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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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グリンパティックシステムを可視化する―血管周囲造影効果(PVE)パターンという新たな画像サイン

2025年04月10日 | 医学と医療
図1はJ Neuroradiol誌にフランスから発表された総説からのものです.近年注目されている血管周囲造影効果(perivascular enhancement: PVE)パターンについて豊富な画像とともに詳細に解説しています.まず図の中央には,T1強調造影MRIにおける典型的なPVEがイラスト化されています.大脳白質に多数の点状および線状の造影効果が広がっていますが,これらはPVS(血管周囲腔;図2)に沿って描出されているものです.つまりこの「点と線の造影」に着目したものがPVEです.




この図の左側には,「Characteristic causal diseases」として,PVEが比較的一貫して認められる疾患群が並んでいます.1つ目がGFAPアストロサイトパチーであり,GFAPαに対する自己抗体が検出される自己免疫性脳炎で,血液脳関門が破綻するため,造影画像では線状(放射状),点状のPVEが描出されることが有名です.

2つ目はLevamisole leukoencephalopathyです.米国などで流通するコカインには動物用駆虫薬レバミゾールが混入しているそうで,その摂取によって脱髄と血管周囲炎が起こり,中毒性白質脳症をきたすのだそうです.点状から結節状のPVEが認められます.

3つ目のCD8脳炎は,HIV感染者に認めるまれな脳炎で,血管周囲へのCD8陽性T細胞の浸潤が特徴的です.PVEは広範かつ左右対称に出現するようです.

4つ目のCLIPPERS / SLIPPERSは,中枢神経の慢性リンパ球性炎症を示す疾患で,前者は橋・小脳領域,後者は大脳半球に限局します(Cはchronic,Sはsupratentorial).いずれもPVSに沿った点状・線状の造影が特徴的で,PVEの典型ともいえる疾患です.

図の右側には,「Potential causal diseases」として,PVEが時に出現する疾患群が配置されています.1段目には感染症や腫瘍が多く,たとえばウイルス性脳炎,転移性脳腫瘍,膠芽腫,リンパ腫,ICANS(CAR-T細胞療法後の神経毒性症候群:Immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome)が並んでいます.2段目は自己免疫性・脱髄性疾患が並び,多発性硬化症,急性散在性脳脊髄炎,NMOSD,MOG抗体関連疾患が含まれます.また放射線治療後に生じるPVEは血管内皮障害が原因と考えられています.3段目以降は多様な病態が含まれ,PML-IRIS(免疫再構築症候群を伴う進行性多巣性白質脳症)や神経サルコイドーシス,神経ベーチェット病,脳血管炎などで,これらはいずれもPVSへの炎症性細胞浸潤が関与します.FUS(Focused Ultrasound)治療後やPRES(可逆性後部白質脳症)では,局所的な血液脳関門の破綻により,造影剤がPVSに漏出して PVEが観察されます.そのほか,脳脂肪塞栓症(CFE),Erdheim-Chester病(ECD),Susac症候群,SLEでもPVEが出現することが報告されています.最後に図3は画像所見のパターンと原因疾患のまとめです.



今後,神経放射線診断においてPVEパターンを見逃さないことが重要だと述べています.この図は臨床現場においてとても役に立つものと考えられます.また今後,グリンパティックシステムが解明されるにつれて,これら疾患ごとの画像所見が意味することがより明らかになるのではないかと思います.とても楽しみです.論文はオープンアクセスですのでぜひご一読ください.
Babin M, et al. Perivascular enhancement pattern: Identification, diagnostic spectrum and practical approach – A pictorial review. Journal of Neuroradiology. 2025;52:101242. (doi.org/10.1016/j.neurad.2025.101242


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