Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症における心臓自律神経機能の評価法

2012年02月28日 | 脊髄小脳変性症
多系統萎縮症(MSA)における自律神経障害は,診断や重症度の判定に必要なだけでなく,発症早期からの出現は生命予後不良を示唆する(文献).自律神経障害の評価の指標としては,起立性低血圧の程度,尿失禁の有無・残尿量,血漿ノルエピネフリン値,CVRR(心電図R-R間隔変動係数)等がある.しかし,心臓自律神経機能を詳細に評価することは困難であった.

心臓機能は交感神経と副交感神経の相互作用を通して調節されている.心拍数も交感神経と副交感神経の双方から調節を受けていることから,心拍数の変動から自律神経系が心臓に及ぼす影響について研究されてきた.具体的にはホルター心電図における心拍数変動(Heart rate variability;HRV)を,周波数領域解析(frequency domain法)と時間領域解析(time domain法)を用いて研究するようになってから,多くの知見が得られるようになった.しかし,MSAにおけるHRVについては既報に乏しく,frequency domain法のみによる評価の報告で,かつ診断基準や症状のばらつきを反映してか,必ずしも一定の結果が得られていなかった.

新潟大学では2001年よりMSA患者に対する診療の向上と突然死予防をめざして,複数診療科(呼吸器内科,耳鼻咽喉科,摂食嚥下リハビリ,循環器内科,病理学,MRI画像評価)による共同研究「新潟MSA study」を行なってきた(下記参照※).そのプロジェクトのひとつに循環器内科医と共に進めてきたHRVの検討がある.目的はMSA患者における心臓自律神経機能の評価としてHRVパラメーターが有効であるかを明らかにすることである.調べた範囲ではMSA患者において周波数領域と時間領域の双方を解析した初めての報告である.

対象はGilman分類におけるprobable MSA患者連続17例(MSA-C 14名,MSA-P 3名)と対照27名.方法としては,HRVのtime domainおよびfrequency domainを患者・対照間で比較した.MSAにしばしば合併する睡眠呼吸障害(SDB)は交感神経活動の亢進を引き起こすため,ポリソムノグラフィー(PSG)も行い,SDBが及ぼす影響も検討した.

さて結果であるが,MSA患者の重症度はUMSARSスコアで44±18であった.罹病期間は12~96ヶ月とさまざまであった.ポリソムノグラフィーは16名で施行し,AHIは46±32/hourで,13名が睡眠呼吸障害(SDB;ここではAHI>10と定義)を呈していた.Holter心電図に関しては,持続性の心室性頻拍や徐脈は認めなかった.

さてHRVの結果であるが,time domainのパラメーターはMSA患者では対照と比較して顕著に低下していた.同様にfrequency domainのパラメーターも対照と比較して有意に低下していた.この結果はMSA患者では交感神経活動性および副交感神経活動性の双方が減少していることを示唆している.さらにHRVパラメーターと罹病期間,および疾患重症度(UMSARS)が逆相関していることも明らかになった.

一方,HRVパラメーターは他の自律神経機能障害の指標,つまり残尿量や起立性低血圧の低下とは相関をしなかった.つまりHRVパラメーターは排尿障害や起立性低血圧とは異なる独立した自律神経機能を見ている可能性がある.またHRVパラメーターはPSG所見の無呼吸・低呼吸指数(AHI)とは相関しなかった.前述のように睡眠時無呼吸症候群では交感神経活動が亢進することが知られているが,MSA患者では交感神経活動性,副交感神経活動性とも減少していたことから,睡眠呼吸障害より,疾患自体がHRVに大きな影響を及ぼしている可能性が考えられた.

以上より,MSAにおける心臓自律神経機能の特徴は,交感および副交感機能双方の低下と考えられた.排尿障害や起立性低血圧といった他の自律神経障害の程度に影響を受けないことから,HRVは独立した自律神経機能評価法となるものと考えられた.今後,MSA-CとMSA-Pの比較や,予後予測因子としての有効性について検討する必要がある.

Mov Disord. 2012 Jan 30. doi: 10.1002/mds.24929.


※新潟MSA studyで明らかになったこと
①上気道閉塞は,声帯のみでなく,さまざまな部位(舌根部,軟口蓋,披裂部,喉頭蓋)で生じること.病期の進行とともにAaDO2の開大を伴う低酸素血症が進行すること(Arch Neurol. 2007 Jun;64(6):856-61.).過去ブログ記事 

②覚醒時における披裂部の振戦様不随意運動は,声帯開大不全を予見する所見として重要であること(Mov Disord. 2010 Jul 30;25(10):1418-23.).

