Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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「非定型パーキンソニズム -基礎と臨床-」が発刊されました!

2019年05月22日 | パーキンソン病
非定型パーキンソニズムは進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,レヴィ小体型認知症,多系統萎縮症などのパーキンソン病に類似した症状を示す疾患群を指します.治療法の確立を目指した基礎,臨床研究ともに著しく進歩しておりますが,複雑で理解が難しいという声をよく耳にします.本書は本領域のまさにエキスパートの先生方に「将来,非定型パーキンソニズムに取り組みたいと思う臨床医,基礎研究者が増えることに貢献するような書籍を作りたい」と執筆を依頼し,ご快諾を得てできたものです(共著者の先生方に感謝いたします).

第I章総論では詳細な症候の理解や,疫学,バイオマーカー,リハビリテーション等について議論し,第II章各論では疾患ごとの歴史,診断基準,mimics,画像・病理所見,治療をご提示いただきました.さらに第III章では病態解明と治療法の確立に向けた最新情報をまとめていただきました.いずれの項目においても,今後の課題をご提示いただき,わが国から新たなエビデンスの発信に貢献することを目指しました.また専門以外の脳神経内科医やパーキンソン病患者さんの診療をされる先生方にぜひ知っていただきたい情報をふんだんに盛り込みました.ぜひご一読をいただきたいと思います.下記のリンクで内容を御覧いただきたく思います.神経学会会場では販売開始されましたし,Amazonでも予約可能です.

文光堂ホームページ
  

Amazonへのリンク 非定型パーキンソニズム

【目次】 著者敬称略
I 総 論
1.本領域における概念の変化 (下畑享良)
2.症候の理解と電気生理 (花島律子)
3.疫学,疫学研究の方法 (瀧川洋史・花島律子)
4.非定型パーキンソニズムの主な症候
 a.運動前症状と意義 (平野成樹)
 b.眼球運動障害 (廣瀬源二郎)
 c.高次脳機能障害 (大槻美佳)
 d.精神症状 (横田修・山田了士)
 e.睡眠障害/覚醒障害 (鈴木圭輔)
 f.嚥下障害 (山本敏之)
 g.コミュニケーション障害 (山田恵・下畑享良)
5.非定型パーキンソニズムの現状と課題
 a.脳脊髄液・血液バイオマーカー (春日健作)
 b.PET研究 (島田斉)
 c.リハビリテーション (松田直美・饗場郁子)

II 各 論
1.多系統萎縮症
 a.歴史,診断基準,臨床特徴,mimics (渡辺宏久)
 b.画像診断(コネクトームを含む) (原一洋・勝野雅央)
 c.病 理 (他田真理・柿田明美)
 d.治 療 (三井純)
2.進行性核上性麻痺
 a.歴史,臨床像,診断基準,mimics (饗場郁子)
 b.画像診断 (櫻井圭太・徳丸阿耶)
 c.病 理 (吉田眞理)
 d.治 療 (林祐一・下畑享良)
3.大脳皮質基底核変性症
 a.臨床像,診断基準,病型,mimics (下畑享良)
 b.画像診断・検査所見 (徳丸阿耶・村山繁雄・櫻井圭太)
 c.病 理 (古賀俊輔)
 d.治 療 (藤岡伸介・坪井義夫)
4.神経変性タウオパチーの分子遺伝学と臨床病理 (池内健)
5.Globular glial tauopathy (岩崎靖)
6.レヴィ小体型認知症 
 a.歴史,臨床像,診断基準,mimics (足立正・和田健二)
 b.画像診断・検査所見・治療 (馬場徹)
 c.病 理 (藤城弘樹)
7.正常圧水頭症
 a.歴史,臨床像,診断基準,画像所見,治療 (大道卓摩・徳田隆彦)
 b.病 理 (豊島靖子)

III 病態解明と治療法の確立に向けて
1.治療戦略 
 a.治療戦略オーバービュー (馬場孝輔・望月秀樹)
 b.αシヌクレイン (長谷川隆文)
 c.タウ蛋白 (下沢明希・長谷川成人)
 d.プログラニュリン (細川雅人)
 e.自己免疫 (木村暁夫)
2.動物モデル
 a.αシヌクレイン (矢澤生・佐々木飛翔・金成花)
 b.タウ蛋白 (佐原成彦)
3.臨床試験デザイン (橋詰淳・鈴木啓介)






