Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(11月27日)  

2021年11月27日 | 医学と医療
今回のキーワードは,進行期筋ジストロフィーに対するワクチン2回接種は良好な抗体反応を示す,75歳以上の高齢者においてワクチン接種後14日以内の心血管イベントの増加はない,成人てんかん患者のワクチン接種率は同年齢の対照より非常に低い,大多数の多発性硬化症(MS)患者ではmRNAワクチンにより特異的な液性・細胞性免疫が誘導される(ただし抗CD20に加え,フィンゴリモドにも注意が必要かも),です.

日本神経学会は「COVID-19 ワクチンに関する日本神経学会の見解」を作成しましたが,作成の過程で「神経筋疾患で筋萎縮が著明な患者では,COVID-19 ワクチンをどのように接種すべきか?」というclinical questionが生じました.筋疾患セクションの先生がたとの議論の末,「筋線維が著明に萎縮・減少していても一定のボリュームを保っていることが多く,ほとんどの患者さんでは筋注が実施可能であること,皮下注射に比べれば安全性・有効性が高いと考えられること」を結論とし,少なくとも筋萎縮を理由にワクチン接種が妨げられないようにするという提言を行いました.同時に重症神経筋疾患患者に対するワクチンの有効性についてエビデンスが存在しないことから,ワクチン接種後の抗体価・安全性を評価する臨床研究が望まれると記載しました.この点に関して国内でも検討が開始されましたが,まず米国から報告がなされましたので,最初の論文で紹介いたします.今回の4論文はいずれもワクチンに関連する話題です.

◆進行期筋ジストロフィーに対するワクチン2回接種は良好な抗体反応を示す.
筋ジストロフィーなどの神経筋疾患は,筋肉が徐々に減少すること,しばしば慢性的にステロイドで治療されることを特徴とする.米国から歩行困難な神経筋疾患患者を対象に,mRNA COVID-19ワクチン接種後のIgG抗体量と中和抗体反応を測定した研究が報告された.対象は14名で(デュシェンヌ型8名,肢帯型2名,ベッカー型.SMAなどその他4名),うち8名がステロイドを使用していた.mRNAワクチンを2回接種した後,患者検体における抗受容体結合ドメイン(RBD)IgG抗体の中央値および偽ウイルス中和率は,ワクチン接種を受けた健常対照群と同様に有意に上昇していた(図1A, B).またステロイドの使用は神経筋疾患患者のワクチン接種反応を強く阻害しないことも示された.以上より,歩行困難な神経筋疾患患者で,筋肉量が少なく,さらに慢性的にステロイドを使用していても,mRNA COVID-19ワクチンを2回接種することで良好な抗体反応を示すことが明らかになった.
Neuromuscul Disord. Nov 19, 2021(doi.org/10.1016/j.nmd.2021.11.006)



◆75歳以上の高齢者において,ファイザーワクチン接種後14日以内の心血管イベントの増加はない.
フランスから,高齢者におけるファイザーワクチン後の心血管イベントの増加について検討した研究が報告された.対象は75 歳以上で,ワクチン接種後の重篤な心血管イベントの14日以内のリスクが評価された.検討にはCOVID-19 ワクチン接種データベースにリンクしたフランス国民健康データシステムが使用された(→これができないのが日本の大きな問題).対象者は2020年12月から2021年4月の間に,急性心筋梗塞,出血性脳卒中,虚血性脳卒中,肺塞栓症で入院した75歳以上のすべての人とした.結果は,4月30日の時点で,75歳以上の約390万人が少なくとも1回接種,約320万人が2回接種した.期間中,急性心筋梗塞で1万1113人,虚血性脳卒中で1万7014人,出血性脳卒中で4804人,肺塞栓症で7221人入院したが,そのうち58.6%,54.0%,42.7%,55.3%の人がそれぞれ1回以上のワクチン接種を受けていた.相対頻度を検討すると心筋梗塞では1回目接種が0.97,2回目接種が1.04,虚血性脳卒中は1回目が0.90,2回目は0.92,出血性脳卒中は1回目が0.90,2回目が0.97,または肺塞栓症は1回目が0.85,2回目が1.10で,いずれも有意な増加ではなかった.以上より75歳以上の高齢者を対象としたフランスの全国調査では,ファイザーワクチン接種後14日目に,急性心筋梗塞,脳卒中,肺塞栓症の発生率の増加は認めないことが示された.
JAMA. Nov 22, 2021.(doi.org/10.1001/jama.2021.21699)

◆成人てんかん患者のワクチン接種率は同年齢の対照者より非常に低い.
中国から,成人てんかん患者におけるCOVID-19ワクチンの接種率およびワクチン接種後の影響を調査した研究が報告された.対照として,年齢をマッチさせた慢性神経精神疾患患者,および健常対照者の評価を行った.質問票を用いた対面式のインタビューを行った.参加者の内訳はてんかん患者491名,その他の神経精神疾患患者217名,対照者273名の計981名であった.てんかん患者の42%がワクチンの初回接種を受けていたが,健常対照群では93%,精神神経疾患患者では84%であった(p<0.0001).ワクチン接種者の93.8%は不活化ワクチンであった.ワクチンを接種していないてんかん患者では,59.6%がワクチンを接種したいと考えていた.しかし接種を躊躇した主な理由は,潜在的な副作用(53.3%)と発作がコントロールできなくなることへの懸念(47.0%)であった.てんかん患者のワクチンによる有害事象の発生率は,対照群と同様であった.19名が発作の頻度の増加を報告し,その頻度は稀であったが,てんかん重積発作の報告はなかった.以上より,成人てんかん患者のワクチン接種率は,同年齢の対照者よりも非常に低いことから(図2は経時的な累積頻度),てんかん患者のワクチン接種率を高めるための積極的な啓発が必要である.→ この問題は初耳であった.日本でも同様のことがあるのか,検討する必要がある.
Eplepsia. Nov 21, 2021.(doi.org/10.1111/epi.17138)



