性が即,感染性を持つかは不明であるが,感染した医療者の職場復帰時期については悩ましい問題となるだろう.(JAMA Feb 27)
◆診療にあたる中国人医療者の精神状態に関する2論文.一方は5393人が回答し,不安,うつ,不眠がそれぞれ5.9%,28%,34.3%.もう一方はストレス29.8%,うつ13.5%,不安24.1%.危険因子は精神疾患の既往,慢性疾患の既往,患者との接触,第一線での勤務,女性など.(medRxiv 2020.02.20.20025338; medRxiv 2020.02.23.20026872)
◆基礎研究・治療について.まずクライオ電顕を用いたCOVID-19のウィルスの構造解析が報告された(図3).すでに報告されているようにウィルスの受容体結合ドメイン(RBD)は,主に気道に存在するACE2に,SARSウィルスと比べても強い親和性を持って結合する.SARSウィルスに対する複数のモノクローナル抗体はCOVID-19のRBDには結合が乏しい.すなわち2つのウィルスのRBDへの抗体の交差反応性は乏しいことになる.(Science Feb 19)
◆中国のAbMax Bitechnology社等が,COVID-19ウィルス核タンパクの複数の合成ペプチドを用いてマウスおよびウサギを免疫し,モノクローナルおよびポリクローナル抗体を作成した.免疫ブロット,組織染色で疾患特異性を確認し,COVID-19の診断に使用できることを確認した(図4).現在,ポイントオブケア検査(POCT;臨床現場即時検査)としてのウィルス核タンパク濃度を定量するサンドイッチELISAキットの作成が急ピッチで進められている.完成すれば診察室での診断が可能になる.(medRxiv 2020.02.20.20025999)
◆一方,シンガポールDuke-NUS Medical Schoolの研究者はすでに患者血清中の抗体を測定し診断することに成功している.この検査により感染源の分からなかった2つのクラスターの特定に成功している(図5).このリンクは必見で,感染源追跡に並々ならぬ努力をしたことが窺われる.早々に感染源不明ケースが続出した日本とは対照的である.NUSとはシンガポール国立大学のことで,昨年のアジア大学ランキング一位である(東大は11位).残念ながら,長年に渡り医療・科学分野に投資した国とそうでない国の差が如実に現れたと思う.
◆臨床試験も進行している.ClinicalTrials.govを確認すると2月29日の時点で,検査や臨床的特徴の確認を含む56の研究が登録されている.中国で非常に多くの臨床試験が進行中で,かつ第3相に進んでいるものが少なからずあり非常に驚く(表1).また米国ではModerna社が驚くべきスピードで,ワクチンmRNA-1273の第1相をすでに開始,さらにクルーズ船からの帰国者を対象とした抗ウィルス薬Remdesivir(Gilead Sciences)の第2相試験が始まっている.