Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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産学連携を目指した製薬企業とのマッチングの機会

2017年03月30日 | 医学と医療
アカデミアの研究者が創薬を目指す場合,最終的なExit(出口)となる製薬企業との連携は不可欠である.しかし,産学連携の実現は容易なことではない.その理由は,同じ目標をもつパートナーにどのように巡り合ったらよいか分からないこと,また巡り合ったとしても製薬企業が求めていることをアカデミア研究者が理解していないということが挙げられる.解決の手段として,両者をマッチングする機会を提供するという試みがあり,以下のようなものがある.

DSANJ疾患別相談会
日本医療研究開発機構,日本製薬工業協会,大阪商工会議所等が主催.事前に情報提供を行い,関心を持った企業と面談する形式.

BioJapan
BioJapan 組織委員会が主催.次のBIOの日本版.ブースにポスターや資料などを配置し,来場した製薬企業の担当者と名刺交換や面談する.プレゼン会場での講演もあり.

BIO international conventuion
海外で開催.海外企業との交渉が可能.

BIO tech

リード エグジビション ジャパン 株式会社が主催.BioJapanとほぼ同様の形式.

創薬シーズ相談会
医学系大学産学連携ネットワーク協議会(medU-net)が主催.

私達のチームはDSANJ疾患別相談会,BioJapan,BIO techにいくつかの創薬シーズを出展したことがある.マッチングは成立しなかったものの,製薬企業の判断基準の項目を理解することができ勉強になった.
さらに今回,医学系大学産学連携ネットワーク協議会(medU-net)が主催する創薬シーズ相談会に初めて参加した.大阪会場・東京会場をネット回線でつなぎ,合計9社もの製薬企業が私どもの創薬シーズであるプログラニュリン変異体のためだけに集まってくださった.その意味で非常に効率の良く製薬企業の方々と情報交換が可能である.30分のプレゼンの後,40分ほど質疑応答を行なった.次のステップとして何が必要か大変貴重な助言をいただいた.創薬を目指すアカデミア研究者にとって非常に良いチャンスと思われるので情報の共有をしたい.


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基礎から考えるBNP検査の臨床応用@第42回日本脳卒中学会学術集会

2017年03月18日 | 脳血管障害
大阪で行われている第42回日本脳卒中学会学術集会にて標題の講演を拝聴した.循環器内科および神経内科立場から,BNPについて検討するもので大変,勉強になった(講師は京都大学中川靖章先生,日本医科大学坂本悠記先生).エッセンスを以下にまとめたい.

【基本知識】
ナトリウム利尿ペプチドは,心臓や血管,体液量の恒常性維持に重要な役割を担う.
ナトリウム利尿ペプチドファミリーは3種類存在し,我が国の研究者により発見された.

ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)
CNP(C型ナトリウム利尿ペプチド)

ANPは主に心房から,BNPは心房,心室(心室>心房)から分泌される(心房からは10%程度,このため心房細動でも上昇する).
BNPは主に心室から,壁応力(伸展ストレス)に応じて遺伝子発現が亢進し,速やかに生成・分泌される.

BNP遺伝子から転写,翻訳後,BNP前駆体ができ,それが切断され,生理活性をもつBNP(成熟型)と,生理活性を持たないNT-proBNP(N末端型)が等モルで分泌される.

【心疾患とBNP】
心不全では心室からのANP,BNP分泌が増加するが,BNPのほうが変化の幅が大きく,左室機能の指標ともよく相関するため,心不全の診断のための良い指標となった.

日本心不全学会のステートメントでBNPの心不全診断へのカットオフ値が定められている(図).
18.4 pg/ml以上;心不全の可能性は低いが,可能なら経過観察
40 pg/ml以上;軽度の心不全の可能性があるので精査,経過観察
100 pg/ml以上;治療対象となる心不全の可能性があるので精査あるいは専門医に紹介

ある数値以下に維持しなければならないという絶対的な目標値はない.
しかし,同一症例における過去の数値との比較は有用である.
NT-proBNP値については,まだコンセンサスが得られていない.



呼吸困難の原因診断も有用である(心疾患で上昇し,呼吸器疾患では上昇しない).

急性心筋梗塞後のBNPの経時変化は2峰性である.
弁膜症,心筋症(DCM,HCM)でも上昇する.
僧帽弁狭窄症では,DCMと比べてBNPは上昇しにくい.
HCMは心筋量が多いので著明に上昇しうる.

【心房細動とBNP】
心房細動では,発作性,および持続性のいずれも100 pg/ml前後まで上昇する.
発作性心房細動では,洞調律に戻るとBNPは低下する.
経時的にBNP値をフォローすることによって,発作性心房細動のイベントや,心房細動の慢性化を予測することができる(Tsuchida et al. J Cardiol 2004;44,1-11).