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燃え尽き症候群を防ぐためのリーダーシップ教育(スライド)

2019年05月20日 | 医学と医療
5月23日(木)大阪国際会議場にて行われるシンポジウム「脳神経内科医の燃え尽き症候群を防ぐための対策と提言」で使用するスライドです.十分な討論の時間を確保するため,発表時間は8分と短くなっています.下記スライドは発表用に短縮する前のフルバージョンです.昨年から書籍や通信教育で勉強を行い,複数の知人にも意見をいただき完成させました.ぜひご覧いただき,当日の議論に加わっていただければありがたく存じます.どうぞ宜しくお願い申し上げます.

脳神経内科医の燃え尽き症候群を防ぐための対策と提言
2019年5月23日(木) 08:00 〜 09:30 第5会場 (大阪国際会議場10F 会議室1005-1007)
座長:吉田 一人(旭川赤十字病院神経内科), 海野 佳子(杏林大学医学部脳卒中医学教室)

[1] 燃え尽き症候群の基本的知識と対策
久保 真人 (同志社大学政策学部)

[2] 女性医師における燃え尽き症候群(アンケート解析と提言)
饗場 郁子 (東名古屋病院 神経内科)

[3] 大学医師における燃え尽き症候群(アンケート解析と提言)
小川 崇, 横山 和正, 服部 信孝 (順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科)

[4] 一般病院における燃え尽き症候群の状況と提言
柏原 健一 (岡山旭東病院 脳神経内科)

[5] 神経学会キャリア形成促進委員会からの提言
武田 篤 (仙台西多賀病院 脳神経内科)

[6] 燃え尽き症候群対策としてのリーダーシップ教育
下畑 享良 (岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野)



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「メチル水銀暴露による血管障害」についての総説

2019年05月19日 | 医学と医療
私は新潟大学脳研究所在籍時,新潟水俣病患者さんの診療,認定審査,そして後遺症であるしびれや痛みに対するプレガバリンの効果を検証する臨床試験に取り組んだ.これら新潟水俣病の歴史と現状を次代に伝える必要があると考え,岐阜大学で新潟水俣病の講義を行った.地域的に馴染みが薄く,かつ過去の病気と考えていた医局の先生方は今なお後遺症に悩む患者さんは多い状況,認定審査が続いている状況に驚いていた.実はメチル水銀中毒(水銀汚染)は中国,ブラジル,東南アジアなどの発展途上国で,金採掘に伴い散発的に生じている.また魚介類摂取に伴う低濃度曝露が胎児や小児に悪影響を及ぼす可能性や,成人でも心疾患や動脈硬化のリスクとなる可能性も指摘されており,メチル水銀中毒は古くて新しいテーマと言える.

私たちはメチル水銀の中枢神経障害メカニズムと治療アプローチを約10年にわたり検討してきた.新潟を離れ,研究を後進に引き継いだため,ともに研究に取り組んだ高橋哲哉先生と,これまでの研究の総括となる「メチル水銀暴露による血管障害」に関する総説をInt J Mol Sci誌に発表した. 下記リンクからアクセスいただき,ご一読いただければ幸いである(オープンアクセス).以下に要点を記載したい.

要点
1)メチル水銀は中枢神経に重大な障害を引き起こす.メチル水銀は血液脳関門を通過するが,その通過は,主に血管内皮細胞膜上に存在するLAT1(L-type amino acid transporter 1)を介する能動輸送により行われている.

2)少量であっても長期間のメチル水銀暴露は,血管内皮細胞障害を生じ,心疾患や動脈硬化の危険因子となる可能性を示唆する複数の研究が報告されている.

3)メチル水銀による血管障害の機序として最も議論されてきたものは酸化ストレスであり,これに続発する神経炎症も関与する可能性が指摘されている.

4)メチル水銀暴露により,血管内皮増殖因子(VEGF)の発現が誘導されることが,in vivoおよびin vitroの実験系において報告されている.私たちはメチル水銀中毒ラットモデルを用いた検討で,このVEGF発現誘導を証明した(Takahashi et al. PLOS ONE 2017).図(a)はメチル水銀中毒ラットでは小脳の血液脳関門が破綻して透過性が亢進していることを示し,図(b)は小脳アストロサイトに強いVEGF発現が見られることを示す.メチル水銀中毒における小脳の選択的障害にVEGF発現が関与している可能性が示唆された.

