Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳・脊髄インターフェース  ―12年もの間,下半身不随だったひとの歩行を可能とする驚異の医療!!―

2023年05月27日 | リハビリ
感嘆して思わず仰け反ったNature誌論文です(解説動画をご覧ください).主人公は40歳のGert-Jan Oskam氏,バイク事故による頸髄損傷により12年間にわたって下半身不随,上肢も一部麻痺になってしまいました.スイス連邦工科大学ローザンヌ校のCourtine博士は,記者会見で「我々はOskam氏の意思を捉え,その意思を脊髄への刺激に変換し,自発運動を再び獲得させることに成功した」と述べています.

博士らは2018年,脊髄の電気刺激と集中的リハビリにより,脊髄損傷患者の再歩行が可能となることを実証しました.しかしその効果は不十分であったため,さらに研究が進められました.Oskam氏が身体のさまざまな部分を動かそうとしたときに,脳のどの部分が電気信号を発するか,つまりその「意思」を解読するために,機械学習プログラムを使った観察を行いました.そしてこの人工知能の「デコーダー」により,特定の電気活動を特定の意思に結びつけることが可能になりました.整理すると「デコーダー」を用いて,大脳皮質の電気活動を「意思」として読み取り,筋の動きにつなげることに成功したということです.博士らはこの治療を「脳・脊髄インターフェース(BSI)」と名付けました.Oskam氏の脳に64の電極をもつ円盤状インプラントを2つ,そして脊髄にもインプラントを植え込み,その間をワイヤレスの「デジタルブリッジ」でつなぎ,損傷部分を迂回させたということになります.



インプラント後の数カ月間,博士らはBSIを微調整し,歩行などの動作により適したものにしました.これにより歩行が可能になり,さらに階段も上れるようになりました.開始1年後,これらの効果は持続しているだけでなく,驚くべきはインプラントのスイッチを切った状態でも,自発的に松葉杖で歩けるなど,神経学的な回復の兆しが見られたことです!つまりBSIは自発的な運動を回復させるリハビリ効果を有していたわけです.Oskam氏が「以前の装置は,刺激が私をコントロールしていましたが,今は私の思考で刺激をコントロールしています」と話したことは印象的です.

夢のような治療で,脊髄外傷以外にも,脊髄炎や脊髄血管障害などによる後遺症にも応用できると思われます.これからの時代は,薬剤だけでなく,このようなデバイスで神経疾患の克服を目指すことになると実感しました.幹細胞療法の競合治療とも言えますが,むしろさらなる機能回復を目指して併用することができると思います.ただし限界として,現在のBSIは歩行には適しているものの,上肢機能や直腸膀胱機能の改善は難しいこと,手術は侵襲的で感染リスクがあること(事実,Oskam氏の脳インプラントの1つは約5ヵ月後に感染症で除去されている),リハビリが必要であることが挙げられます.しかし博士らは,さらなる進歩によって,この治療法が将来,より身近になると考えています.「この技術を必要とするすべての患者さんのために世界中で利用できるようにすること,それこそが私たちの真の目的です」とCourtine博士は語っています.
Lorach H, et al. Walking naturally after spinal cord injury using a brain-spine interface. Nature. 2023 May 24.

解説動画

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これが神経毒性を持つアミロイドβの正体だ! -レカネマブはこれに結合して毒性を抑制するー

2023年05月26日 | 認知症
アルツハイマー病(AD)の発症に異常なアミロイドβ(Aβ)が関与していることはもはや疑う余地はありませんが,Aβのどのような構造が疾患の発症に関わっているのかは依然として不明です.しかしAβの可溶性低分子は拡散性があり,特にシナプス毒性が強いと推測されてきました.一方,Aβプラーク(老人斑)の不溶性コアを構成する高分子Aβの長いフィブリル(繊維)は毒性が低いと考えられています.

拡散性をもつ可溶性Aβは,脳ホモジネートの水性抽出液の超遠心分離後の上清中凝集体として定義されますが,可溶性Aβとはいったい何なのか,そしてAD発症にどのように関与しているのか,よく分かっていません.かつその構造についてもほとんど分かっていませんでした.

今回,米国ハーバード大から,水性緩衝液により抽出したAD脳の超遠心上清中に拡散性・可溶性Aβフィブリルが予想外に存在することを示した研究が報告されました.Aβフィブリルは小さな可溶性オリゴマーではなく,むしろ多数のAβ分子からなる大きな集合体で,水溶液中に浮遊しているこれらのフィブリルは,超遠心分離によって沈殿させることができるわけです!このフィブリルはサンプルの調製中に形成されたものではなく,電子顕微鏡によるカウント数はAβ ELISAによる定量と正の相関を示しました.

