Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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「神経内科」の標榜を守れ!

2007年05月23日 | 医学と医療
 「神経内科」を標榜できなくなるという話が進行している.以下,朝日新聞(2007年05月16日)の記事を抜粋する.

厚生労働省は、医療機関が名乗ることができる診療科を、現在の38科から20科程度に再編する方針を固めた。細分化して患者にわかりにくくなっている診療科を廃止する一方で、幅広い病気を診断できる医師に公的資格を与え、その医師がいる医療機関には「総合科」(仮称)を名乗ることを認めあることなどが柱だ。患者が医療機関を選びやすくするほか、医療機関ごとに初期診療と専門医療の役割分担を明確にし、医師不足の一因とされる大病院への患者集中を緩和する狙いもある。
 厚労省は今月21日、医道審議会に診療科名について検討する専門部会を立ち上げ、再編案を決めていく。08年度からの変更を目指す。診療科の見直しは96年以来。
 現在、医療機関が名乗れる診療科は医科33、歯科4のほか、一定の臨床経験を要件に国が許可する麻酔科がある。学会の要望などで細分化が進んだが、患者からは「花粉症だが耳鼻科とアレルギー科のどちらを受診するか迷う」「神経科と神経内科の違いが分かりにくい」などの声があった。
 見直しは、各学会による専門医の認定制度を調整している日本専門医認定制機構が定める18の基本診療科をもとにする。内科、外科、小児科など20科程度に絞る方針だ。アレルギー科、神経内科など19科の廃止や、「救急科」など4科の新設を検討する。「内科(呼吸器)」といった得意分野の併記は認める。


 あまりにもばかばかしい話だ.「神経科と神経内科の違いが分かりにくい」から神経内科を廃止してしまうだって?もしそうだとしたら,「神経科」を,実情に合わせて精神科として標榜してもらえばよいはずだし,「神経内科」をよく理解してもらえるように努力する方向に進むべきである.たとえば各病院の玄関やWeb pageなどに詳しい説明を一層行うようにし,病院の窓口に各科の診療内容に詳しい担当者を配置すればよいと思う.診療科を削減して総合科を作ったところで医師不足は解決しない.

 そして何より,「神経内科」は専門的で独立した診療科であることを強調したい.もし診療科名が廃止されれば,この分野を志す若いドクターが減る可能性さえ危惧される.高齢化社会が加速する中,「神経内科」の専門知識の重要性は増す一方だが,実際には神経内科医の地域偏在は確実に進行していることが先日の神経学会で報告された.今回の方針は将来の神経内科医療をさらに悪い方向に導く可能性があり,何としても阻止すべきであると自分は考える.みなさんのご意見はいかがなものか?

(当面,自虐的にブログのタイトルを変えてみる)
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脳梗塞治療に水素が効く?

2007年05月21日 | 脳血管障害
5月8日の毎日新聞に興味深い記事を見つけた.

<活性酸素>水素使い効率よく除去 日医大で成功
 水素を使って、体に有害な活性酸素を効率よく除去することに、太田成男・日本医大教授(細胞生物学)らが成功した。脳の血液の流れを一時的に止め、活性酸素を大量に発生させたラットに水素を吸わせると、脳の炎症が改善することを確認した。(中略)活性酸素は酸素の一種だが、酸化作用が強い。細胞や遺伝子を傷つけ、がんや動脈硬化などの引き金になるとされる。激しい運動をしたり、止まっていた血流が元に戻った直後に体内で生じる。研究チームによると、水素は活性酸素が持つ酸化とは逆の作用をする。ラットの細胞に薬剤を加えて活性酸素を作った後に水素を加えると、活性酸素の中でも悪質なヒドロキシルラジカルがほぼ半減し、死滅する細胞もほぼ半分になった。また、脳の血流を一時的に止めて活性酸素を発生させたラットに2%の水素を含んだ麻酔ガスを吸わせると、脳の炎症が治まり、6匹中4匹は両足を動かせるまでに回復した。水素を与えないラットは、足が動かなくなるなど症状が悪化した。太田教授は「安全性も高く簡便なので、がんや動脈硬化の予防や症状の悪化防止にも応用しやすい」と話している。同日の読売新聞には「水素は善玉の活性酸素には作用しない。既存の脳梗塞治療薬より効果は顕著で有望だ」という談話も記載されている.

 すごいコメントだと感心し,早速,原文を読んでみた.これまで水素ガスによる・OH(ヒドロキシルラジカル)の消去効果はin vitroでは報告されていたらしいが,in vivoでその検討を行い,悪玉・OHを特異的に消去できたというのが話のミソのようだ.著者らはまず培養細胞PC12細胞にミトコンドリア呼吸鎖を阻害するantimycin Aを加え,活性酸素,具体的にはO2-・(スーパーオキシド),H2O2(過酸化水素),・OH(ヒドロキシルラジカル)を誘導している.そして培養液に溶解させた水素ガス(0.6 mM)が・OHの消去効果を有し,さらにミトコンドリア膜電位やATPレベルを保つことを示した(一方,水素ガスはO2-・には影響を与えなかった).さらに同じ系を用いて水素ガスが核DNAの酸化や脂質過酸化を抑制すること(8-OH-GやHNEをマーカーとして示した),スピントラッピング法を用いて,H2O2から・OHを産生するフェントン反応(Fe2++H2O2 →Fe3++HO-+HO・)が水素ガスにて抑制されることを示した.さらに無細胞システムにおいて水素ガスの消去効果が・OHに特異的であることを示した.神経培養細胞でもOGD下(無酸素無糖条件)にて水素の神経保護作用を確認している.最後にラット中大脳動脈閉塞モデル(suture model)を用いて局所脳虚血への効果を確認した(虚血時間は90分で30分の再灌流を行っている;虚血再灌流モデル).120分間の間,水素濃度は0%, 1%, 2%, 4%の4パターン用意し吸入させた.バイタルサインや脳血流量に変化はないものの,血液ガス中水素濃度は濃度依存性に上昇し,静脈血では動脈血より低濃度であった(組織に吸収されたということ).脳梗塞の縮小効果(24時間後)は線条体・皮質ともでは2%以上の濃度で,エダラボンより効果は大きく,FK506(プログラフ)と同等であった.1週間後でも脳梗塞体積は小さく,神経学的スコアリングでも有意に良好で,免疫染色で見た活性化ミクログリアやアストロサイトは水素ガス濃度に依存して減少していた.すなわち水素ガスは虚血に伴う炎症を抑制した.

 以上の結果は,水素ガスは抗酸化作用を持ち,脳梗塞治療に有用であることを示唆する.Discussionでは水素は生体膜を拡散し種々の細胞内小器官に浸透しうること,肝臓の虚血再灌流障害にも有効であったこと,酸化ストレスの関与する生活習慣病やがんにも有効な可能性があること,水素は生食に溶けることから経血管的に投与できること,水素吸入は潜函病の治療でも行われ安全性が示されていること,4.7%未満の濃度では燃焼や爆発の心配がないことが記載されている.

 とても興味深い論文だが,実際に即治療に結びつくかというとそういう訳ではなさそうである.まず動物モデルはsuture modelであるが,このモデルではNXY-059(SAINT study)をはじめ数多くの薬剤が有効性を示したものの何一つヒトの臨床試験では効果を見出せていない.もうひとつ気になるのはこの実験では虚血再潅流後,治療開始までのtherapeutic time windowがどの程度残されているかを示していない点である.いずれにしてもおそらく治療薬として使われるとしたら,発症後3時間以内,もしくは3-6時間の症例で,t-PAで血栓溶解が成功した場合の補助療法としての使用だろう.少なくとも虚血・再灌流が生じない永久血管閉塞の脳梗塞では効かないし,過去に脳梗塞を起こした人には無効だろう.まして,がんや動脈硬化に効くかなど調べてもいない.活性酸素の悪玉・善玉についても,O2-・(スーパーオキシド)は酸化力は低く,・HO(ヒドロキシルラジカル)は酸化力が強いことはよく知られているものの,あまり今まで・HO以外が善玉という議論を聞いたことがなく,選択的消去がそんなに大切なのかよく分からない(詳しい人がいたら教えてください).

 いずれにしてもマスコミやお金儲けのうまい人,健康大好き人間が飛びつきそうなネタである.でも「活性水素水」を飲んでもそう簡単に血中水素ガス濃度が上昇するとは思えない.便乗商品には注意してほしい.

Nat Med. Published online: 7 May 2007 
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ノーブレス・オブリージュの崩壊

2007年05月13日 | 医学と医療
 最近,新研修医とともに病棟診療に当たっているが,ふと休日も睡眠時間も削っての勤務をどのように感じているのだろうかと思うことがある.医師の仕事については最近ようやくその過酷な勤務環境が報道され,病院・医療システムの破綻が知られるようになった.個人的にも慢性的な疲労感を抱え,割に合わない収入に我慢しつつ勤務を続けているが,それでも何とか頑張り続けているのは,やりがいとかプライドとか,患者・家族からの感謝とか,そんな心の支えがあってのことである.フランスのことわざに「ノーブレス・オブリージュ」というものがあるが,それは身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任があるという,欧米社会における基本的な道徳観である.医師の身分が高いかどうかは意見の分かれるところだが,私は先輩ドクターから知らず知らずのうちに,そのような道徳観を教わってきたような気がする.多くの医師は多かれ少なかれ「ノーブレス・オブリージュ」を心の支えの一部として過酷な勤務に耐えているのではないだろうか.

 最新号の中央公論では「病院が崩壊する」という特集が組まれていて,現状とその打開策を紹介している.ご一読をお勧めするが,その中で久坂部羊氏による「そして医師はいなくなった」という論文のなかに以下のような記載がある.

 「患者・家族は医師に過大な要求を突きつけ,ミスを隠してはいないかと目を光らせ,夜中でも医師なら診察して当たり前という態度に出る.社会も医師に敬意を払うどころか,目の敵にせんばかりに批判する.収入も命を救ったことにとても見合う額ではないのに,医療過誤を起こせば年収の何倍もの賠償を請求される.狭いマンションに住み,社会的な尊敬も受けず,長時間労働でろくに家族の顔も見られない生活の,どこがノーブレスなのか」.

 これは決して誇張ではなく,今の研修医たちはこのような状況の中で医師としてのキャリアをスタートするわけである.何のために過酷な勤務に耐えるのか,我々指導医も明確な答えを示すことができているのか自信を持てない.

 現状の解決にはノーブレスを優遇すること,そして患者の要求を適正化することが必要だ.ノーブレスを優遇するとは,単に経済的なバックアップを指しているのではなく,医師が働きやすい環境をつくることだ.私の周囲には共働きの医師が多いが,いずれも場合も育児をどのように行っていくかで悩んでいる.私のよく知っている麻酔科医は育児をしてくれる親親戚がいないためベビーシッターを雇ってまで働いている.もし社会が病院に保育所を併設するなどしてくれれば少なからぬ女性ドクターが復帰し,医師不足の緩和につながるであろう.

 また誤解を恐れず述べるが,日本における患者の要求は肥大化している.医師をどれだけ増やそうがこのままでは間に合うはずがない.私が2年ほど経験したアメリカの医療では,患者はよほどのことがなければ病院にかからない.高額でかかれない面が大きいが,なんとか OTC(Over The Counter drug)で済まそうとする.これは裕福な家庭でもそうだ.そんなことで医療の需要と供給のバランスを取っている感じがした.現在の日本の医療の問題はそのバランスが大きく崩れていることである.いずれにしても「ノーブレス・オブリージュの崩壊」を食い止め,今後の医療を担う若いドクターが誇りをもった仕事ができるような方策を社会全体で考えていかねばならない.医学部に「地域勤務枠」を作ればすむような単純な問題ではないのである.

以下に参考とした書籍を紹介する

中央公論 2007年 06月号 [雑誌]
医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
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Robert H Brown教授によるALS研究レヴュー

2007年05月06日 | 運動ニューロン疾患
 ボストンで開かれた第59回アメリカ神経学会(AAN)に参加した.印象に残ったplenary sessionのうち,ハーバードMGHのBrown教授によるALS研究の進歩に関するレクチャーを取り上げたい.彼は家族性ALSにおける知見をどこまで孤発性ALSに応用できるかというスタンスで研究を行っている.

 まず家族性ALS(FALS)は全体の5-10%を占めるが、そのうちの25%がSOD1変異(全体の3%;FALS1)になる.現在135の遺伝子変異が報告されているが(うち124がミスセンス変異,11がtruncation),変異によっては無症候性であったり(北Sweden家系),逆にA4Vのように急速進行性のものもある.ほかのFALSの原因遺伝子産物としてはalsin,VAPB(Vesicle-associated membrane protein B), dynaction, senataxinが同定されている.

 一方,孤発性ALSの疾患感受性遺伝子としては,VEGF, Angiogenin, SMN, neurofilamentなどが研究されている.最近とくに注目されている遺伝子はparaoxonase 1 (PON1)(Neurology, 2006)である.また本邦でも行われているが,SNPsを用いた全ゲノム解析も最近報告され(Lancet Neurol, 2007),whole genome analysisがいよいよ本格化してきた.たとえば上記の報告はALS患者276人,コントロール271人に対し555352個にも及ぶSNPsを検討したもので,うち34個がP値0.0001未満となり疾患感受性遺伝子の候補として挙げられている.現在,行われている同様の研究も合わせてメタ解析を行い,最終的な候補を絞ることになりようだ.

 つぎにALS発症のメカニズムについて考察していた.SOD1変異マウスを例によって考えると,病態機序には2つの局面があると考えている.つまり最初は神経細胞のみが変性するステージ,次は神経炎症が生じるステージ,ということだ.はじめに変異SOD1は神経細胞においてATP減少や軸索輸送の障害をきたし,神経変性を来たす.次に変異SOD1はchromograinとの結合を介してミクログリアやアストロサイトを活性化し,これらが炎症により運動ニューロンを傷害する(Nat Neurosci 2007).ただ,神経炎症はもっぱら神経毒性を発揮するのではなく,神経保護に関わっているらしく複雑である.具体的にはIL4→IGF1を介する保護作用が推測されている.

 では孤発性ALSではどうなのだろうか?最近,野生型SOD(遺伝子変異をもたないもの)も酸化されると神経毒性を持つことが報告された.また変異SOD1を認識する抗体が,孤発性ALS患者サンプルを認識することも判明し,一部,FALSと孤発性ALSの間で共通の病態機序が存在する可能性が出てきた.またFALSにおいてみられた神経炎症が孤発性ALSでも関与しているのかを調べる目的で行ったMGHの臨床研究は,孤発性ALSに対し抗炎症剤アスピリン治療を行うというものであった.その効果,なんとアスピリン治療群では12か月以上生存期間が短縮してしまったそうだ!!.すなわちALSでは神経炎症は防御システムとしても作用している可能性が高くなった.

 肝心の治療については残念ながらまだ有力なものはない.ただし,抗生剤セファロスポリンCeftriaxoneやOxy-テトラサイクリンが有望視されていて治験が企画されている.FALSではワクチン療法や,アンチセンスによるアリル不活性化がSOD1動物モデルにおいてその有効性が示されており,そのようなアプローチもあるのかもしれない.

 この講義とはべつに有料の教育クラスを受講し「ALS,パーキンソン病,認知症の緩和ケア」を勉強してきた.ALSの緩和ケアは,個々の症状については日本で行われていることとあまり違いを感じなかったが,明らかに違う点が2つあった.気管切開を前提とした人工呼吸器療法については極めて消極的であることと,日本ではほとんど行われていない神経変性疾患患者さん向けのホスピスがかなり重要視されていること,である.それぞれの文化や社会の違いを反映したものかもしれないが,なぜ日本に神経疾患のホスピスが根付いてこなかったのか少し考えさせられた.

Annual meeting of 59th AAN (Boston)
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孤発性クロイツフェルトヤコブ病(CJD)における検査の感度

2007年05月01日 | 感染症
 孤発性CJDの生前診断は,臨床経過に加え,脳波における周期性同期性放電(PSD)や頭部MRI所見を参考に行っているのが一般的と思われる.今回,孤発性CJDの生前診断目的に行われる種々の検査の陽性率に関する研究が報告された.この研究では,各検査の感度のみならず,発症年齢や罹病期間,分子サブタイプが与える影響まで検討しており,大変興味深い論文となった.

 本研究はヨーロッパ諸国を中心とした国際共同研究として行われた(EUROCJD).対象は病理学的に診断が確定した2451例(!)の孤発性CJDで,遺伝性CJDは除外されている.登録期間は1992年から2002年までの10年間であった.検査として,脳波,頭部MRI,髄液14-3-3蛋白を検討した.脳波陽性例の定義としてはPSDを認めること,頭部MRIでの陽性例の定義としては被殻,尾状核の異常信号とした.分子サブタイプは,プリオン蛋白遺伝子のコドン129の多型(Met,Val)と抗プリオン蛋白プロテアーゼのタイプ(タイプ1,2)を組み合わせて行った.

 さて結果であるが,まず患者の内訳としては、60歳代および70歳代の発症が最も多く、それぞれ38.3%,32.2%であった.80歳以上の発症も6.1%と少なからず存在することも分かった.検査別の陽性率は、14-3-3蛋白88.1%,脳波58.4%,頭部MRI 39.1%と、14-3-3蛋白の感度が最も高かった.

 つぎに発症年齢と罹病期間が各検査に及ぼす影響についてであるが,脳波では発症年齢が高齢化するに従って陽性率が上昇し(80歳以上では65.3%),かつ罹病期間が短いほど陽性率が上昇した(6ヶ月未満は66.3%).髄液14-3-3蛋白では,罹病期間が短いほど陽性率が上昇したが(6ヶ月未満では92.7%),発症年齢による影響は認めなかった.これに対し頭部MRIでは,発症年齢と罹病期間のいずれも影響を与えなかった.

 さらに分子サブタイプを決定できた743症例に限って検討を行った.脳波では50歳未満の発症例では陽性率が21.6%と低く,年齢が高齢化するに従い陽性率が上昇した(70歳代では67.3%と高率).また罹病期間が短いほど陽性率は上昇した.14-3-3蛋白では陽性率が分子サブタイプにかかわらず高率であったが,発症年齢による陽性率には差はなかった.しかしながら罹病期間との関連では12ヶ月未満では90%以上であるのに対し,12ヶ月以上で72.2%と低下した.一方,頭部MRIではやはり発症年齢や罹病期間は影響を及ぼさなかった.また分子サブタイプごとに評価を行うと,MV1,MV2,VV2,VV1/2は脳波の陽性率が低い,VV2は頭部MRIで陽性率が高い(95.2%),MM2、MM1/2、MV2は14-3-3蛋白の陽性率が低い,という結果であった.

 以上より,検査によって感度が異なること(髄液14-3-3蛋白の感度が高い),かつ検査によっては発症年齢や罹病期間,分子サブタイプに影響を受けることが明らかになった.ここで疑問に思うのは頭部MRIの感度の低さであるが,これは観察期間が1992年からの10年間であり,その意義や重要視されていなかったことや技術的な問題が影響しているものと考えられる(FLAIRや拡散強調画像を用いて,大脳皮質の信号異常まで評価すれば相当感度は高くなる).いずれにしても,孤発性CJDの生前検査の限界を認識することは重要であり,特にMV2やMM2のようにまれなタイプでは検査を組み合わせて行うことが重要であると考えられた.

Brain 129; 2278-2287, 2007
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