Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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なぜ脳梗塞患者に組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)投与が間に合わないのか?

2005年02月27日 | 脳血管障害
近い将来,本邦でもt-PA静注が認可される.欧米の報告では脳梗塞患者の半数程度が3時間以内に病院に到着しながら,その1-7%にしかt-PA投与が実際に行われなかったという報告もあり,実際に,t-PAの恩恵にあずかる脳梗塞患者がどの程度いるのかというと案外少ないのではないかと思われる.
今回,Spainより「なぜt-PA投与が間に合わないのか?」について検討した研究が報告された(大学病院1施設によるprospective study;期間は2002年4月からの1年間).これによると486名の脳梗塞患者がERに運ばれ,218名が3時間以内に搬送されていた(44.8%;到着までの平均時間は68.6±46.4分).病院到着からCT撮影までは105±134分(2-1551分).ERでの診断は脳梗塞66.5%,脳出血16.5%,TIA 17%であった.病院到着から神経内科医へのコンサルトまでに162±234分.コンサルトを受けて診察するまで27±14分(2-1551分)であった.
実際にt-PAが使用されたのは15名(全体の7%).この理由は218名中,t-PAの適応を満たしたのが54名のみで(除外項目としてTIA,80歳以上,最近の出血の既往,NIHSS>22 or <5など),適応を満たしながら使用できなかったのは39名であった.重要なのはこの39名の内訳であるが,24名が神経内科医へのコンサルトの遅れで最多.2名がCT撮影の遅れ,1名が患者の拒否(病態失認の患者であった.現行の規則では意識のある患者では本人の同意が必要),そして残り12名の理由は様々で,診断がなかなかつかなかったなど医学的な問題である.本研究は非常に示唆に富む論文である.まずt-PAの適応を満たす患者が案外少ないことが分かる.また病院到着からCT撮影までの時間が非常に長いことも分かる(救急担当医と放射線科の問題).神経内科医もt-PAの適応に十分精通できていない状況も伺える.本研究を発表した病院は,それでもt-PA投与に関心を持って一生懸命取り組んでいる病院と思われる.実際に自分達の場合を考えてみるともっと状況は悪いかもしれない.t-PA静注は神経内科医を含めた病院全体の力量を試すものと言えよう. Neurology 64; 719-720, 2005 

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上半身を直立姿勢で眠らねばならない球脊髄性筋萎縮症

2005年02月25日 | 運動ニューロン疾患
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)における喉頭痙攣についてドイツより報告された.この喉頭痙攣は突然出現し,空気が内側にも外側にも動かない感覚が数秒間続くそうで,その後に喘鳴が出現する.この病態は胃食道逆流や睡眠に伴って認められることや,気管内挿管中や挿管後に認められることもあるそうだ.ALSでも喉頭痙攣を認めたという症例報告がある.
この研究の対象は49名のSBMA患者で(当然全例男性),実に23例(47%)に反復性の喉頭痙攣を認めた(診断は詳細な問診により行っている).喉頭痙攣はSBMAの病期にかかわらず出現していた(進行期に多いというわけではない).喉頭痙攣の有無で2群に分けて比較しても臨床的にもCAG repeat数においても有意差を認めなかった.頻度については,多い患者で日に1~3回,少ない患者で年1~5回と様々であった(しかし頻度と発症年齢,罹病期間,CAG repeat数との間に相関なし).出現しやすい時間帯はとくになし.問診では喉頭痙攣の感覚はのどに何かがつかえたときのものとは明らかに異なると言い,胸部などの痛みは伴わなかったが,いずれの患者も生命の危険を感じていた.抗鬱薬や安定剤は無効で,治療によって改善した症例はなかった.ただし発作時には上半身を直立の姿勢にし,ゆっくり呼吸をしているとこの発作時間が短くなることを経験的に知っていた.一方,ALSでも同様の調査を行ったが,喉頭痙攣の頻度は147名中3名(2%)であった.
以上の結果より,喉頭痙攣は運動ニューロン疾患であれば認められるというのではなく,SBMAに特徴的なものらしい.しかも病期にかかわらず出現していることから神経変性プロセスと密接な関係があるという病態でもないようだ.著者らは嚥下・逆流に関わるニューロンもしくはreflex circuitが特異的に障害され,fasciculationを起こしているのではないかと推測している.実は私も「夜,息ができないような感じになって眠れない」と訴えた患者を担当したことがある.呼吸器・循環器系に異常は認めず,診断がつかなかった.驚くべきことに布団に寝ると良くないといって,リクライニングベッドがないので,自動車のなかで上半身を直立させた姿勢で寝ていると言っていた.奇妙なことを言う人だと思ったが,今考えると喉頭痙攣だったのかもしれない.

