Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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皮膚筋炎の皮膚症状の見方@第35回日本神経治療学会

2017年11月17日 | 脳血管障害
さいたま市で行われた標題の学会にて,筑波大学皮膚科藤本学先生による講演を拝聴した.皮膚所見の見方について大変勉強になったのでまとめたい.

【皮膚所見の見方】
① 複数の好発部位をもれなく診察する
ヘリオトロープ疹やゴットロン徴候が有名であるが,皮膚筋炎にてこれら2つの徴候がいずれも認めない症例が約6%存在している.すなわちこれら2つの徴候のみでは診断ができないことになる.
また他の疾患で,ヘリオトロープ疹,ゴットロン徴候に類似した皮膚所見も呈しうる.前者は甲状腺機能低下症で類似の所見が見られ,後者は尋常性乾癬でも似た所見を呈しうる.
→ 以上2つの理由で,複数の好発部位をもれなく診察し,系統的に診断を進める必要がある.

② とくに「顔と耳と手指」を診察する
顔ではヘリオトロープ疹以外の皮疹にも注意する.鼻根部や鼻翼周囲(脂漏性皮膚炎様),前額部を確認する.通常の皮膚炎では所見を認めにくい耳の周囲にも皮疹が生じる.耳介の出っ張ったところに物理的刺激のために皮疹が生じやすい(ケブネル徴候).ちなみにSLEでは,寒冷刺激により耳朶に所見を呈する.

手では,爪の所見も重要である.SLEでは爪囲紅斑,強皮症では爪上皮出血点が見られるが,皮膚筋炎ではいずれも認められる.手背の丘疹状皮疹であるゴットロン丘疹や,丘疹状にならない紅斑であるゴットロン徴候が認められる.しかし,ゴットロン徴候にも様々な所見が認められる.角化が主体であるものは抗ARS抗体,丘疹性変化で炎症が強いものは抗TIF1抗体,滲出性紅斑や紫斑,潰瘍化の傾向があるものは抗MDA5抗体が陽性であることが多い.
「逆ゴットロン徴候」,すなわち関節屈側に,鉄棒を行った時にできるまめ様の所見(鉄棒まめ様所見)を認めることがある.この場合,抗MDA5抗体陽性であることが多い.一方,mechanic’s hand(機械工の手徴候)は,抗ARS抗体陽性例において認められる.

体幹では前胸部のV徴候や,肩から上背部のショール徴候,背中の掻爬による綿状の紅斑(むち打ち様紅斑)を認める.むち打ち様紅斑は掻爬によるケブネル徴候であり,診断的価値が高い.

【合併症による分類】
皮膚筋炎は「間接性肺炎と悪性腫瘍という2つの合併症」によって区別することができる.両者を合併することは稀である.

【抗体による分類】
皮膚筋炎では70%以上の症例で陽性になる.1症例において1抗体のみ陽性となることから,分類に有用で,かつ抗体の種類と臨床像は強く相関する.頻度は成人と小児で異なり,成人の場合,抗ARS抗体>抗MDA5抗体>抗TIF1抗体>抗Mi2抗体>抗NXP2抗体>抗SAE抗体の順に多い.

① 抗ARS抗体(間接性肺炎は必発)
有名な抗Jo-1抗体を含む4つの抗体の総称であり,アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)に対する抗体である(最初にJo-1抗体を測定するのではなく,まず抗ARS抗体を測定する).特徴として間接性肺炎はほぼ必発で,慢性の経過をとり,再燃を繰り返す.筋炎も再燃を繰り返す.皮膚はカサカサで,その他,レイノー現象や機械工の手徴候を認める.炎症症状を呈し,発熱,関節炎,CRP上昇を認める.CK上昇の程度はさまざま.

② 抗MDA5抗体(重症間質性肺炎タイプ)
ウィルスのRNA受容体でCADM(clinically amyopathic dermatomyositis)に多くみられる抗体.予後不良の急性進行性間質性肺炎を合併する.半数が重症で死亡例が多い.皮膚所見として逆ゴットロン徴候(鉄棒まめ様皮疹)を認める.これを認めた場合には,抗体の検査結果が出ていなくても治療を開始する,もしくは少なくとも準備を開始する.最初からステロイドに免疫抑制剤(タクロリムス,シクロフォスファミド)を併用する.IVIgは有効な印象がある.活動性のバイオマーカーとして,フェリチンや抗MDA5抗体価が有用である.CK値は2,000以下であることがほとんどである.

③抗TIF1抗体(悪性腫瘍タイプ)
悪性腫瘍を合併する.40歳以上の症例で70%に認める.皮疹が重症で,嚥下障害を合併することが多い.CK値はあまり高くなく,1000以下が多い.しかしCK値が高いほど,悪性腫瘍を合併することが多い.ステロイド抵抗性の嚥下障害に対してIVIgが有効である.

④抗Mi2抗体
筋症状の強い古典的皮膚筋炎の臨床像をとる.間質性肺炎はまれ.生命予後は悪くない.CK値は高めである.

⑤その他
抗NXP2抗体は,悪性腫瘍を合併する皮膚筋炎である.皮膚所見では石灰沈着が強い.
抗SAE抗体はTIF1抗体陽性例に症状が類似する.抗TIF1抗体陰性であればSAE抗体を疑う.

最後に皮膚筋炎を疑ったときの自己抗体の測定の手順について図に示す.



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小児交互性片麻痺とDYT12 ―家族性片麻痺性片頭痛との共通点―

2017年11月02日 | パーキンソン病
日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ)にて初めて「小児交互性片麻痺」という遺伝性疾患を知った.しかし歴史は古く,進行性核上性麻痺(PSP)を報告したJhon Steele先生らにより,1971年,8症例のケースシリーズとして初めて報告されている.私がこの疾患に関心を持ったのは,同じ原因遺伝子により,急性発症し完成する14~55歳発症のジストニア・パーキンソン症候群(DYT12)が生じることと,日本人でもDYT12症例が存在すること,そして家族性片麻痺性片頭痛(HFM)と臨床的に共通点をもつことが理由である.

① 小児交互性片麻痺(alternating hemiplegia of childhood:AHC)
現在,生後18か月以前までに発症し,一過性の片麻痺発作を繰り返す常染色体優性遺伝疾患として理解されている.100万出生に1人が発症し,日本では100名程度の罹患者がいる.頭痛を合併するため,早期の報告では比較的予後の良いFHM症例も含まれていた.

片麻痺は左右どちらでも生じるため「交互性」の名称がついた.「交代性」と書かれた文献もあるが,橋病変による顔面と対側上肢の麻痺を示す「交代性麻痺」と紛らわしいため,「交互性」が一般的に用いられる.麻痺の程度は様々で,発作は5分間くらいから1週間以上続く場合もある.片麻痺のほか,不随意運動(ジストニア,コレオアテトーシス),眼球運動異常(眼振, 非対称性眼転位, 斜視),筋トーヌス低下,精神運動発達遅滞,強直けいれん発作を呈する(ビデオ).けいれん重積,発作中の横隔膜麻痺による呼吸停止のため,死亡することがある.睡眠により症状は消失するが,覚醒して10~20分たつと症状は再出現する.画像所見では正常が多いが,小脳・大脳萎縮や海馬の高信号を呈する症例もある.

Ca拮抗薬の塩酸フルナリジンが片麻痺発作予防に有効である.しかし1999年に国内では市販が中止されたため,個人輸入で使用せざるを得ない.予防内服を中止した患者の後方視的検討で,神経学的退行が進行することが報告されていることから,退行を防止していた可能性がある.ベンゾジアゼピンや抱水クロラールによる睡眠でも症状が改善する.

Alternating Hemiplegia of Childhood - Sunna Valdís


② AHCの原因遺伝子
FHMと症状が類似するため,FHMの原因遺伝子(CACNA1A・ATP1A2・SCN1A)について検索が行われたが,一部でATP1A2遺伝子変異が見られたものの大半の症例では変異は見出されなかった.2012年,エクソーム解析にて,ほとんどの症例でNa+/K+ transporting ATPase alpha-3chainをコードするATP1A3遺伝子の変異が見出された.好発変異であるE815Kは新生児発症で重症化し,D801Nは予後が良い.この遺伝子の変異による疾患として,すでに急激発症ジストニア・パーキンソン病 (rapid-onset dystonia-parkinsonism: RDP, DYT12)が報告されていた.

③ 急激発症ジストニア-パーキンソン病 (RDP, DYT12)
RDPは発症年齢は14~55歳(10~20代に多い)で,急激にパーキンソン症状とジストニアを発症する.発熱やストレス,アルコールが発症の誘因となる.わずか2~3分から1か月で症状は完成し,以後,症状はほとんど改善せず安定することが多い.ジストニアは顔面口部に強く,パーキンソン症状は無動, 歩行障害,姿勢保持障害を示す.抗パーキンソン病薬は無効である.球麻痺,不安, うつ, てんかん発作を伴う.画像所見を含め特徴的な検査所見は知られていない.頻度は不明ながら米国, 欧州, 韓国, アフリカ系カリブ人から報告があり,日本には存在しないと考えられていたが,昨年,第1例が報告された(13歳で書字障害を呈した片側ジストニアを主徴とした).
3.23. Rapid-Onset Dystonia-Parkinsonism - Dystonias [Spring Video Atlas]


④ 小脳失調-無反射-凹足-視神経萎縮-感音難聴 (CAPOS) 症候群(cerebellar ataxia, areflexia, pes cavus, optic atrophy, and sensorineural hearing loss)
ATP1A3変異はさらにCAPOS 症候群も呈しうる(allelic disease).6か月〜5歳に発症するが,若年発症例ほど重症で,退行しやすい.発熱とともに発作が生じる.数日持続し,軽快・消失する.歩行障害, 四肢失調, 視力障害, 難聴,嚥下障害がみられ,緩徐進行性に増悪する.脳症エピソードの反復に階段状の退行を伴う.

④ これらATP1A3関連疾患の特徴
ATP1A3(Na+/K+ transporting ATPase alpha-3chain)は神経細胞に発現し(ATP1A2はアストロサイトに発現),ATPを使用し,イオン濃度勾配に逆らって細胞内のNa+を細胞外へ,細胞外のK+を細胞内へ輸送するポンプで,これにより神経細胞は膜電位を維持する.ATP1A2は上述の通り,家族性片麻痺性片頭痛2型(FHM2)の原因遺伝子である.両疾患の共通点として,急性発症,てんかん,球麻痺を呈することがあげられ興味深い.
またATP1A3は小脳に強く発現しており,中核症状の出現に小脳の回路が関係している可能性が指摘されている.ただし,ATP1A3蛋白内の異なるアミノ酸変異により,異なる表現型が生じるメカニズムはよく分かってないが,AHCで認める変異のほうが,RDPで認める変異と比べてNa/Kポンプの機能異常が強いと推測されている.以上より,Na/Kポンプの発現する細胞や変異の種類が表現型に影響することが分かる.神経内科医としては,日本人でも若年性のジストニア・パーキンソン症候群で,急性発症するタイプとして,DYT12が存在することを認識する必要がある.


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