Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

アメリカにおける神経嚢虫症の現状

2004年12月30日 | 感染症
神経嚢虫症(neurocysticercosis)は有鉤条虫(Taenia solium)の幼虫である有鉤嚢尾虫(Cysticerus cellulosae)がCNSに達して引き起こされる疾患で,CNSの寄生虫感染症としては最も頻度が高い.感染ルートは主に豚肉(生,もしくは不完全に調理されたもの),虫卵に汚染された水や野菜である.MRI 上は多数の嚢胞がクモ膜下腔,実質内あるいは脳室内に認められ,内部に虫体を認めることも多い.嚢胞周囲に炎症・グリオーシスを伴っている場合には Gdにより輪状の増強効果が認められる.後期には石灰化を呈し,この時期にはMRIよりCTが有効になる.
 今回,アメリカにおける神経嚢虫症の現状に関して,過去20年以上にわたるsummaryが報告された.具体的には1980年から2004年における神経嚢虫症の報告をPubMedより検索した.結果として1494例の症例がcase seriesにおいて報告されていた.うち76例がアメリカ国内での感染と考えられた.初発症状は多い順にてんかん(66%),水頭症(16%),頭痛(15%)であった.病変部位については脳実質が91%と大半を占めるが,そのほか脳室内嚢疱(6%),クモ膜下嚢疱(2%),脊髄(0.2%)も認められた.危険因子は,①流行地への旅行,②Hispanic系人種,③Taenia solium保因者との接触,であった.また文献報告数は増加の傾向にあり,アメリカでの本症の有病率増加が示唆された.
 日本では稀な疾患ではあるが,中南米や東南アジア旅行者における感染例の報告はあり,本疾患について認識する必要がある.ちなみに治療には albendazole (ABZ) が有用であるが、病変が消失せず痙攣が続く場合には手術も行われる.

Neurology 63; 1559-1564, 2004

追伸;現地を離れるため,1月10日まで更新をお休みします.どうぞ良いお年を.

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小脳梗塞による認知機能障害 ~PICA領域の重要性~

2004年12月30日 | 脳血管障害
従来,小脳は運動制御のための神経機構と言われてきたが,近年,小脳が高次認知機能に関与していることが明らかになってきた.とくにworking memoryやspatial episodic memoryへの関与がPETやfMRIを用いた研究から明らかになっている.小脳が認知機能にどのように関わるかについては十分解明されていないが,サルを用いた研究において前頭・頭頂葉と小脳,とくに後葉との相互連絡の重要性が指摘されている.
 今回,ドイツより小脳のどの部位が認知機能に重要であるかの研究が報告された.具体的には小脳梗塞の部位と高次脳機能障害を比較する方法であり,つまり小脳後面が認知機能に重要であるのであればPICA領域の脳梗塞において認知機能障害が認められるはずであるという仮説である.結果としてPICA領域の脳梗塞6名とSCA領域の脳梗塞5名,さらにコントロール11名に対し,WAIS-RやWMS-Rなど高次機能検査を施行し,PICA領域に梗塞を持つ患者はコントロールに比べ,WMS-Rにおけるepisodic memory,visuospatial memory,そしてtrail making testにおけるattentionの3点が有意に低下していた(SCA領域の脳梗塞ではvisuospatial memoryのみ低下).すなわち小脳後面が認知機能に重要な役割を果たしていることが改めて確認されたということになる.今後,PICA領域の脳梗塞患者に対しては,そのような観点からも治療やリハビリを検討する必要もあるのかもしれない.

Neurology 63; 2132-2135, 2004

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族性特発性基底核石灰化症(Fahr病)は遺伝学的にヘテロな疾患である

2004年12月27日 | その他
家族性特発性基底核石灰化症(IBGC;いわゆるFahr病)は両側基底核やその他の部位に石灰化を呈する疾患で,ジストニア,パーキンソニズム,失調,認知障害,行動異常などを呈する.遺伝形式は常染色体優性遺伝形式が考えられている.遺伝子座位は1999年に多世代にわたる大家系での検討から14qに連鎖することが報告されている(IBGC1 locus; 原因遺伝子は未同定).2002年には2つ目の家系での連鎖解析が行われているが,IBGC1 locusへの連鎖は否定されている.
 今回,UCLAより新たに6家系のFahr病の連鎖解析が報告された.家系の由来は,北米3家系,ドイツ・中国・スペインが各1家系ずつであった.臨床症状は痴呆・舞踏病を主徴とする家系のほか,パーキンソニズムを主徴とする家系,めまいを主徴とする家系と均一ではなかった.また家系図を見る限り,常染色体優性遺伝形式が考えやすいが,優性遺伝にしても罹患者の割合が高すぎる印象がある.結果として6家系中IBGC1 locusに連鎖したのは1家系のみで,IBGC1 locusはIBGCの原因遺伝子座位としては頻度が高いわけではないことが明らかになった.すなわちIBGCのgenetic heterogeneityが明らかになったわけだが,その臨床像の多様性を考えると納得できる結果とも言える.

