Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

パーキンソン病・運動障害疾患コングレス@東京

2013年10月13日 | パーキンソン病
「第7回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス」が10月10日から12日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまで幅広く勉強できる学会で,ビデオセッションも充実しています.とくに美味しいディナーとお酒をいただきながら,各自が経験した症例のビデオを持ち寄り,不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションはとても楽しいです.エキスパートの先生方の意見を聞き,このように考えればよいのかと見るポイントが分かってきます.来年は京都での開催ですので,ぜひ若手の先生はご参加をご検討ください.さて以下に今年のイブニングビデオセッションの症例一覧と,レクチャーのうち印象に残ったことを記載しておきます.

【MDSイブニングビデオセッション】
1. 高齢者にみられた造影剤(オムニパーク)投与後の全身のミオクローヌス様不随意運動
→ Transient myoclonic state with asterixis (TMA)
2. 脳梗塞後の手首を回内・回外を繰り返す不随意運動
→ Supplementary motor area (SMA) seizure
3. 運動機能が良い時期の嚥下障害,誤嚥による窒息,肝脾腫
→ Nieman-Pick disease type C(慢性神経型)
4. ジストニアと両側線条体壊死
→ Mitochondrial ND6遺伝子(LHONの原因遺伝子)変異 視神経障害を伴わないジストニアタイプ
5. 高齢発症の姿勢時・動作時の震え
→ IgMパラプロテイン血症に伴うニューロパチーとCMT2N合併例
6. 肩をすくめるようなジストニアがアキネトンで短時間に改善
→ ハロペリドール静注による急性ジストニア
7. 髄膜炎脳炎にともなう拮抗失行
→ 再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis: RP)の中枢神経病変
8. 顔面・頸部のhyperkinetic movement
→ 門脈-静脈シャントによる肝性脳症.不随意運動はnegative myoclonusだけではなく,このタイプもある.
9. タオルを投げるという動作の開始が困難
→ Corticobasal syndrome(CBS)に伴う一種の失行
10. Flutter-like oscillation + 起立時の震え(起立性振戦より周波数は小さい)
→ 肺がんに伴うparaneoplastic syndrpome
11. 足関節を含む両下肢の痛みを伴うゆっくりとした不随意運動
→ Painful legs and moving legs.つま先だけに限局しないタイプがある.moving toesではなく,moving legsと言われるタイプがある.
12. Painful legs and moving toes様の不随意運動
→ 偽アテトーシスであり,MCTDに伴う後索病変に伴うもの
13. 立位時の両下肢の振戦(5 HZ)
→ 老化に伴う下肢の筋力低下
14. 倒立(逆立ち)が可能なパーキンソニズム
→ Pure akinesiaで,手には症状がでにくく,昔から逆立ちが得意な人ではできることもある
15. 釘を打とうとするものの,途中で振り落とした手が止まり,釘が打てなくなった大工の棟梁
→ Efferent apraxia → CBS
16. 首下がり+パーキンソニズム
→ エルデカルシトール(活性化ビタミンD)内服後発症した薬剤性,ないし電解質性
17. 舌,手,首における1-2 Hzのphasic なジストニア(両親いとこ婚)
→ 心因性?遺伝疾患(原因不明)?


【メモ】
ドパミン脱神経が進むと血中濃度に合わせて線条体ドパミン濃度が変動する理由は,セロトニン神経細胞がレボドパをドパミンに変換するようになるためである.セロトニン神経細胞もAADC, VMATを持っていてレボドパをドパミンに変換できるが,とり込み機能を持つD2受容体とDATがないため,濃度のコントロールができない.このため血中濃度に合わせて,線条体のドパミン濃度も変動し,これがpeal dose akinesiaを引き起こす

抗VGKC抗体脳炎は,faciobrachial dystonic seizureを呈する時期がある.これが意識障害や転換に先行するのでこれを見逃さず,この時期に治療を開始する.数秒のジストニアと不規則なミオクローヌス様振戦,口部自動症が出現し,ステレオタイプな所見である.立毛痙攣(自律神経)や,易怒性・性格変化も出現する.1日の頻度が10-50回と多く,持続時間が短く2-3秒で終わる.抗てんかん薬は効きにくくステロイド治療を要する.ちなみに自己抗原はVGKCではなく実際はLGI1蛋白(分泌型蛋白で神経伝達に関与)である(Morvan症候群ではCaspr2).

