Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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てんかん重積状態に対する病院到着前から開始する治療

2012年08月26日 | てんかん
てんかん重積状態を早期にベンゾジアゼピン系抗てんかん薬で止めることは予後の改善につながることが知られている.日本ではてんかん重積状態に対する治療として,ビタミンB1,グルコース投与に引き続き,ジアゼパム静注,これで止まらなければフェニトイン静注,さらに全身麻酔療法(プロポフォール,チオペンタール等)と続く.しかしいずれの治療も救急外来到着後に開始される.一方,米国では,より早く治療開始する方法として,病院到着前にparamedicによる抗てんかん薬の筋注などが行われるようになっている.ちなみにここでのparamedicの意味は,看護師・理学療法士などの医師以外の医療従事者の意味ではなく,「米国の救急医療隊員」を指す.米国のparamedicは,日本の救命救急士よりも医療的・外傷的救急にあたって行なうことのできる医療行為の範囲が広く,また可能な医療行為のレベルは州ごとに,また資格の段階によって異なっているそうだ.

てんかん重積状態に対する病院到着前の治療に関する臨床試験が報告されているので紹介したい.方法は成人および小児(13 kg以上)を対象とした二重盲検・非劣性試験で,paramedicによるミダゾラム10 mgの筋注とロラゼパム(ワイパックス)4 mgの静注の有用性を比較している.5分以上てんかん発作が持続し,paramedicが到着した際にも持続していた患者に対し,自動注射器による筋注か(写真),静脈投与を行った.主要評価項目は救急外来到着時にけいれんが消失し,rescue therapyが不要な状態とした.副次評価項目は気管内挿管,痙攣再発,痙攣消失に関連した治療タイミングとした.本研究の仮説はミダゾラムの筋注はロラゼパム(ワイパックス)静注に10%のマージンで非劣性である(劣らない)とした.



さて結果であるが,救急外来への到着時,ミダゾラム筋注群では448名中329 名が消失(73.4%),ロラゼパム静注群では445名中282名(63.4%)で,絶対差10%で有意差あり(95%信頼区間;4.0-16.1; P<0.001 非劣性,優性とも).気管内挿管はミダゾラム筋注群では14.1%,ロラゼパム静注群では14.4%で同等,再発率もミダゾラム筋注群では11.4%,ロラゼパム静注群では10.6%で同等.救急外来到着前に痙攣が止まった患者における治療までの時間の中央値はミダゾラム筋注群では1.2分,ロラゼパム静注群では4.8分で,治療から痙攣が止まるまではそれぞれ3.3分と1.6分であった.副作用については2群間で差を認めなかった.以上より,痙攣重積状態に対する病院到着前の治療として,ミダゾラム筋注はロラゼパム静注と比較し,少なくとも同程度に有効で安全であるといえる.

さて日本ではどうか.残念ながらいずれの薬剤も認可されてない.加えて,到着前の救急隊員による抗てんかん薬治療も認められていない.筋注うに思う.ちなみにロラゼパム静注については<a href="http://square.umin.ac.jp/jes/pdf/lorazepam-6.pdf">日本てんかん学会から未承認薬として申請がなされているようだ.このような良い治療が速やかに認められることを期待したい.

Intramuscular versus Intravenous Therapy for Prehospital Status Epilepticus
N Engl J Med. 2012 Feb 16;366(7):591-600.

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日本人における脳動脈瘤の破裂リスク

2012年08月12日 | 脳血管障害
未破裂脳動脈瘤が偶然,検査で見つかることはしばしばあるが,手術適応に関しては意見が必ずしも統一されていない.最大径5ないし7mm未満のものの破裂は稀であること,および後方循環系の動脈瘤は前方循環系のものより破裂しやすいことが報告されている(Lancet 2003; 362, 103-110; Stroke 2010; 41, 1968-1977).より適切な治療方針の決定のためには,脳動脈瘤の破裂のリスクについて理解する必要がある.今回,日本人を対象にした大規模な多施設共同研究前方視的研究(UCAS Japan; The Unruptured Cerebral Aneurysm Study of Japan)がN Eng J Med誌に報告された.破裂率と,その影響因子(サイズ,部位,形状の影響)についての報告である.

