Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ドパミン・アゴニストと心機能をめぐる2つの話題

2007年04月21日 | パーキンソン病
 麦角系アゴニストによる心臓弁膜症に関して厚生労働省の見解が示され,カバサールの添付文書が改訂された.これによると非麦角系アゴニストを第一選択とするよう記載されている.またカバサール使用中の場合,定期的な心エコーが必要とされている(本剤投与開始の心エコー検査が必須で,さらに投与開始後3~6 ヵ月以内に,それ以降は少なくとも6~12 ヵ月毎に心エコー検査を行う必要がある).しかし,アゴニスト投与患者における心エコーは保険請求できないそうだ(苦笑).私には予想以上に厳しい判断に思えた.たしかにアゴニストによる心臓弁膜症は問題ではあるが,現時点で,心不全まできたす症例がいるのかどうか,また薬剤使用量との発症リスクについては十分なデータがない状態ではなかったのではなかろうか.今回の麦角系アゴニストという選択肢を事実上奪ってしまう措置は,過剰反応のように思えてしまう.タミフル問題でたたかれた厚生労働省が問題が生じる前に責任回避の措置をしているように思えるのは私だけであろうか?

 さてカバサールやペルマックスをやめざるを得なくなると,pramipexole(商品名;ビ・シフロール)を使用する頻度が増えるのではなかろうか.PramipexoleはドパミンD2受容体ファミリーに強い親和性をもつ非麦角系ドパミン・アゴニストで,副作用としては他のドパミン・アゴニストと同様に,嘔気,突発的睡眠,幻覚,病的賭博・性欲亢進などの衝動性の行動を呈する.今回,pramipexoleに伴う副作用としての下腿浮腫とその危険因子に関する臨床研究がアメリカから報告されている.

 方法はretrospectiveにカルテを確認するという方法である.Philadelphiaの退役軍人病院にて行われたstudyで,2002年12月から2004年12月の期間を対象としている.2変量ないし多変量ロジスティック回帰モデルを用いて,合併する疾患や他の薬剤,パーキンソン病の状態など,どのような因子が下腿浮腫の危険因子となるのか検討した.下腿浮腫の出現時期に関する検討はKaplan-Meier 法と多変量Cox比例ハザードモデルを用いている.

 さて結果であるが,273名の患者がpramipexoleを使用していた.このうち38名 (16%)に下腿の浮腫が認められた.多変量ロジスティック回帰モデルにて検討した危険因子としては特発性パーキンソン病であること (オッズ比4.80; 95%CI, 1.54-14.98; P = .007),冠動脈疾患の既往(オッズ比3.35; 95%CI, 1.51-7.46; P = .003),糖尿病の既往(オッズ比3.12; 95% CI, 1.01-9.60; P = .05)の3つが判明した.Pramipexoleの内服量と下腿浮腫の発生率および重症度については関連がなかった.治療開始後最初の1年間に下腿浮腫が出現する危険性は7.7% (95% CI, 4.5%-12.9%)で,冠動脈疾患の既往のある患者ではより進行が早かった.結論として,下腿浮腫はpramipexoleを内服中のパーキンソン病患者において少なからず見られる副作用であり,冠動脈疾患の既往は危険因子として重要であるということである.

 ただし本研究の問題点を挙げるとすれば,まず対照群がないことが致命的である.このために冠動脈疾患の既往が交絡因子として浮腫の発生に関わっている可能性が否定できない(この場合,pramipexoleは浮腫の直接の原因ではないということになる).またpramipexoleが浮腫を引き起こすとした場合もその機序は全然不明である.もう一つの問題点は,浮腫を認めた患者の心機能の評価をほとんど行っていないことである(その理由として,担当したのはみな神経専門医で,pramipexoleにより浮腫が生じることを知っていたからと言っている!?).そうは言っても下腿の浮腫を見れば心機能を評価するべきではなかっただろうか.今後,使用が増えると思われるpramipexoleだけに,下腿浮腫の出現に注意して診療する必要があると思われた.

Arch Neurol 2007; 64 (published on line)
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新しい遺伝性舞踏病が日本から報告された

2007年04月08日 | 舞踏病
 舞踏運動は振幅が大きく踊るような,短時間の突発的な不随意運動である。解剖学的には線条体(尾状核,被殻),内包前脚,淡蒼球外節,視床,視床下核の病変で生じうる。舞踏運動を呈する疾患にはさまざまなものがあるが、遺伝性に発症する疾患としては、Huntington病 (HD), Huntington病類縁疾患1型(HDL1), 2型(HDL2), DRPLA, 脊髄小脳変性症17型(SCA17)、そして良性遺伝性舞踏病(BHC)が知られている。良性遺伝性舞踏病はなぜか昔から教科書に載っている病気だが,その存在の有無に関しては様々な論争があった.しかし,2002年になりTITF-1(thyroid transcription factor-1 gene)遺伝子に欠失を認める家系が発見されTITF-1遺伝子がBHCの原因遺伝子であることが判明した.この疾患は上述の疾患とは明らかに臨床像が異なり,発症は幼児期ないし小児期,非進行性で生命予後は良好.永続的な知能障害はなく,舞踏病も成長に伴い改善することが多い(つまり成人発症の良性舞踏病の報告はなかった).

 今回、新潟大学から成人発症良性遺伝性舞踏病の2家系が報告された.ともに常染色体優性遺伝をしめす.発症者は上下肢や体幹・頭部に,緩徐に進行する舞踏運動を呈する.四肢の著明な筋トーヌス低下が見られる.認知症は伴わない.発症年齢は 40 ~66歳(平均54.3歳).舞踏運動は少量のセレネースで治療可能.頭部画像所見では全例,線条体の萎縮はない(ただしSPECT上では尾状核の低血流が認められる).

 遺伝子検索では上記に挙げた既知の疾患は否定され,TITF-1遺伝子にも異常は認めなかった.連鎖解析では,染色体8q21.3–q23.3 にtwo-point LOD scoreが4.74(D8S1784)という結果であった.2家系の解析から原因遺伝子の候補領域はM9267からD8S1139までの21.5 Mbに絞られた.本疾患はbenign hereditary chorea type 2(BHC2)と名付けられた.

 本疾患は神経学的には舞踏運動のみを成人期以降に発症し,認知症などその他の神経学的異常を呈さないことからあまり症状を自覚せず病院にも通院しないということもあるかもしれない.また老人性舞踏病(senile chorea)という疾患概念が存在するが,それらとの関連があるのかどうかについても興味が持たれる.症例の集積による臨床像の解明と原因遺伝子の発見が待たれる.

Brain April 2, 2007(Advance Access published online)
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ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)について知ろう!

2007年04月01日 | 脳血管障害
 ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin-induced thrombocytopenia; HIT)は、出血に次ぐ、ヘパリンの重大な副作用のひとつである。欧米からの報告が多いが、本邦ではその認識は案外十分ではない。HITの病態としては、①(未分画、低分子分画を問わない)ヘパリン投与中に発症し、急激に血小板数が減少すること、②ヘパリン投与中止により血小板数が速やかに回復すること、③動静脈塞栓症をしばしば合併すること、が挙げられる。ハイリスク群が知られていて、重度の冠動脈硬化症の患者、糖尿病腎症、悪性腫瘍、血管合併症を認める透析患者(導入期)、手術後などが報告されている。

 病型としてはtypeⅠ と typeⅡに分類される。typeⅠは、ヘパリンによる血小板に対する直接刺激により血小板数減少が引き起こされる。投与2~3日後に10~30%の血小板減少が生じる。通常、血小板数が10万以下になることは少ない。頻度は使用例の約10%、使用量依存性に発症すると言われる。一般にヘパリンを中止することなく、血小板数は自然に回復する。

 一方、重篤な合併症が問題となるのはtypeⅡである。このタイプではヘパリンと血小板第4 因子(PF4)からなる複合体に対する抗体(HIT抗体)が血小板に結合し、血小板を活性化し、血小板数減少と血栓形成を引き起こす。免疫学的機序を介するため、ヘパリン使用量が少量でも発症する(ちなみにPF4は血小板活性化に伴いα穎粒から放出されるヘパリン結合蛋白で、ヘパリンと結合しその抗凝固作用を中和する)。発生頻度は0.5~5%という欧米からの報告がある。HIT抗体は、ヘパリン開始後5~14日以内に出現するが、ヘパリン投与開始後急速に発症するタイプがあることも知られている(もともとHIT抗体を持っている人と考えられている)。血小板板が2万/μL程度にまで急激に減少する。検査としては、ELISAによるHIT抗体の検出(最近はキットが売られている)や、ヘパリン惹起血小板凝集能の測定が有用である。Type Ⅱは免疫疾患なのでヘパリンの再使用は避ける。点滴のヘパロックも禁忌である。

 治療としては、病態の中心となるトロンビンの産生抑制とすでに産生されたトロンビン不活性化が目標となる。つまりヘパリンの速やかな中止と、抗トロンビン剤の使用を行う。代替の抗凝固剤としては、選択的かつ直接的抗トロンビン剤であるアルガトロバンが推奨される。これはヘパリンと構造上相同性がないこと、分子量が小さいため抗原性に乏しいことが理由である。アルガトロバンはトロンビンによる血小板凝集を強力に阻害するが、血小板刺激作用はない。(ちなみにFDAが承認した抗トロンビン剤はアルガトロバン、lepirudin、bivalirudinの3種類あるがで、本邦で使用できるのはアルガトロバンのみで、現在、医師主導型の治験が開始されている)。ワーファリンや血小板の輸血はtype 2の急性期治療には原則禁忌である(むしろ増悪させる)。抗血小板剤はHIT抗体によって活性化された血小板を抑制する作用は強くないので通常使用されない。アルガトロバンは高価な薬ではあるが、これを使用するしかないのが現状である。

 実際、私自身幸い経験したことはないのだが、結構、経験された方はいるのでしょうか?(欧米並みに発生しているはずという指摘もある)。ご経験のある方は書き込みなどしていただけると勉強になります。ちなみにHITについては以下のホームページにおける記載が詳しいのでご紹介したい.お勧めです.

HIT情報センター
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