5)以上の知見は,メチル水銀の中枢神経移行を引き起こす血液脳関門障害を抑制する血管保護療法,そして酸化ストレスの抑制が,メチル水銀中毒(急性中毒)に対する治療戦略となるものと考えられる.

Takahashi T and Shimohata T. Vascular Dysfunction Induced by Mercury Exposure. Int.J.Mol.Sci.2019,20(10),243








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脳神経内科医は人工知能(AI)に取って代わられるのか?@AAN2019

2019年05月13日 | 医学と医療
米国神経学会年次総会@フィラデルフィアのPlenary Session(学会員全員が集まるセッション)のひとつに,2名の演者が議論を戦わせるControversies in Neurology Plenary Sessionがある.3つのトピックスが議論されたが,そのなかの1つが「将来,脳神経内科医は人工知能(AI)に取って代わられるのか?」という議論であり,参加者の関心が大きく,会場は大いに盛り上がった.

【脳神経内科医は負けないとする立場】
まずペンシルバニア大学Joseph Berger教授が,脳神経内科学は放射線診断学,病理学,皮膚科学のようなパターン認識が重要なウェイトを占める診療科ではないこと,脳神経内科学は問診や診察の過程での「人としてのつながり」が重要であること,とくに患者さんへの共感(empathy)やいたわり・思いやり(compassion)の気持ちが重要で,それは決してAIに取って代わられるものではないことを根拠として挙げられた.さらにbad newsを患者さんに適切な方法で告げることはAIにはできるものではないと主張された.むしろAIの役割は,検査や文献情報などの情報の提供により脳神経内科医を支援し,その結果,生じた時間的余裕を脳神経内科医は患者さんと接する時間に当てるべきだと述べた.結論として,「決して我々がAIに取って代わられることはない!」と述べ,大きな喝采を浴びた.

【AIに取って代わられるとする立場】
つぎにJohns Hopkins大学のDavid Newman-Toker教授による発表が行われた.明らかに不利と思われる雰囲気の中でプレゼンを開始されたが,2つの主張は多くの脳神経内科医を考えさせるものであった.まず神経診察で評価するような細かな手足の運動や眼球運動を認識し,かつ正確に定量する技術がすでに開発されている実例を動画で示し,すでにAIが医師による神経診察に取って代わるだけの状況にあることを指摘した.つぎに(A)脳神経内科医の偏在が米国内,国外を問わず顕著であるデータを示し,適切な脳神経内科医療にアクセスすることが現状では困難な患者さんが多数いること,また(B)アクセスできたとしてもとくに救急医療を中心に少なからぬ誤診が生じている状況をデータとして示され,このような現状を考えれば,AIが脳神経内科医に一部代わって診療に関わるべきではないかと主張をされた.うーんと唸ってしまうほどの説得力があり,議論がかなり引き戻された印象を持った.

【さて軍配は?】
両者のプレゼン後,いずれに軍配が上がるか,アプリを使用した投票が行われた.結果は投票者の66%対34%で,「脳神経内科医がAIに取って代わられることはない」という判断が多かった.しかし 3人に1人はAIに取って代わられる可能性があると考えたということのほうが印象的だった.

実は私が編集委員を務める「Brain and Nerve」誌の7月号増大特集は「神経学と人工知能」であり,そのあとがきを執筆するため,原稿を先に拝見させていただいた.神経学領域における人工知能研究の進歩は驚くべきものだと改めて思った.このような情報を知れば,投票結果もさらに変わるものと思われる.いずれにしても今回の議論は脳神経内科医の守るべきものと変えていくべきものを考える良い機会になった.今後,AIをどのように使用して患者さんのために役立てていくか,まずは人間がしっかりと知恵を絞る必要があるだろう.



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医師の燃え尽き症候群を防ぐための対策と提言(3) ―リーダーシップ教育の重要性―

2019年05月12日 | 医学と医療
米国神経学会年次総会(AAN2109)@フィラデルフィアに参加した.学術プログラムと並行して,Lead Wellと呼ばれるリーダーシップ教育プログラムを開催していた.このリーダーシップ教育は,今後,日本の医学部や医療においても積極的な導入が望まれるため紹介をしたい.