まず方法であるが,2001年1月から2004年4月のあいだに新たに発見された未破裂脳動脈瘤患者を登録した.登録の条件は,年齢は20歳以上,動脈瘤のサイズは最大径3 mm以上で,脳出血の既往はなく,もともとの障害がmodified Rankin Scale 2以下(中等度以上の障害を有するものは除外)とした.登録後,動脈瘤の変化,破裂の有無,生死について観察を行った.

さて結果であるが5720症例(平均62.5歳,女性が68%),6697個の脳動脈瘤が研究に登録された.解析は患者ごとではなく,動脈瘤ごとに行われた.6697個の動脈瘤が検討され,うち91%は偶発的に発見されたものであった.多くの動脈瘤は中大脳動脈にあり(36%),ついで内頚動脈が多かった(34%).動脈瘤の最大径は平均5.7±3.6 mmであった.経過観察期間の11,660動脈瘤・年において111人の動脈瘤が破裂した.この結果,年間破裂率は0.95%(95%信頼区間,0.79~1.15%)となった.

破裂率は動脈瘤のサイズが大きくなるに従い,高くなった.最大径3~4mmの動脈瘤を基準として,以下のサイズの動脈瘤破裂リスク(ハザード比)を示すと以下のようになった.

5~6mm 1.13倍 (95%信頼区間 0.58-2.22)
7~9mm 3.35倍 (95%信頼区間 1.87-6.00)
10~24mm 9.09倍 (95%信頼区間 5.25-15.74)
25mm以上 76.26倍 (95%信頼区間 32.76-177.54)

中大脳動脈の動脈瘤と比較し,前交通動脈や内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)の動脈瘤では破裂率が有意に高かった.つまり中大脳動脈の動脈瘤を基準としたハザード比は以下のようになった.

前交通動脈 2.02倍 (95%信頼区間 1.13-3.58)
内頸動脈-後交通動脈分岐部 1.90倍 (95%信頼区間 1.12-3.21)

さらに動脈瘤の形状によっても破裂率は変わり,不正な突出のある瘤(daughter sac)では破裂のハザード比が1.63倍(95%信頼区間 1.08-2.48)と増加した.

ただしこの研究では6697個の動脈瘤のうち,3050個が破裂前に外科治療を受けていたことから,本文でも考察されているように本来の破裂リスクは実際にはもっと高いものと考えられる.しかし,サイズ,部位,形状による破裂率の変化が明らかになったことは,今後の動脈瘤の治療の決定に重要な情報を与えるものと考えられる.

N Engl J Med. 2012;366:2474-2482

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たかが英語,されど英語

2012年08月06日 | 医学と医療
昔,指導医として指導した後輩の先生から,海外学会に初めて採択されたという嬉しいメールを頂いた.でもそのメールには「嬉しかったのですが,次の瞬間,初めて行くアメリカで楽しみ半分,英語という語学の厚くそして高く聳え立っている壁を目の前に呆然としている感じです」と書かれていた.私も学会発表や英語論文の執筆でとても苦労したので,海外学会デビュー前の気持ちが良く分かる.ちょうど先週読んだ本が参考になるかもしれないと思ったので紹介したい.

タイトルは「たかが英語!」,楽天の三木谷 浩史氏が書いた本の名前である.2010年4月,楽天は「社内公用語英語化宣言」をして社会を驚かせた.その理由は,「今後,人口が大幅に減少する日本において企業は世界企業にならない限り生き残れない,そして世界企業になるためには英語を話すことは不可欠である」と考えたためだ.実際,本年7月に楽天の社内公用語は英語に移行したが,それまでの準備期間の2年間で7000人以上の日本人が英語のマスターに取り組んだ.その過程と結果,日本での英語教育における問題点を綴ったものが本書である.この壮大な実験は,会社による充実した支援策,英語力を科学的に向上させるアプローチの追求などにより,約1年半で全社員のTOEIC平均点が161点アップするという成果を収める.社内公用語の英語化についてはさまざまな議論はあるが,英語で苦労してきた日本人の1人として,いろいろ納得し,頷きながら読めた.以下,三木谷氏の言葉を紹介しつつ,自分の意見も述べたい.

1. 「多くの日本人は,発音は完璧,文法も完璧な英語でなければ通じないと思っている.日本人の英語力がなかなか上達しない一因は,この思い込みにある.通じれば十分なのだ.大事なのは,細かい文法ミスは気にせず,とにかく英語で伝えようとする姿勢だ.そもそもネイティブスピーカー並に話せるはずがないし,話せる必要もない」

私もこれに気がつくまでかなり時間がかかった.この最悪の「思い込み」に日本の英語教育が影響していることは間違いない.でも気がついた後はとても楽になり,会話ができるようになった.開き直れるかどうかがまず大切.

2.「中学,高校,大学の10年間で3500時間ということになる.これだけ時間を費やせば,本来なら誰でも英語を喋れるようになっているはずだが,そうはなっていない.僕は,日本の英語教育はほとんど犯罪的と言っていいくらいひどいと思っている.英語教育の現状を見ると,むしろ英語を使えなくなるような教育をしている.「言語鎖国」政策をとってきたのではないか」

私は医学部学生やレジデントには,機会があるごとに時間を作って英語の勉強をするように話している(年をとってからでは時間が作りにくいと).しかし2つ問題点に気づく.①受験英語は優秀だったはずなのに,英語に対する苦手意識がとにかく強いこと(英語圏で通用する英語を身につける必要があるはずなのに,受験英語は決してそうではないということだろう).②英語を習得する意義を理解できない(これはその大切さを周囲が教えていないからだろう).

3. 「アジア圏のTOEICスコアは,中国,韓国,台湾は大幅に増加しているにも関わらず,日本のスコアは殆ど変わっていない」

残念ながら海外学会の口演でしどろもどろになるのは日本人が多い.留学中に各国の医学教育について聞いてみたが,アジア諸国の医学生は,教科書は英語,HarrisonとかCecilで勉強していると言っていた.韓国の医学部は授業も英語だと言っていた.どうして日本は違うのだろう.影響はないのだろうか?
本書によれば,かつて日本経済が急成長していた頃,多くの海外企業が日本にアジアの拠点を築いたが,昨今,アジアの拠点は,日本から上海やシンガポールに移りつつある,つまり「日本外し」現象が起きているそうだ.新薬の効果を検証する国際的なRCT論文で,近年,日本でなく中国や韓国が入っているものが少なくないことにお気づきだろうか.日本人の留学は年々減少していると言われるが,これに対し,例えば中国の1980年代生まれの若者「バーリンホウ(80后)」がどんどん海外に進出している.中国人に最も人気の留学先は米国で,昨年は約12万8000人が留学したそうだ.そこで人脈ができ,帰国後も協力関係は続くだろう.それに対し,日本は多くの領域で「言語鎖国」の影響がでて学問の領域でもガラパゴス化しつつある恐れがある.

4.「専門用語と特殊な言い回しさえ覚えてしまえば,ビジネス上のコミュニケーションには困らない.ジャンルごとに頻出する言葉を覚えること.これが仕事で使える英語を身につける第一歩である」

ではどのように英語を学ぶべきか.専門用語と特殊な言い回し,ルールを覚えることの大切さは医学もまったく同じで,これができれば英語論文を深く理解できるようになる.海外学会発表も,言い回し,ルールさえ覚えておけば立ち往生することなく,十分対応できるようになる.本書にも書かれているが,どんな話題が飛び出すかわからない日常会話のほうが難しい.
そして英語の上達で大切なのは,ネイティブの英語が少しでも聞き取れる,こちらの話すことも通じるという経験をなるべくたくさん積むこと.自信につながるし,会話が楽しいと思ったら上達は速い.

5. 「英語で発信しなければ世界には流通しない・日本の良さを世界に広める手段として英語力が活用できる・外国語を使うことで,自分の頭にある概念を疑い,別の角度から検討しやすくなる・直接,外国人とコミュニケーションすることで得られる恩恵は計り知れない・」

英語を学ぶメリットは計り知れない.多くの人々に自分たちの経験や発見を伝えようとすれば英語は不可欠.また英語を使うこと,とくに論文を書くことは理路整然とした思考ができるようになり臨床力のアップに繋がる.さらに自分たちの経験や発見が世界の人々の役に立つと考えればこれほど嬉しいことはない(最近はなくなったが,昔は別刷り請求がはがきで来た.殆ど知らない国の人からはがきが来ることも時々あって,その時には本当に嬉しかった.それがその後,論文を書く原動力になったように思う).