【BNP上昇に影響を与える心臓以外の因子】
・胸部Xpにおける肺うっ血の存在
・高齢
腎機能障害(BNPは腎でクリアランスされるため)
BMI低下(脂肪細胞はクリアランスに影響する,BNP遺伝子発現にも影響する)
炎症反応(心筋炎で著増)
・その他(貧血,critical illness,細菌性敗血症,重症やけど等)

血中には生理活性の異なるProBNPも存在する.この存在割合も臨床像に影響をする可能性がある.

【脳梗塞とBNP】
脳梗塞急性期では入院時にBNPが上昇する症例が6割程度あり,発症4週後には低下する.BNPは脳梗塞後,経時的に変化しうる.

病型分類では,心原性脳塞栓症において明らかな上昇が見られる(カットオフ値は140 pg/ml程度).心原性脳塞栓症で上昇する理由は,心房細動の関与,もしくは器質的心疾患(心筋梗塞,DCMなどる)の関与の両者が考えられる. ➔ 心原性脳塞栓症の補助診断として有用である.

来院時に洞調律である患者さんにおいても,発作性心房細動を予測する因子となる.

心房細動とBNP高値をもつ症例はtPA療法で再開通しにくい ➔ 血管内治療を要する症例の予測に役立つ可能性がある.

BNP高値は脳梗塞患者の院内死亡と関連する(BNP高値は脳梗塞の重症度と相関し,また心不全を合併するため).

心房細動患者でのBNP高値は,脳梗塞再発と関連する(心不全による心臓内血流うっ滞は血栓形成傾向を促す)

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パーキンソン病の療養に役立つ冊子と本のご紹介

2017年03月15日 | パーキンソン病
人口の高齢化にともなって,パーキンソン病患者さんの数は,2030年までに倍増すると言われている.パーキンソン病に対する医療や療養が正しく行われることがますます重要になるが,その診断法や治療は10年前と比べると大きく進歩していることから,医療従事者はもちろんのこと,患者さんやそのご家族も新しい知識を正しく理解する必要がある.インターネットではさまざまな情報を入手できるが,それらは玉石混交であり,何が医学的に根拠がある情報かを判断することは必ずしも容易なことではない.最新,かつ正しい知識を分かりやすく提供してくれる冊子と本をご紹介したい.

1)パーキンソン病の療養の手引き
Q & A形式で構成された分かりやすい手引書で,平成17年に作成された「パーキンソン病と関連疾患の療養の手引」を大幅に改訂したものである.今回の改訂で,この10年で大きく進歩した非運動症状(自律神経障害,睡眠障害,精神症状,認知機能障害等)や,薬物・手術療法の進歩が追加されている.厚生労働科学研究費補助金にて京都大学高橋良輔教授が中心になり作成された.私も非運動症状の一部をお手伝いさせていただいた.下記リンクより,無料でダウンロードできるので,ぜひご活用いただきたい.
冊子へのリンク

2)パーキンソン病とともに生きる -幸福のための10の秘密(アルタ出版)

パーキンソン病患者さんとそのご家族がもつ「人生と生活をより良くするために何ができますか?」という質問に対する助けとなるような本を,フロリダ大学のパーキンソン病の専門医Michael Okun教授が執筆し,その仲間の先生方が多く言語に翻訳したものである.日本語訳をされた順天堂大学大山彦光先生も,Okun教授のもとで勉強をされた神経内科医のホープである.その内容は,パーキンソン病の症候,脳深部刺激療法,うつ・不安の治療,睡眠,薬による中毒様症状(衝動制御障害等),運動,入院への準備,新しい治療,希望の大切さに及ぶが,専門用語を極力避け,非常に分かりやすく書かれており,大変,勉強になった.大山先生は「普通に生活されていた方がある日突然パーキンソン病と宣告され,途方に暮れてしまったとき,ぜひ手にとって読んでいただきたい」と述べておられる.お薦めの本である.

パーキンソン病とともに生きる―幸福のための10の鍵



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認知症を主徴とするCBDの臨床診断は難しい

2017年03月10日 | 認知症
病理学的に診断が確定した210例のCBD症例の解析の結果,いわゆるArmstrong基準では4つの表現型,すなわちCBS(大脳皮質基底核症候群),Frontal behavioral-spatial syndrome (FBS;前頭葉性行動空間症候群),Nonfluent/agrammatic variant of primary progressive aphasia (naPPA;原発性進行性失語 非流暢性/失文法 異型),Progressive supranuclear palsy syndrome (PSPS;進行性核上性麻痺症候群)が採用された.しかし,これ以外にアルツハイマー病様認知症(AD-like dementia)という表現型が存在することも指摘されていたが,この表現型は診断基準に採用されなかった.その理由は,ADとの鑑別が難しく,疑陽性が増加するためである.しかし,これまでCBDとADの認知症の特徴の違いや鑑別について検討した研究はほとんどない.今回,認知症を主徴とするCBDの臨床像,診断,そして病理所見について,検討した研究がセントルイス・ワシントン大学より報告されたので紹介したい.

方法は,初診時に明らかな認知機能障害を呈し,かつ最終的に病理学的に診断されたCBD 17例とAD16例を比較している.いずれの症例も1年毎に問診,神経学的所見,神経心理検査を受けている.初診時および最終の臨床診断,合併する神経症候,合併病理を含む病理診断と臨床への影響について検討している.以下,結果を述べる.

1)CBDの臨床診断は可能か?
ADの16例については,初診時15/16例(94%)がADと診断し,最終臨床診断も15/16例(94%)がADと変わらなかった.一方,CBDは初診時2/17例(12%)のみCBDと診断した.この2名とも典型的なCBSの臨床像であった.残りの臨床診断は,AD 7例,bvFTD 3例,PPA 3例,PCA 1例,多発性硬化症1例であった.また最終臨床診断では6/17例(35%)がCBDと診断され,残りは,非典型的神経症候を伴うAD 6例,bvFTD 4例,多発性硬化症1例であった.以上より,認知症を主徴とするCBDの生前診断は難しく,生前の正診率はわずか35%になることが分かる.

2)CBDを示唆する症候は何か?
CBDとADで,発症年齢や受診までの期間に有意差はなし.CBDでは初診時の認知障害として,即時記憶の障害が最も多かった.CBDは初診時,5/17人(29%)で非対称性運動・感覚徴候,腱反射亢進,歩行障害が見られたが,これら3つは初診時からCBDとADの鑑別に有用であった(図A-C).またパーキンソニズム・ジストニアは受診の2年後から(図D),転倒,尿失禁は4年後から,眼球運動異常は6年後から鑑別に有用であった.これらの項目を3つ以上認めた場合,初診から3.1年(95%信頼区間2.9–3.3年:発症から5.2年)で80%の確率で,鑑別が可能となった.またCBD症例では,エピソード記憶,遂行機能,文字流暢性の低下が急速に認められた.

3)病理所見と合併病理
CBD症例で前頭葉と頭頂葉における顕著なタウ病理が認められた.AD病理の併存がCBD症例の59%(10/17例)に認められたが,臨床表現型,認知症の進行速度,認知症の期間には影響しなかった.

結論として,本研究から言えることは次の2つである.
1)認知症を主徴とするCBD症例の臨床診断は極めて難しい
しかし以下の症候を3つ以上認めたときにはCBDに伴う認知機能障害を積極的に疑う.1つのみの場合もCBDの可能性を疑って神経心理検査等を追加し,かつ長期的な経過観察を行う.

【鑑別を可能とする症候】
A. 初期(初診から4年未満)
 非対称性運動・感覚徴候*
 病的腱反射亢進*
 歩行障害
 パーキンソニズム・ジストニア*
B. 進行期(初診から4年以上)
 転倒
 尿失禁
 外眼筋障害*
 *はCBDに特異的な臨床症候

2)ADを診断する際に,CBDが混入する可能性を考える
CBDにおいてAD病理が59%にも合併することから,今までのADの診断バイオマーカーを用いてもADとCBDの鑑別が困難である可能性がある.これはADの臨床試験を行う場合,非常に大きな問題になる.AD病理を認めるためADと診断されうるが,主な脳の病理変化はタウ病理であり,当然,ADに対する治験薬は効かないことになる.ADを診断するバイオマーカーでなく,CBDを診断するバイオマーカーが必要といえる.

Differntiating cognitive impairment due to corticobasal degeneration andnAlzheimer disease. Neurology 88; 1-9, 2017 


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標準的神経治療:不眠・過眠と概日リズム障害 -多系統萎縮症と睡眠異常-

2017年03月02日 | 脊髄小脳変性症
日本神経治療学会は,神経疾患の治療指針を定める「標準的神経治療」を定期的に発行しているが,今回,獨協医科大学神経内科平田幸一教授が中心になり,「不眠・過眠と概日リズム障害」を発表した.不眠症,中枢性過眠症(ナルコレプシー等),脳血管障害・変性疾患と睡眠異常,治療について記載され,大変,勉強になる内容になっている.このなかで私は「多系統萎縮症と睡眠異常」について執筆をさせていただき,睡眠障害の特徴と突然死の問題について,解説とエビデンス・レビューを行なった.またお問合わせが多い上気道閉塞に対するpropofol鎮静下喉頭内視鏡検査(いわゆるDISE: Drug-induced sleep endoscopy)について具体的な方法を記載した.耳鼻咽喉科の先生方との議論の際に,資料として用いていただきたいと思う.フリーで下記のリンクよりDLできるので,ぜひご一読いただきたい.

標準的神経治療:不眠・過眠と概日リズム障害







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