③口腔ケアの徹底や胃瘻の造設を行った場合,死因における突然死の割合は70%と高率であること,突然死は睡眠中に多く,気管切開やCPAPでは完全には防ぐことができず,上気道閉塞以外の機序による突然死もありうること(J Neurol. 2008 Oct;255(10):1483-5.).過去ブログ記事 

④突然死の原因として,中枢性呼吸障害に伴う低酸素血症が関与する可能性があること(Eur Neurol. 2006;56(4):258-60. ).(Neurology. 2008 Mar 18;70(12):980-1) 過去ブログ記事 

⑤floppy epiglottisを認める場合,CPAPは上気道閉塞や酸素飽和度を増悪させることがあること(Neurology. 2011 May 24;76(21):1841-2. ).過去ブログ記事 

⑥睡眠呼吸障害や起立性低血圧の程度と認知機能低下は相関しないこと(Mov Disord. 2010 Dec 15;25(16):2891-2. ).

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"Painless" legs and moving toes(つま先が勝手に動いてしまう病気)

2012年02月19日 | その他の変性疾患
Painful legs and moving toes(PLMT)という疾患がある.一側または両側下肢の遠位部の疼痛・不快感と,足趾の不随意運動を特徴とする疾患である.神経内科医にとってその病名は知られているものの,実際に診療する機会に乏しい稀な疾患である.不随意運動は,足趾の屈伸・内外転,足関節の屈伸など律動的な動きを呈する.自分の意思や努力で,短時間であれば止めることができ,また睡眠中は消失しうる.治療法は確立しておらず,病態機序もよくわからない.おそらくミエロパチー,腰仙髄神経根症,ニューロパチー,外傷などが原因となり,求心性の感覚入力に何らかの異常が生じたのち,回復の過程で遠心性の運動出力に再構成が起こり,不随意運動が出現するものと考えられる.

動画(Painful legs and moving toes;つま先の動き)

さて,最近,Painless legs and moving toesという疾患が存在することを知り驚いた!言わばPLMTの痛みなしバージョンで,PLMTと同じ疾患カテゴリーに含まれると考えられている.PLMTと比べ,さらに稀な疾患である.これまで,母娘ともに発症し遺伝性と考えられる症例や,Wilson病に合併した症例が報告されている.そしてその稀な疾患が,最近,Mov Disord誌に相次いで報告されたので紹介したい.

一つ目は北海道大学神経内科からの報告.何とテント上病変,傍矢状洞髄膜腫が原因であった症例である.46歳男性で,従来健康.41歳時に下肢に強い左片麻痺と左半身の感覚障害が出現.画像検査で右傍矢状洞髄膜腫が見つかり,脳外科的に切除した.片麻痺は改善したものの,左側の深部覚障害は持続.そして43歳になり,左つま先の不随意運動が出現した.睡眠中には消失.頭部 MRIで髄膜腫の再発が認められた.45歳時に左下肢の振動覚低下,膝蓋腱反射亢進,痙性,病的反射を認めた.脳波,脳磁図,SEP,下肢の神経伝導検査および脊髄MRIは正常で,脊髄病変,腰仙髄神経根症,ニューロパチーは否定された.バルプロ酸,ゾニサミド,クロナゼパム,ガバペンチン,バクロフェンによる治療はいずれも無効であり,46歳時に2度目の切除術を行なった.これにより不随意運動は消失した.

経過中,痛みの出現はなかったこと,手術により消失したことから,傍矢状洞髄膜腫に伴うPainless legs and moving toesと診断した.Wilson病に合併したという報告もあるように,Painless legs and moving toesは中枢病変によっても生じうることを示した貴重な症例といえる.機序は不明であるが,髄膜腫が後中心回を圧迫し,求心性の感覚入力の障害が生じ,さらに遠心路に再構成が生じたと考えるのが妥当であろう.

もう一つの報告は,性ホルモン周期によりつま先の不随意運動が変動した若年女性である.26歳時,痛みを伴わないつま先と手指の動きにて発症.不随意運動はほぼ持続性で,つま先は様々な方向に動いた.下肢の動きは睡眠深度にかかわらず持続した.月経の2~3日前から増悪し,経口progesterone内服でも増悪した.逆に妊娠中・産褥期は消失した.血液検査や神経伝導検査,頭部画像検査では異常なし.

本例に特徴的な症状の変動はprogesterone ないしestrogenが影響を及ぼしている可能性を示唆する.つまりこれらのホルモンのレベルが低いと不随意運動が出現し,高いと軽減するという可能性である(注;ただし産褥期はこれらのホルモン値は通常レベルに戻るため,不随意運動が消失していた点は必ずしも説明がつかない).論文では性周期が症状の変動を引き起こすメカニズムは不明で,今後のアイデアが必要であると締めくくっている.