6. 「英語化プロジェクトを進めるうちにわかってきたこと.それは英語力が特殊な能力ではなくなるということだ.本当に重要なのは,その人の専門知識であり,ノウハウであることが際立つようになる.英語が多少拙くても,伝える内容をしっかり持っている社員のほうが有用」

伝える内容こそ大事.英語が下手でも,伝える内容がしっかりしていれば一目置かれるようになる.留学して思ったことは「英語を流暢に使えることが国際化ではない.日本人であれば日本や日本人のことをよく理解して,周囲に伝えられることが大切」ということ.


以下,海外学会に自身を持って参加するためにおすすめの英語の本.さぁ,海外に出かけよう.


国際学会Englishスピーキング・エクササイズ口演・発表・応答
・・・CDつき.一番おすすめの本.これをマスターしておけば,ポスターも口演もほぼ乗りきれる.

国際学会English―挨拶・口演・発表・質問・座長進行
・・・国際シンポジウムの座長のときほんとうに助かった本.上記の本のあとに読むと良い.

英語抄録・口頭発表・論文作成虎の巻―忙しい若手ドクターのために
・・・初級編.でも外国でのプレゼンテーションの心構えやコツが満載.

ハーバードでも通用した研究者の英語術―ひとりで学べる英文ライティング・スキル
・・・論文やメールの書き方など,研究者にはとても役に立つ本.


たかが英語!
・・・ぜひ楽天のEnglishnizationの過程と結果を読んでみてください.

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低血糖脳症に対する神経保護薬開発の取り組み

2012年08月01日 | その他の変性疾患
昨日(2004年7月31日付け)の日経新聞朝刊で,低血糖脳症の治療薬開発を目指した新潟大学脳研究所神経内科の取り組みを取り上げていただきました.

低血糖脳症は極度に血糖値が低下すると発症します.原因はインスリン注射や血糖降下薬内服など,糖尿病治療薬の誤用が多いですが,下痢や食事量低下,アルコール依存症,拒食症,インスリン産生腫瘍などでも生じます.血糖値の正常値は空腹時であれば,100~110 mg/dl未満ですが,これが低下し,60mg/dL前後になると空腹感,ふるえ,動悸,冷や汗が出現します.さらに低下すると,頭痛,目のかすみ,思考力低下などが出現し,30mg/dL以下では意識障害を来たし,場合によっては昏睡,死に至ることがあります.

注意すべき点として,高齢者や低血糖発作を繰り返している患者さん,重度の糖尿病性自律神経障害のある患者さんでは,上記のような低血糖症状が乏しく,突然,意識障害を呈することがあります.

治療は多くの場合,上記の症状に気がつき,早めに糖分を摂取したり,重篤でも病院にてブドウ糖の静脈注射をすれば症状は改善します.しかし低血糖の程度が高度であったり,発見されず長い時間放置されてしまった場合には,運動麻痺,認知機能低下などの後遺症を引き起こすこともあります.また後遺症が明らかでなくても,重い低血糖症状を繰り返すと,回数の増加に従い,認知症の発症リスクが増加することも判明しています(Whitmer et al. JAMA 2009).糖尿病患者数は,今後さらに増加することが予測され,また糖尿病治療ではより厳密な血糖値コントロールが推奨される風潮がありますので,低血糖脳症患者さんは増加すると考えられています.

しかし残念ながら低血糖脳症の治療薬はブドウ糖のみで,その他,神経を保護する薬剤はありません.また重要な疾患であるにもかかわらず,世界的に見てもあまり治療薬開発に向けての研究が行われていない領域でもあります.

新潟大学脳研究所神経内科の脳循環代謝チームでは,以前より低血糖脳症の臨床研究を行なっており,並行して治療薬の開発を目指した基礎研究も行なっております.今回,報道していただいたのは低血糖脳症の治療薬の効果を判定する新しい研究モデルを作成し,ブドウ糖静脈注射後に脳内において生じる酸化ストレスをAlda-1という薬剤で抑制したというものです(低血糖に伴う低エネルギーはブドウ糖や乳糖により補うしかないですが,ブドウ糖投与時に生じる酸化的ストレスによる二次的な神経細胞変性をある程度抑制するものと期待しています).神経を保護する薬剤の開発に向けてまだスタートを切ったばかりですが,この領域の治療薬に関心にある方々と協力し,治療薬の開発実現を目指してまいりたいと思います.


新潟大学新技術説明会(2012年6月5日)での発表
(産学連携,共同研究など関心のある方はご参照ください)

新潟大学脳研究所神経内科脳循環代謝チーム(もしよろしければ「いいね」お願いします!)