Neurology 64; 753-754, 2005
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多発性硬化症において視神経炎で発症した症例は予後が良いのは本当か?

2005年02月23日 | 脱髄疾患
Clinically isolated syndrome(CIS) は,「最初のエピソードからなる症候群」と邦訳されるが,MSの早期の臨床的なエピソードと考えられ,具体的には①視神経炎,②脳幹症候群,③脊髄炎,④その他(hemisphericもしくはpoly-regional)からなる症候群である(Neurology 53:1184,1999).よって時間的空間的多発性を証明できていないためMSではないものの,今後,MSに移行する可能性がある状態を指す.これまで視神経炎で発症した症例は予後が良いとの報告がある一方,臨床的・画像的検討から予後の違いを見出せないとの報告もあった.
今回,SpainよりCISの症状の違いによりsecond attackの頻度が異なるか,また画像所見上その後の経過に違いが見られるかについての研究が報告された.方法としてはCIS 320症例を平均39ヶ月間経過観察し,初回発作から3ヶ月以内と,さらに12ヵ月後にMRIを評価した.結果として,CISのタイプの内訳は①視神経炎123名,②脳幹症候群78名,③脊髄炎89名,④その他30名であり,各群間で年齢,性別,罹病期間に有意差はなかった.最初のMRIにて異常所見を認めなかったのは全体では33%,分類別では①視神経炎49.2%,②脳幹症候群24%,③脊髄炎24%,④その他18.5%で,視神経炎の場合,有意にMRI異常の合併は低率であった.Clinically definite MSへのconversionは全体で111名において生じ(34.7%;平均19.8ヶ月,中央値13.9ヶ月),分類別では①視神経炎36.6%,②脳幹症候群57.7%,③脊髄炎49.4%,④その他63.3%であった.さらにMRI上,McDonald基準の空間的多発を満たした割合も視神経炎では有意に低かった.しかし,初回発作時にMRI異常を認めた症例のみで各郡を比較してみると,臨床的・画像的に有意差を見出せなくなった.
以上の結果は,視神経炎で発症したCISはMSへのconversionの率が有意に低いことを確認したものであるが,CISの症状に加え,初回MRIでの異常の有無も,予後を予測する上で重要であることを明らかにした.

Ann Neurol 57; 210-215, 2005
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末梢神経障害を認めない成人発症異染性白質ジストロフィー

2005年02月22日 | 白質脳症
異染性白質ジストロフィー(MLD)は,ライソソーム酵素の一つであるarylsulfatase Aの欠損により,その基質であるスルファチドが,脳・腎などに蓄積する疾患で,臨床的には白質ジストロフィー・末梢神経障害を呈する.スルファチドの蓄積を反映してトルイジンブルーで異染性を示す顆粒が神経細胞,グリア細胞,末梢神経ではSchwann細胞内に認められる.遺伝子座は22q13.31-qterに存在し,遺伝形式は常染色体劣性遺伝である.病型は,乳幼児型,若年型,成人型に分類される.成人型 は集中力低下・知能低下・情緒失禁・精神症状などを呈し,統合失調症と間違われることもあるが,神経伝導速度が著明に低下する (20 m/sec 前後)ことや凹足などの足の変形の存在が鑑別診断上,重要なヒントとなることがある.
しかし,今回,臨床的・電気生理学的に末梢神経障害の合併を認めないMLD症例が報告された.この女性は30歳ごろよりapathyにて発症し,以後,進行性痴呆と行動異常が増悪した.神経学的に末梢神経障害を疑う所見はなく,神経伝導速度も正常.腓腹神経生検でもMLDに特徴的な所見は認めなかった.MRIではT2WIにて大脳白質のhigh intensityを認めた.末梢血白血球arylsulfatase A活性は欠損していた.遺伝子診断ではARSA遺伝子(arylsulfatase Aをコードする)のexon3において新規のミスセンス変異(F219V)を認めた.この変異を導入した発現ベクターをBHK細胞に一過性発現したところ,arylsulfatase A活性は通常の1%未満であった.
以上の結果は,末梢神経障害を合併しないMLDが存在することを示している.通常,伝速異常を認めない時点でKrabbe病やMLDの可能性をあまり考慮しなくなってしまうが,白質ジストロフィーを疑ったら,ライソソーム酵素の測定は念のために行っておいたほうが無難と言えそうだ.

Arch Neurol 62; 309-313, 2005

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ハンチントン病モデルマウスにおける糖尿病の発症機序

2005年02月21日 | 舞踏病
ハンチントン病(HD)モデルマウスとして,Bates 等が作成したR6/2がある.このマウスはヒトHD遺伝子のexon 1(150 CAG repeatを含む) を導入したトランスジェニック(Tg)マウスであり,ポリグルタミン病における核内封入体の発見の契機となった有名なTgマウスである.このマウスは不思議なことに耐糖能異常を呈することが知られている.また実際にヒトのハンチントン病でも10-25%に耐糖能異常が存在するという報告があるり(Lancet 24; 1356-1358, 1972).
今回,SwedenよりこのR6/2マウスの耐糖能異常に関する研究結果が報告された.まず12w(ヒトでは進行期に相当する)の時点で,wild typeと比較し,低インスリン血症を伴う高血糖が認められ,経静脈的に行った糖負荷テストにてインスリン分泌低下が存在することを確認した.病理学的に膵島細胞を調べたところ,huntingtinによる封入体が,とくにβ細胞において経時的に,劇的に増加することが分かった.またβ細胞は通常,加齢とともに増加するが,R6/2マウスではこの増加が見られなかった(12wの時点で,β細胞と膵臓インスリン含量はwild typeと比較し,それぞれ35±5%,16±3%であった).またβ細胞には異常な細胞死は認められなかったが,通常認められるはずの分裂細胞が認められなかった.さらにパッチ・クランプテストの結果,電気的異常を認め,β細胞においてexocytosisの異常が存在することが分かった(インスリンを含む分泌顆粒のexocytosisが96%減少していた).
以上の結果はR6/2マウスにおける耐糖能異常が,β細胞の複製の障害による減少と,インスリン分泌顆粒のexocytosisの障害というふたつの原因で生じていることを示している.今回の研究ではその発症機序までは明らかにされていないが,膵機能障害がβ細胞の細胞死によって生じたのでないという点は非常に興味深く,神経細胞変性の病態機序の解明に役に立つかもしれない.

Hum Mol Genet 14; 565-574, 2005 

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新生児低酸素脳症に対して初めて有効性が証明された治療とは?

2005年02月20日 | 脳血管障害
 分娩1000名につき1~2名程度の割合で,虚血性低酸素脳症が生じると言われているが,これまでその予後を改善する治療法はなかった.今回,新生児低酸素脳症に対する低体温療法のRCTが報告された(多国間・多施設共同研究).今回の方法は通常の全身冷却による冷却だけでなく,cooling capを用いて頭部冷却を行っている点が特徴的である(the CoolCap studyと命名).対象は脳波異常を伴う中等症から重度の新生児低酸素脳症234名(満期産児)で,無作為に低体温療法群(116名)と通常の治療群(118名)に割り付けた.低体温療法は出産後6時間以内に開始し,72時間継続,直腸温を34-35℃に保った(いわゆるmild hypothermia).臨床的評価は18ヶ月の時点で行い,intension to treatに解析した.さらに治療群は予め痙攣発作の有無や脳波異常の程度から重症群と中等症以下の群に分類し,低体温療法の効果を検討した.
 結果としては,解析に適さなかった16名を除いた218名において,通常の治療を行った110名中73名(66%)が死亡,ないし重度の障害を認めたのに対し,低体温療法群は108名中59名(55%)に死亡,ないし重度の障害を認めた(オッズ比0.61; 95%CI 0.34-1.09, p=0.1).脳波の重症度を考慮したロジスティック回帰モデルを用いて,ようやくオッズ比0.57; 95%CI 0.32-1.01, p=0.05となった.合併症に関しては両群間で差を認めなかった.脳波の重症度により2群に分けてサブ解析を行うと,低体温療法は重症群では効果を認めなかったものの(n=46, 1.8; 0.49-6.4, p=0.51),中等症以下の群では有意に有効であった(n=172, 0.42; 0.22-0.80, p=0.009,ARR 0.18).
 以上の結果は,低体温療法は重症例を除けば,低酸素脳症に対して明らかにneuroprotectiveな治療であることを示している.現在,本研究以外に3つのRCTが進行中で,来年にはメタ解析も可能になる.本治療は技術的には比較的容易であり,新生児低酸素脳症の発症率が高い発展途上国でも十分可能であることから,今後,新生児低酸素脳症の治療のスタンダードとなる可能性が高い.

Lancet 365; 663-670, 2005

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小脳失調とジストニアを呈する遺伝性疾患の鑑別

2005年02月19日 | 脊髄小脳変性症
発作性失調症2型(episodic ataxia 2; EA2)やSCA6の原因遺伝子であるCACNA1A遺伝子(P/Q-type Ca channelをコードする遺伝子)の新規遺伝子変異により,成人発症のジストニアが生じることが報告された.異なる家系に由来するに2症例の検討であり,ひとつは常染色体優性遺伝と考えられる4世代にわたる家系,もうひとつは弧発例である.表現型に関しては,1例は15歳で発作性小脳失調にて発症し,59歳で右側頚部・上肢のジストニアを発症している.もう1例は5歳で発作性小脳失調を発症し,47歳で両側眼瞼攣縮を呈した(これは偶然の合併の可能性も否定できない).ともにジストニアは発作間欠期にも認められた.CACNA1A遺伝子検索の結果,前者では4963C→T(Q1561X;ナンセンス変異),他方は3772delC(フレームシフト変異;下流にストップ・コドン出現)を認め,ともにP/Q-type Ca channel 蛋白のtruncationを来たす変異であった.治療としては前者ではクロナゼパム・カルバマゼピンが行われジストニアには有効であったが,小脳症状が増悪した.頚部ジストニアにはボツリヌス毒素注射が有効であったが,のちに効果は減弱した.後者でもボツリヌス毒素が使用されたが,繰り返し行うことで効果は減弱した.
ジストニアを合併する遺伝性脊髄小脳失調症としてはSCA3,SCA6,SC7などが知られているが,今後,EA2も鑑別に加える必要がある.

Arch Neurol 62; 314-316, 2005 

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セリエAのサッカー選手は筋萎縮性側索硬化症(ALS)になりやすい?

2005年02月18日 | 運動ニューロン疾患
 ALSの危険因子として,加齢,男性,外傷,金属への曝露(地下水の金属イオン濃度),喫煙,重労働,植物種子の摂取などが知られているが,確実な根拠となるものは見出されていない.今回,イタリアのサッカーリーグであるセリエAおよびセリエBでプレーをするサッカー選手ではALSの罹病率が高いという調査が報告された.なぜこのようなことが調べられたかというと,イタリアサッカー界の一部で非合法薬剤が使用されていることが問題になった時期があり,検察官Raffaele Gfuariniello氏によりサッカー選手の死因調査が行われたことがある.その結果,1960年から1996年における24000選手のうち,死亡者は375名で,うち8名でALSが死因であったという報告が存在していたためである.ただしこの報告はコーホート選択に関してbiasがかかっている可能性があり,今回,再調査が行われたわけである.結果として1970年から2001年にセリエAないしBに所属した7325名を対象とし(137078人年の経過観察期間),5例のALSを認めた(実際には18名いたが,イタリア人でないケースや1970年以前にプレーしていたケースは除外している).平均発症年齢は43.3歳と若く,うち3症例は球麻痺にて発症.一般のイタリア人統計におけるALS罹病率を用いて罹病率比(SMR; standardized morbidity ratio)を計算すると6.5(95%CI; 2.1-15.1)であった.発症年齢別に見ると49歳以前の発症ではSMRは7.5(95%CI; 2.0-19.2)と高くなり,さらにプレーした期間が長いほど高くなった(5年以上のプレーヤーではSMR 15.2(95%CI; 3.1-44.4)となった).以上の結果,イタリアにおけるプロサッカープレーヤーはALSに罹患しやすいという結果となった.
 この原因として著者らは4つの仮説を挙げている.①単に重労働が発症に関与したもので,サッカー特有の危険因子があるわけではない,②サッカー特有の外傷(例えばヘディングなど)が発症に関与した,③当初心配された非合法薬剤や,治療薬などの使用が発症に関与した,④グランドの化学肥料や除草剤が関与した,の4つである.今後,サッカー選手の環境因や薬物使用なども詳しく検討したprospective studyが必要であると締めくくっている.