【なぜリーダーシップ教育に取り組むのか?】
なぜ米国神経学会がリーダーシップ教育に取り組んでいるのか?それは,バーンアウト対策のひとつとして必要であるためである.バーンアウト対策には(1)個人レベルで行うもの,(2)組織として行うものがあるが,前者において重要なものがレジリエンス(resilience:さまざまな環境・状況に対しても適応し,生き延びる力)を向上する工夫であり,後者において重要なものがリーダーシップ教育である.

【リーダーシップに関する誤解と学び】
しかしリーダーシップには多くの誤解がある.それは組織の責任者にのみ求められるものではなく,個々人にもとからの資質として備わっているものでもない.組織のメンバー全員に求められるもので,かつ学問として学ぶことができるものだ!知っておくべき有名なリーダーシップとしては,変革のリーダーシップ(transformative leadership),サーバント・リーダーシップ(servant leadership),EQリーダーシップといったものがある.書店ではたくさんの書籍があるし,MBAの通信プログラムでも学ぶことができる.私もそのようにして勉強をしている.

【米国神経学会の取り組み】
米国神経学会に話を戻す.この学会はリーダーシップ教育に関する複数の小委員会を整備している(図).変革のリーダーシップのような基本的なもののほか,女性医師,diversity,レジデント,医学生を対象としたリーダーシップ教育に取り組んでいる.年次総会で行うプログラムのほか,機会を別にしてLeadership Universityと呼ばれる集中トレーニングを,メンバーを募集して行っている.

【ジェンダーギャップにリーダーシップで立ち向かう】
学会長(プレジデント)であるRalph L. Saccoマイアミ大学教授による本年度の会長講演において,「女性のリーダーシップ教育をさらに推進し,女性メンターを増やし,脳神経内科領域におけるジェンダー不平等の解消を目指す」ことを目標の一つとして掲げられ,大きな喝采を浴びた.日本ではときどき「委員会の構成員の何%は女性にする」といったルールを耳にするが,それでジェンダーギャップが解決できるほど問題は簡単ではないだろう.十分な時間とエネルギーをかけて教育を行い,人材を育てる必要があることを改めて考えさせられた講演であった.

【日本神経学会シンポジウム】
日本の医学界におけるリーダーシップ教育の遅れを痛感したが,第60回日本神経学会学術大会の燃え尽き症候群シンポジウムにおいてリーダーシップ教育に取り組む必要性について講演を行う機会をいただいた.ぜひ多くの先生方にご参加いただきたい.




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医師の燃え尽き症候群を防ぐための対策と提言(2)

2019年05月05日 | 医学と医療
「医学のあゆみ」誌では「医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)をふせぐためには?―脳神経内科領域の取り組みから学ぶ―」というタイトルで,計10回にわたり,議論を行ってきた.そのなかで個人的に重要と思われた点について列挙する.シンポジウムに参加される方はぜひご確認いただきたい.

【バーンアウトを巡る状況】
1)燃え尽き症候群とバーンアウトは異なる.前者にはやり切った感のイメージが背景にあるのに対して,後者にはそれがない.議論する医師の状況は「バーンアウト」である.

2)海外で医師のバーンアウトに関する研究論文が急増した背景には,医師のサービス業および経済的な側面が重視されるようになり,ストレスフルな職業に変化したためと考えられる.

3)海外,とくに米国神経学会が行っている変革,つまり個人がさまざまなストレスから身を守るためのレジリエンスを鍛える試みや,リーダーシップ教育は本邦でも積極的に取り入れていくべきである.

4)本邦ではようやく医師の過重労働が注目されるようになったものの,バーンアウトについてはほとんど注目されていない.

【バーンアウト対策】
1)若手医師はバーンアウトのリスクを理解して研鑽を積むこと,組織からの支援として,診療の自主性(autonomy)を持たせること,および専門性向上の機会を与えることが有益である.

2)急性期病院におけるバーンアウト対策は,個人でできるものは限られ,病院や地域,国レベルでの対策を要する.

3)大学医師のバーンアウト防止も個人の努力では限界があり,教授等がリーダーとなり組織内で十分な検討を行うこと,そしてリーダーシップ教育が必要である.