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レビー小体型認知症に対するドネペジルの効果:フェーズ2ランダム化比較試験

2012年08月01日 | 脳血管障害
レビー小体型認知症(DLB)はアルツハイマー病に続く2番目に頻度の高い認知症である.変動する認知機能障害に加え,パーキンソニズムや,幻覚・妄想といった神経精神症状を合併する点が特徴的である.さらに薬物過敏性も認め,治療薬剤によっては逆に症状の悪化・副作用を招くことがある.具体的には向精神薬に対する過敏反応や,抗パーキンソン病薬による幻覚の増悪等が問題になる.治療には難渋することが多く,介護者の負担も大きい.

DLBにおける認知機能障害,神経精神症状にはコリン作動性神経系の変性が関与すると考えられている.アルツハイマー病と異なりシナプス前の障害が考えられており,シナプス後のムスカリンおよびニコチン受容体は保たれていることから,アルツハイマー病で臨床応用されているコリンエステラーゼ阻害薬が有効である可能性がある.事実,症例報告やオープンラベル試験レベルで有効性が示唆されている.しかしエビデンスはリバスチグミンのランダム化比較試験(RCT)1つ,メマンチンのRCT 2つのみで,かつ試験結果も一定していない.

今回,レビー小体型認知症に対するドネペジル(商品名アリセプト)の効果を検証するフェーズ2探索的臨床試験(ランダム化二重盲検比較試験)が日本において行われ,Ann Neurol誌に報告された.非常に結果が期待されていた臨床試験である.

まず方法としては,2007年10月から2010年2月までの間に,日本の48施設から140名のDLB患者を集積し,偽薬群,ドネペジル3 mg群,5 mg群,10 mg群に割りつけ(各群順に35名,35名,33名,37名),2週間の観察期間を置いたのち,12週間の観察を行った(認知症発症の少なくとも1年前にパーキンソン病と診断された症例や,消化性潰瘍,気管支喘息・閉塞性肺疾患,低血圧,重症不整脈などドネペジルを使用しにくい症例は除外されている.さらに重症パーキンソン病Yahr4度以上は除外.観察期間中,L-dopaないしドパミンアゴニスト以外の薬剤治療は不可).治療症状の標的となる指標を明らかにするため,とくに主要評価項目は定めず,種々の指標を評価した.認知機能の効果はMini-Mental State Examination(MMSE)にて判定し,その他,複数の神経心理学的検査を施行した.行為への影響についてはNeuropsychiatric Inventoryを,介護者の負担についてはZarit Caregiver Burden Interviewを用いた.さらに全般的臨床症状の評価はClinician's Interview-Based Impression of Change-plus Caregiver Input(CIBIC-plus)を使用した.Unified Parkinson's Disease Rating Scale part IIIにてパーキンソン病への影響を確認した.

さて結果であるが,ドネペジル5 mgおよび10 mgは,認知機能(MMSE)を偽薬より有意に改善した.具体的には,5mgでは平均3.8の改善(95%信頼区間2.3-5.3;p < 0.001).一方,10 mgでは平均2.4の改善(95%信頼区間0.9-3.9;p = 0.001)であった.またCIBIC-plusも5 mgおよび10 mgともに有意に改善した(ともにp < 0.001).しかし3 mgではCIBIC-plusを改善したが(p < 0.001),MMSEでは有意ではなかった(p = 0.017).さらに行為(幻覚・妄想といった神経精神症状)に関する評価では5 mg,10mgとも有効で(p < 0.001),介護者への負担は10 mgで有意に改善した(p = 0.004).安全性についてはドネペジルに関する既報の通りの結果であり,各群間で同程度であった.

以上より,<font color="blue">ドネペジル5 mgないし10 mgは,少なくとも12週間の期間において,認知機能,行為,全般臨床症状を改善し,高用量の10 mgは介護負担を軽減した.またパーキンソン症状を悪化させず,安全性についても問題はなく,良好な耐用性を示した.

研究の問題点として,主要評価項目がないこと,症例数がまだ少ないこと,施設によっては1-2名の症例のみで評価者間不一致が問題になりうること,経過観察期間が短いことがあげられる.しかし,本研究は,ドネペジルはDLBに対し非常に有望な薬剤であることを示しており,今後の多数例での長期間の評価の結果が待望される.

Ann Neurol. 2012;72:41-52.


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