Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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第14回日本脳血管・認知症学会総会@長良国際会議場にお越しください!

2024年07月02日 | 医学と医療
準備してまいりました標題の学会がいよいよ今月20日(土),21日(日)に開催されます.プログラムをHPで公開しておりますが,非常に充実した内容になりました.

私は「アルツハイマー病に対する抗体療法の課題と将来の展望」という大会長講演をさせていただきます.シンポジウムでも「抗Aβ抗体療法の光と影」と題して,抗体療法に鋭く切り込んでいただく予定です.

また魅力的な講演が目白押しで,渡嘉敷崇先生は「地域在住高齢者から学ぶ認知症対策」という副大会長講演をなさいます.教育講演としては池田佳生理事長の「新時代の認知症トータルマネージメント」,長田乾顧問の「心房細動と認知症」があります.シンポジウムはほかに「認知症予防エビデンス2024」「血管性要因は中枢神経・筋疾患にどう影響するか?」,そして「血管障害と認知症」という脳と血管に注目した内容で行われます.一味違った学びの場になるものと思います.



また20日(土)の懇親会では大型の鵜飼い船を予約しました.1300年の歴史があり,織田信長公が保護し,徳川家康公もたびたび訪れて見物した鵜飼を楽しんでいただきたく思います.非学会員の先生の学会参加もOKです(ただし鵜飼は先着70人までです).皆様にお目にかかることを楽しみにいたしております!!



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flexion contractureはなぜか副腎機能低下に伴って生じる屈曲性拘縮である

2024年06月29日 | 医学と医療
カンファレンスで,flexion contractureについて議論しました.これは筋硬直により,腰が曲がり,両股関節や両膝関節も屈曲して歩行が困難になる状態をいいます(図1).筋硬直は下肢から腹部に多くみられますが,顔面や上腕にも生じるため,フランス語でcontracture facio-brachio-abdomino-crurale en flexionとも呼ばれます.



また筋硬直に加え屈曲性拘縮,有痛性筋痙攣を呈します.このため臨床的に自己免疫性・傍腫瘍性のStiff-person症候群やIssacs症候群との鑑別を要することになります.原因は汎下垂体機能低下症,ACTH単独欠損症,Addison病,Sheehan症候群などに伴う副腎機能低下です.論文を渉猟してみましたが,副腎機能低下がなぜこのような症候を来すかはまだ解明されていないようです.ただし関節拘縮は不可逆的なものではなく,「ヒドロコルチゾンによるホルモン補充療法」を行えば回復します.その期間も早い症例では数日(!)から数週で回復します(長い症例では数ヶ月かかります;図2).いずれにせよ治療可能な病態ですので,このような症候を認識し,見逃さないことが重要だと思いました.


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英語は伝える手段,完璧でなくてよいのです@「医師こそリベラルアーツ!」連載第3回

2024年06月22日 | 医学と医療
日経メディカルcadetto連載中の「医師こそリベラルアーツ」の3回目です.今回は楽天グループの創業者,三木谷浩史さんの『たかが英語!(講談社,2012)』です.リベラルアーツと英語の組み合わせは意外かもしれませんが,学ぶべき情報をインプットしたりアウトプットしたりする際に,英語は不可欠です.しかし英語で苦労している医学生や医師がとても多いことは事実で,このテーマは避けて通れません.私自身も,2004年から2年間,米国に留学した際には,とても英語に苦労しました.いまだに英語は苦手ですが,この本に書かれている内容を知っていれば,留学はもっと気が楽だったのではないかと思います.

 楽天は2010年に社内公用語を英語にする方針を打ち出し,準備期間の2年間で7000人以上の日本人が英語の習得に取り組みました.同書には,その過程と結果,日本での英語教育における問題点がつづられています.示唆に富む言葉が満載です.本文ではその中でも特に印象に残った5つの言葉をご紹介し,議論しています.

(1)完璧な英語は必要ない
(2)日本の英語教育はほとんど犯罪的と言っていいくらいひどい
(3)世界に発信する
(4)専門用語を学ぶ
(5)英語より大切なのは伝える中身
あとひとつ,私が留学中に経験し学んだことを追加すると
(6)真の国際化には,自国(つまり日本や日本人)の理解が不可欠 になります.

(6)を少し解説すると,私は多くの外国人から「このようなときに日本や日本人はどのように考えるのか? 行動するのか?」という質問を受けました.そのときに「単に英語を流ちょうに使えることが国際化ではない.自分や母国を理解し,周囲にきちんと伝えられることが真の国際化だ」と感じました.日本の文化や伝統に精通していること重要ということです.そう考えると,リベラルアーツは国際化にもとても役に立つわけです.

さて次回,第4回の課題図書は,精神科医・心理学者であるヴィクトール・E・フランクルによる名著『夜と霧』です.いよいよ本格的にリベラルアーツの世界に入っていきたいと思います.



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マイクロ・ナノプラスチックは全身の血栓に存在し,血栓中の濃度依存性に重症化をきたす

2024年05月27日 | 医学と医療
マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)汚染は,世界的に重大な環境問題ですが,今年になりヒトへの直接の健康被害が明らかになりました.3月にNew Engl J Med誌に掲載されたイタリアからの前方視的研究では,頸動脈の動脈硬化病変(プラーク)を切除する頸動脈内膜切除術を受けた312人のうち,検討を完了した257人中150人(58%)からポリエチレンが検出され,電子顕微鏡検査ではギザギザしたMNPsが確認されました(図).MNPsが検出された患者では,心筋梗塞,脳卒中等による死亡リスクが,ハザード比4.53(!)とMNPsが検出されない患者と比較し顕著に高いことが示されました.これはMNPsがさまざまな化学添加剤(発がん性物質,神経毒性物質,内分泌かく乱物質)を含むため炎症反応が高度になるためと考えられます.つまりMNPsは心血管系疾患の新たな危険因子と考えられます.ペットボトル1本にMNPsは約24万個(9割がナノプラスチック)含まれることも報告されています.詳細はこちらのブログをご参照ください.



今回,中国より患者30人の3つの部位(脳動脈,冠動脈,下肢深部静脈)から採取した血栓中のMNPs(論文ではMPsと記載)の濃度,ポリマーの種類などを検討した研究がeBioMedicine誌に報告されました.MNPsの同定と濃度の定量には,熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析法(Py-GC/MS)を用いています.さらにレーザー直接赤外分光法(LDIR)と走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いてMNPsの物理的性質を分析しました.

結果ですが,虚血性脳卒中,心筋梗塞,深部静脈血栓症の患者から得られた血栓の80%(24/30)でMNPsが検出され,濃度の中央値はそれぞれ61.75,141.80,69.62μg/gでした.またMNPs検出群のD-ダイマー濃度はMNPs未検出群より有意に高値でした(8.3±1.5μg/L vs 6.6±0.5μg/L,p<0.001).10種類ポリマーのうち,ポリアミド66(PA66),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリエチレン(PE)が同定されました.LDIR分析では既報同様,ポリエチレンが優勢で,全体の53.6%を占め,平均直径は35.6μmでした.LDIRとSEMで検出されたポリマーの形状は不均一でした(図A).

虚血性脳卒中に限定すると,MNPs濃度と血栓の大きさに関連はなし.統計的には有意ではないものの,後方循環の濃度は前方循環より高い傾向を示しました[131.1μg/g対60.68μg/g](図B).濃度が高い患者ではNIHSSスコアは有意に高値でした(22.0±7.5 vs 12.6±3.5,p<0.05)(図C).さらに線形回帰分析によりNIHSSスコアと血栓中濃度との間に正の相関があることが示されました!(調整β=7.72,95%CI:2.01-13.43,p<0.05).



考察では血栓中のMMPs濃度と重症度の間に用量依存関係がある可能性があること,その機序としてはMNPsが酸化ストレス,アポトーシス,パイロトーシス,炎症,ならびに免疫細胞や内皮細胞との相互作用を通じて血栓形成を促進する可能性があると述べられています.曝露源を特定することと,症例数を増やした今後の研究が早急に必要であると述べています.社会全体で取り組むべき課題であり,まずこの問題を多くの人に知っていただくきたいと思います.
Wang T, et al. Multimodal detection and analysis of microplastics in human thrombi from multiple anatomically distinct sites. eBioMedicine. 2024 May;103:105118.(doi.org/10.1016/j.ebiom.2024.105118

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「ササラ型」の知識取得のために@「医師こそリベラルアーツ!」連載第2回

2024年05月18日 | 医学と医療
先月から連載を開始しました「医師こそリベラルアーツ!」の第2回が日経メディカル「Cadetto.jp」にて公開されました.4月の閲覧数ランキングでは,第1回「なぜ,“医師こそ”リベラルアーツなのか?」が300本近い記事の中で17位だったそうです.多くの方にお読みいただき感謝いたします!

さて第2回はまだイントロダクションで,前半でリベラルアーツの学び方,後半で読書術について考えました.ご紹介したのは「リベラルアーツの学び方(瀬木比呂志さん著)」という本です.瀬木さんは法律の専門家の先生です.教養を身につけるためには,「タコツボ型の知識」から「ササラ型の横断的教養」へ転換することが大切だとおっしゃっています.「ササラ(簓)」とは竹や細い木などを束ねて作製される道具で,洗浄器具や楽器として用いられたものです(図1).


つまり「タコツボ」のように相互に無関係な知識ではなく,「ササラ(簓)」のように根元でつながっていく横断的なものが教養であるということです.言い換えれば幅広い視野を獲得することだと思いますが,それは医学・医療でも大切なことだと思います.また後半の読書術については,「死ぬほど読書(丹羽宇一郎さん著)」と「理科系の読書術(鎌田浩毅さん著)」をご紹介しました(図2).




本連載は,医師・医学生限定コンテンツで,医師または医学生の方は,会員登録すると記事全文がお読みいただけるようになります.

リンク:「ササラ型」の知識取得のために

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Abadie徴候はどのようなときに診察するか?

2024年05月10日 | 医学と医療
カンファレンスでAbadie徴候について議論しました.アキレス腱や上腕二頭筋の腱をつまんだり強く圧迫したりしても痛み(つまりdeep pain)が生じない場合に陽性とします.「どうしてまたこんな診察方法に気がついたのだろう?」と思いますが,原著は1905年「脊髄癆における腱の圧痛の消失,特にアキレス腱の無痛」という報告で,脊髄後索の障害により80%(32/40例)の症例で陽性になると書かれているそうです [文献1].「ベッドサイドの神経の診かた」にも昔から掲載されていて,知識としては知っていましたが,神経梅毒による脊髄癆の患者さんはもうほとんど経験しませんので,私自身は診察で確認することはしていませんでした.

では現代において,どのような疾患で有用かというと,糖尿病性ニューロパチーと副腎脊髄ニューロパチー(adrenomyeloneuropathy:AMN)が挙げられます.とくにAMNについては岩田淳先生らがレポートされていて,他の痙性対麻痺との鑑別に高い感度・特異度を持って有用とのことです(感度は100%,特異度は86%)[文献2].

ちなみにこの徴候の冠名は,フランスの神経内科医Joseph Louis Irenée Jean Abadie先生(1873-1946)の名前に由来します.Charcot先生より50年ぐらい後の時代で活躍したことになりますが,Garrisonの「神経学の歴史」や,過去の文献を調べてみても,Abadie先生の経歴はよく分かりませんでした.しかし古川哲雄先生によると,Abadie先生が種々の患者さんで,アキレス腱を強くつまむと拇趾が背屈するSchaeffer反射を調べていたところ,普通は不快な痛みを感じるのに痛みを全く感じない人が脊髄癆にいることに気が付いたのがこの徴候に着目したきっかけと書かれておりました [文献3].なるほど!と思いました.ちなみにバセドウ病における眼瞼挙筋のスパズムもAbadie徴候と呼びますが,こちらは別人のフランス人眼科医に由来するようです.

1. Abadie JLIJ. L'anagésie tendineuse à la pression et en particulier l'analgésie achiléenne dans le tabes. Gazette Hebdomadaire des Sciences Médicales de Bordeaux, 26; 1905. p. 409–12.
2. Ohtomo R, Matsukawa T, Tsuji S, Iwata A. Abadie's sign in adrenomyeloneuropathy. J Neurol Sci. 2014;340:245-6.
3. 古川哲雄.Abadie徴候.脊椎脊髄ジャーナル 2015;28:268-269.


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新潟大学から岐阜大学への「ヒポクラテスの木」の植樹

2024年05月03日 | 医学と医療
1年前に岐阜大学に植樹し,みんなで大事に育てております「ヒポクラテスの木」について,新潟大学の同窓会誌「学士会々報No.121 」に寄稿させていただきました.新潟大学にある「ヒポクラテスの木」の歴史と整形外科医で医史学者としても名高い蒲原宏博士のこと,私の学生時代の武藤輝一医学部長との思い出,そして岐阜大学への植樹の経緯について書きました.よろしければご一読ください.



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新潟大学から岐阜大学への「ヒポクラテスの木」の植樹

岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野教授
下畑 享良

「ヒポクラテスの木」は,医聖ヒポクラテスが弟子に,その木陰で医学を教えたという謂われがある,ギリシャのコス島にあるプラタナスの大樹のことを言います.街路樹など,普通に見られるプラタナスと異なり,コス島の「ヒポクラテスの木」に由来するDNAを持つものだけが「ヒポクラテスの木」と呼ばれます.

新潟大学には医歯学総合病院入退院口に「ヒポクラテスの木」があります.その理由は,整形外科医で,医史学者としても有名な蒲原宏先生(現日本歯科大学生命歯学部・医の博物館顧問.中田瑞穂先生,高野素十先生に師事した俳人としても有名)が,昭和44年9月,ヒポクラテスの生地,ギリシャのコス島に渡り,ヒポクラテス博物館の庭にある「ヒポクラテスの木」の実を採取して日本に持ち帰り,みずから播種育成され,立派な10本の苗木に育てあげてから,昭和47年6月,新潟大学医学部構内に植樹したためです.脳研究所初代所長の中田瑞穂先生による「ヒポクラテスの木」という文章には,新潟大学に植樹されたときのエピソードが書かれています.「1メートルに達したばかりの若木の天を摩するに至る成長を見ることはこの私には無理というものである.しかし私は,これを私達で育てますと,この移植に積極的であった学生有志のあったことは,この木の成長が約束されていると同様,医学部に最も重要な正しい医学の正統,ヒポクラテスから伝わった医の正道を伝えつづけようとする純粋なこころを目の当たりに示したものであって,木の成長を確認すよりもはるかに私に心強いものを感じさせる」と書かれていました.そして中田先生は「やがて大夏木になれと植ゑらるゝ」の一句を持って植樹を祝われたそうです.ところが植えられた翌日の朝に,何者かによってその木は持ち去られてしまいます.その後,蒲原先生のご自宅に植えられた苗木が再度,新潟大学に移植され,現在の「ヒポクラテスの木」になりました.9本の苗木の子孫はさまざまな大学や病院に株わけされました.新潟大学のものは,植樹後58年が経過し,高さ10メートルにも及ばんとする大樹になっています.

私は平成29年より岐阜大学に勤務しておりますが,医学部5年生に対する臨床実習(ポリクリ)のグループ講義で,毎回,医師の職業倫理の話をしています.その際,医の倫理に関する規定「ジュネーブ宣言」について解説しますが,その前にみんなで「ヒポクラテスの誓い」を読みます.なぜならその倫理的精神を現代化したものが「ジュネーブ宣言」であるからです.そしてその際に必ず「ヒポクラテスの木」の話もしています.これは自分が新潟大学の学生であった頃,当時,医学部長でいらした武藤輝一先生がしてくださったことです.武藤先生は講義の最後に「病院前のヒポクラテスの木を見に行くように」と仰ってくださいました.「ヒポクラテスの誓い」を学んだあと,クラスのみんなと見に行った記憶が強く印象に残っており,同じ経験を岐阜大学の学生にもさせてあげたいと考えました.しかし残念ながら岐阜大学には「ヒポクラテスの木」はなく,学生に見せてあげられないため,中田瑞穂先生の画「ヒポクラテス像(複製)」を考古堂より購入し,教室の廊下に掲げて,講義後,見てもらっていました.ただやはり「ヒポクラテスの木」を学生に見せてあげたいと思い,蒲原先生にご連絡をしたところ,ご快諾をいただき移植の準備が始まりました.学生のときに眺めたまさにその木から挿し木,分苗移植したものが順調に育ち,2年をかけて50センチほどになり,移植ができるまでになりました.その際に蒲原宏先生より「医聖の木ある大学を恵方とし」という一句を頂戴しました.そして2023年3月31日,医学生や教室の仲間,事務の皆様に手伝っていただいて植樹をしました(写真1).私も中田瑞穂先生の俳句「やがて大夏木になれと植ゑらるゝ」と同じ気持ちになって,無事に大きな木に育ってほしいと祈るような気持ちになりました.

植樹後,無事に生着するか気が気でありませんでしたが,幸い無事にどんどん成長し,現在では私の背丈を大きく超すまでになりました.教室のメンバーにとっても大切な木となり,見守ってくれています(写真2).令和5年9月7日,注文していた記念の石碑もでき上がり,設置いたしました.そして病棟実習に訪れた5年生と一緒に「ヒポクラテスの誓い」を読んでから,彼らと一緒に「ヒポクラテスの木」を見に行きました.2年半をかけてようやく,武藤先生がしてくださったことを岐阜大学の学生にしてあげたいという夢が実現しました(写真3,4).学生も「卒業して,いつか岐阜大学を訪れることがあったらこの木を見に来て,今日の講義のことを思い出したい」と講義後の感想に書いてくださいました.これで蒲原株の「ヒポクラテスの木」は31株になったそうです.



令和5年9月18日に紀寿(百寿)をお迎えになられた蒲原宏先生と,これまで樹木の管理育成をしてくださった新保只衛氏に心から感謝の意を表したいと思います.最後に蒲原宏先生が,新潟市医師会報(2023.4月号)に寄稿された文章のなかから,私の大好きな一句をご紹介したいと思います.

つんつんと若芽つんつん医聖の木

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寄稿文をお読みくださった蒲原宏博士から,お手紙と素晴らしい書を頂戴しました.とても感激いたしました.


昨日の朝,撮影した「ヒポクラテスの木」です.鈴のような花がたくさん咲いています.




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誰にも認められる視運動性眼振を神経診察に活かす6つの場面

2024年04月23日 | 医学と医療
神経症候学の講義シリーズを朝のカンファレンスで行っています.昨日は眼球の症候の2回目でした.何度か出てきたのは視運動性眼振(optokinetic nystagmus; OKN)です.これは健康な人にも認められる生理的眼振です.昔は布に模様を書いたものやドラムを使っていましたが,現在はスマホアプリ(OKN stripsなど)やYouTube動画で簡単に誘発できますので試してみてください.問題はこれをどのように診察で用いるかです.講義では以下のような場面で使用できることを紹介しました.



①遠隔診療でのめまい患者の診察:
めまいや平衡障害の患者の遠隔診療で,アプリや動画を使って眼振を誘発します.これで大まかな原因が分かることがあります(OKNが一方向にしか見られない場合や,特定の方向の追従運動が減速している場合は,脳幹・小脳・視覚路の障害を示唆します).

②進行性核上性麻痺:
PSPの早期診断,とくに垂直方向性の眼球制限が出現していないときに試みます.つまり垂直サッケードの障害を確認します.典型的には,水平方向のOKNは正常であるものの,垂直方向の急速相が遅いか欠如し,サッケードがうまくできないことを示します.

③内側縦束症候群=核間性眼球麻痺:
核間性眼球麻痺疑いで,しかし内転制限が軽度・微妙である場合に有用です.つまりOKNでの内転サッケードが遅いことを示します.

④Parinaud(中脳背側)症候群:
上方注視麻痺,対光・近見反射解離,輻輳後退眼振(注)による3徴が有名ですが,輻輳後退眼振がはっきりしないときに,OKNにより異常な上方サッケードを誘発されることがあります.

⑤機能性視力低下:
機能性神経障害に伴う視力低下が疑われる場合にとても有用です.例えば全盲を主張する患者さんにおいてOKN反応が正常であれば,ある程度の視力があることを示します.単眼でも有用です.

⑥同名半盲:
OKNは,同名半盲において,頭頂葉病変と後頭葉病変の鑑別に役立ちます.頭頂葉病変の場合,OKNの緩徐相は,病変側では遅いか消失するが,対側では正常であると言われています.

注;輻輳後退眼振(convergence-retraction nystagmus)
真の眼振ではなく,輻輳を伴いながら眼球が律動的に後退する眼球運動.全外眼筋が同調して収縮するため眼球が後退して見える.内直筋の力が優勢であるため,両眼が内向きに輻輳しているように見える.
Hale DE, et al. Optokinetic nystagmus: six practical uses. Pract Neurol. 2024 Mar 20:pn-2023-003772.(doi.org/10.1136/pn-2023-003772

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「医師こそリベラルアーツ!」連載開始@日経メディカルCadetto

2024年04月19日 | 医学と医療
日経メディカルの若手医師・医学生向けサイト「Cadetto.jp」にて,標題の連載を始めさせていただきました.いままで28回,リベラルアーツ研究会を開催しましたが,各回で行なった私のミニレクチャーを紙面で再現する企画です.以下,HPに掲載された紹介文です.

「病気を持つ人間」をみるのが,医学を志す医師の仕事.ところが,医学は「病気の診方」は教えてくれても,「人間の見方」は教えてくれません.後者を磨くために,読書を通じてリベラルアーツを学んでみませんか? 本連載では,医師・医学生が幅広い教養を身に付けるための道しるべとなるべく,毎回,様々なジャンルの“課題図書”を紹介・解説していきます.

第1回はイントロダクションで,リベラルアーツとはなにか(日野原重明先生,ウィリアム・オスラー博士のことば),医学部・医療現場とリベラルアーツの希薄な関係,なぜリベラルアーツを学ぶのか,どのようにリベラルアーツを学べばよいか,について解説しました.

月1回の連載ですが,毎回,最後に次回の課題図書をご紹介します.読んでおくと次回が面白くなります.ちなみに第2回の課題図書は「リベラルアーツの学び方(瀬木比呂志)」と「死ぬほど読書(丹羽宇一郎)」,第3回の課題図書は「たかが英語!Englishnization(三木谷浩史著)」,第4回の課題図書は,精神科医・心理学者であるヴィクトール・フランクルによる名著「夜と霧」と続いていきます(4回まで原稿を書きました.編集担当者と私によく知っている麻酔科医には評判が良いです:笑).本連載は,医師・医学生限定コンテンツで,医師または医学生の方は,会員登録すると記事全文がお読みいただけるようになります.

下畑享良の「医師こそリベラルアーツ!」




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魚介類のなかでエビとロブスターの有機フッ素化合物(PFAS)濃度は高い

2024年04月14日 | 医学と医療
勉強をしたことのなかった環境毒性物質ですが,関心を持ったためか,気になる情報がTwitterで目につきます.昨日は複数の人が有機フッ素化合物(PFAS:ピーファス)に関する以下の論文を紹介していました.PFASは生物蓄積性環境汚染物質の代表です.魚介類はタンパク質やオメガ脂肪酸の良い供給源ですが,このPFASの供給源ともなりますます.PFASは,プラスチックやフライパンの焦げ付き防止剤などに使われています.炭素・フッ素と非常に強い力で結びつくため自然界では分解されず,海や土壌に堆積するため「永遠の化学物質」とも呼ばれています


https://waterstand.jp/waterlife/water_knowledge/waterlife00041.htmlより引用.

ほぼすべてのアメリカ人の血液中に測定可能な量が存在するそうです.日本でもごく最近,大阪のPFAS汚染を調べるための「1000人血液検査」が中間発表され,日常生活にPFASが深く浸透し、体内に取り込まれている実態が浮き彫りになっています.PFASに暴露された人はコレステロール値上昇,出生体重の減少,ワクチンに対する抗体反応の低下,腎臓がん,精巣がん,妊娠高血圧症候群,子癇前症,肝酵素の変化を起こす可能性があると書かれています.

さて話題の論文は,米国ニューハンプシャー州住民1829人を対象に,大人と子どもの魚介類の摂取について調査したもので,最もよく消費される魚介類26種類のPFASを定量しています.この結果,エビとロブスターの濃度が最も高いことが分かりました(それぞれ1.74ng/gと3.30ng/g).これら大型の海洋生物種は,貝類のような体内にPFASが蓄積しやすい小型の生物種を食べることで,PFASを蓄積する可能性が議論されています.


著者らは,魚介類を食べるのを止めるのではなく,魚介類にPFASの規制値を設けるべきと言っています.そして魚介類の摂取にともなう上記リスクとベネフィットのトレードオフ関係を理解すること,とくに妊娠中の人や子供のような健康弱者において,PFASの過剰の暴露を避けつつ魚介類の健康上の利点を享受することが大切と言っています.ちなみに4月11日の日経新聞に「米政府,飲料水のPFAS基準厳しく 日本の1割未満に」という記事も出ています.自分たちの健康への影響も気になりますが,とくに子供や赤ちゃんに影響が出ないように考えていく必要があると思いました.
Crawford KA, et al. Patterns of Seafood Consumption Among New Hampshire Residents Suggest Potential Exposure to Per- and Polyfluoroalkyl Substances. Expo Health (2024). (doi.org/10.1007/s12403-024-00640-w)


GPT-4で作成

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