やはり本疾患の病態機序において末梢のみならず中枢の関与もあるのだろうと思う.ニューロパチーが性ホルモンの影響を受けるという報告は耳にしたことがない.私たちは過去に若年性パーキンソン病(PARK2)患者さんで,症状が性ホルモンにより影響を受けた方を報告しているが,エストロゲンが基底核におけるドパミン神経伝達に影響を及ぼしたのではないかと考察した.Painless legs and moving toesにおけるドパミン神経伝達の関与は不明であるが,今後,中枢神経の関与にういても検討が必要である.

いずれにしても,まずこのような疾患の存在を認識すること,そして今回の2つのケースレポートのように機序の解明につながるヒントを,パズルのピースのように集めていくことが大切である.

Painless legs and moving toes from parasagittal meningioma. Mov Disord Early View 
Painless legs and moving toes: Symptom reduction during pregnancy. Mov Disord 27;328–329, 2012 

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「生きることを選んで」を見て

2012年02月15日 | 運動ニューロン疾患
Totally Locked-in State(TLS)という言葉をご存知であろうか.日本語では「完全な閉じ込め状態」と訳されることが多い.身体中のすべての筋肉が動かなくなるが,意識や思考・感覚は保たれている.まるで身体の中に自分の精神が完全に閉じ込められたようになるため,このように呼ばれる.

ALSは発症から3~5年で呼吸困難となり,人工呼吸器を装着しないと死に至る病気だ.気管切開を行い,人工呼吸器を装着したとしても,徐々に全身の筋力は奪われTLSとなる.TLSは想像を絶する極限の状態である.「意思の疎通ができなくなるまでは当然のことながら精いっぱい生きる.そのあと,人生を終わらせてもらえることは『栄光ある撤退』と確信している」と願っても,日本の現行の法律では,人工呼吸器を外した者が殺人罪に問われるおそれがあり,TLSに至った時の人工呼吸器の離脱は認められない(過去の記事,“私の人工呼吸器を外してください”~「生と死」をめぐる議論~,をぜひご覧下さい).そして現在,ALS患者さんのおよそ8割が気管切開下の人工呼吸器装着を拒む.この原因のなかには,家族の介護負担への心配や遠慮,病気や療養生活への不安,そしてこのTLSへの恐怖がある.

民教協スペシャル「生きることを選んで」という山陰放送が制作したドキュメンタリーを見た.あらためて「生きることの意味」を考えさせられた.番組ではALS患者である元テレビ報道記者・谷田人司さんの闘病生活が綴られていた.4年前に発症し,3年前から自宅療養をなさっている.発語や嚥下はできず,経管栄養と気管切開下の人工呼吸器療法を行なっている.その谷田さんは元同僚の記者に一通のメールを送った.「病気が進行し,体が動かなくなった時,麻薬を使って静かに楽に死なせて欲しい」.元同僚の記者は,谷田さんが自ら死ぬことを考えていることに衝撃を受け取材を始める.谷田さん自身も「TLSになっても生きることにどのような意味があるのか,取材して確かめたい」と思い,再び記者として取材を始める.

取材は人工呼吸器装着中の患者さん,装着を迷っている患者さん,そしてTLS状態の患者さんに行われた.「生きる意味」を考え,それぞれの家族の思いを知る取材だ.
「患者自身が発信することで,病気への理解が広まれば,生きている意味になると思う」
「生きていればこそ,家族と一緒に年をとれる.子供たちの成長を見守るうち,気持ちが少しずつ変化した.いいことばかりじゃないけれど,悪いことばかりでもない」

「家族はどんな形でも生きていてほしいと思う」
「私が部屋に入ってくると,(TLSの状態であっても)本人の顔色が明るくなるとヘルパーさんによく言われる」
「父が家にいてくれて,それを中心に家族が回っている.自分勝手な考えをしちゃうと,僕と兄のため生きてくれている.尊敬できる」

取材を通して谷田さんは,「大切な人のために生きよう.これからしっかり準備をして生き抜いていこう」と考えるに至る.素敵な笑顔が印象的だった.

父(谷田さん)の病気をきっかけに看護師を目指す息子さんの言葉もとても印象に残った.
「体が不自由といってもまだ生きているんで・・・普通の家庭ぐらい普通,違和感なく幸せだと思う」
ノーマライゼーションという言葉は頭ではわかっていても,実はこういうことを目指すことなのだと,初めて実感したような気がした.

もちろん人工呼吸器装着が簡単には行えないさまざまな問題や障壁がある.しかし,ALS患者さんの8割が人工呼吸器を装着しないという現実はこれで良いのだろうかと考えてしまう.番組を見て,生きる決意をした仲間が普通に過ごせる社会をともに目指すことはごく自然なことのように感じた.

第26回 生きることを選んで - 財団法人 民間放送教育協会



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パーキンソン病のバランス障害のリハビリ法として太極拳が有効!

2012年02月12日 | パーキンソン病
パーキンソン病におけるリハビリとして,すくみ足が強くて歩けない人でもエアロバイク(自転車こぎ)は難なくできるといった,ときとして驚くべき方法が報告されるが,今回,それと同じぐらい驚いた報告がNEJM誌に掲載された.4大運動症状のうち,有効なリハビリ方法がまったくなかった姿勢反射障害(バランス障害)に対し,太極拳が有効という報告である.

「太極」とは,中国の哲学書『易経』の言葉で,陰と陽の対立とか,矛盾,混沌といったものを統一し,中道に生きることが大切であるという教えである(例えばときどき見かける☯マークは,陰と陽の魚が太極(円)のなかに存在するという大極図である).この東洋哲学の重要概念である太極思想を取り入れた拳法が太極拳である.緩やかで流れるような,ゆったりとした套路という動きは,正しい姿勢・バランスや重心の運用法を身につけるのに役立つ.

つぎに姿勢反射障害について.ひとは倒れそうになると,姿勢を反射的に直して倒れないようにする反応が備わっている.しかし,パーキンソン病患者さんでは,この反応が障害されている.日常生活で問題になるのは,洗濯物など高いものを取ろうとして手を伸ばした時,椅子から立ち上がるとき,逆に座るとき,ドアを引いて開けるとき,タンスの引き出しを開けるときなど,重心が後方へ移動し後方へ転倒してしまう(このような動作を行うときは注意したり,症状の程度によっては避けるよう生活指導することが大切).障害が高度になると,立位時や歩行時にも転倒が生じる.診察方法としてはpull testがある.前述したように,姿勢反射障害に対する有効なリハビリプログラムの報告はこれまでなかった.しかし,少数例の検討で,太極拳は有効であるという報告がなされていた.

今回,米国オレゴンにおいて,太極拳がパーキンソン病患者さんの姿勢反射障害に対して有効か調べたランダム化比較試験が報告された.対象は195名のYahrステージ1~4度のパーキンソン病患者さんで,①太極拳群,②レジスタンス・トレーニング群,③ストレッチ群の3群のいずれかに割りつけた.レジスタンス・トレーニング群は,体幹と足の筋トレを行う群で,おもりを徐々に増やしながら姿勢や歩行の訓練を行う.ストレッチ群は軽めの運動を行うコントロール群的な役割を果たす.60分間のトレーニングを週2回,24週間にわたって行う.主要評価項目はdynamic posturography を用いたlimits-of-stability testにおける①8方向への最大重心移動と②運動の正確さの改善度である.そして副次的評価項目として,歩行や筋力,パーキンソン病統一スケール(UPDRS)の運動スコア,転倒回数などを調べている.

さて結果であるが,主要評価項目に関して,最大重心移動は,太極拳群はレジスタンス群より5.55 percentage points(95%信頼区間1.12~9.97),ストレッチ群より11.98 percentage points(95%信頼区間7.21~16.74)良好であった.運動の正確さも,太極拳群はレジスタンス群より10.45 percentage points(95%信頼区間3.89~17.00),ストレッチ群より11.38 percentage points(95%信頼区間5.50~17.27)良好であった.さらに副次的評価項目も,太極拳群はすべての項目においてストレッチ群より良好で,レジスタンス群と比較しても歩幅や身体機能が優れていた.転倒については,太極拳群はストレッチ群より有意に少なくなった.太極拳の効果は介入修了後3ヶ月間持続した.重篤な合併症は認めなかった.問題点としては詳しいメカニズムについては不明ではあること,研究デザインに無治療対照群がないこと,介入方法のマスク化ができないこと,パーキンソン病がオンの状態においてのみ評価が行われたことがあげられる.

以上,太極拳は軽症から中等症のパーキンソン病患者さんのバランス障害や転倒を軽減すること,身体機能を改善することが分かった.太極拳は調べてみるとパーキンソン病のリハビリ目的に国内でも行われているようだ.これから導入を試みるべき方法のようだ.

注意点:太極拳リハビリには安全には注意が必要です.まず安全(転倒防止)のために椅子に座って行うばきです.ただしパーキンソン病患者さんでは椅子に座っていても身体が傾いて,そのまま椅子から転落するということもあるため,必ず肘掛けのある椅子に座って行うなど転倒防止には十分注意をする必要があります(饗場郁子先生,ご助言ありがとうございました).

Tai Chi and Postural Stability in Patients with Parkinson's Disease
N Engl J Med 2012; 366:511-519

You Tube動画(本論文とは異なるSan Diegoの取り組みの紹介)
Comments (5)
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ダイエット清涼飲料水を毎日飲むと脳梗塞になりやすくなる!?

2012年02月05日 | 脳血管障害
コーラ好きで,太りやすい体質の私にとって,とても気になる内容の論文が報告された.砂糖入りの清涼飲料水は,高カロリーおよび糖負荷のため,肥満,インスリン抵抗性などの危険因子となる.そこで人工甘味料を用いたカロリーゼロのダイエット清涼飲料水が登場したわけだが,最近の研究で,ダイエット飲料水は2型糖尿病やメタボリック症候群の危険因子となる可能性が指摘されている(Circulation 2007Diabetes care 2009 ).2型糖尿病とメタボリック症候群は,血管病(脳卒中,心臓病)の危険因子であることから,ダイエット清涼飲料水が血管病の危険因子になる可能性が推測される.この仮設が正しいかどうかを検証する研究が,米国マイアミ大学から報告された.

研究デザインは多民族を含むpopulation-based cohort study.米国NIHが助成したNorthern Manhattan Studyの被験者2564名を検討した.564名の内訳は男性36%,平均年齢69 ± 10歳.白人20%,黒人23%,ヒスパニック系53%である.飲み物を含む食事内容は食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)を用いて調べられた.これは1980年代に米国で開発され,大規模なコホート研究で使用された.つまり健康な集団の食生活をあらかじめ調査し,その後の疾病罹患や死亡を確認する研究に使われたものだ.飲料水は,砂糖を用いたレギュラー飲料水と,ダイエット飲料水に分類した.摂取の頻度は,①なし(月1回未満),②ときどき(月1回~週6回),③毎日(1日1回以上)に分類した.

さて対象について.レギュラー飲料水は,なしが 1333名,ときどきが995名,毎日が338名だった.ダイエット飲料水は,なしが1948名,ときどきが453名,毎日が163名であった.10年間の経過観察で,591の血管関連イベント(脳卒中,心筋梗塞,血管死)が生じた.Coxモデルにて,飲料水の摂取と血管関連イベントの相関を調べた.

そして注目の結果である.まずダイエット飲料水は以下の因子と関連があった;白人,過去の喫煙,高血圧,血糖値高い,HDLコレステロール低い,トリグリセリド高い,大きな腹囲,BMI,末梢血管病,メタボリック症候群!!いずれも納得の行く結果と言える.つまり,太っていて,メタボで,血圧,血糖値,コレステロールが高い人ほどダイエット飲料水を飲むということだ.

一方,レギュラー飲料水は以下の因子と関連した;男性,黒人,現在の喫煙,炭水化物消費量多い,拡張期血圧上昇,糖尿病と高コレステロール血症の低い有病率.つまり,危険因子がなければ普通の清涼飲料水を飲むわけだ.

つぎに問題のダイエット飲料水と血管イベントの関連の解析結果.年齢,性別,民族,教育,喫煙,身体能力,アルコール消費,BMI,一日摂取カロリー,蛋白・炭水化物・脂質・脂肪酸,塩分といった因子の交絡調整を行なったが,ダイエット飲料水を毎日飲む人は,飲まない人と比較して,血管関連イベントが有意に高頻度に起こしていた!さらにメタボリック症候群,末梢血管病,糖尿病,心臓病,高血圧,高脂血症についても交絡調整を行ったが,それでもなお有意差が認められた(ハザード比 1.43, 95%信頼区間 1.06-1.94). しかし,レギュラーの清涼飲料水やダイエット飲料水をときどき飲む人では,血管関連イベントのリスクの増加は認められなかった.

つまり砂糖入りの飲料水と違い,カロリーゼロでより健康的なはずのダイエット清涼飲料水を毎日飲んでいると,脳卒中,心筋梗塞,血管死のリスクが高くなるという結果が得られた.結果の検証として,今後,より大規模な前向き試験やランダム化試験が必要ではあるが,ダイエット飲料を飲んでいれば安心ということではないのだ.そう甘くはないということか(笑)

J Gen Intern Med. 2012 Jan 27. [Epub ahead of print]
Diet Soft Drink Consumption is Associated with an Increased Risk of Vascular Events in the Northern Manhattan Study.
 


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