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は,常染色体優性遺伝(表現促進現象がみられることあり)を呈する成人初発てんかんで,日本人に多い.多くは全身性強直間代発作だが,手の振戦,ミオクローヌスを混じる(myoclonus様に見えるcortical tremor).進行は極めて遅い.光過敏性あり.Giant SEPを認め,大脳皮質の興奮性がある.珍しい病気ではなく,一般のてんかん患者に混じって見逃されている.

DBSの長期経過例の症状で問題になるのは,発語(小声,聞き取りにくい),歩行,姿勢反射といった体軸症状である.とくに手術時の高齢,手術までの罹病期間が短い症例は,体軸症状が出現しやすい.更に長期化すると認知機能が低下する.治療抵抗性の体軸症状が出ているような進行期にDBSを行っても,患者さんの満足度は低い.STN-DBSでは言語流暢性が悪くなる人がいる.

ジストニアに対するDBSは,拘縮・変形が出てからでは遅い(効果に限度が出てしまう).Meige症候群では,ボトックスが効かない症例でDBSの適応になる.同様に遅発性ジストニアでもボトックスが効かない症例では適応になるが,自殺の原因となるため,うつを背景疾患と認める症例では精神科治療をやめさせてはいけない.

脳血管性パーキンソニズムは,パーキンソニズムの原因として,パーキンソン病に次いで2番めに多い.下半身優位の症状が主体で,寡動,固縮,小刻み,すり足を両側性に呈する.振戦が少なく,幻覚がない.錐体路症状,仮性球麻痺,尿失禁,認知症を伴う.MIBGは保たれている.ドーパには約半数が反応するが効果は乏しい.基底核,深部白質,橋の病変は,寡動,固縮,歩行障害,姿勢不安定性に関与すると考えられる.中脳出血後遺症でもパーキンソン病に似た症状を呈する症例も存在する.

脳血管性PSPとは,核上性垂直性眼球運動障害,姿勢反射を呈する多発梗塞症例を指す.前頭葉,視床,基底核を含む多発病変により生じる.タウ病変なし.中脳,視床下核に血管性病変なし.核上性垂直性眼球運動障害の責任病変は不明.

MR parkinsonism index;MRPI(Radiology 2008; 246, 214-21)は,パーキンソン症候群をMRIにより鑑別のための簡便な方法で,計算式は以下のとおり.
pons area/midbrain area × middle cerebellar peduncle width/superior cerebellar peduncle width
しかしPSP-Pなどの亜型やCBSも加わってくると必ずしも診断に有用とはいえない.

DLBでは幻視(人物,小動物,虫が多い),錯視(変形視,動揺視,パレイドリア),誤認妄想(自宅が自宅でないなど)がよく観察される.パレイドリアとは,古壁のしみが動物に見えたりするように,対象が実際とは違って知覚されることで,幻視の代理マーカーになる.パレイドリア課題を作成したところADよりDLBで有意に多い結果となった.

2007年にMDS-UPDRSができた.1987年に完成したUPDRSは評価基準が曖昧だったり,非運動症状が項目に含まれていないためMDS-UPDRSが作成された.よって軽い症状を評価し分けるようにし,曖昧な評価項目もなくすことを目指した.設問は42から50に増加され,多面的な振戦の評価,患者・介護者による評価,ジスキネジアによる機能的影響が追加された.すべて5段階評価になった.評価時間は30分程度.パート1:非運動症状,パート2:日常生活機能,パート3:運動症状,パート4:運動合併症である.