Neurology 63; 2165-2167, 2004

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳梗塞後に脳ヘルニアを来たし開頭減圧術を要する症例の特徴

2004年12月26日 | 脳血管障害
 脳梗塞後(MCA閉塞に伴う脳梗塞後)に症状の増悪する要因として,これまで,①NIHSS>20,②若年発症,③高血圧・心不全の既往,④WBC数上昇が知られていた(Stroke 32; 2117-2123, 2001).またCT所見では,①早期にMCA領域の50%以上に低信号を認める,②MCA以外の領域に低信号を認める,③明らかなmidline shiftを認める,④hyperdense MCA signが報告されていた(Cerebrovasc Dis 16; 230-235, 2003).しかしながら,どのような症例が不可逆性の脳ヘルニアを来たすかについての検討はこれまで行われてこなかった.
 今回,Mayo Clinicより,MCA領域の脳梗塞後,意識障害の進行,もしくは画像上midline shiftを認めNICUに移動した24症例について,どのような症例が不可逆性の脳ヘルニアを呈するかについてretrospectiveに検討が行われた.24例中,10例が後に改善し(Group I),14例(58%)がのちに開頭減圧術を行ったか,もしくは手術を拒否し死亡した(Group II).両群を比較して有意差を認めたのは,性差(女性が予後不良;p<0.018;20% vs 72%)およびMCA以外の領域(ACA, PCA, AchA)の脳梗塞の合併(p<0.001;0% vs 71%)であった.高血圧・DM・虚血性心疾患・心房細動の合併,血栓溶解剤の使用,GCS score,共同偏視については両群で有意差を認めなかった.
Neurology 63; 2142-2145, 2004 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パーキンソン病等に対する深部脳刺激療法と自殺

2004年12月25日 | パーキンソン病
 難治性のパーキンソン病(PD)や,本態性・症候性振戦,ジストニアなどの不随意運動に対する脳外科治療として近年,深部脳刺激療法(Deep Brain Stimulation: DBS)が脚光を浴びている.両側に施行可能で,刺激の調節も可能という利点があるほか,従来の脳破壊術に比べて手術に伴う副作用・合併症が少ないと考えられている.具体的には,定位脳手術における合併症や,刺激装置に起因する痛み・不快感,感染程度である.しかし,今回,スイスよりDBS施行例では手術による効果が得られたにも関わらず,術後の自殺の発生率が高くなるというショッキングな報告がなされた.
 対象は140例(過去9年間のretrospective study)の不随意運動を呈した症例で,うち6名に自殺を認めた(4.3%).この率は一般人口,および,PD患者における自殺率と比べ明らかに高率であった.6名の自殺の内訳はPD 4名,本態性振戦1名,無酸素脳症後ジストニア1名で,罹病期間は平均22.3年,自殺時期は術後3.1年(4ヶ月~7年)であった.うち4名は自殺時,効うつ剤を使用中,ないし精神科医にて経過観察されていた.全例でDBSの効果が認められ,うち4例では薬物的治療が不要になっていた.全例で痴呆は認めなかった.自殺の危険因子としては,①重症うつ病の既往,②複数回の(成功した)DBSの経験が挙げられるが,刺激部位,電気刺激パラメーターの関与はないものと考えられた.自殺のメカニズムについては不明であるが,刺激が目的部位以外,辺縁系などにも及んだ可能性も考察されている.
 いずれにしても非常に重要な報告と考えられ,本邦でも同様の事象が認められるのかの確認が必要である.少なくともそれらの結果が出るまでは,過去に重篤なうつ症状や自殺企図の既往のある症例では,DBSの適応は慎重にすべきであろう.