◆大多数のMS患者では,mRNAワクチンにより特異的な液性・細胞性免疫が誘導される.
イタリアから,疾患修飾薬で治療を受けている多発性硬化症(MS)患者におけるCOVID-19ワクチンを接種後の液性および細胞性免疫反応を前方視的に検討した研究が報告された.過去2~4週間にmRNAワクチンの2回接種を完了した医療従事者78名とMS患者108名を評価した.治療としてはIFN-βが28名,フィンゴリモドが35名,クラドリビンが20名,オクリズマブが25名に使用されていた.抗RBD抗体の陽性率はオクレリズマブ群およびフィンゴリモド群では,医療従事者およびクラドリビン群,IFN-β群と比較して低かった(40%,p<0.0001および85.7%,p=0.0023).抗RBD抗体価の中央値は,医療従事者およびIFN-β群と比較して,オクリズマブ群(p<0.0001),フィンゴリモド群(p<0.0001),クラドリビン群(p=0.010)で低かった(図3A).また重要なことは,血清中和活性が,医療従事者全員で認められたのに対し,フィンゴリモド群では少数(16.6%)しか認められなかった.一方,T細胞特異的反応は,医療従事者と比較してIFN-γレベルが有意に低かったものの,MS患者の大部分(62%)で検出された.T細胞特異的反応の頻度が最も低かったのはフィンゴリモド群であった(14.3%)(図3B).またT細胞特異的反応は,リンパ球数および抗RBD抗体価と相関していた.以上より,mRNAワクチンは,すべての医療従事者および大多数のMS患者において,スパイクペプチドに対する特異的な液性および細胞性免疫反応を誘導することが明らかになった.すべての治療中のMS患者に予防接種を推進すべきと考えられる.→ これまで液性免疫の評価から,抗CD20療法のワクチンへの影響が注目されてきたが,細胞性免疫の評価も加えると,末梢血リンパ球数が減少するフィンゴリモドも注意が必要かもしれない.
Neurology. Nov 22, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000013108)



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COVID-19と頭痛@第49回日本頭痛学会

2021年11月22日 | 頭痛や痛み
11月19日~21日に第49回日本頭痛学会(大会長;静岡赤十字病院今井昇先生)が開催されました.現地・リモート参加を合わせると過去最高の参加者と伺いました.大変,企画が充実し,活気ある学会でした.私はシンポジウム1「COVID-19と頭痛」を大会長の今井先生とともに企画させていただきました.頭痛はCOVID-19の急性期から慢性期,ワクチン後に至るまで重要な症状であるものの,その診断や治療は容易ではないためです.テーマは5つで,病態機序(下畑),脳症と頭痛(髙橋牧郎先生;医学研究所北野病院),急性期の頭痛(秋山久尚先生;聖マリアンナ医科大学),後遺症としての頭痛(鈴木圭輔先生;獨協医科大学),抗抗体治療・ワクチンと頭痛(柴田護先生;東京歯科大学)でした.以下,重要なポイントを列記します.

*急性期では,感染後の症状(発熱,呼吸器症状)が出現してから1~3日後ぐらいに頭痛が出現することが多い.
*急性期に頭痛を合併する頻度は報告により大きな差がある.軽症例で頭痛の合併が多いという報告もあるが,重症例では頭痛を訴えにくい状況である可能性もある.
両側性で前頭部に強い頭痛が多い.性状はさまざまで,片頭痛様の頭痛を呈する患者もいる.
*一次性頭痛との鑑別が重要であり,COVID-19感染症を示唆するred flagsを確認する必要がある.
*筋痛,関節痛などのその他の部位の疼痛症候群を合併する症例が多い.
*アセトアミノフェンやイブプロフェンといった鎮痛剤が奏効しない症例が多い
*ボツリヌス注射やトリプタン,抗CGRP抗体は有効な患者とそうでない患者が存在する.つまり病態の多様性が示唆される.
*急性期の頭痛では,脳炎・脳症,脳静脈洞血栓症のような予後不良となる神経合併症を見逃さず,免疫療法,抗凝固療法など適切な治療を開始する必要がある.
*感染により既存の頭痛の悪化を認める症例や,新規発症持続性連日性頭痛 (NDPH)をきたす症例がある.
*IVIGに加え,トシリズマブ,コロナ中和抗体カクテル療法後にも無菌性髄膜炎を含む頭痛が生じうる.
*ワクチン接種の直後から,ないし遅発性に頭痛が生じ,長期持続するケースがある.産生されるサイトカインが関与する可能性もあるが病態は不明である.

以上より痛感したことは,COVID-19に伴う頭痛の病態機序は三叉神経血管系の関与が示唆されるものの,まだほとんど分かっていないこと,とくに重症例ほど頭痛の評価は困難であり,研究自体が難しい可能性があることです.今後,病期ごとの頭痛のメカニズムの解明と診断・治療のエビデンスの確立が求められます.

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抗IgLON5抗体関連疾患の臨床像(総説)

2021年11月22日 | その他
当科にて抗体アッセイ系を確立し,最近,お問い合わせが増えている抗IgLON5抗体関連疾患の総説を執筆しました.病理学的にタウの沈着を認めることから,自己免疫性タウオパチーとも呼ばれている疾患です.睡眠障害型,球麻痺症候群,運動異常症型など表現型が多彩で,PSP/CBS,MSA,球麻痺型ALSといった神経変性疾患のなかに紛れ込んでいる可能性があります.海外の症例集積研究では72例中27例(38%)が運動異常症型で,PSP様症候群が14%でした. 私どもは大脳皮質基底核症候群(CBS)を呈した症例を報告しましたが,中国からも最近,13症例の臨床像が報告されました(睡眠障害8名,認知障害7名,運動異常症6名でした).

どのようなときに本症を疑うかについては,①閉塞型無呼吸,喉頭喘鳴に睡眠随伴症を認める症例で,その他の神経症候や脳脊髄液検査異常(細胞数増多や蛋白上昇)を合併する場合,②本文に記載した特徴的なV-PSG所見を呈する症例,③PSP/CBSや認知症が疑われる症例で,上述の特徴的な睡眠障害や脳脊髄液検査異常を合併する症例,④病初期から喉頭喘鳴,上気道閉塞による急性呼吸困難,重度の嚥下障害に,上述の睡眠障害を認める症例としました.このような患者さんがいらっしゃいましたら,下記のリンクを参照し,ご相談をいただければと思います.なお論文は以下のURLからフリーでダウンロードできます.ご参考になれば幸いです.

自己抗体の測定について(岐阜大学脳神経内科)
抗IgLON5抗体関連疾患の臨床像(総説)




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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(11月21日) 

2021年11月21日 | 医学と医療
今回のキーワードは,SARS-CoV-2ウイルスはNEMOを分解することで,小血管障害と血液脳関門の破綻を引き起こす,グラチラマー酢酸塩治療中にmRNAワクチンを接種した場合,Nicolau症候群の出現に注意する,です.

やはりCOVID-19について関心を引く論文は減って,研究も落ち着いてきたように思います.ただ2つ興味深く感じた論文がありましたのでご紹介します.図1はNat Rev Neurol誌のNews&Views欄に掲載された短い総説からのものですが,SARS-CoV-2ウイルスの中枢神経への感染経路を示しています(ウイルスの直接感染は,頻度は高くはないものの病理学的に証明されています).これまで議論されてきた経路は,まず嗅覚伝導路です.ACE2受容体やニューロピリン1を介して感染すると考えられます.もうひとつは血行性感染です.脳の血管内皮細胞に,SARS-CoV-2ウイルスが感染しうることは報告されていましたが,今回,「ヒモ状血管」が形成されることとその病態機序,さらに治療標的分子が明らかにされましたので,ご紹介します.
Nat Rev Neurol (2021).(doi.org/10.1038/s41582-021-00593-7)



◆SARS-CoV-2ウイルスはNEMOを分解することで,小血管障害と血液脳関門の破綻を引き起こす.
COVID-19の神経症状では,小血管の障害が関与する可能性が指摘されているが,その機序は不明であった.ドイツからの報告で,COVID-19感染者や感染動物モデル(マウス,ハムスター)の脳では,基底膜のない血管,いわゆる「ひも状血管(string vessel)」が増加していることが明らかにされた(図2).



この血管は感染により障害を受けた毛細血管の遺残であった.つぎに血管内皮細胞がウイルス感染していること,さらにSARS-CoV-2ウイルスの主要プロテアーゼ(main protease; Mpro)が,免疫反応において中心的役割を果たす転写因子のひとつであるNFκBの必須モジュレーターNEMO(NFκB essential modulator)を,5カ所のグルタミン部位で切断することを明らかにした.感染した血管内皮細胞ではNFκB下流のIL1βの発現が低下していた(よってcaspaseを抑制できなくなり,TNFなどが上昇する).つまりウイルスのMproはNEMOを切断することで,血管内皮細胞死や「ひも状血管」の形成をもたらすことが示された.
一方,NEMOは,抗ウイルス剤であるI型インターフェロンやその他の免疫遺伝子など,数多くの遺伝子の転写を制御するシグナルカスケードに関与し,さらにアポトーシスや第3の細胞死と呼ばれるネクロプトーシスを防ぐことが知られている.実際にNEMOの分解はネクロプトーシスと関連するRIPK(receptor-interacting protein kinase)3カスケードの活性化をもたらすことも分かった.そしてRIPK3を欠損させると,血管内皮細胞でNEMO を欠損させたマウスで認められる「ひも状血管」形成や血液脳関門の破綻が阻止された.さらにRIPK1阻害剤で,ウイルスによる上記の小血管障害が抑制された.以上より,ウイルスMproはNEMOを分解することで,小血管障害,血液脳関門の破綻を引き起こすが,これらはRIPK阻害剤により抑制されることが示された.つまりMProに加え,RIPKはCOVID-19の中枢神経障害の治療標的であることが示唆される(図3).
Nat Neurosci 24, 1522–1533 (2021).(doi.org/10.1038/s41593-021-00926-1)




◆グラチラマー酢酸塩治療中にmRNAワクチンを接種した場合,Nicolau症候群の出現に注意する.
局所注射後に皮膚の壊死や潰瘍形成が生じる病態は「Nicolau症候群」もしくはEmbolia cutis medicamentosa と呼ばれている.Nicolauは報告者の名前である.筋注ないし皮下注射後に生じる皮膚,皮下組織,筋肉の非感染性壊死とされ,注射局所に激痛,浮腫,発赤,腫脹,リベド,硬結を生じ,最終的には壊死に陥ることもある.早期診断が重要で,ステロイドやヘパリンの局注が行われるが,進行期にはデブリドマン,植皮などの外科的処置も必要となる.代表的薬剤はIFN-α注射薬である.今回,米国から多発性硬化症(MS)患者におけるグラチラマー酢酸塩の注射に関連したNicolau症候群の2例が報告された.COVID-19 mRNAワクチンの接種との関連が疑われた.

症例1は62歳男性で,過去5年間,グラチラマー酢酸塩を継続し,再発はなく安定していた.注射反応もなかった.ファイザーワクチンの1回目接種から17日後(2回目接種の1日前)に側腹部にグラチラマー酢酸塩を注射したところ網状の紫斑が生じた(図4A).その後,拡大し(図4B),壊死性の黒皮が生じた(図4C).ワクチン2回接種から14日後に行った生検では真皮にフィブリン血栓が見られ,血栓性血管障害を示す組織壊死が認められた(図4D).その後もグラチラマー酢酸塩を継続したが,それ以上の注射部位反応は見られなかった.

症例2は59歳女性で,過去10年間,グラチラマー酢酸塩を継続し,再発はなく安定していた.ファイザーワクチンの初回接種から1週間後,右腰付近のグラチラマー酢酸塩注射部位に大きな湿疹ができた.その後,数週間にわたり,注射部位の周囲に網状の紫斑が生じた.4週間後に2回目のワクチン接種をしたところ,中心部に壊死性の痂皮が形成され,その後7日間で拡大した(図4EおよびF).傷口に激しい灼熱の痛みを感じた.

以上の報告は,因果関係を証明するものではないが,医療機関や患者は,グラチラマー酢酸塩治療中にmRNAワクチンを接種した場合,注意深くNicolau症候群の出現に注意する必要がある.著者らは双方の治療の共通の標的である抗原提示細胞,樹状細胞が病態に関与する可能性を考えている.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. Nov 10, 2021.(doi.org/10.1212/NXI.0000000000001112)



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アルツハイマー型認知症に対するアデュカヌマブに関する米国神経学会の立場

2021年11月19日 | 認知症
米国神経学会(AAN)は,最新号のNeurology誌にアルツハイマー型認知症に対するアデュカヌマブ(抗アミロイドβ抗体)に関して,患者さんや家族との協働意思決定をどのように行うべきかというポジション・ステートメント(指針)を発表しています.学会のEthics, Law, and Humanities Committeeによって作成されたものです.目的は「脳神経内科医がこの治療について,患者さんが十分な情報を得た上で決断できるようにするための倫理指針を提供すること」「患者さん中心の品の高い医療を提供することを目的として,患者さんやご家族に透明性をもってカウンセリングできるようにすること」になります.

まずこれまでのエビデンスを整理しています.アデュカヌマブは2つの治験に基づいて米国FDAに承認されたものの,経緯として両者とも試験参加者にメリットがないという理由で早々に中止されたこと,しかし後に行われたデータ解析で,1つの治験ではわずかな有益性が認められたものの,もう1つの治験では依然として有益性が認められなかったことが書かれています(詳細はこちらも参照).そしてアデュカヌマブは,脳内のβアミロイドを減少させるものの,その減少が患者さんに意味のある利益(=認知機能の改善)をもたらすかどうかは,いまだ不明であるとも書かれています.またアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormalities; ARIA)と呼ばれる治療に伴う脳内炎症のリスクがあり,それには脳出血が含まれる可能性があること,FDAが承認した用量を投与された人の3分の1においてARIAが生じうることも記載されています.

次に以下の点を伝えるべきと指摘しています.
1.アデュカヌマブが認知機能を回復させるものではないこと.さらに中等度・高度の認知症患者や,脳内にβアミロイド沈着を認めない認知症患者への使用を正当化する根拠は十分ではないこと.
2.潜在的な副作用や,MRI検査によるモニタリングをより頻繁に行う必要があること.
3.治験では人種的・民族的な多様性がないこと,すなわち一部の人種・民族に対してアデュカヌマブの有益性と安全性に関するデータがないこと.
4.アデュカヌマブは年間5万6000ドルという高額な価格設定であるため,使用している人に経済的な損害を与える可能性があること(上記価格には診療費,繰り返し行われる画像診断は含まれておらず,年間の費用は10万ドルを超える可能性があり,かつメディケアも通常80%しかカバーしないこと).
5.アデュカヌマブの使用が,より効果的な別の治療薬の治験への患者登録を妨げる可能性があること.

11月26日から開催される日本認知症学会第40回学術集会でもアデュカヌマブに関する議論が行われるものと思います.本邦でもどのような議論がなされるのか注視する必要がありますが,エビデンスに基づいた,患者中心の議論が望まれます.
Decisions With Patients and Families Regarding Aducanumab in Alzheimer Disease, With Recommendations for Consent: AAN Position Statement. Nov 17, 2021.




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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(11月14日)  

2021年11月14日 | 医学と医療
今回のキーワードは,COVID-19に罹患しなかった医療従事者にはコロナウイルスのポリメラーゼに特異的なT細胞が存在する,COVID-19に感染したという思い込みが,持続的な身体的症状を引き起こしている場合がある,ECMO治療中に神経合併症が発生した患者における死亡率は92%,レムデシビルの経口薬が開発され,フェレットのCOVID-19感染や伝播防止への有効性が示された,です.

論文を眺めていると一時期よりだいぶ減って,COVID-19の神経筋症状・合併症もほぼ出尽くした感があります.Long COVIDの問題はまだまだ未解決ですが,それ以外はかなり落ち着いてきた感じがします.最新エビデンスの紹介もそろそろお役御免かなと思います.

◆COVID-19に罹患しなかった医療従事者にはコロナウイルスのポリメラーゼに特異的なT細胞が存在する.
SARS-CoV-2ウイルスに暴露した可能性のある人は,必ずしもPCRや抗体検査で陽性になるとは限らない.すなわち,血清反応が出る前に不顕性感染が解消される人もいると考えられる.T細胞は,SARS-CoV-2ウイルスやその他のコロナウイルス感染症の迅速なクリアランスに貢献している.英国からの研究で,SARS-CoV-2ウイルスに対する防御能力を持つ既存のメモリーT細胞応答が,生体内で拡大して,迅速なウイルスコントロールをサポートし感染を抑えるという仮説が検証された.PCR,抗体結合検査,中和反応で繰り返し陰性となった医療従事者(senonegative healthcare worker;SN-HCW)を集中的にモニターし,初期に転写された複製転写複合体(RTC)に対する反応を含むSARS-CoV-2ウイルス反応性T細胞を測定した.この医療従事者は,パンデミック前の未感染の人々と比較して,より強力で多種類のメモリーT細胞を持ち,かつRTCに対する反応がより頻繁に観察された.最も強力なRTC特異的T細胞を持つ医療従事者では,SARS-CoV-2ウイルスの初期の自然免疫系シグネチャーであるIFI27(インターフェロンα誘導タンパク質27)が増加しており,感染が急速に収まったことが示唆された.RTC内のRNAポリメラーゼは,ヒト季節性コロナウイルスとSARS-CoV-2ウイルスの分岐群間で高い配列保存性を示す最大の領域であった.そしてこのRNAポリメラーゼは,パンデミック前のコホートや前述の医療従事者のT細胞から優先的な標的とされていた.また前述の医療従事者では,ヒト季節性コロナウイルスの変異体を認識するRTCエピトープ特異的T細胞が確認された.さらにもとから存在したRNAポリメラーゼ特異的T細胞は,SARS-CoV-2ウイルス感染後にメモリー反応に優先的に蓄積するように生体内で拡大した.以上のデータは,COVID-19に罹患しなかった医療従事者にはコロナウイルスのポリメラーゼに特異的なT細胞が存在していたことを示す.つまりRTC特異的T細胞が,流行中および新興のコロナウイルスに対するワクチンの標的であることを示された.
Nature. Nov 10, 2021.(doi.org/10.1038/s41586-021-04186-8.)



◆COVID-19に感染したという思い込みが,持続的な身体的症状を引き起こしている場合がある.
Long COVIDでは生活の質を低下させるような持続的な身体的症状を呈する.これらの患者の中には急性期にPCR検査を行わなかった者も少なからず存在する.このような場合,実際にはCOVID-19に感染していなくても,感染したという思い込みが症状を引き起こしている可能性もある.フランスから自己申告によるCOVID-19感染およびSARS-CoV-2血清検査結果と,疲労,息切れ,注意力低下などの持続的な症状との関連を検討した研究が報告された.2012年から2019年の間に組み入れられたCONSTANCES研究のコホートから2万6823人が対象となった.2020年12月から2021年1月の間に自覚的にCOVID-19に感染した経験があるか,また身体症状があり,少なくとも8週間持続したかどうかを報告してもらった.その結果,自己申告のCOVID-19感染は持続的なさまざまな身体症状と正の相関があり(聴覚障害と睡眠障害は除く),そのオッズ比は1.39から16.37の範囲であった.一方,SARS-COV-2の血清検査が陽性であることは,自分の症状がCOVID-19感染によるものだと考えている参加者に限定した場合でも,正の相関を認めたのは持続的な嗅覚障害(オッズ比2.72)のみであった.以上より,持続的な身体症状を自動的にCOVID-19感染のためと考えてはいけないことが示唆された.症状を誤ってCOVID-19のせいにしないために,適切な医学的評価を行う必要がある.
JAMA Intern Med. Nov 8, 2021.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.6454)

◆ECMO治療中に神経合併症が発生した患者における死亡率は92%.
COVID-19関連の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対し,体外式膜型人工肺(ECMO)が使用される.ECMOは脳卒中のリスクを高めることが示されているが,詳細に検討した研究はほとんどない.米国からCOVID-19患者におけるECMO治療中の神経合併症の特徴を明らかにするためのシステマティックレビューが報告された.12件の症例集積研究と後方視的コホート研究から1322人の患者が対象となった.年齢中央値は49.2歳,75%が男性で,最も多い併存疾患は糖尿病と脂質異常症であった(24%,20%).95%の患者が静脈ECMOを使用しており,ECMO開始時のP/F比(PaO2 /FiO2;酸素化の指標)の中央値は69.1であった.肝心の神経合併症は,頭蓋内出血,虚血性脳卒中,低酸素性虚血性脳障害の有病率は,それぞれ5.9%,1.1%,0.3%であった.死亡が報告された10件の研究における1296人を対象とすると,死亡率は36%で,神経合併症が発生した患者に限定すると死亡率は92%であった.以上よりECMOを受けたCOVID-19患者にとって,神経合併症の防止は極めて重要な課題と言える.具体的にはどのようにしてオーダーメイドの抗凝固管理を行うべきかの検討が必要である.
Heart Lung Circ. 2021 Oct 28:S1443-9506(21)01292-0.(doi.org/10.1016/j.hlc.2021.10.007.)



◆レムデシビルの経口薬が開発され,フェレットのCOVID-19感染や伝播防止への有効性が示された.
ギリアド社のレムデシビル(ベクルリー)は,COVID-19治療薬として承認されている抗ウイルス剤であるが,点滴静注を要するため,外来患者への使用には向いていない.今回,ギリアド社は米国ジョージア州立大学と協力し,レムデシビルを改良した化合物GS-621763を開発し,その抗SARS-CoV-2ウイルス効果を検討した論文が報告された.GS-621763およびその代謝産物のGS-441524は,細胞培養およびヒト気道上皮オルガノイドにおいて,変異株(VOC)を含むSARS-CoV-2ウイルスを阻害した.フェレット(イタチ科の哺乳類)にGS-621763を10mg/kg,1日2回経口投与したところ,SARS-CoV-2ウイルス量がほぼ検出されないレベルまで減少した.GS-621763を変異株P.1γに対して投与すると,ウイルスの複製を阻害し,未治療の接触動物への感染を防ぐことができた.以上より経口投与可能なレムデシビル類似体の治療効果が動物実験レベルで証明された.今後,ヒトにおける臨床試験が行われるが,成功すれば変異株への強力な対抗手段となりうると著者らは述べている.
Nat Commun 12, 6415 (2021).(doi.org/10.1038/s41467-021-26760-4)








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「ヒポクラテスの木」 成長中!

2021年11月10日 | 医学と医療
ポリクリ(病棟実習)で学生と一緒に「ヒポクラテスの誓い」を読んでいます.自分が学生のとき,医学部長でいらした武藤輝一先生がしてくださったことです.武藤先生は講義の最後に「病院前のヒポクラテスの木を見に行くように」とおっしゃられました.「ヒポクラテスの木」とは,ギリシャのコス島にある,ヒポクラテスがその木陰で弟子たちに医学を教えたというプラタナスの大樹のDNAを引き継いだ木のことです.日本にはいくつかの系統がありますが,有名なものが蒲原株です.これは著名な整形外科医,医史学者で俳人でもある蒲原宏博士が,1969年にギリシャのコス島で木の実を採取し,日本に持ち帰り,みずから播種育成されたものが起源です.残念ながら岐阜大学にはなく学生に見せてあげられないので,日本の脳神経外科の礎を築いた中田瑞穂先生の画「ヒポクラテス像(複製)」(左図)を購入し,廊下に掲げて見てもらっていました.ただやはりヒポクラテスの木を学生に見せてあげたいと思い,蒲原先生にご連絡をしたところ,ご快諾をいただき移植の準備が始まりました.学生のときに眺めたあの木から挿し木,分苗移植したものが順調に育ち,来年の秋には移植ができるまでになりました(右図).中田瑞穂先生は病床で最後に「ヒポクラテスの木」という文章をお書きになりました.「1メートルに達したばかりの若木の天を摩するに至る成長を見ることはこの私には無理というものである.しかし私は,これを私達で育てますと,この移植に積極的であった学生有志のあったことは,この木の成長が約束されていると同様,医学部に最も重要な正しい医学の正統,ヒポクラテスから伝わった医の正道を伝えつづけようとする純粋なこころを目の当たりに示したものであって,木の成長を確認するよりもはるかに私に心強いものを感じさせる」と書かれています.この木を岐大の学生のみんなと一緒に植える日を心待ちにしています.




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大人のための教育理論とは

2021年11月08日 | 医学と医療
連載中の「脳神経内科領域における医学教育の展望――Post/withコロナ時代を見据えて」の3回目です.岐阜大学医学教育開発研究センターの今福輪太郎先生と西城卓也先生のご執筆です.前半は学習者が成人(=研修医や医学生)であるときの教育理論についての解説です.大人と子供の教育理論は異なり,前者を「アンドラゴジー」,後者を「ペダゴジー」と呼びます(図).



成人は自律できる存在であるため教育では支援が主体になること,すでにしたある程度の経験は学習リソースとして利用できること,社会的役割や責任に関わる課題がより学習意欲を高めること,また近未来の具体的な目的に対して学ぶことを好むことを紹介されています.自分も振り返ると講義で使っていて「何年後に医師になったらきっと直面するので考えてほしい」とか,「救急外来で必要になる診察だから・・・」と言うと,確かに学生の目の色が変わります.

後半では「認知徒弟制(Cognitive Apprenticeship)」,すなわち親方と弟子の間で古くから行われてきた徒弟制の職業技術訓練に着目し,その学習プロセスを認知的な観点から理論化したものについて,内容,方法,配列,社会学の4つの観点から解説してくださっています.臨床教育の根本的理論として,前回の経験学習に引き続き,成人学習理論と認知徒弟制を学んだことになります.ぜひご一読ください.

さて12月号は初めてのクリスマス企画「芸術家と神経学」です.編集委員がプルースト,ドストエフスキー,ベートーヴェン,ショスタコーヴィチ,エゴン・シーレを熱く語ります.お先に読ませていただきましたが太鼓判です.私はゴッホについて書きました.お楽しみに!

Brain Nerve 2021年11月号 特集:「目」の神経学


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(11月6日)  

2021年11月06日 | 医学と医療
今回のキーワードは,mu株は自然感染やワクチンに耐性を示す?long COVIDの原因としてウイルスの中枢神経持続性感染の可能性は低い,brain fogは入院患者の7.2%に認め,女性,発症時の呼吸器系の症状,ICU入室が危険因子である,brain fogでは前帯状皮質の低代謝を呈しうる,嗅覚障害は嗅覚神経や嗅球に感染していなくても支持細胞の障害により発症する,です.

Long COVIDの神経症状,つまりbrain fogや記憶障害,疲労などを改善する治療法の確立を目指して,さまざまな試みが開始されています.今回,2番目の論文に示すように,少なくとも中枢神経における持続感染の可能性はかなり低いことが報告されました.また3番目の論文に示すように,brain fogの危険因子が女性や感染時に重症であることが明らかにされました.当初,SARS-CoV-2ウイルスは神経細胞に感染すると考えられましたが,最後の論文でご紹介するようにその可能性はどうも低いようです.そうなると直接感染ではなく,やはりサイトカインや自己抗体,血液脳関門の破綻といった間接的な障害が主体で,そこに発症前からの宿主要因(精神的な素因や認知機能)が病状を修飾するのだろうと思われます.重要な課題は病態を解明して,それを踏まえたバイオマーカーを確立することだと思います.

◆ mu株は自然感染やワクチンに耐性を示す?
2021年9月の時点で,WHOは懸念される4つのバリアント(アルファ[B.1.1.7],ベータ[B.1.351],ガンマ[P.1],デルタ[B.1 .617.2とAY])と,5つの注目すべきバリアント(eta[B.1.525],ι[B.1.526],kappa[B.1.617.1],lambda[C.37],mu[B.1.621])を報告している.mu株は2021年1月11日に初めてコロンビアで分離された.その後,3月から7月にかけて感染者が急増したが,その初期段階ではガンマ株が優勢であったものの,5月にはmu株優位となり,その後も割合は増加した(図1A;ただし感染者数は減少している).mu株では感染率や病原性,免疫反応に対する耐性が高まる可能性がある.このため本邦から,自然感染やワクチン接種によって誘導される抗体に対するmu株の感受性(耐性)を評価した研究が報告された.まずmu株やその他の株のスパイクタンパク質を有する疑似ウイルスを作成した.パンデミック初期(2020年4月~9月)に感染した患者13名の血清サンプルを用いてウイルス中和アッセイを行ったところ,mu株はD614G変異を持つB.1系統の親ウイルスの10.6倍の中和耐性を示した(図1B).またファイザーワクチンを接種した14人の血清を用いたところ,親ウイルスと比べて9.1倍の中和耐性を示した(図1C).これまで最も耐性が高かったbeta株に比べて,回復期患者血清では2倍,ワクチン血清では1.5倍の耐性を示した.結論として著者らは,mu株は自然感染やファイザーワクチンにより誘発される抗体に対して顕著な耐性を示し,今後の驚異になる可能性があると述べている.日本でも検疫で検出されたと報道されているが,さらなる流入を防止するなど十分な備えが必要である.→ とはいうものの,コロンビアの感染者数は7月以降大きく減少し抑制されている.つまりワクチンはmu株に有効で,実臨床と実験結果に解離があるようにも思える(現在,接種率が増加中で1回以上が60%となっている).
New Engl J Med. Nov 3, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMc2114706)



◆long COVIDの原因としてウイルスの中枢神経持続性感染の可能性は低い.
COVID-19急性期の精神・神経症状の病態機序は,炎症,低酸素,脱水,ブドウ糖代謝異常,薬剤の影響などで説明できる.しかしlong COVIDはまったく不明である.可能性としてはウイルス潜伏感染,自己免疫,さらには感染後の持続的な構造的・機能的・代謝的変化,あるいは精神的・社会的ストレスなどが指摘されている.今回,ドイツからSARS-CoV-2ウイルスが中枢神経系に持続的に感染しうるかどうかを検討した論文が報告された.このため診断後1~30日目(n=12),31~90日目(n=8),そして90日以降(n=20:つまりlong COVID群)の脳脊髄液を集積した.long COVID群の患者は急性期の症状は軽度であったが,認知障害が主な訴えとなっていた.年齢の中央値は50歳であった.脳脊髄液SARS-CoV-2 RNAはすべての患者で検出されなかった.また血清および脳脊髄液中の抗SARS-CoV-2抗体の経時変化を調べると,血清中の抗SARS-CoV-2抗体(図2A),および脳脊髄液中の抗SARS-COV-2抗体(図2B)は経時的に有意に減少した.また抗SARS-CoV-2脳脊髄液Alb indexを検討しても,髄腔内で産生された抗体を確認できなかった.以上より,脳脊髄液中にSARS-CoV-2が存在する証拠はなく,long COVIDの神経症状の原因として,中枢神経系の持続的な感染は否定的と考えられた.ただしサンプルサイズが小さいこと,髄液PCRでは脳組織に潜伏感染しているウイルスを検出できない可能性もあることから,完全には可能性を否定できないと述べている.やはりlong COVIDに特異的な診断バイオマーカーの確立が望まれる.
Ann Neurol. Nov 01, 2021(doi.org/10.1002/ana.26262)



◆brain fogは入院患者の7.2%に認め,女性,発症時の呼吸器系の症状,ICU入室が危険因子である.
イランから大規模コホートにおいて,brain fogの頻度と,その発生に関わる危険因子を検討した研究が報告された.2020年2月から11月までの成人入院患者(18~55歳)を対象とした.退院から少なくとも3カ月後に電話で現在の情報を得た.2696人の患者が組み入れ基準を満たし,1680人(62.3%)がlong COVIDと考えられた.brain fogは194名(7.2%)で認められた.危険因子に関しては,女性(OR:1.4),発症時の呼吸器系の症状(OR:1.9),集中治療室(ICU)入室(OR:1.7)がbrain fogと有意に関連していた.既報でも女性とICU入室が独立した危険因子であることが示されている.女性が危険因子であることの理由を明らかにすることは次の重要なステップである.またICU入室については重症であることがbrain fogの重要な危険因子であることを示唆している.つまりより重篤な免疫反応や積極的な治療が病態に関与している可能性がある.
J Med Virol. 2021 Oct 21. (doi.org/10.1002/jmv.27404)

◆brain fogでは前帯状皮質の低代謝を呈しうる.
最新の報告ではないが,前記論文に引用されていた見落としていたlong COVID論文があったので紹介したい.Brain fogや遂行機能障害を呈し,FDG-PETにて帯状皮質の低代謝を示した2症例が報告されていた.症例1は45歳男性.2020年3月に咳,発熱で発症.徐々に記憶障害,思考の遅延,倦怠感,不安,抑うつ,無嗅覚症を呈した.10月,エピソード記憶と視空間記憶,遂行機能障害を認めた.症例2は43歳女性.2020年5月に咳,発熱,疲労で発症.8月に全身倦怠感,記憶障害,言語障害が出現した.2021年1月,エピソード記憶と遂行機能障害が明らかになった.画像検査では2症例とも頭部MRIは正常.PETでは症例1では,前帯状皮質と後帯状皮質,楔前部に,症例2では,前帯状皮質に低代謝領域が認められた(図3).前帯状皮質と後帯状皮質はさまざまな認知機能(感情,記憶,抑うつ,行動決定など)に関与しており,患者に認めた症状を説明できる可能性がある.著者はCOVID患者が認知機能障害を呈した場合,PETによる脳代謝を評価することを勧めている.
J Neurol. 2021 Jun 18:1–3.(doi: 10.1007/s00415-021-10655-x)



◆嗅覚障害は嗅覚神経や嗅球に感染していなくても,支持細胞の障害により発症する.
ドイツからの報告.死後のベッドサイドで,呼吸器粘膜,嗅覚粘膜,および嗅球を内視鏡的に採取する手術法が開発された.85症例のコホートには,SARS-CoV-2ウイルスに感染してから数日後に死亡した患者が含まれており,この期間であればウイルスがまだ複製されている間に検出することが可能であった.検索の結果,呼吸器系粘膜におけるSARS-CoV-2ウイルスの主な標的細胞は繊毛細胞であった.また嗅覚粘膜の主な標的細胞は,支持細胞(sustentacular cell)であった.また嗅覚神経細胞への感染は認められず,嗅球実質の細胞も感染してなかった(図4).このように,SARS-CoV-2ウイルスは神経向性(neurotropism)を示すウイルスではないものと考えられる.著者らはCOVID-19で嗅覚障害が生じるのは,支持細胞からのサポートが不十分となることが原因であると推測している.嗅覚ニューロンは,直接ウイルスが感染しなくても影響を受けるものと考えられる.
Cell. Nov 3, 2021.(doi.org/10.1016/j.cell.2021.10.027)





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IL-8は脳内持続炎症のマーカーとなる可能性がある ―失語症を呈したCOVID-19脳症―

2021年11月03日 | 医学と医療
当科から症例報告をご紹介します.Open accessですので自由にダウンロードできます.

Kudo, T. et al. Persistent intrathecal interleukin-8 production in a patient with SARS-CoV-2-related encephalopathy presenting aphasia: a case report. BMC Neurol 21, 426 (2021).

【要約】
81歳の男性が,COVID-19感染の数日後に,意識障害とてんかん重積状態となり当科に転院した.ステロイドと免疫グロブリン静注により改善したものの,失語・失書が明らかになった.血清および脳脊髄液中のインターロイキン(IL)-6,IL-8,MCP-1の濃度が上昇していたが,IL-2とIL-10は上昇していなかった.強力な免疫療法にも関わらず脳脊髄液中のIL-8は治療前の4倍に増加していた.

ポイントは以下の3点です.
1)血清と脳脊髄液のサイトカインの比較から脳症を合併したと考えられた.
2)COVID-19脳症では,失語・失書といった局所神経症状をきたしうる.
3)CIVID-19関連脳症では,全身の炎症に続いてIL-8を介した中枢神経系の炎症(ミクログリア活性化)が起こり,免疫療法後も持続・悪化しうる.つまり脳内持続炎症のマーカーとしてIL-8のモニタリングは,免疫療法の継続や持続を判断する際に有効である可能性がある.

先日の日本治療学会(津)で発表したスライドは以下からご覧いただけます.




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