Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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片頭痛患者に認める脳梗塞(片頭痛性脳梗塞)の特徴

2011年11月13日 | 頭痛や痛み
片頭痛に伴う脳梗塞は,国際頭痛分類第二版では1.5.4 Migrainous infarction(片頭痛性脳梗塞)と記載されている.診断基準は以下のとおりである.

診断基準:
A. 1.2「前兆のある片頭痛」を持つ患者に起こる頭痛発作で,1 つもしくは複数の前兆が60 分を超えて続くことを除けば,今までの頭痛発作と同様である
B. 神経画像検査により責任領域に虚血性梗塞病巣が描出される
C. その他の疾患によらない

つまり,前兆のある典型的片頭痛の発作中(誤解のないように!)に発生する脳梗塞のことである.その頻度は稀で,臨床的特徴についても十分に分かっていない.まとまった報告としては,10例未満の少数例のケースシリーズがある程度である(Cephalalgia 23:389-394,2003).今回,多数例での検討が,北欧とドイツより報告されているので,2つの論文を紹介したい.

まず北欧の論文(Eur J Neurol誌).対象は7つの頭痛クリニックにおける国際頭痛分類第二版の診断基準を満たす片頭痛性脳梗塞患者33名.これらの症例における危険因子,片頭痛に対する治療状況,脳梗塞の局在・症状と予後を検討した.33例中20名が女性(61%)で,発症年齢は39歳(19~76歳).古典的な脳梗塞の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病)を認めることは,スカンジナビア人の若年脳梗塞患者と比較して稀であった.急性期において12例(36%)がエルゴタミン製剤もしくはトリプタンを使用していた.脳梗塞の局在は後方循環系に多く(27例;82%),小脳梗塞も7例(21%)で認められた.脳幹梗塞を来した2例を除き予後は良好で,完全回復ないし若干の後遺症を残すのみであった.卵円孔開存(PFO)の頻度は40%で,若年脳梗塞患者と比較して有意差はなかった.

つぎにドイツの論文(Neurology誌).11年のあいだに大学病院に入院した8137例のうち片頭痛性脳梗塞は17例(0.2%)であった.うち13例が女性で(76%),発症年齢は45歳.多くの患者が持続時間の長い前兆をみとめ,その内訳は視覚性前兆82.3%,感覚障害41.2%,失語5.9%であった.脳梗塞の局在は後方循環系に多く(12例;70.6%), 残り5例は(29.4%)が中大脳動脈領域の脳梗塞であった.11例(64.7%)が小病変を呈し,多発病変は7例(41.2%)で認めたが,複数の血管支配領域に及ぶ病変を認めた症例はなかった.またPFOを11例(64.7%)で認めた.

いずれの報告も,若年女性に多く,脳梗塞の局在は後方循環系に多かった(既報も同様).発症機序については,なお今後の検討が必要である.片頭痛性脳梗塞と遷延した前兆の鑑別は難しく,さらに頭部CTでは評価困難な場合がある後方循環系の脳梗塞が多いため,片頭痛患者が遷延する前兆を主訴に外来を受診した場合は,頭部MRIを確認したほうがよさそうである.

Eur J Neurol 18; 1220-1226, 2011

Neurology 76:1911-1917, 2011.


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重症脳卒中で,発症15日以内に足を組むと予後が良い

2011年11月06日 | 脳血管障害
「足を組む」という簡単にチェックできる所見(Crossed legs sign)から,重症脳卒中患者の,発症1年後の予後を予測できるというコロンブスの卵のような話.ドイツの神経ICUからの報告.

方法は前向き観察試験で非ランダム化.対象は重症脳卒中(脳梗塞+脳出血)患者で,重症の定義は,高度の意識障害や人工呼吸器や循環補助を要する換気障害・循環障害を呈するか,脳室ドレナージや高度の神経機能モニタリングを要する症例.Crossed legs signを認める患者と,年齢・意識レベル・NIHSS重症度をマッチさせたcrossed legs signを認めない患者に対し,Glasgow coma scale,NIHSS,修正Rankinスケール,Barthel indexを,入院時,足組み時,退院時,退院後1年において比較するというもの.

Crossed legs signは120名の重症脳卒中患者のうち34名(28.3%)で認めた.発症から平均10.5日目に足組みが出現した.足組みを認めた34名と認めない34名を比較すると,退院時のGlasgow coma scaleには差を認めなかったものの,退院時のNIHSSは足組み群で良好(6.5 vs 10.6; p = 0.0026),修正Rankinスケールも足組み群で良好(3.4 vs 5.1, p < 0.001),さらにBarthel indexも良好であった(34.0 vs 21.1; p = 0.0073).1年後でも修正Rankinスケール(2.9 vs 5.1, p < 0.001),Barthel index(71.3 vs 49.2; p = 0.045)とも足組み群で良好であった.さらに死亡率でも,足組み群では1名のみ死亡したのに対し,足組みを認めない群では18名の死亡を認め,明確な差を認めた(8.8% vs 52.9%; p< 0.001).

脳卒中患者の予後予測の方法として,脳梗塞サイズや麻痺の程度などの報告があるが,crossed legs signは医師以外でも簡単に行え,さらに他の追加検査も要さない点,費用がかからない点で優れている.重症患者において発症15日以内にcrossed legs signを認めた症例は,重症度,ADL,死亡率のいずれの面でも予後が良好である.少数例の検討ではあるが,簡単に調べられることなので,今後,多数例で検証が行われるものと思われる.

Neurology 77; 1453-1456, 2011

http://www.neurology.org/content/77/15/1453.abstract

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ALSにおける声帯外転不全

2011年11月03日 | 運動ニューロン疾患
「臨床神経学」に声帯外転不全を呈したALS症例のケースレポートが聖隷三方原病院より報告されている.個人的にはとても意外に感じた報告であった.症例は75歳男性.発症から2年後,%努力肺活量60%,嚥下障害が軽度であった時点で誤嚥性肺炎を来した.痰の喀出障害,軽度の嗄声を認め,喉頭鏡にて高度の両側性声帯外転障害(吸気時における声帯の正中固定)を認めた.吸気性喘鳴はなし.窒息する危険を避けるため気管切開術が施行された.

多系統萎縮症(MSA)では声帯を外転させる後輪状披裂筋に限局した筋萎縮を呈することが声帯外転不全の一因と考えられている.一方,ALSでは内転に関与する声門閉鎖筋にも神経原性変化がみられるため,純粋な声帯外転不全は生じにくいと推測できる.しかし驚くべきことにALSにおいても,球麻痺を認める症例では声帯内転障害は認めないものの,両側性の声帯外転不全が約30%の症例にみられるという報告があり(Hillel AD et al. Neck 1989),ALSにおける声帯外転不全は稀ではない可能性もある.実際に既報において,高度の声帯開大不全を認めた症例が本論文を含めると10例あるそうで,うち8例は球麻痺発症であった(つまり球麻痺発症は声帯外転不全の予測因子となる可能性がある).著者らは高度の声帯開大不全は窒息による突然死に関与する可能性があるため,ALSでも球麻痺の程度に関わらず声帯機能の評価が必要であると考察している.

新潟大学でもMSAにおける上気道閉塞として,声帯外転不全(Arch Neurol. 2007 Jun;64(6):856-61)やfloppy epiglottis(Neurology. 2011 May 24;76(21):1841-2)について報告してきたが,ALSでも同様の所見を呈しうるということは意外であった(floppy epiglottisも報告があるらしい:伊藤ら.日耳鼻2009).病初期から球麻痺を認める症例や,夜間酸素飽和度モニターで上気道閉塞による無呼吸パターンを呈するような症例において,喉頭鏡検査を行うかどうかということになるのかもしれない.吸気性喘鳴も検査の適応を決めるのに役立つものと思われるが,MSAと異なり,ALSでは認められないことが多いそうで,吸気性喘鳴を認めないからといって声帯外転不全の存在を否定できないようだ.

臨床神経 51;765-769, 2011


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