クライオ電子顕微鏡を用いて,2名の孤発性AD患者脳に由来する水溶性Aβフィブリルの構造を調べたところ,1名はtype 1と名付けた構造が100%,もう1名はtype 1が77%,type 2が23%でした.これはサルコシル不溶性ホモジネートから得たのもの,すなわちアミロイドプラーク(老人班)のAβとほぼ同じ構造をしていました(図左).

さらにこの水性抽出液中のフィブリルは,ADにおける認知機能低下を抑制することが報告されているAβ抗体「レカネマブ」によって認識され(図右下),かつレカネマブは,この拡散性・可溶性Aβフィブリルによるシナプス毒性を抑制できることも確認されました.



以上より,AD脳の水性抽出液にはシナプス毒性フィブリルが豊富に存在すること,そして老人班と同じ構造をしていることが示されました.この結果はADにおけるAβ仮説をさらに肯定するもので,かつレカネマブの作用機序の一端を示したものと言えます.個人的には他の遺伝性ADでこの拡散性・可溶性Aβフィブリルはどうなっているのか,他のプロテイノパチーでも同様の拡散性・可溶性フィブリルが存在するのかなど関心があります.
Stern AM, et al. Abundant Aβ fibrils in ultracentrifugal supernatants of aqueous extracts from Alzheimer's disease brains. Neuron. 2023 May 2:S0896-6273(23)00269-6.

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(5月22日)long COVID神経後遺症のメカニズム研究ラッシュ! 

2023年05月22日 | COVID-19
今回のキーワードは,SARS-CoV-2ウイルスは後根神経節のトランスクリプトームを変化させて持続的な痛みを引き起こす,neuro-PASCの機序として脳脊髄液における免疫異常と自律神経神経に伴う循環異常が関与する,neuro-PASCの発症には脳脊髄液中の抗SARS-CoV-2反応が低下し,脳からのウイルス排除が不完全で神経炎症が持続することが関与する,neuro-PASCの一因として持続的なペルオキシソーム機能不全が関与する,long COVIDはウイルス持続感染による慢性炎症・免疫異常・微小血栓により生じる,重度の肥満者ではCOVID-19ワクチンによる液性免疫の減退が加速される,です.

最近,横浜と群馬にて,neuro-PASC(long COVIDの神経後遺症)とそのメカニズムであるSARS-CoV-2ウイルスの持続感染について講演する機会を頂戴しました.このウイルスは「神経向性」があるため,持続感染は脳の傷害,すなわち認知症や神経疾患の発症をもたらすことを説明しました.「驚いた.一般の人にも広く知らせるべきだ」「画像でわかる脳の変化を起こすとは怖い」「もうワクチンを打たないつもりだったけれど打ちます」「不安を煽るのも良くはないが,神経疾患リスクについて啓発し,極力,感染を防ぐべきだ」等の意見をいただきました.今回示すように脳の傷害メカニズムも分かってきています.今後,治療に関するエビデンスも出てくると思いますが,それまでは意識して自分の脳を守る必要があります.

◆SARS-CoV-2ウイルスは後根神経節のトランスクリプトームを変化させて持続的な痛みを引き起こす
SARS-CoV-2ウイルスは急性期後に全身の痛み,神経障害,筋肉痛等の感覚異常を来す.この機序を明らかにするために,ハムスターモデルを使用し,SARS-CoV-2ウイルスとインフルエンザAウイルス(IAV)感染が感覚神経系に及ぼす影響を比較した研究が米国から報告された.鼻腔からのウイルス感染後,24時間以内に,頸髄および胸髄と後根神経節(末梢からの感覚情報の中継点)で非感染性ウイルス転写物が検出された(図1).IAVでは感染中に感覚刺激に対する過敏反応を認めたが,感染が終息する頃には正常に戻った.これに対し,SARS-CoV-2ウイルス感染では時間経過とともに感覚過敏が高まった.感染1~4日後の胸髄後根神経節のRNAシークエンシング解析により,SARS-CoV-2感染群では主に神経シグナル伝達が障害されるのに対し,IAV感染群ではI型インターフェロンシグナル伝達が障害された.感染31日後には,SARS-CoV-2感染群の胸髄後根神経節に神経障害性のトランスクリプトームが出現し,これはSARS-CoV-2感染群に特異的な過敏反応の出現と一致した.以上よりSARS-CoV-2ウイルス感染は後根神経節内のトランスクリプトームの変化をもたらすことが明らかになった.またlong COVIDやME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)に伴う疼痛に対し,サイトカイン関連因子ILF3 (Interleukin Enhancer Binding Factor 3)を含む治療標的が示された.
Sci Signal. 2023 May 9;16(784):eade4984.



◆neuro-PASCの機序として脳脊髄液における免疫異常と自律神経神経に伴う循環異常が関与する
米国NIHからneuro-PASCの特徴を検討した研究が報告された.対象は12名(83%が女性,45±11歳)で,11/12名(92%)が軽症感染,急性期から9ヶ月後(3~12ヶ月)に評価を行った.最も多い症状は認知障害と疲労で,半数の患者に軽度認知障害を認めた(MoCAスコア<26).83%は,Karnofskyの一般全身状態スコア≦80であり,高度の障害を認めた.嗅覚障害は8名(66%)に認めた.頭部MRIは正常.脳脊髄液(CSF)では3例(25%)にオリゴクローナルバンドを認め,immunotypingでは健常対象と比較して, neuro-PASC患者はCD4+ T細胞(p < 0.0001)とCD8+ T細胞(p = 0.002)の両方でエフェクターメモリー表現型の頻度が低く,抗体分泌B細胞の頻度が高く(p = 0.009),免疫チェックポイント分子発現細胞の頻度が高かった.自律神経検査では,血漿カテコールアミンの過剰な反応を伴わず,健常対象と比較して,圧反射-心臓迷走神経ゲインの低下(p = 0.009)とティルトベッド検査中の末梢抵抗の増加(p < 0.0001)を認めた.以上より,neuro-PASCの機序として,CSF免疫異常と自律神経障害に伴う循環異常の関与が示唆された.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2023 May 5;10(4):e200097.

◆neuro-PASCの発症には脳脊髄液中の抗SARS-CoV-2反応が低下し,脳からのウイルス排除が不完全で神経炎症が持続することが関与する
neuro-PASC患者18名と発症しなかった94名の感染者の血清およびCSF中のSARS-CoV-2,およびその他の一般的コロナウイルス229E,HKU1,NL63,OC43に対する液性免疫を検討した米国からの前向きコホート研究が報告された.Neuro-PASC群の血清ではすべての抗体のアイソタイプ(IgG,IgM,IgA)とサブクラス(IgA1-2,IgG1-4)が検出されたが,CSFではIgG1に集中し,IgMが検出されなかった.このことはSARS-CoV-2に対する脳特異的な反応が,抗体クラス/サブクラスの多様性が期待される髄腔内合成ではなく,血液脳関門を介した血清から髄腔内への抗体の選択的移行によって生じることを示唆する.また感染後にneuro-PASCを発症した人は,SARS-CoV-2に対する抗体依存性補体沈着(ADCD),NK細胞活性(ADNKA)およびFcγ受容体結合能の減少といった全身性の抗体反応の減弱を示したが,驚くべきことに229E,HKU1,NL63,OC43などの他の一般的なコロナウイルスに対する抗体反応が有意に拡大されていた(図2).このようなコロナウイルスに対する偏った液性免疫活性化は,特に予後不良のneuro-PASC患者において顕著であり,関連ウイルスに対する既存の免疫応答が現在の感染に対する応答を形成するという「抗原原罪(従来株のウイルスに対して免疫が獲得された後に変異株のウイルスに感染した場合,従来株に対する免疫が変異株に対する新たな免疫の誘導を邪魔する現象のこと)」が,neuro-PASCの予後を決める重要なマーカーとなることが示唆された.以上より,neuro-PASCの発症には,CSF中の抗SARS-CoV-2反応が低下し,脳からのウイルス排除が不完全で神経炎症が持続することが関与することが示唆された.
Brain. 2023 May 10:awad155.



◆neuro-PASCの一因として持続的なペルオキシソーム機能不全が関与する
ペルオキシソーム傷害は,複数のウイルス感染で中枢神経に認められ,神経障害をもたらす.カナダからSARS-CoV-2感染時の宿主の神経免疫応答とペルオキシソーム生合成を検討した研究が報告された.対象はCOVID-19の12名およびその他の疾患コントロール12名とした.結果は,COVID-19群4名の中枢神経系にウイルスRNAが検出され,脳幹にウイルスタンパク質(NSP3およびスパイク)も検出された.COVID-19群の嗅球,脳幹,大脳では,疾患対照群と比較して,炎症性転写物(IL8,IL18,CXCL10,NOD2)およびサイトカイン(GM-CSF,IL-18)の誘導が見られた(p<0.05).ペルオキシソーム生合成因子の転写物(PEX3,PEX5L,PEX11β,PEX14)およびタンパク質(PEX3,PEX14,PMP70)は,疾患対照群と比較してCOVID-19群の中枢神経で抑制されていた(p<0.05).ハムスターのSARS-CoV-2ウイルス感染モデルの検討では,感染後4日目と7日目の嗅球でウイルスRNAが検出され,感染後14日目には大脳で炎症性遺伝子発現が上昇したが(p<0.05),Pex3転写レベル,カタラーゼおよびPMP70免疫活性が抑制された(p<0.05).以上より,COVID-19は,ヒトにおいて神経向性が脳幹に限られているにも関わらず,広範な部位にペルオキシソーム生合成因子の抑制を伴う持続的な神経炎症反応を引き起こした.以上の結果は,neuro-PASCの一因として持続的なペルオキシソーム機能不全が関与している可能性を示唆する(図3).
Ann Neurol. 15 May 2023 https://doi.org/10.1002/ana.26679



◆long COVIDはウイルス持続感染による慢性炎症・免疫異常・微小血栓により生じる
カナダからのSARS-CoV-2ウイルス持続感染に関する総説.鼻咽頭ぬぐい液や気管支肺胞洗浄液でPCR陰性になった後も,それら以外のさまざまな臓器や検体でウイルスタンパク質あるいはRNAが検出された報告をまとめている(図4).



またウイルスの体内滞留期間とlong COVID発症のリスクとの間に相関関係がある可能性を議論している.ウイルスが持続感染する患者における迅速なウイルス除去は重要であると推測し,ClinicalTrials.govに掲載されているlong COVIDに対するニルマテルビルとリトナビルを用いた臨床試験について紹介している.最後にlong COVIDの病態を示す図として,ウイルス持続感染が免疫系の調節異常を引き起こし,炎症性サイトカインの放出増加や血管内皮の損傷を介して,最終的に慢性炎症,血管障害,過凝固,微小血栓症,多臓器症状の発症に至るという病態生理モデルを示している(図5).
Lancet Resp Med. May 10, 2023



◆重度の肥満者ではCOVID-19ワクチンによる液性免疫の減退が加速される
COVID-19ワクチンによりCOVID-19の重症化リスクは低減するが,肥満者でも有効であるか,十分に明らかにされていない.スコットランドの360万人を対象に,肥満度(BMI)とCOVID-19による入院,死亡の関係を調査した研究が報告された.まず重度肥満(BMI > 40 kg/m2)を認めるワクチン接種者は,入院または死亡を経験する可能性が76%高かった(調整済み率比 1.76).さらに重度肥満28人と,正常BMI(18.5~24.9 kg/m2)の対照41人を比較した前向き縦断研究を実施した.2回目のワクチン接種から6カ月後,SARS-CoV-2ウイルスに対する中和抗体を測定できない人の頻度は,正常BMIでは12%であったのに対し,重度肥満で55%と多かった(P = 0.0003)(図6).また重度肥満ではウイルス中和能力が正常BMIの人よりも低かった.中和能力はブースター接種で回復したが,重症肥満者では再びより急速に低下した.以上より,COVID-19ワクチンによる液性免疫の減退は,重度肥満では加速することを示した.肥満はCOVID-19による重症化や死亡の危険因子であるため,肥満者のワクチン接種のスケジュールを考える必要がある.
Nat Med (2023).(doi.org/10.1038/s41591-023-02343-2)




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認知症に対する補聴器の効果と「認知症を防ぐ暮らし」の連載開始

2023年05月20日 | 認知症
◆難聴は認知症の重大なリスク因子だが,補聴器使用で回避できる.
Lancet Public Health誌に,難聴および補聴器使用と認知症リスクの関連を調べた国際研究が報告されています.英国のコホート研究であるUK Biobankのデータを使用しています.2006年から2010年にかけて,40~69歳の43万7704人の成人を検討しています.ベースライン時の補聴器の使用の有無とさまざまな認知症(全認知症,アルツハイマー病,血管性認知症,非アルツハイマー・非血管性認知症)のリスクを推定しました.

難聴なしの人と比較して,補聴器を使用しない難聴の人は,全認知症のリスクが増加しました(ハザード比1.42).しかし補聴器を使用している人ではこのリスクの増加は認めませんでした!(同1.04).この補聴器使用の効果は,認知症のタイプによらず認められました.難聴の認知症への寄与危険割合は29. 6%と高いこと,また補聴器使用の効果は,抑うつ気分,孤独感,社会的孤立の軽減によってもたらされることも分かりました.以上より,難聴があっても補聴器を使用すれば,難聴なしの人と同程度まで認知症のリスクを下げられることが分かりました.難聴に適切に対処することで,認知症の最大8%を予防できることが知られていますので(図左),超高齢社会にある日本は難聴対策に取り組むべきではないかと思います(まだ安全性に懸念のあるアミロイドβ抗体療法より,加齢性難聴の評価と補聴器使用が効果的ではないかと思います).

ただ先日,この問題に取り組まれている耳鼻咽喉科の先生から「日本は補聴器使用の取り組みに関して世界から大幅に遅れている」と伺いました.そしてその要因として,日本では補聴器購入費用は一般的な健康保険ではカバーされておらず,オーダーメイドの耳穴式補聴器は片耳で15~55万円もすることを知りました(図右).補聴器使用の啓発に加えて,国が購入費用をサポートすること,そして企業はもっと安価な補聴器を開発することが重要ではないかと思います.そして若い人はヘッドホン難聴にもっと気をつける必要があります.
Jiang F, et al. Lancet Public Health. 2023 May;8(5):e329-e338.(doi.org/10.1016/S2468-2667(23)00048-8)



◆時事通信社系の地方紙にて「認知症を防ぐ暮らし-根拠ある予防策を」連載開始.
週刊誌やテレビなどでさかんに認知症予防法が取り上げられていますが,エビデンスのあるものないもの様々です.どうせ取り組むなら根拠のある認知症予防をすべきと思います.お話をいただいて,時事通信社系の地方紙に12回シリーズの連載「認知症を防ぐ暮らし-根拠ある予防策を」を始めました.まず陸奥新報(青森),神戸新聞,北羽新報(秋田),岩手日日新聞で掲載が始まりました.ぜひお読みいただければと思います!

1. 認知症の総論
2. Lancet論文と12の認知症修飾因子の紹介
3. 新しい修飾因子 COVID-19
4. 若年期:教育(学ぶ習慣の重要性)
5. 壮年期1:難聴
6. 壮年期2:高血圧/肥満
7. 壮年期3:外傷性脳損傷/過度のアルコール消費
8. 老年期1:喫煙/大気汚染
9. 老年期2:うつ病/社会的接触の少なさ
10. 老年期3:運動不足/糖尿病
11. 睡眠と認知症
12. 良い睡眠のために


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驚きのジェネラリスト医療用AI(GMAI) -未来の医療はすぐそこまで来ている-

2023年05月15日 | 医学と医療
Nature誌に新しい医療用AIについての論文が掲載されています.ジェネラリスト医療用AI(generalist medical AI; GMAI)と名付けられたもので,スタンフォード大学で開発されているものです.これは,foundation models(基盤モデル)と呼ばれる最新世代のAIが可能にしたもので,多様なタスクに対応できることが特徴です.従来の医療AIは特定のタスクに限定したものでしたが(例えば胸部X線写真の異常所見を見出す),GMAIは大量の異なるデータを組み合わせて処理し,柔軟に解釈することができるのだそうです!つまり上段aのように,画像,電子カルテ,検査結果,ゲノム,グラフ,医療テキストなどのデータはテキストないし音声とペアリングして柔軟に取り込みます.そのあと,様々な医療知識リソースにアクセスして高度な推論をしてくれます.研修医からスタートした医師が経験を積んで専門医になるのと同様に新しいタスクをどんどん学習をしていきます.ですから新しい病気や技術にも追いつくことができます.

推論の結果は,患者さん向け,医師向けのさまざまなアプリによって利用できます(中段b).まず患者さんは平易な用語に変換したチャットボットで医療相談ができます.一方,医師は代わりにカルテ記載をしてもらえますし,ベッドサイドでの診療の意思決定支援(医療行為中の音声による助言:下段a)もしてもらえます.この辺の恩恵についてはぜひ論文に目を通して頂きたいのですが,患者の病歴を考慮しつつ,異常所見と正常所見の両方を記述する放射線診断報告書を自動作成したり(報告書の文字をクリックすると所見を示してくれます;下段b),チャットボットで質問すると医師は勉強することができます.手術中にある手順を飛ばしてしまったときに警告を発したり,救急外来では「警告!この患者さんは今にもショック状態になりそうです」と教えてくれます!珍しい現象に遭遇したときに関連文献を読み上げたりもします.本当に驚きです.昔,空想小説で読んだ未来の医療はすぐ目前まで来ているようです.



カルテ記載はAIに任せて,医師はその内容を承認すれば良いので,医師は時間の節約ができバーンアウト対策としても期待されます.著者は医師は患者さんと過ごす時間を増やすために使えると言っています.医師は医師にしかできない仕事をする必要があり,それは何であるかを真剣に考え,そのスキルを磨く必要があるのだと感じました.
Moor M, et al. Foundation models for generalist medical artificial intelligence. Nature. 2023 Apr;616(7956):259-265.

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アルツハイマー病患者の安全のためにレカネマブ使用前にAPOE遺伝子検査は不可欠だが,倫理的,法的,経済的問題に対する議論が必要!

2023年05月10日 | 認知症
最新号のJAMA Neurology誌に,標題の論評が発表されています.APOE遺伝子はアポリポタンパク質Eと呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子で,ε 2,ε 3,ε 4 の 3パターンがあります.ε 4 遺伝子を有する場合,脳内アミロイドの蓄積は増加し,アルツハイマー病を発症するリスクが高まります(表).さらにε4を有する場合,レカネマブの副作用であるアミロイド関連画像異常(ARIA)のリスクが上昇します.Clarity AD試験において,ε4ホモ接合体患者(父母由来で2つのε4を有する)は,ε4非保有者と比較して,浮腫を伴う症候性ARIAが6倍以上,脳微小出血,大出血,表在性シデローシスを伴うARIAが3倍以上発生する可能性が報告されています.



問題はレカネマブ使用前に,APOE遺伝子検査をどのように行ったら良いのか,また行った場合,どのような問題が生じうるか十分に議論されていないことです.現時点で現場の医師も理解・予想ができていません.エーザイCEOも最近,APOE ε4ホモ接合体患者は脳出血のリスクが高いため,患者とその主治医が厳重な監視に同意した場合にのみ本薬を投与するよう発言し,APOE遺伝子検査の重要性に触れていますが,米国FDAは,APOE遺伝子型判定を義務付けてさえいません.日本でもどうなるのか分かりません.

ε4ホモ接合体患者が大出血するリスクを考えると,私はAPOE遺伝子検査を行うべきだと考えます.それをしないのは怠慢だと思います.しかしその場合,少なくとも以下のような問題が生じうると論評では述べています.

1)大規模なAPOE遺伝子検査の結果を,患者・家族に開示する医療行為は,倫理的,法的,経済的に難しい問題があり,倫理学者,法律家,政策立案者は早急に検討をする必要がある.

2)臨床医は遺伝子検査の結果を効果的かつ安全に患者・家族に開示するためのコミュニケーション・スキルをトレーニングする必要がある.

3)さらに臨床医にとって,患者・介護者の苦痛の評価と開示後のカウンセリングも必要になる.特にε4キャリアであることが判明し,レカネマブを使用しないことが決定される患者・家族への対応は重要である.加えて,ε4キャリアは,虚血性脳卒中,脳出血,うつ病,てんかんなどの他の疾患を発症するリスクが高いことを意識した開示後の診療が望まれる(臨床倫理的問題).

4)認知障害を持つ親のε4キャリア状態を開示することで,その実子自身がε4キャリアであるリスクを推察することができる.つまり患者とその無症状の子供が遺伝的差別を受ける可能性がある(臨床倫理的問題).

5)臨床医は患者やその子が受けうる遺伝的差別に対する既存の法的保護,およびその限界について認識する必要がある(法的問題).

6)5)に関連して,保険会社が無症状の子供を含むε4キャリアへの保険適用を拒否したり,より高い保険料率で契約を引き受けたりすることが生じうる(経済的問題).

非常に難しい問題が複数あります.しかしレカネマブを実臨床で使用できるよう,速やかに議論を開始し,現場の臨床医が悩むことなく対応できる状況を築く必要があります.
Thambisetty M, Howard R. Lecanemab and APOE Genotyping in Clinical Practice-Navigating Uncharted Terrain. JAMA Neurol. 2023 May 1;80(5):431-432.

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読書案内:アガサ・クリスティーと14の毒薬 -とくに気になるタリウムについて-

2023年05月10日 | 医学と医療
推理小説の根底に流れる思考過程と臨床医学における診断学の思考過程は本来同じである」・・・これは岩田誠先生の「続・神経内科医の文学診断」のなかの言葉です.岩田先生は,臨床診断学的思考も,事件の謎を解く探偵の思考も「観察」という行為を通して得られた事実情報に基づいて推理し,病気や事件のプロセスを再構築していくという点で共通していると解説されています.診断において,問診や診察のウェイトの大きな脳神経内科はとくにその傾向が顕著です.私の好きな杉下右京は「細かいところが気になるのが僕の悪い癖」と自嘲しますが,それ(=観察)ができるのが良い探偵であり,良い脳神経内科医かと思います.

さて前述の岩田誠先生の言葉はアガサ・クリスティーの「蒼ざめた馬」に関するエッセイの中に出てきます.彼女の作品には毒殺が多く,砒素,ベラドンナ,シアン化物,ジギタリス,トリカブト,ニコチン,アヘン,リン,ストリキニーネなどさまざまな毒物が登場します.なぜ彼女が薬や毒物に詳しいかというと,薬剤師でもあったためです.「アガサ・クリスティーと14の毒薬」は作品に使用された14の毒薬を取り上げ,その特徴や実際に起きた毒殺・中毒事件などのエピソードを紹介した本です.彼女がいかに毒薬の性質を巧みに利用してトリックに仕立てたのかが分かります.推理小説好きが楽しめる知的エンターテインメントになっていますし,薬理学の副読本としても最適かと思います.お勧めの一冊です.



さて14の毒物の中でとくに気になったのはタリウム(Tl)です.医師には心筋シンチで有名です.しかし厄介な薬物で,無味,無臭,水溶性で,かつ毒性が強いため犯罪に用いられます.前述の「蒼ざめた馬」で初めて毒薬としての使用が紹介され,1960年代,英国の有名なシリアルキラー,グラハム・ヤングが使用しました.かつて殺鼠剤として使用されましたが,近年は入手困難となり,急性中毒は稀となりました.しかし2015年には名古屋,2022年には京都で硫酸タリウムを用いた殺人事件が起きています.脳神経内科医として「タリウム中毒を見抜けるか?」は気になります.なぜなら潜伏期12-24時間を経て,神経症状と消化器症状にて発症するためです.具体的には悪心・嘔吐,出血性下痢,歯肉の変色などと,ポリニューロパチー(軸索型)や中枢神経症状(せん妄,傾眠,痙攣発作等)が生じます.有名な脱毛は摂取後1-2週間で生じ,3週間で完成するため初診時にないことも多く,ギラン・バレー症候群と誤診されることも報告されています.治療は全身管理で,致死量で服用1時間以内であれば1%ヨウ化ナトリウム液による胃洗浄を,中毒量であれば活性炭を投与します.またプルシアンブルーを経口投与し,Tlの排泄を促進させるという論文が複数あります.タリウムにまつわる面白い話はいろいろあるので,また改めて詳しく書いてみたいと思います.
Liu H, et al. Long-term misdiagnosis and neurologic outcomes of thallium poisoning: A case report and literature review. Brain Behav. 2021 Mar;11(3):e02032.

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抗アミロイドβ抗体「ドナネマブ」も早期アルツハイマー病の認知機能低下を有意に抑制する!

2023年05月04日 | 認知症
イーライリリーは5月3日,TRAILBLAZER-ALZ 2(第3相試験)において「ドナネマブ」が初期アルツハイマー病(AD)患者の認知機能低下を抑制したという結果をプレスリリースしました.対象は60~85歳の軽度認知障害(MCI)または軽度認知症患者で,進行の予測バイオマーカーであるタウタンパクのレベルが「中程度」であった1182人です(恐らく脳脊髄液タウで層別化したのだと思います ⇨ タウPETの間違いでした).主要評価項目はアルツハイマー病評価尺度(iADRS)で,18カ月間で対照と比較して35%の抑制(p<0.0001)を示しました.また副次評価項目(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes;CDR-SB)も36%抑制しました(p<0.0001).ちなみにレカネマブはCDR-SB の抑制は27%でしたので,より効果は強そうです.

さらにドナネマブ群の47%は,1年後にCDR-SBが低下しておらず(偽薬群は29%,p<0.001),また18ヵ月後の日常生活動作能力(ADCS-iADL)の低下も40%抑制されました(p<0.0001).アミロイドPETでは,開始後6ヶ月でアミロイド沈着の有意な減少が生じ,6ヶ月時点で34%,12ヶ月時点で71%の参加者が病理学的にアミロイド陰性といえるレベルに到達しました.

問題のアミロイド関連画像異常(ARIA)の発生率は,ドナネマブ群では,ARIA-E(浮腫)は24.0%に発生し,6.1%が症候性でした.ARIA-H(出血)は31.4%(偽薬群で13.6%)で大部分は軽度~中等度でした.重篤なARIAの発生率は1.6%で,ドナネマブを服用した868人の患者のうち,3人が死亡しました.2人の死亡は薬剤の副作用であるARIAに直接関連しており,もう1人はARIAが重症化した後に発生しました.

以上の結果に基づき米国食品医薬品局(FDA)への申請を今四半期中に行うとのことです.

【感想】
1)ドナネマブはレカネマブよりアミロイドβ除去能が強いため,より有効である可能性は期待されていました.しかしレカネマブと同様に,全データを公開しないプレスリリースを先行させるのは評価がしにくく科学的に良くないと思います.レカネマブの安全性の問題を提起したMatthew Schrag先生はtwitter(@schrag_matthew)で「統計的に強い効果であるが,おそらく臨床的な重要性はわずかであろう.安全性の問題は有益性を上回るかもしれない」と慎重な態度を示しています.「3人の患者がこの試験で死亡したが,これは100万人の患者が治療された場合,0.35パーセント,約3450人の死亡になる.そしてこの推定値はほぼ間違いなく低いものである.臨床試験の患者はほとんどのクリニックよりも綿密に監視されている」と述べています.

2)ドナネマブはレカネマブと同じARIA誘発抗アミロイドβ抗体に分類されます.やはりARIAは浮腫(E),出血(H)とも多く,さらに関連する死亡3名のより詳細な情報の公開が必要です.

3)第2相試験の論文に報告されたドナネマブによる全脳萎縮・脳室拡大についてはプレスリリースでは触れていません.これも今後の情報の公開が待たれます.https://bit.ly/422bpDn

4)脳脊髄液の可溶性Aβ42がドナネマブにより増加するのか,増加した人により有効性が高いのかとても注目されるところですがこれも不明です.

5)タウPETで対象患者を選定したことは臨床試験を成功させるために必要であったと思われるが,いざ臨床に実装しようとすると,そう簡単にできない検査であることを考えると,どのように患者を選定したらよいのかという大きな問題が生じたことになる.

プレスリリース

下図はNEJM誌に2021年に報告された第2相試験のものです.


★レカネマブによる症候性のARIAはIatrogenic Cerebral Amyloid-Related Encephalitisという名称が提唱されるようです.Iatrogenicは「医原性」の意味です.
Fatal Iatrogenic Cerebral Amyloid-Related Encephalitis in a patient treated with lecanemab for Alzheimer’s disease: neuroimaging and neuropathology. medRxiv April 29, 2023.



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患者さんの質問に対しChatGPTは医師より質が高く共感的な回答ができる!

2023年05月03日 | 医学と医療
タイトルを見て「ついにこういう論文が出たか・・・」という感じがしました.JAMA Intern Med誌の論文です.話題のAIチャットボットChatGPTが,患者さんの質問に対して質の高い共感的な回答を提供できるかを評価しています.ソーシャルメディアReddit/AskDocsにおける患者さんからの質問を195個選び(例:爪楊枝を飲み込んでしまった場合,死亡する恐れがありますか?ランニング中に金属棒に頭部を打撲し,コブができて頭痛する場合,受診すべきですか?等),それらに対する回答を医師とChatGPTで比較しています.回答ごとに3通りの評価が行われ,195✕3個の評価のうち78.6%が医師よりChatGPTの回答を選んでいます.そしてChatGPTの回答は有意に長く(211語対52語,P < 0.001),かつ高品質でした(P < .001).例えば「良い」または「非常に良い」と評価された回答の割合はChatGPTの方が3.6倍多くありました(78.5%対22.1%).かつ有意に共感的で(P < .001),「共感的」または「非常に共感的」と評価された回答の割合は9.8倍!でした(45.1%対4.6%).



結論としては,臨床の場でさらなる検討が必要であるものの,ChatGPTを使って回答を作成し,医師がそれを編集することを提案しています.日本と比べ医療の電子化が進む米国では,患者さんからの電子メッセージがパンデミック前の6割増加し,医師のバーンアウトの要因となると考えられているそうで,もしランダム化比較試験にてChatGPTの有効性が証明できたら,医師のバーンアウトの抑制につながり,患者さんの転帰も改善するかもしれないと著者は前向きに語っています.

論文に「共感(empathy)」という言葉を見つけたため,とても注目して読みました.というのは,私は医学生に「医療者として難病患者さんに向き合う態度はsympathy(同情)ではなく,empathy(共感)が大切である」と教えているためです.「共感の授業」という本では,「共感は本能ではない.生まれたときから固定の才能ではなく,意識的に伸ばすことのできるスキルである」と述べています.共感,つまり人を思いやる教育をしっかり行っていかないと,患者さんへの病状説明も早晩,ChatGPTにお願いすることになるかもしれません.
Ayers JW, et al. Comparing Physician and Artificial Intelligence Chatbot Responses to Patient Questions Posted to a Public Social Media Forum. JAMA Intern Med. 2023 Apr 28:e231838.

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症候から自己抗体を推定する際,とても役に立つFigure

2023年05月02日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫性脳炎の研究は非常に大きな進歩を遂げています.抗神経抗体は細胞表面抗原と細胞内抗原を認識する抗体に大別されますが,前者は治療可能性が高いことから見逃さないことが重要です.さらに後者でもGFAP抗体やKLHL11抗体のように比較的免疫療法が奏効する脳炎もあります.しかし急速に自己抗体が増加し,その臨床像が明らかになったためフォローが難しく,症候から自己抗体を推定することが難しくなっています.今回,Oxford大学のグループから発表された総説は,治療可能で見逃したくない自己抗体について解説したもので,非常に有用です.とくに各抗体が呈しうる臨床症候の頻度をヒートマップで,希少または不明(0=青)から一般的(4=赤)まで示したFigureは役に立ちます.

上段の細胞表面抗原は受容体が多いため,痙攣や意識障害,そして記憶障害が多く認められることが分かります.運動異常症(hyperkinetic MD)はNMDARとGlyR,睡眠障害はIgLON5とAMPARでとくに目立ちます.一方の細胞内抗原では小脳性運動失調が多く,意識障害や睡眠障害,自律神経障害は少ないことが分かります.この図からおよその自己抗体に当たりをつけてから,その詳細は「自己免疫性関連脳炎・関連疾患ハンドブック(https://amzn.to/41RdCS7)」でご確認ください(最後は宣伝です!笑).
Varley, J.A., Strippel, C., Handel, A. et al. Autoimmune encephalitis: recent clinical and biological advances. J Neurol (2023).



LGI1: leucine-rich glioma-inactivated 1
NMDAR: N-methyl-D-aspartate receptor
CASPR2: contactin-associated protein-like 2
MOG: myelin oligodendrocyte protein
GABABR: γ-aminobutyric acid B receptor
GABAAR : γ-aminobutyric acid A receptor
AMPAR: α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid receptor
mGluR5: metabotropic glutamate receptor 5
GlyR: glycine receptor
Sez6L2: seizure-related 6 homolog like 2
DNER: delta/Notch-like epidermal growth factor-related receptor
GAD65: glutamic acid decarboxylase (65 kDa isoform)
ANNA 1/2: anti-nuclear neuronal autoantibody type ½
PCA: Purkinje cell cytoplasmatic autoantibodies
KLHL11: kelch-like protein 11
AK5: adenylate kinase 5
GFAP: Glial Fibrillary acid protein

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