123I-FP-CIT(イオフルパン)DaTSCANは,製造承認が降りた段階.効能・効果は「パーキンソン症候群,レビー小体型認知症」となった.客観的に基底核,中脳等のドパミン終末の変化(シナプスでの再吸収)を画像化する.ドパミントランスポータートレーサーで,コカインにとても近い構造.パーキンソン病では尾状核を残し左右差を持って減弱する.

Camptocormiaは股関節で曲がるタイプと胸腰椎レベルで曲がるタイプ(上腹部型)がある.後者は上腹部に水平の皮膚陥凹が見られる!リドカイン筋注による効果の検討の結果,外腹斜筋が関与している.リドカイン1% 5 ml 5日間連続両側外腹斜筋投与+リハビリは有効.Antecollisでは斜角筋に異常放電が見られ,やはりリドカインが有効.これらの症状は早期発見が大切(早期なら自分で鏡を見るなどして矯正できるかもしれない).数週間で急速に進行する症例は,気がついたら早く主治医に連絡するよう指導する.リハビリ,カラー使用を考慮する.

不随意運動と鑑別になる痙攣性てんかんは,①全般てんかんのミオクロニー発作,②部分てんかんの単純部分発作である.逆にミオクローヌスにはてんかん性と非てんかん性がある.
てんかん性ミオクローヌスには皮質反射性,網様体反射性等があり,筋放電は表面筋電図で通常50msec(長くて100msec),これに対し非てんかん性は50-200, 300mscと長い点で鑑別可能.またてんかん性ミオクローヌスの筋活動は常に同期性で,関連する脳波異常がある.

Limb-shaking TIAsは,坐位や立位をとると出現する.抗てんかん薬は効かない.虚血によるcortical epilepsyらしい.


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳梗塞に対する脳低温療法の作用機序と臨床応用

2013年10月10日 | 脳血管障害
留学中に取り組んだ標題の研究に関する講演をする機会をいただいたので,要旨をまとめてみたい.

1)低脳温療法に関心を持った理由

大学院卒業後,それまで取り組んだ脊髄小脳変性症の研究を中断し,脳梗塞の治療研究を行いたいと思うようになった.その理由は,多くの脳梗塞患者さんを担当し,治療薬ができないものかと考えていた時に,医学生から血管が閉塞してしまう脳梗塞には根本治療などできないはずだと質問され,本当にそうなのか勉強してみたいと思ったことがきっかけだった.
しかし脳梗塞の治療研究など未知の領域で,何から取り組むべきか検討がつかなかったが,「最強の神経保護作用をもつ低脳温療法の作用機序」を理解すれば,治療標的分子が自ずと分かるのではないかと考えた.当時,低脳温療法の先端研究をしていたスタンフォード大学脳外科のGary K Steinberg教授の研究室に加えていただいた.

2)動物モデルの目的

低脳温療法は,心停止に伴う全脳虚血に対しては複数のランダム化比較試験があり,十分なエビデンスがある.一方,局所虚血(脳梗塞)ではこのような臨床試験はなく,エビデンスが欠如している.最適なプロトコールについても不明である.よって動物モデルを用いた研究の目的は,作用機序を明らかにすること,そして最適なプロトコールを検討することとなる.

一般的に用いられる動物モデルはげっ歯類を用いた虚血・再灌流モデルである.頸動脈から中大脳動脈に挿入したナイロン糸(塞栓糸)により一定時間虚血状態にし,その後引き抜くことにより再開通(再灌流)させる.よって100%の再灌流を保証するものである.しかし,実際の脳梗塞では,血栓溶解療法を行えたとしても,これほどの再開通は得られない.つまりこのモデルはヒトの脳梗塞とはかけ離れたモデルであり,このため部分的再灌流モデルなど,なるべくヒト脳梗塞に似せたモデルが開発された.

3)動物モデルから見た作用機序

低脳温療法は,動物モデルにおいて,血管閉塞(虚血)と同時に開始すると(intra-ischemic hypothermia),きわめて強力な神経保護効果を発揮する.ラットやマウスに対する低脳温療法をモデルとした作用機序の検討が行われ,低脳温療法は,エネルギー不全,グルタミン酸放出による興奮性神経毒性,炎症,アポトーシス,フリーラジカル産生,ミトコンドリア障害に対し,抑制的に作用することが報告された.私個人は,アポトーシスに関与する分子のAktや,protein kinase C(PKC)のアイソフォームであるPKC delta(dPKC),PKC epsilonが低脳温療法により,アポトーシスを抑制する方向に作用することを示した.とくにアポトーシスを促進するdPKCを治療標的分子と考えて,dPKC阻害剤が脳梗塞治療薬として有効かどうか検討したところ,実際に脳梗塞の縮小効果を示した(dPKCはその後,ベンチャー企業KAI社で心筋梗塞・脳梗塞への効果の検討が進められ,さらにmegapharmaに買収された).低脳温療法の機序の解明は治療薬の開発に有用であるものと考えられた.

4)動物モデルと臨床の解離

しかしintra-ischemic hypothermiaは血管閉塞と同時に低脳温療法を開始するものであり,実際の臨床ではありえない.つまり開始時間が実際の臨床と異なるわけである.さらに臨床応用を考えた場合,検討すべき項目として,脳低温療法の至適温度,持続時間,再灌流の有無がある.種々の実験から,至適温度は開始時間や持続時間に影響を受けること,therapeutic time windowは非常に短いこと,しかし持続時間を伸ばせはこれも改善しうることが分かった.また再灌流についてはあったほうがより有効であるが,再灌流のない永久閉塞モデルでも持続時間によっては改善の可能性があることが分かった.再灌流を考える場合,臨床的にはtPAによる血栓溶解療法と低脳温療法の併用という可能性が思いつく.動物実験の結果,危惧された体温低下によるtPAの効果減弱はなく,併用療法は予後を改善しうる可能性が指摘されている.またもう一つの検討項目として,復温があるが,最適化に関する基礎研究はほとんどない.

5)ヒト脳梗塞に低脳温療法は有効か?

最近の1H-MRSを用いた脳梗塞患者における脳温の測定にて,梗塞部では平均38.5度程度まで上昇していることが示されている(しかし脳血流の低下部位は上昇しうるという技術的問題もあるとご指摘を受けた).

脳の冷却法としては体表冷却,血管内冷却,また局所冷却としては冷却ヘルメットや経鼻冷却がある.体表冷却の合併症には悪寒,血管収縮,皮膚障害が,血管内冷却には感染,出血,DVTがあり,局所冷却には標的温度に達するまでの時間が遅いという問題がある.

既報の脳梗塞に対する低脳温療法の臨床試験を眺めてみると以下のことが分かる.
(ア) 脳浮腫ないし神経保護を目的として行われている.
(イ) 対照症例数は20名前後と少ない.
(ウ) 冷却方法は体表冷却から血管内冷却に移り,これに伴い標的温度に到達するまでの時間が短縮した.
(エ) 標的温度は33から35℃が多い.
(オ) 持続時間は12から48時間が多い.
(カ) primary outcomeはほとんどの試験で安全性の検証である.
(キ) 脳浮腫に対する検討で,速い復温は頭蓋内圧のリバンドを起こすことが分かっている.
(ク) 合併症対策として徐脈,不整脈,心筋梗塞,心不全といった心血管系障害,血小板減少,凝固能抑制による出血性梗塞の合併,低カリウム血症,感染がある.悪寒のコントロール法は近年発展してきたが,肺炎合併は依然問題となっている.

6)現在進行中の臨床試験

ICTuS 2/3(米国)とEuro-HYP-1(ヨーロッパ)が現在,進行中である.いずれも前向き無作為化試験で,tPAとtPAと脳低温療法の併用を比較するものである.特に後者は1500人を目標としたphase 3試験で,かつプロトコールも現実的なものである(tPA静注後1時間以内に開始,4℃の冷生食水を体重1kgあたり20ml,1時間で点滴静注し,その後,方法は問わず34~35℃のmild hypothermiaを24時間だけ行う).この臨床試験の研究結果が待たれる.

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする