Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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役に立った本 2011

2011年12月29日 | その他
今年,役に立った実用書を記載しておきたい.まず,プレゼンテ―ション関連の本をいくつか紹介したい.実は今年,学会などのプレゼンテーションをいろいろ工夫してみた.そのきっかけになったのはまずこの本.

ガー・レイノルズ シンプルプレゼン
同じ著者によるプレゼンテーションzenデザインもお気に入りの本だったのだが,前者のほうがプレゼンテーションのコツがよりよく分かる.退屈なパワーポイントによるプレゼンテーションからいかに脱却するかがテーマである.学会でも明らかにこの本の影響を受けたと思しきスライドを見かけることが増えた.

パワーポイント関連といえばこちらの本は衝撃的.いきなりスゴイ! PowerPoint【超実践! これ一冊で完全マスター】パワーポイントで「こんなことができるのか!」と本当に驚く.私もこの本で学んだことを発表に使ったが,注目されることは確実!

そしてプレゼンテーションの達人といえば,Steve Jobsが思い浮かぶ.定番はスティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則だが,最近出版された図解 スティーブ・ジョブスのプレゼン術もさらに実践的で面白い.いずれにしても,伝えたいことをどのように相手に伝えるか工夫することはとても大切だし,研究すると案外,楽しめる.

次は勉強法について.まずおすすめはこれ.

新しい理系キャリアの教科書―30代・理系人間は知財を武器に勝ち残れ
理系研究者・技術者にとって,知的財産権や知財戦略を理解することは,今後,不可欠の知識となると思う.それらを理解するのに最適の一冊.

そして,言葉でたたかう技術.今日1冊だけ,お薦めするとしたらこの本.著者は「過去50年、欧米人と議論や口論をして負けたことがない」そうだ.そうなるまでの留学のエピソードがおかしくもあり,また感動的.日米文化の違い,将来日本はどうあるべきかなど多彩な内容はきわめて示唆に富む.

欧米人に学会で負けないための英語を学ぶにはこの一冊.
国際学会Englishスピーキング・エクササイズ口演・発表・応答.早くこの本を知っていたら,海外での発表も楽だったはず.

学生に読むように薦めたのは,今年,テレビでも放送されたスタンフォード白熱教室の20歳のときに知っておきたかったこと.「起業家精神」を学べる本だが,若者の人生を変えてしまうようなパワーある言葉がたくさん並んでいる.

あと,私の好きな野口悠紀雄先生の本.
実力大競争時代の「超」勉強法
勉強で獲得すべきものは「伝達能力の習得」と「問題の発見と解決の能力」であると説く.

また最近気になっている星海社新書からは武器としての決断思考.ディベートの方法を理解するための必読の書.

最後におまけ.実用書以外で一番面白かったミステリーは,文句なく,ジェノサイド.お気に入りのマンガは,とても夢のある宇宙兄弟かな.



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うとうとした時,ビクッとするのはなぜ?

2011年12月17日 | 睡眠に伴う疾患
新潟ローカルのテレビの視聴者からの疑問に答えるコーナーに出演させて頂きました.前回は「アイスクリームを食べるとなぜ頭が痛くなるの?」という質問でしたが,(なぜアイスクリームで頭痛が起こるか?を参照),今回は「うとうとした時,ビクッとするのはなぜ?」でした.

答えられず,勉強しました(笑).睡眠障害国際分類第2版(ISCD-2)を読むと,Ⅶ章の「孤発性の諸症状,正常範囲と思われる異型症状,未解決の諸問題」のなかの「5.睡眠時ひきつけ(睡眠時びくつき)」,英語で言うところのsleep starts(hypnic jerks)に相当するようです.診断基準があって(!)「A.睡眠開始に短い筋攣縮が突然起こり,主として足や腕であること.B.以下の少なくとも1つを伴うこと(主観的な転倒感,閃光感,入眠時の夢).C.他の睡眠障害や身体・神経・精神疾患,薬物使用の除外」だそうです.さらに調べると起こりやすい体位があって,椅子などに座って寝ているときに起こりやすく,またカフェインの過剰摂取,激しい肉体労働,情動ストレスが誘因になるそうです.

実は私もときどき経験します.新幹線でうとうとしてビクっとなり,布団のなかで起こるときは何か床下に落下する感じがします(たしかに落下感という記載もあります).頻度については,睡眠障害国際分類第2版には60~70%と書かれていますが,たまたま昨日の私の学生講義のテーマが睡眠医学であったので学生に聞いたところ,9割以上の学生さんが経験があると答えていました.

教科書的にはあらゆる年齢に認められ,性差もないそうです.病的な意義はないものの,あまりに強いと寝入るのが怖くなって慢性的な不安を生じることもあるそうです.鑑別すべき病態として,四肢の筋収縮が周期的に生じる「周期性四肢運動症」が考えられますが,これは明らかに症状が違っていて,足の筋収縮がゆっくり反復します.自分ではあまり分からず,隣に寝ているひとからよく足を動かしているとか指摘されて気が付きます(レストレスレッグス症候群やナルコレプシー,REM睡眠行動障害に合併することも多いです).

勉強になりましたが,何のためにこの現象はあるのでしょうね?


睡眠障害国際分類 第2版(睡眠障害を勉強するのに一番良い教科書の1つと思います)
Comments (2)
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本当にパーキンソン病においてレストレスレッグス症候群の合併は多いのか ―どうもNoらしい―

2011年12月13日 | パーキンソン病
パーキンソン病(PD)とレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群;RLS)は,臨床症候はまったく異なる疾患であるが,ドパミン系を刺激する薬剤が有効であるという共通点がある.近年の研究の結果,「特発性RLSを罹患することは,将来,PDを発症する危険因子ではない」と考えられている.一方,「PDでは健常者と比較し,RLSの有病率が高い」という報告が世界各国より相次いだ.PD患者におけるRLSの有病率を紹介すると,アジアでは3~16%,ヨーロッパでは11~24%,米国では約20%と報告されている.しかし,この理由については議論があり,単純にPDでは症状としてRLSを合併しうるという可能性と,L-DOPAやドパミンアゴニストを内服した結果,augmentation(決まった日本語訳はないが,薬剤を内服しているうちにむずむず症状が増強してくる現象)が生じ,潜在的なRLS患者が症状を呈するようになる可能性の2つが指摘されている.いずれが正しいのか明らかにするためには,抗パーキンソン病薬の影響の除外が不可欠であり,抗パーキンソン病薬内服開始前の症例を対象として,RLSの頻度を検討することが有用と考えられる.しかし既報の研究はいずれも進行期の症例を対象としたため,すでに抗パーキンソン病薬を内服している症例を対象とした報告であった.今回,紹介するノルウェーからの論文は,抗パーキンソン病薬内服前の患者と,年齢・性別をマッチさせた対照群におけるRLSの有病率の頻度と,その影響因子を検討したもので,上記問題に重要な示唆を与えるものである.

方法は,抗パーキンソン病薬未服用のPD症例200名と,173名の対象群に対して,むずむず症状に関する問診・診察,血液検査を行った.対象は全例白色人種であった.RLSの診断はIRLSSGの診断基準(urge to move legs, worse at rest, worse at night, motor reliefの4項目のすべてを満たす)に従った.またurge to move legs(下肢の不快感により,下肢を動かしたいという衝動を呈する状態)を認めるものの,診断基準を満たさない場合をleg motor restlessness(LMR)と定義し,これについても検討した(この点がこの論文のミソである).

さて結果であるが,PD群では対象群と比較し,LMRの頻度が有意に高かった(81名,40.5% 対 31名,17.9%;p < 0.001).次にRLSの診断基準を満たした症例については,PD群で対照群と比較し多かったが(31名,15.5% 対 16名,9.2%),有意差は認めなかった(p = 0.07).RLSの診断基準を満たした症例からRLS mimics症例(RLSに似た症状を呈しうる他の疾患が原因である症例のこと;例えば,抗うつ薬・抗精神病薬内服,フェリチン低値,ポリニューロパチー,神経根症,関節炎など)を除外すると,RLSはPD群で21名(12.5%),対照群で12名(6.9%)となり,やはり有意差を認めなかった(p = 0.08).このことから2つの疾患は偶然合併したという結論になる.またLMRについてはPD群で26名,対照群で10 名という結果になった.RLSに関しては,PD罹患は相対危険度は1.76(95% 信頼区間;0.90-3.43, p = 0.089)で有意差なし,しかしLMRについては2.84(95% 信頼区間;1.43-5.61, p = 0.001)で有意差が見られた.PD症例で,RLSないしLMRを認める群と認めない群を比較すると,睡眠障害やうつは有意に多かったが,血液検査や運動症状,認知機能に関しては差を認めなかった.以上より,薬剤非内服の発症初期PD症例は対照群と比較し,RLSの危険率には有意な増加は見られないが(!),LMRについては危険度がほぼ3倍増加することが分かった.


ではなぜRLSには差がないにもかかわらず,LMRでは差が生じたのか?つまり,この乖離は,RLSとLMRは同一のものではないということを示唆する(同一であれば,RLSも増えるはず).つまり可能性として,LMRの原因はRLSとは限らず,PDに伴う下肢の異常感覚やアカシジアが含まれているのではないかということになる.PDに伴う異常感覚(paresthesiaやdysesthesia)はoff時に起こり,内服によるon時に軽快する特徴がある.すなわち,筋トーヌス亢進や痛みに対するドパミン作動性の制御が病態に関与している可能性が指摘されている.事実,進行期PDにおけるRLS有病率を研究したオーストリアからの報告では,RLSを認める症例の61%では,urge to move legsと異常感覚はoffに生じていた.すなわち,wearing offを認める症例のurge to move legsや異常感覚は,offで動けないことによりRLS症状が増悪する可能性(worse at rest)と,RLSとは無関係のPDに伴う異常感覚がoff時に増悪した可能性の両者があるわけである.両者の鑑別は難しいが,RLSでは特徴的な行動(動きまわるなど)を示すため,ビデオモニタリングが鑑別に有用である可能性はある.

Increased risk of leg motor restlessness but not RLS in early Parkinson disease. Neurology 77; 1941-1946, 2011

http://www.neurology.org/content/77/22/1941.abstract


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小脳型進行性核上性麻痺(PSP-C)の画像所見の経時変化

2011年12月10日 | その他の変性疾患
近年,病理学的に診断が確定した進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy: PSP)の臨床像が詳細に分析され,臨床病理学的に分類する試みが行われている.その結果,非定型的PSPは,‘cortical predominant’atypical PSPと‘brainstem predominant’atypical PSPに大別できる可能性が提唱されている(Dickson DW, et al. Curr Opin Neurol 2010;23:394-400.).われわれは病理学的に診断が確定した日本人PSP症例22名の臨床像を検討し,病初期から小脳症状を認め,かつ主徴とする一群が少なからず存在することを報告した(Mov Disord. 2009 Jul 15;24:1312-1318.).

この小脳症状を呈するPSP亜型は,欧米においてはきわめてまれである.一方,日本においては自験例を含め,少なくとも21例が症例報告されている(学会発表抄録を含む).21例の臨床像を検討すると,①男性に多いこと,②罹病期間はさまざまであること,③失調歩行を呈する症例が多いが,四肢失調を呈する症例も存在すること,④四肢失調に左右差を認める症例が存在すること,⑤ミオクローヌスを合併する症例が存在することが特徴である(Annual review神経2012, in press).病理学的には私どもが報告した小脳皮質のプルキンエ細胞のタウ陽性顆粒状封入体のほか,歯状核や上小脳脚の変性などが報告されており,これらの所見が小脳症状の出現に関与するものと推測される.一方,画像所見については,とりわけ経時変化に関する報告は乏しい.もし小脳型PSPの画像所見の特徴が分かれば臨床診断に役に立つ可能性もある.今回,小脳型PSPと診断した1例のMRIの経時変化を報告をしたので紹介したい.

症例は歩行時のふらつきにて発症した70歳代の男性.発症1年後の神経学的所見では,四肢・体幹失調を認めたが,MRIでは明らかな小脳や中脳の萎縮は認めなかった(臨床的に脊髄小脳変性症と診断された).頻回に転倒するようになった発症2年後のMRIでは,橋小脳槽の拡大,上小脳脚の萎縮を認めた.4年後では,さらに橋小脳槽の拡大が進行したが,第4脳室の顕著な拡大はなかった.PSPに特徴的な中脳被蓋の萎縮(humming bird sign)を認めたが,小脳・脳幹の信号変化はみられなかった.剖検では,歯状核の高度の変性所見とプルキンエ細胞内のタウ陽性構造物を認めた.

今回,報告した症例のMRIの特徴は,第4脳室の顕著な拡大を認めないものの,小脳・脳幹はproportionalに萎縮し,橋小脳槽が経時的に拡大していた.類似の画像所見は本邦の既報(饗場ら.神経内科 2002;56:230-233)と類似していた.以上より,まず脊髄小脳変性症が疑われながら小脳萎縮がないとき,PSPは考えるべき鑑別診断の1つであるといえる.そして橋小脳槽拡大がPSP-Cと脊髄小脳変性症の鑑別のポイントになるかもしれない.ただし,高度のOPC病変を反映し,脊髄小脳変性症類似の第4脳室拡大を呈する症例の報告もあり,画像所見は単一ではない可能性もある.今後,多数例での検討を行う必要がある.

また今回の論文では小脳型PSPをPSP-Cと記載し認めていただくことができた.今後,日本発のこのような病型をPSP-Cと呼称することを提案したい.

Masato Kanazawa, Takayoshi Shimohata, Kotaro Endo, Ryoko Koike, Hitoshi Takahashi and Masatoyo Nishizawa. A serial MRI study in a patient with progressive supranuclear palsy with cerebellar ataxia. Parkinsonism and Related Disorders: 10.1016/j.parkreldis.2011.11.011 



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