4)女性医師のバーンアウトでは個人要因と環境要因があり,後者では我慢が美徳とされ,育児や介護は女性が行うのが当たり前とされる日本独特の文化や,米国と同様に,医局や職場の中で生じるハラスメントがある.

5)脳神経内科医にバーンアウトが多い要因として,医師数と比べて患者数が多いこと,他者の人生に濃密に関わる必要があること,その一方で急患対応が多いこと,書類が多いことがある.

6)それぞれが「自らの幸福とはなにか」を理解することがレジリエンスの強化,バーンアウトへの対策になる.

7)地方で勤務する若手医師のバーンアウト防止に医局の役割は大きく,①経済的保障,②地方診療に貢献した若手を,優先的に都市部の病院に戻す仕組み,③研究留学等を優先的に配慮する仕組み,④学会研究会での役割や発表機会を積極的に与える仕組みをつくることが挙げられる.

8)バーンアウトは精神医学の立場からは正式な診断名ではなく,うつ病のように重度の機能障害を呈する精神疾患から,軽度の機能障害を呈するものの精神疾患とは言えない状態まで含む幅広い概念である.バーンアウトをした医師のほとんどが後者に含まれ,機能障害は軽いため,休むこともなく業務はするものの,脱人格化に陥っている.上司はどのように対応し,労働環境を変えるべきかが分からなくなり,精神科医に相談を行う.精神科医が関わるのはこのようなケースと,重度の機能障害を呈する精神疾患を背景としたケースである.

9)バーンアウトの3症状「情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の低下」は同時に,並列に生じるものではない.つまり「情緒的消耗感」の段階から,患者さんに対して非人間的な対応をとり,無関心や思いやりに欠ける言動などをする「脱人格化」に至るには「職業人・人間としての倫理観」という大きなストッパーがある.すなわち,このストッパーが機能している情緒的消耗感を呈している早期の段階(Burning out)にある医師を見出し,介入を行い,Burned out,さらには重度の機能障害に進展することを防止するためのさまざまな対策が必要である.

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医師の燃え尽き症候群を防ぐための対策と提言(1)

2019年05月04日 | 医学と医療
5月22日-25日に開催される第60回日本神経学会学術大会@大阪で,昨年に引き続き, 燃え尽き症候群に関するシンポジウムを,饗場郁子先生(東名古屋病院)とともにご提案させていただいた.昨年のシンポジウムの反響は非常に大きく,さまざまな立場から多くの感想を頂いたり,「週刊医学界新聞座談会」や「医学のあゆみ」誌で連載が行われたりと,問題提起としての意義は十分果たしたものと考えている.今後の課題は「この問題を多くの仲間が共有し,対策につなげ,実際に医師を燃え尽き症候群に至らせる環境,要因を変えていくか」である.

本年度のシンポジウムは標題をタイトルとし,各演者には「対策と提言」をお考えいただいた.まず,燃え尽き症候群の基本的知識と対策について,この領域の草分け的存在である同志社大学政経学部久保真人教授にご解説いただく.その後,昨年度のアンケートを踏まえ,女性医師ないし大学病院における燃え尽き症候群への対策と提言を,饗場郁子先生(国立病院機構東名古屋病院),小川崇先生(順天堂大学医学部脳神経内科)にしていただく.さらに本年度は,一般病院における燃え尽き症候群を柏原健一先生(岡山旭東病院神経内科)にご講演いただく.加えて,日本神経学会キャリア形成促進委員会から武田篤委員長にご提言を頂いたのち,燃え尽き症候群対策としてのリーダーシップ教育を私が解説する.学会員を含めた突っ込んだ議論が必要と考え,総合討論の時間を長めに設定した.吉田一人先生(旭川赤十字病院脳神経内科)と海野佳子先生(杏林大学脳卒中医学)の司会で,具体的な対策・提言を目指したいと考えている.日時は23日(木)朝8時,ぜひ多くの学会員やマスコミの方々のご参加をお願いしたい.みんなで議論し,知恵を結集して,医師を燃え尽き症候群に至らせる環境・要因を変えていきたいと思う.

なおブログの2回めは,上述の座談会や「医学のあゆみ」誌における連載を通して分かった点について解説を行い,3回目は時間が足らないため十分に説明することができないと考えられる私の講演「リーダーシップ教育」について説明したい.


写真は昨年度のシンポジウムの様子.


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