Brain 128; 472-476, 2005

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本態性振戦の原因遺伝子の発見

2005年02月17日 | その他の変性疾患
 本態性振戦の原因には遺伝・環境・代謝など様々な因子の関与が指摘されている.遺伝に関しては常染色体優性遺伝形式を呈する家系が報告されており,遺伝子座位として3q13(ETM1),2p24.1(ETM2),さらにいずれの遺伝子座位にも連鎖しない家系が報告されている.これら遺伝性本態性振戦の特徴は,家系内もしくは家系間で臨床像はさまざまで(振戦以外に合併する症状が家系によって,ジストニア・悪性過高熱・パーキンソニズム・片頭痛などいろいろなパターンがある),さらに性差によっても症状が異なる(頭部振戦は女性に強いなど).また浸透率は低い.
 今回,アメリカやシンガポールにおいて家系例が報告されているETM2の原因遺伝子が判明した.方法としてはfine mapping studyによりminimal critical regionを同定し,このあとSSCPおよびdirect sequenceで原因遺伝子を同定した.原因遺伝子はHS1-binding protein 3 (HS1-BP3) geneであった.2家系においてmissense mutation (823C→G;Gly→Ala)を認め,150 control sample(300 chromosome)ではこの変異は認めなかった.しかしアメリカにおける遺伝性本態性振戦家系21家系のうちこの遺伝子変異を認めたものは2家系のみで,シンガポール家系73家系のなかには存在しなかった.
 HS1-BP3 geneのヒト脳における機能については良く分かっていないが,マウスおよびヒトにおける研究でHs1蛋白に結合することが判明している(名前の由来でもある).Hs1蛋白は14-3-3 protein familyのひとつで,運動ニューロンやPurkinje細胞などに高発現している.今後,この発見を契機に本態性振戦のメカニズムが明らかになるかもしれない.

Neurology 64; 417-421, 2005 

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慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)に対する間欠的ステロイドパルス療法の効果

2005年02月16日 | 末梢神経疾患
 CIDPの治療として,現在,副腎皮質ステロイド内服かIVIgが選択されることが多いものと思われる.今回,Washington大より,CIDPに対する間欠的ステロイドパルス療法(intermittent intravenous methylprednisolone; IVMP)の有効性が報告された.方法は1992年から2003年までに経験したCIDP症例57名(うち39名が解析可能)に対するretrospective studyで,IVMP群,IVIg群,免疫抑制剤内服群の3つの群を比較した.IVMPは16名で,方法としてはinitial dose 1000mgのmethylprednisoloneを3~5日間点滴し,翌週より週1回1000mgのmethylprednisolone点滴を行い,その後,様子を見ながら治療頻度・薬剤使用量を2ヶ月から2年かけて漸減していた.IVIgは7名で,total 2g/kgを2日間以上かけて点滴し(一般的な使用量),以後,症状に応じて1~6ヶ月ごとにIVIgを繰り返していた.免疫抑制剤群は16名で,内訳はprednisone 12名,cyclosporine 4名であった.評価は筋力の改善(quantitative dynamometryにて定量的に評価)と副作用に対して行った.
 結果として,治療開始後6ヶ月および終診時(平均4.5年後)における筋力は各群間で有意差を認めなかった(ただし,経口免疫抑制剤群は6ヶ月の時点で改善がやや不良の傾向).副作用の面では,クッシング症候群様変化・体重増加を示した症例は,prednisone内服例で58%であったのに対し,IVMP群では19%と少なかった.
 以上より,IVMPは今後,CIDPの治療として検討してよいのかもしれない.とくに血液製剤の使用を嫌がる患者や,容姿の変化を心配する患者では考えてみる価値はある.しかし,あくまでもprospective studyの結果ではないことと,現在,本邦ではCIDPに対し,ステロイドパルスの保険適応はないことも認識したうえで行うべきであろう.

Arch Neurol 62; 249-254, 2005

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