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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳卒中の危険因子としての無症候性心房性頻脈性不整脈

2012年01月28日 | 脳血管障害
ペースメーカー装着中の患者で見出されるような臨床症状を認めない心房性頻脈性不整脈も,脳梗塞や全身性塞栓症の危険因子となるかは不明である.今回,ペースメーカーまたは植込み型除細動器(ICD)を装着している患者を対象に,①無症候性心房性頻脈性不整脈の頻度,②その不整脈が脳梗塞や全身性塞栓症の危険因子になるかを明らかにするために行われた23カ国の多施設共同研究(ASSERT研究)の結果がNew Eng J Med誌に報告された.

対象は,65歳以上の高血圧患者で,登録前8週間以内にペースメーカーまたはICD植え込み術を施行された症例(前者が95%)とした.心房細動や心房粗動の既往歴のある症例は除外した.心房性頻脈性不整脈は脈拍190/分以上,6分以上持続と定義し,その有無を3ヶ月間評価した.一次エンドポイントは,脳梗塞または全身性塞栓症とし,二次エンドポイントは,血管関連死(vascular death)、心筋梗塞、脳卒中、体表心電図での心房性頻脈性不整脈とした.これらエンドポイントは平均2年半観察を行った.心房性頻脈性不整脈を認めた群と,認めなかった群で,臨床的心房細動の発生頻度やエンドポイントの比較を行った.

結果であるが,対象は2580名(!).うち登録の3ヶ月以内に,無症候性の心房性頻脈性不整脈は261例(10.1%)に認められた.心房性頻脈性不整脈は2.5年までの経過観察では34.7%に認められた.心房性頻脈性不整脈を認めた症例の15.7%がその後,臨床的心房細動を呈するようになった.

無症候性心房性頻脈群は非頻脈群に比べ、臨床的心房細動の発生が有意に多かった(ハザード比5.56;95%信頼区間3.78~8.17;P<0.001).さらに,無症候性心房性頻脈群は非頻脈群に比べ,脳梗塞および全身性塞栓症の発生が有意に多かった(ハザード比2.49;95%信頼区間1.28~4.85;P=0.007).一次エンドポイントを認めた51例中11例は3ヶ月以内に心房頻脈性不整脈を認めていたが,臨床的心房細動は認めなかった.

無症候性心房性頻脈が一次エンドポイントの発生に及ぼす住民寄与危険度(すなわち,その危険因子に暴露されなければ一次エンドポイントの発生がどれくらい減少するかを示す)は13%であった.無症候性心房性頻脈は,種々の危険因子の補正後も一次エンドポイントの予測因子であった(ハザード比2.50;95%信頼区間1.28~4.89;P=0.008).

以上より,ペースメーカーないしICD植え込み患者においては,無症候性心房性頻脈は少なからず(10.1%)に起こっていること,また無症候性心房性頻脈は脳梗塞および全身性塞栓症の危険因子であることが極めて多数例での検討で明らかになった.今後,このようなペースメーカー等で無症候性心房性頻脈を認めた症例に対しても抗凝固療法を行う必要があるか検討されることになる.しかし,本研究はペースメーカーやICD植え込み症例が対象で,もともと心房細動が生じやすい素因があった可能性もあるため,今回の結果を65歳以上の高血圧患者全体に当てはめて良いのかわからない.

また本論文では心房細動の治療法の一つであるペースメーカー治療の有効性についても検討している.オーバードライブサプレッションという機能を持ったペースメーカーでは,心房細動が誘発された際,心房に対してオーバードライブ(連続刺激)を打ち,心房細動を抑制することができるそうだ.オーバードライブペーシングは心房性期外収縮がきっかけになって心房細動が起きている場合にも有効と言われる.本研究では無症候性心房性頻脈の評価が終わった後,心房オーバードライブペーシングによる治療介入の有無で,無作為に2群に割り付けを行い,6ヶ月間の心房細動予防効果についても検討している.この結果,<font color="red">心房オーバードライブペーシングは心房細動予防に関して無効という結果になり,その有効性を証明できなかった.こちらはさらっと付け足し的に書かれているが,これまで有効と考えられていた治療でもあり,とても重要な知見といえる.

Subclinical Atrial Fibrillation and the Risk of Stroke; the ASSERT Investigators
N Engl J Med 2012; 366:120-129January 12, 2012
 

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良性遺伝性舞踏病2型(BHC2)はタウオパチー?

2012年01月23日 | 舞踏病
2007年に新潟大学脳研究所が中心となり,良性遺伝性舞踏病2型(benign hereditary chorea type 2;BHC2)という新しい疾患の存在を明らかにした(Brain. 2007).常染色体優性遺伝形式を呈する疾患で,神経学的には舞踏運動のみを成人期以降に発症する.認知症や精神症状など,その他の神経学的異常を呈さないことから「良性」と名付けられた.良性遺伝性舞踏病としては,TITF-1(thyroid transcription factor-1 gene)遺伝子が原因で,幼児期ないし小児期に発症する疾患が報告されていたが,それとは臨床像も原因遺伝子も異なっている.むじろ古くから存在が知られる,いわゆる「老人性舞踏病」と臨床像が類似している.原因遺伝子座は同定されたが(8q21,3-q23.3),原因遺伝子までは未同定であるため,BHC2と診断されたのは連鎖解析が行われた本邦2家系のみである(下記の記事参照).

新しい遺伝性舞踏病が日本から報告された

今回,そのうちの1家系内の罹患者の剖検所見が報告された.症例は剖検時83歳の方で,およそ40歳時に両上肢の舞踏運動にて発症した.舞踏運動は60歳頃までに体幹から下肢にまで認めるようになった.全身の筋トーヌス低下が認められた.その後,お亡くなりになるまで症状の増悪はみられなかった.

神経病理学的には,脳の萎縮は亡くなる31年までの画像所見と比較し,明らかではなかった.線条体(とくに尾状核)における軽度から中等度の神経細胞脱落とアストロサイトーシスが認められた.また両側大脳白質におけるアストロサイトーシスを伴う萎縮が認められた.加えて,まばらながらびまん性に4リピートタウ陽性のneurofibrillary tangle(神経細胞体でのタウの蓄積),argyrophilic thread(オリゴデンドロサイトでの蓄積),そしてtufted astrocyte(アストロサイトでの蓄積)が大脳,脳幹,小脳に認められた.また動眼神経核の神経細胞の細胞質には特徴的なエオジン好性の封入体が認められた.この封入体は ubiquitinやp62,タウ,リン酸化タウ,ポリグルタミン,TDP43,αシヌクレインでは染色されなかった.

臨床病理学的に,舞踏運動・筋トーヌス低下は線条体と大脳白質の変性に伴う症状と考えられた.PSP様の病理学的変化の意義は不明であるが,本疾患が進行性核上性麻痺(PSP)と同じく4リピートタウオパチーである可能性と,もしくはPSPを併発した可能性がある.ただし本例ではPSPを示唆する神経症状(核上性眼球運動障害,無動など)は認めなかったことから,後者は積極的には考えにくく,本疾患は4リピートタウオパチーである可能性を高いように現時点で考えている.

Neuropathology. 2012 Jan 12. [Epub ahead of print]
Benign hereditary chorea 2: Pathological findings in an autopsy case.
 


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脳の歴史 ―脳はどのように視覚化されてきたか―

2012年01月09日 | 医学と医療
心躍る神経科学書を見つけた.しかも,それは歴史書でもあり,美術書でもある.

Carl Schoonoverさんというコロンビア大学の若手神経科学者が書いたPortraits of the Mind: Visualizing the Brain from Antiquity to the 21th Centuryという本の邦訳である.タイトルから分かるように,いにしえから現在に至る過程で,脳がどのように視覚化され,どのように考えられたのか,脳神経科学の歴史を解説している.レオナルド・ダ・ビンチが脳室の形を調べるため,された牛の脳に蠟を流しこんで確かめたという脳室の図,Circle of Willisで有名なトマス・ウィリスが血管に染料を注入し作成した脳底部のデッサン,ゴルジ染色で有名なカミッロ・ゴルジによる犬の嗅球における細胞群を描いた模式図など興味深い絵が続く.そしてサンティアゴ・ラモン・イ・カハールによる小脳や海馬のネットワーク等についての模式図には,観察力の凄さにただただ圧倒される.

つづいて脳や神経の構造や機能を,現代のさまざまな手法により視覚化するという脳神経科学の重要な領域の紹介が続く.二光子励起顕微鏡や逐次ブロック面走査型電子顕微鏡など,さまざまな手法の解説もあり勉強になる.堅苦しい本のように思われるかもしれないが,実物を開くと,美しいアートが並ぶ美術館のようで,脳の美しさ,複雑さに感嘆せずにいられない.「脳の中はこんなにすごいんだよ」ときっと誰かに見せたくなる,そんな本である.

ヴィジュアル版 脳の歴史---脳はどのように視覚化されてきたか 



You tube動画による本の紹介

You tube動画による著者インタビュー


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低線量被曝といかに向き合うか

2012年01月09日 | 医学と医療
日本医事新報12/31号の特集「低線量被曝といかに向き合うか」を読んだ.今後,われわれが長期にわたって向き合わなければならない低線量被曝の健康影響について,見解の異なるふたりの専門家,鈴木元先生(国際医療福祉大学クリニック院長)と崎山比早子先生(高木学校)が総説を執筆し,その後,同志社大学心理学部中谷内一也先生が心理学の観点から現状を語っている.

現在,「低線量被曝,すなわち100 mSv以下の線量域において,身体リスクが生じるのかどうか」が問題になっている(100 mSv以上での発癌リスクは確実と考えられている).専門家の中には「100 mSv以下であれば問題はない」と言い切っている人もいるし,文科省の「放射線等に関する副読本」には,学校の先生向けに「100 mSv以下の低い放射線量と病気との関係については,明確な証拠はないことを理解できるようにする」と指導するよう記載がある.しかしこれを信じて良いものか?

まず基礎知識のおさらいをしたい.1 Gy(グレイ)は放射線によって,1キログラムの物質に1ジュールの放射エネルギーが吸収されたときの吸収線量と定義される.問題のSv(シーベルト)は,生体が被曝したときの生物学的影響の大きさ(線量当量という)の単位.線量当量とは,吸収線量(Gy)に,法令で定められた係数,つまり放射線の種類ごとに定められた人体の障害の受けやすさを掛け算したものである(例えばα線はX線の約20倍,生物を傷つける作用を持つためα線の1 Gyは20 Svになる).ちなみに

東京―ニューヨーク間航空機旅行(1往復)0.2 mSv
自然放射線量(日本)1.5 mSv
CTスキャン1回 数mSv

さて本題の総説の紹介に移る.鈴木先生は,結論から言うと,年間数mSvの低線量被曝は,絶対に許容できないというレベルのものではないという考えである.具体的には原爆被爆者の疫学研究により得られたリスクの係数を使って,100 mSvにより生存期間中に癌死亡が生じるリスクをまず示している.例えば10歳男性がその生涯において癌で死亡するリスクは,被曝しなくても30%ほどあるが,100 mSvの被曝があると2.1%増加し32.1%になる(ちなみに30歳男子では生涯25%の癌死亡が25.9%に,50歳男子なら20%が20.3%になるそうだ).次に低線量被曝を年間5~10mSvとし,100 mSv 以下でも直線的にリスクが低下するという「直線しきい値なしモデル」を採用してリスクの推定を行うと(モデルの採用の根拠は後述のRothkammらの論文),10歳男性の癌死亡のリスクは,被曝なしの2.1%の1/20(0.1%)だけ増加し,30.1%になる.この0.1%のリスクの上昇は,交通事故死や肥満の癌死亡リスクより低く,絶対許容できないというレベルではないのではないか,というのが主旨である.そのあと,原爆被爆のデータ(高線量被曝データ)から低線量の遷延被曝のリスクを推計した妥当性を述べ,最後に,低線量の遷延被曝では,急性被曝と比べてリスクが低くなることを示し,計算した上記リスクより実際のリスクは小さくなるのではないかと述べている.つまり,この考え方を採用すれば,この計算上のリスク増加の値を,各人がどう判断するかがポイントになる.

一方,崎山先生は,放射線による遺伝子の障害に安全量はないので低線量でも被曝は避けるべきという考えである.放射線障害には急性障害のみだけでなく,後になって生じる晩発障害(発癌など)や遺伝的障害があることを重要視している.そして発癌のメカニズムはDNA損傷であり,どの程度の線量で放射線が二本鎖DNAを損傷するかを知れば,自ずと,癌を起こしうる線量が分かるという考えである.ここでRothkamm Kらによる以下の論文を引用している.
Evidence for a lack of DNA double-strand break repair in human cells exposed to very low x-ray doses. Proc Natl Acad Sci U S A. 2003;100:4973-5.

この論文ではMRC-5という培養細胞(ヒト胎児肺から得られた細胞)にγ線を照射する実験が行われている.二本鎖DNAの切断を鋭敏に検出するγH2AXフォーカス法という方法を用いている.簡潔に機序を述べると,ヒストンH2AのバリアントであるH2AXは,C末端に約20アミノ酸の特徴的な配列を持つが,この中でC末端から4番目に当たるSer139がDNA損傷に応答してリン酸化を受けることが知られ, DNA損傷マーカーとして頻用されている.鈴木先生の総説では,DNA損傷と線量の関係について,DNA損傷の頻度は低線量域まで直線的に減少することを述べるために引用しているが,崎山先生は,最低1.3 mGy(γ線を用いたため1.3 mSv)で二本鎖DNA切断が起きていることを述べるため引用している.そして放射線被曝は,1.3 mGyから発癌の原因になることが実証されたと記載している.さらに低線量被曝による発癌には“しきい値がない”すなわち安全量は存在しないという国際的な合意があることや,被曝の健康リスクは“発癌”のみでないこと,つまり心臓血管系疾患をはじめ非癌性疾患が線量に依存して増加することが,広島・長崎,チェルノブイリの追跡調査で明らかにされていることを示している.遺伝子障害については,チェルノブイリ事故当時,胎児・子供であった人々が現在,生殖年齢に達し,その子供において早産,未熟児,奇形児の出産が増加していると述べている.ただ個人的意見を述べると,後半についてはその通りのように思えるが,前半のRothkammの実験の解釈は慎重であるべきと思える.培養細胞での結果を人体に直接当てはめるのは無理があるし,DNA損傷イコール発癌と言い切って良いのだろうかとも思う.

最後に中谷内一也先生の心理学の話.低線量被曝は「晩発的」「外部からは観察困難」「本人にも感知できない」ものであるが,こうした未知の因子に対し,人間は「今は問題がなくても将来災いをもたらす」と強く不安を感じるそうだ.事故当初,政府が「直ちに健康への影響はでない」と説明したことは逆効果となり,結果として不安を煽ってしまったと考えられる.

また低線量被曝のリスクを定量的に理解するためには,物差しとなる他のリスクと比較すること有用である.しかし,リスクを比較する時に,説得の意図が見えてしまうと,比較そのものが拒否され,誰も説得されなくなるのだそうだ.食品の安全性をアピールするために政治家がカメラの前で問題の食品を食べることがあるが,これで安心感を得る人は少ないというのはこの例だ.問題が起きた後に提示しても手遅れで,事が起こる前に提示していなくてはならないということだ.冒頭に「100 mSv以下であれば問題はないという発言を信じて良いものかどうか」と書いたが,まさにこの不信感にはこのような心理が作用しているのだろう.

低線量被曝の問題に関する2名の専門家の総説を読み,自分なりに到達した感想は,「低線量を遷延被曝することのリスクを正確に判断するだけの十分なエビデンスはない.しかし,少なくともゼロとは言えない.このゼロとは言えない未知のリスクを,重大なものと受け止めるかどうかという各個人の判断に帰結する」である.今回の特集は低線量被曝を考えるきっかけになるのでぜひ全文をご覧頂きたいが,この記事だけを信じるのではなく,多くの専門家の意見とその根拠も確認し,各人がそれぞれ答えを出す必要があるように感じた.

日本医事新報12/31号
Comments (2)
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神経難病在宅療養ハンドブック

2012年01月02日 | 医学と医療
とても素晴らしい本を見つけたでご紹介したい.在宅療法中の神経難病患者さん・ご家族を支援している医療者向けに書かれたブックレットである.とくに参考になるのは,第2章「神経難病の告知と面談の仕方」.より良い告知のためには,まず「患者さんに語ってもらう」ことを推奨している.具体的な方法として,Buckman先生による6段階に分けた告知の準備と手順(SPIKES)が紹介されている.これは以下の6つのステージの頭文字をつなげたものだ.

Setting(面談に取りかかる前の準備)
Perception(情報収集1;患者さんの認識や理解を知る)
Invitation(情報収集2;患者さんがどの程度知りたいか知る)
Knowledge(整理と確実な理解)
Empathy(患者さんの感情に応答する)
Strategy & Summary(今後の計画を立てて,初回の告知を終了する)

重要なことは情報を伝える(Knowledge)前に,患者さんの認識や理解を知る(Perception)ことから始めること,つまり「まず患者さんに語ってもらう」ことなしに,面談を次のステージに進めないということである.また「患者さんがどの程度知りたいかを知る」というステージもとても重要である.ひとつひとつを見ると,どれも行なっていることのようにも思えるが,各ステージを確認しながら順序立てて告知を進めることは大切であり,一度はこの方法を学ぶべきように思う.

その他,入手・アクセスしやすい神経難病パンフレットの情報,嚥下・呼吸障害に対する医療処置の導入時期と指標,NPPVの圧設定やマスク選択のコツ,神経難病における苦痛(倦怠感,筋緊張亢進・線維束性収縮,痛み,呼吸苦,嚥下障害,唾液・痰,不安)への実践的対処法が簡潔に書かれており,とても役に立つ.薄い小冊子で,短時間で読める.神経難病に関わるいろいろな方にぜひ,目を通していただきたい本である.

神経難病在宅療養ハンドブック―よりよい緩和ケア提供のために 

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本邦パーキンソン病におけるcamptocormiaの頻度

2012年01月02日 | パーキンソン病
Camptocormia(腰曲がり)は,パーキンソニズム(パーキンソン病や多系統萎縮症)において少なからず報告されている.詳細は過去の記事も参照していただきたいが,腰曲がりの角度は,通常のパーキンソン病症例で認められるものより大きく,歩行などのADLへの影響も目立つ.治療法の確立が望まれる神経症状である.

今回,本邦のパーキンソン病症例におけるcamptocormiaの合併頻度,および臨床的特徴を検討した多施設共同研究が報告されたので紹介したい.これまでパーキンソン病の多数例を対象とした疫学調査は乏しく(*),貴重な報告である.

*海外の報告で,3%~12.7%との報告はあるそうだが,報告によりばらつきがあるのはcamptocormiaの定義の差も影響していると考えられる.

方法としては,慶応パーキンソン病データベース(Keio PD database)に,2009年から2010年にかけて登録されたパーキンソン病患者を対象とした.camptocormiaの定義は,立位や歩行時における胸腰椎の前屈が45°以上で,臥位になると消失するものとした.性別,発症年齢,罹病期間,重症度,内服量(すべての抗パーキンソン剤のL-DOPA換算量,L-DOPA量,ドパミン作動薬量),内服期間,非運動症状の数,運動合併症,自律神経症状,REM睡眠行動障害,認知症等の有無である.

さて結果であるが,対象は531名(男性255名,女性276名)で,発症年齢は64.8±10.2歳,罹病期間は7.0±5.5年であった.問題のcamptocormiaは22名(4.1%)で認められた.前屈の角度は80°まで認められ,camptocormiaを認める症例の平均は58.3±15.2°であった.Camptocormiaはパーキンソン病の発症後,6.2±5.2年で出現していた.4例では脊椎の手術の既往あり.1例でのみL-DOPA内服が有効で,残りの症例は内服治療が無効であった.

次にcamptocormiaの合併を認める症例と認めない症例に関して,上述の評価項目を比較した.この結果,有意差を認めたのは,年齢(76歳vs 71歳),罹病期間(8.4年vs 6.9年)運動症状が重症であることで(UPDRS-IIIスコア 17.4 vs 11.3),かつ抗パーキンソン剤内服総量(561.0 mg vs 415.0 mg)とL-DOPA内服量(454.5 mg vs 328.2 mg)も多かった.また自律神経症状のなかで重症の便秘と尿失禁の頻度も有意に高かった.

さらにcamptocormiaの重症度による臨床像の比較も行なった.つまり角度が45~60°の群(11名)とそれより高度な群(11名)を比較している.高度群では運動症状(Yahr分類,UPDRS-IIIスコア)がより重症であったが,その他については有意差を認めなかった.つまりcamptocormiaの重症度は年齢や罹病期間,内服量とは無関係である可能性が示唆された.

以上より,camptocormiaは頻度の高い神経症候ではないこと,また臨床的特徴として,重症の運動症状と多いL-DOPA内服量が認められた.この2点については想像に難くはないが,自律神経症状の合併頻度が高いことが明らかになった点は興味深く,治療やケアを考える上で重要である.治療については抗パーキンソン剤の効果は乏しく,camptocormiaの機序としてドパミン系以外機序の関与が示唆された.

Mov Disord 26; 2567-2571, 2011




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