Neurology 63; 2170-2172, 2004 
Comment (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

多発性硬化症における神経修復機序~bHLH転写因子であるOlig1は脱髄病変の修復に必要である~

2004年12月24日 | 脱髄疾患
中枢神経系を構成するneuron,astrocyte,oligodendrocyteは共通の前駆細胞である神経幹細胞から分化する.この過程には種々の転写因子が関わっており,Mash1やNeurogeninを始めとするbHLH(basic helix-loop-helix)型の転写因子はニューロンの分化に,STAT3やSmad1はastrocyteへの分化に関与する.また最近になって新しいクラスのbHLH型転写因子であるOlig1,Olig2がクローニングされ,これらは発生段階におけるミエリン産生oligodendrocyteやその前駆細胞に発現していることも明らかになっている.さらにOlig1/2ダブルノックアウトマウスではアストロサイトが過剰に生じていることも報告されている.また Olig2はoligodendrocyteの分化に必要であることが知られていたが,Olig1の生物学的機能については,ほとんど知られていなかった.
今回,マウスにおけるOlig1の機能は脳の発達でなく,脳の修復に必要であることがHarvard大から報告された.白質障害モデルマウスにおいて,Olig1は脳の修復過程において細胞質から核内に移行すること,さらにMS患者6名の検討において,健常白質ではOlig1は細胞質に局在するものの,急性期の脱髄斑辺縁では核内に局在することが明らかになった.またOlig 1ノックアウト・マウスでは髄鞘再生に障害があることも示した.
今後,なぜMSにおいて十分に髄鞘の再生・修復が起こらないのか,また今回の知見が治療に応用可能であるかが焦点になってくるものと考えられる.

Science 306; 2111-2115, 2004

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Silorimus は腎・肝移植の使用において神経毒性を示さない

2004年12月23日 | その他
抗真菌薬として開発されたsilorimus(rapamycin)は強力な免疫抑制作用を示すことから,cyclosporin A(CysA),tacrolimusに次ぐ第3の免疫抑制剤として,近年,臓器移植に使用されるようになった.この薬剤はtacrolimusと同様にFKBP12に結合するが,その細胞内標的蛋白はtacrolimusがcalcineurinであるのに対し,silorimusはmTOR(mammalian target of rapamycin;290kDaの巨大なセリン・スレオニン蛋白リン酸化酵素)である.mTORはribosomal S6 kinaseやPHAS-1(eIF-4E binding protein)を活性化することでリンパ球活性化を引き起こすが,silorimusはこの経路を抑制する.また近年,silorimusが細胞周期の進行を阻害し,細胞増殖を抑制する作用を持つこと明らかになり,免疫抑制剤としての利用のほかに,抗癌作用,冠動脈再狭窄抑制作用が注目され臨床への応用が期待されている(すでにsilorimus溶出血管内ステントが臨床応用されている).
一方,CysAやtacrolimusでは副作用として神経毒性が報告されているが,silorimusはcalcineurin 抑制作用を持たないため(calcineurinは脳内蛋白の1%以上を占める),神経毒性を呈さない可能性が考えられていた.今回,Mayo Clinicからsilorimusの神経毒性に関するretrospective studyが報告された.対象は2001年から2004年に行われた腎・肝移植患者で,silorimusを使用した202名.12名で神経症状を認めたものの,いずれもsilorimus使用前から認められており,因果関係は明らかではなかった.また腎障害も認めなかった.全体の16%で使用を中止したが,中止理由は①再発性感染症(4%),②口腔内潰瘍(4%),③重篤なかゆみ(2%),④間質性肺炎(0.5%)の順であった.
今後,免疫抑制剤や抗がん剤のレジメのなかに本剤が使用される機会が増えるものと考えられる.いずれにしてもprospective studyでの評価も必要と言えよう.

Neurology 63; 1958-1959, 2004 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パーキンソン病発症の新たなメカニズム(BAG5 はparkin とHsp70を阻害する)

2004年12月21日 | パーキンソン病
E3ユビキチンリガーゼとして機能するparkin遺伝子は若年性パーキンソニズム(ARJP)の原因遺伝子であり,parkin遺伝子産物のloss of functionがその病態機序と考えられている.またparkin活性の低下は孤発性パーキンソン病における神経変性に寄与している可能性がある.
今回,カナダよりBAG family memberのひとつであるbcl-2-associated athanogene 5 (BAG5) が直接,parkinおよび分子シャペロンHsp70に結合し,その作用を阻害すると報告された(BAGはHSP70-interacting proteinとして知られ,C末にBAG domainを有する.これまでBAG1-6の6つのBAG family memberが知られているが,BAG5は複数のBAG domainを持つことは判明していたが,その機能は良く分かっていなかった).この結合により,parkin のE3ユビキチンリガーゼ活性は低下(この結果,proteasome蛋白分解機能は低下),Hsp70による変異蛋白のrefolding作用も低下した.さらにBAG5はparkinの凝集体への取り込みを促進した.またadenovirusによるBAG5導入はパーキンソン病モデル動物(MTPT model)においてドパミン神経細胞死を促進し,変異BAG5を導入するとドパミン神経細胞死は抑制された.以上の結果から,孤発型パーキンソン病においてもBAG5はparkinとHsp70の活動を阻害してドパミン神経細胞死を促進している可能性が考えられた.

Neuron 45; 931-945, 2004

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パーキンソン病に合併する痴呆症状の進行速度

2004年12月20日 | パーキンソン病
パーキンソン病(PD)における痴呆症状の進行速度をMMSE(mini-mental scale examination)にて長期間評価した研究がNorwayから報告された.対象は129名のPD患者(うち女性が57%)で,受診時,および経過観察開始後4年,8年目にMMSEによる評価を行った.対象はアルツハイマー病(AD),および健常者とした.結果として,129名のPD患者では,受診時MMSEは27.3±5.7であったが,8年間の経過観察で,年1.1ポイント(95% CI 0.8~1.3)の低下を認めた.またPD症例のうち痴呆症状を合併した症例では(49名;診断はDSM-III-Rによる),受診時から4年後までのMMSEの低下率は2.3(95% CI 2.1~2.5)であった.一方,ADの場合(n=34),受診時から4年後までのMMSEの低下率は2.6(95% CI 2.3~2.8)で,PD with dementia群とAD群では有意差は認められなかった.さらにPD症例のうち,痴呆を来たさなかった80名のMMSEスコアの変化は小さく,健常対象者(n=1621)と同様であった.PD症例のうち痴呆を合併した症例の特徴として,受診時に①高齢であること,②幻覚,③パーキンソン症状が重篤,の3点が挙げられた.
 以上の結果は,PD症例の痴呆の進行速度を明らかにし,合併例ではADと同様であるという驚くべき結果であった.しかし一番,重要であると考えられるのは,PD症例のなかでも高次機能障害を合併する群としない群が明らかに存在することであり,PDは均一な疾患ではないということを再認識する必要がある.

Arch Neurol 61; 1906-1911, 2004

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

遺伝性痙性対麻痺SPG3A(Altastin変異)の臨床的特徴

2004年12月18日 | その他の変性疾患
遺伝性痙性対麻痺はheterogeneousな疾患群であるが,常染色体優性遺伝形式を呈するHSPのうち,原因遺伝子が同定されているのは,SPG4 2p22-p21 (spastin),SPG3A 14q11-q21 (atlastin),SPG13 2q24-34 (Hsp60)の3つである.今回,SPG3Aの臨床的特徴がフランスのDurr, Briceらにより報告された.これまでSPG3Aは8家系の報告があったが,今回,新たに12家系が報告された.
 方法としてはSPG4が遺伝子診断にて除外された31家系についてatlastin遺伝子変異の有無をdirect sequenceにて確認した(atlastin遺伝子は14 exon,約69kb).この結果,12家系34名の罹患者を見出し,遺伝子変異は計9種類,うち7つは新規変異であった.結果的にフランスではSPG4変異を除外した,原因不明のHSP-AD(20歳未満発症)のうち,39%がSPG3Aということになった.
 臨床的特徴としては,発症は4.6±3.9歳と若年で,症状の進行は緩徐.一部の症例で,深部覚低下,下肢の筋萎縮,括約筋障害,側弯を認めた.また症状が軽微,もしくは無症候の場合もあり,本疾患は不完全浸透のADと考えられた.SGP4との鑑別点は,①より早期の発症,②上肢件反射亢進・深部覚低下・括約筋障害の頻度が少ない,③逆に下肢の筋萎縮・側弯を合併する頻度が高いであった.
 本邦では知る限りにおいて本疾患の報告はないものと考えられるが,上記が疑われる場合には,遺伝子変異が集中するexon 7, 8, 12, 13のdirect sequenceをまず行う必要がある.Primer は本論分にリストが載っている.

Arch Neurol 61; 1867-1872, 2004

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする