Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Neuralgic amyotrophyの原因遺伝子

2005年11月30日 | その他
神経内科領域には得体の知れない疾患が少なくないが,個人的にはneuralgic amyotrophy(NA)はその代表のひとつだと思っている.NAにはさまざまな名称があるが(Parsonage Turner Syndrome,Brachial Neuritis,Brachial Plexus Neuritis,Painful brachial plexus neuropathy, Idiopathic Brachial Plexus Neuropathyなど),このことはその病態機序の理解が一筋縄でいかないことを反映しているものと言えよう.
NAは臨床的に,突然の肩~上腕の痛みに引き続き,数時間から数日後に肩甲帯から上腕の筋力低下,さらには筋萎縮を認める.不思議なことに同一の神経によって支配されている筋肉間で,脱神経や筋萎縮の程度に違いがあったりもする(これがNAの特徴的所見と記載する文献もある).数ヶ月から年余にわたり,患肢の麻痺が持続するが,ほぼ全例で完治する.原因としては,感染やワクチン,手術などが知られているが,自己免疫疾患説もある.
じつはこのNAと臨床的に見分けがつかない遺伝性NA(HNA)が北米を中心に報告されている.遺伝形式は常染色体優性遺伝.遺伝性疾患にも関わらず,感染,ワクチン,妊娠・出産や患肢の激しい運動といった環境因子によって誘発され,血液や腕神経叢における炎症所見が明らかにされている. HNAの原因遺伝子の同定はNAのみならず,ギランバレー症候群などの炎症性末梢神経疾患の病態機序解明に役に立つのではないかとも考えられている.
さて,原因遺伝子解析であるが,すでに北米家系を対象とした連鎖解析によって,17q25の3.5cM (1.8 Mb) の領域に連鎖することが判明していた.今回,short tandem repeat markerを用いた詳細な連鎖解析により候補領域を600kbにまで絞り込み,その領域に存在していた遺伝子のひとつseptin 9 (SEPT9)遺伝子に変異を見出した.結果的に6家系(北米,フィンランド,ドイツ,スペイン)における3種類の遺伝子変異を明らかにした. Septin 9遺伝子はマウス胎児の脊髄前角や後根神経節に発現していることも明らかにした.
さて,問題のseptinであるが,分裂酵母から単離されたタンパクファミリーであり,現在までに酵母からヒトに至る幅広い種で様々な分子種が存在することが確認されている.これまでにseptinファミリーに属する遺伝子の異常で発症する疾患は報告されていなかった.一般にseptinは細胞質分裂や細胞骨格形成に関与していることが知られているが,近年では小胞輸送やキチン質合成さらに癌化やアポトーシスにも関与しているという報告がなされている.Septin 9も細胞分裂に関わっていて,filamentを形成し,actinやtubulinといった細胞骨格とcolocalizedする.HNAでは眼角解離や瞼鼻ひだ,稀に口蓋裂を合併する家系があるが,septin 9の機能不全により細胞の移動の障害を来たし,その結果,anomalyを引き起こされる可能性を著者は推測している.
しかし,septin 9がどのような機序でNAを来たすのか,今のところさっぱり分かっていない.その機序の解明はseptinの神経系,免疫系に果たす役割の解明に大きく寄与するのではないかと思われる.

Nat Genet 37; 1044-1046, 2005

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「脳卒中治療ガイドライン2004」嚥下障害の項目をさらに勉強してみる

2005年11月28日 | 脳血管障害
脳卒中治療ガイドライン (2004)」において嚥下障害は「対症療法」と「リハビリテーション」のふたつの欄で取り上げられている.そのなかでスクリーニング検査としては3つの方法が記載されている(①喉頭咳嗽反射,②水飲みテスト,③反復唾液嚥下テスト).でもエビデンスレベルの記載はあっても,方法や評価法が書かれていないので,臨床の場で容易に使えるとは言いがたく不親切な印象はぬぐえない.少し方法を調べてみたので紹介する.

1. タルタル酸吸入を用いた喉頭咳嗽反射(reflex cough test; RCT)
Addington WR et al. Assessing the laryngeal cough reflex and the risk of developing pneumonia after stroke. An interhospital comparison. Stroke 30; 1203-1207, 1999
http://stroke.ahajournals.org/cgi/content/full/30/6/1203(freeのpdfが読める)
laryngeal cough reflex (LCR)は脳血管障害後,消失ないし減弱するため,誤嚥の危険性が高くなる.このLCRを判定する方法がRCTであり,方法としてはnormal saline で溶解した20% L-tartaric acid溶液(タルタル酸は喉頭の咳受容体を刺激する)をエアロゾルとして最大3回の吸入を行う.評価は咳嗽反射の有無・程度を見て,減弱ないし欠如していれば異常と判定する.所要時間約10分.評価の限界については下記のホームページの記載に詳しい(案外,判定は難しいようだが,どちらか実践している病院はあるでしょうか?).
http://www.nss-nrs.com/cgi-bin/WebObjects/NSS.woa/wa/Articles/lcrTestArticle

2.水飲みテスト
いろいろ方法はありそうだが,詳しく方法と判定法が記載されていた以下の文献を紹介する.
窪田俊夫他 : 脳血管障害における麻痺性嚥下障害-スクリーニングテストとその臨床応用について.総合リハ,10:271-276,1982
常温の水30mlを注いだ薬杯を座位の患者の健手に手渡し,「この水をいつものように飲んで下さい」という.以下の3項目(A-C)を測定,観察する.
A. 飲み終わるまでの時間
B.プロフィール
 1.1回でむせることなく飲むことができる。
 2.2回以上に分けるが,むせることなく飲むことができる。
 3.1回で飲むことができるが,むせることがある。
 4.2回以上に飲むにもかかわらず,むせることがある。
 5.むせることがしばしばで,全量飲むことが困難である。
C. エピソード
すするような飲み方,含むような飲み方,口唇からの水の流出,むせながらも無理に動作を続けようとする傾向,注意深い飲み方など
D. 判定
プロフィール1で5秒以内:正常範囲
プロフィール1で5秒以上,プロフィール2:疑い
プロフィール3-5:異常                                   
 
3. 反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)
才藤栄一:老年者の摂食・嚥下障害の評価法と訓練の実際 歯界展望Vol.91 No3 1998-3
①被検者を座位とする.
②検者は被検者の喉頭隆起・舌骨に指腹をあて,30秒間嚥下運動を繰り返させる.被検者には「できるだけ何回も”ごっくん”と飲み込むことを繰り返してください」と説明する.喉頭隆起・舌骨は嚥下運動に伴って指腹を乗り越えて上前方に移動し,また元の位置へと戻る.この下降運動を確認し,嚥下完了時点とする.
③嚥下運動時の喉頭挙上・下降運動を触診で確認し,30秒間に起こる嚥下回数を数える.高齢者では30秒間に3回できれば正常と判断する.
④嚥下障害患者は1回目の嚥下運動はスムーズに起きても,2回目以降喉頭挙上が完了せず,喉頭隆起・舌骨が上前方に十分移動しないまま途中で下降してしまう場合がある.これを真の嚥下運動と間違わぬよう注意する.
⑤口腔乾燥が強く,嚥下運動を阻害していると考えられる場合には,人口唾液や少量の水を口腔内に噴霧する.

個人的な意見だが,理想的には①screeningの方法を決めてその結果を病棟全体が共有し,チームとして嚥下障害のある患者さんを把握すること,②screeningで異常を認めた患者さんにはVFなどのより客観的な評価を行い,嚥下障害の機序・パターンを確認すること,③嚥下障害の機序に応じたリハビリを行える体制を作ること,が大切と思われる.今回は脳梗塞後の嚥下障害の話が中心となったが,基礎疾患によって嚥下障害のパターンはまったく異なり,それに応じてリハビリの方法も変わってくる.いずれも大変な仕事であるが,嚥下障害は患者さんのQOLに大きく影響を及ぼすので,この辺は医療従事者の頑張りどころである.
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脳梗塞後の誤嚥は肺炎のリスクになる

2005年11月25日 | 脳血管障害
当たり前のような話だけど,そんなメタ解析がカナダから報告された.研究の目的は成人における脳梗塞後の嚥下障害の頻度と,それに伴う肺炎の発生頻度を知ることである.対象となった論文はMedlineなどのデータベースに1966年から2005年5月までに登録された論文で,キーワードは"cerebrovascular disorders","deglutition disorders(嚥下障害)","humans"の3つを掛け合わせた.ヒットした277論文中peer reviewされてないものやデータが不十分なもの,方法に問題があるものを除外し,残った24論文(当然prospective study)を用いてメタ解析を行っている.
 まず脳梗塞後の嚥下障害の頻度については,これも言われてみれば当然のことだが,嚥下障害のscreeningの方法によって変わってくる.方法を大きく3つに分類すると,① cursory screening technique,すなわち水飲み試験などの簡便な方法を用いると37-45%,② clinical testing,すなわち喉頭咳嗽反射などより詳しい方法を用いると51%-55%,③ 嚥下造影videofluoroscopy(VF)や内視鏡を用いて評価すると64%-78%という結果だった.上記データは脳梗塞の病変部位やscreening testを行う時期を考慮に入れていないが,病変部位別にみると嚥下障害はhemispheric strokeでは頻度は少なく,脳幹梗塞では高い.さて一番知りたい嚥下障害を認める症例が肺炎を起こす相対リスクは3.17(95% CI, 2.07-4.87)で,VF・内視鏡にて誤嚥を確認した症例での相対リスクは11.56(95% CI, 3.36-39.77)という結果であった.やはり脳梗塞後の嚥下障害の頻度は高く,嚥下障害や誤嚥を認めれば肺炎のリスクが高いという結果である.
 この論文を最初に見たとき,「何で今更,こんな研究を・・・」と思ったのだが,よく読んでみるといろいろ考えさせられる.例えば嚥下障害の有無で,どれだけ肺炎というイベント発生率に変化が生じるのか考えたこともなかった(案外,こういった当たり前のことのエビデンスがきちんと不十分だったりする).また嚥下障害の簡便なscreening testとして水飲み試験が一般的であることが分かったが,それにしても用いる水の量は10ccという論文から150ccまでと様々であった.ちなみに本邦の脳卒中ガイドラインで何を推奨しているかというと「タルタル酸吸入を用いた喉頭咳嗽反射による嚥下障害スクリーニングテスト」がグレードBとして最初に記載されていた(でもそんなtestやったことがない).ベッドサイドでの嚥下機能のスクリーニングをどのような手順で行うのか各病棟で再確認してみても良いのかもしれない.

Stroke 36; 2756-2763, 2005

追伸;最近,アクセス数がかなり増えてきて,匿名で好き勝手なことを書いていることがだんだん無責任かなと感じるようになってきた(そうかと言って実名を出す気も起こらない).ある日,突然,やめてしまうかもしれないけど,その際はご容赦のほどを.どうぞ私の書き込みも批判的に読んでください.
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タミフル脳症(?)と科学的なものの見方

2005年11月20日 | その他
1週間ほど前から「タミフル服用で行動異常死」という記事が新聞等で取り上げられ話題になっている.オセルタミビル(商品名タミフル)を服用した患者の中高生2人(14歳と17歳)が異常行動を起こした後に事故死した事例を,タミフルによる副作用として日本小児感染症学会でポスター発表したものがニュース・ソースである.これだけ大々的に報道されるとタミフルによる「行動異常死」を恐れ,その内服を避けたいと考える患者さんがたくさん現れるであろう.さてこの報道を受けて各主治医はタミフルの使用をどう判断するのであろうか?
実はこのポスター発表はweb上で読むことができて(http://npojip.org/sokuho/no59-1.html),著者らの考え方のバックボーンを容易に伺い知ることができる.それを討論することは今回の目的から外れるので言及はしない.しかし大切なことは,著者らの発表をどのように判断すべきか,医療者やマスコミにその準備ができているかということだ.個人的な見解を言えば,わずか2例の報告で,かつインフルエンザ脳炎が基礎にあり,他の薬剤も内服している状況下で,タミフルと異常行動の関連を断定するのは科学的に無理があると思う.また,Pub Medを調べればpost-influenzal psychiatric disorderの報告はタミフルが登場するはるか昔からあることも容易に分かる.患者さん自体が今回の報道の是非について判断することは難しいことであるが,その分,マスコミや医療者はきちんとした科学的判断を下す必要があるだろう.
私に研究を教えてくれた恩師は,自分の研究にしても他者の研究にしてもraw data(何も加工していない生のデータ)をきちんと見ることが大切だと繰り返し言っていた.実際,論文を読む際,若かったころはintroductionとかdiscussionの部分ばかり熱心に読んでいたが,だんだんにmethodとかresultの部分をきっちり読むようになってきた.「批判的な読み方」というものはそういうものであって,極論を言えば著者らの考察など間違っているかもしれないので参考程度にして自分で判断すればよいのだ(論文の中で一番,科学的でないのは考察の部分であると言うこと).いずれにしても「科学的なものの見方ができる」ということは重要なことであって,その近道はEBMの概念をきちんと勉強することなのでしょう.ということで,興味のある方は上記web pageのraw dataを見てはいかが?
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ギランバレー症候群とフィッシャー症候群の分かれ道

2005年11月10日 | 末梢神経疾患
カンピロバクター(C. jejuni)感染を契機としてギランバレー症候群(GBS)やフィッシャー症候群(FS)を発症することは有名であるが,なぜ同じC. jejuni感染であっても,ある人はGBSになり,別の人はFSになるか,またある人は腸炎で済むのか,その機序は分かっていない.今回,この謎を解く非常に興味深い研究が本邦より報告された.
まずおさらいであるが,C. jejuni感染後のGBSの機序としては,交叉抗原説とか,分子相同性というキーワードが提唱されている.具体的にはC. jejuni菌体成分であるリポ多糖がGM1ガングリオシド様構造を有することが明らかになり,そのエピトープ(リポ多糖)に対し自己抗体が産生され,自己抗体が血液神経関門の脆弱な脊髄前根で軸索膜上のエピトープに結合し,伝導障害もしくは軸索損傷を来たすと考えられている(すなわち菌体と神経構成成分との間に分子相同性があるという説).となるとC. jejuniが持つエピトープの種類によって産生される抗体が変わってくる可能性が考えられるわけである.
ガングリオシドはシアル酸を有する酸性糖脂質であるが,それを決定する酵素がsyalyltransferaseである.C. jejuniでは,Cst-IIとかIIIという遺伝子がこの酵素をコードしていて,Cst-IIには51番目のアミノ酸をAsnないしThrのいずれかにコードする遺伝子多型が存在する.となればこの遺伝子の種類や多型によって産生される抗体や臨床症状に違いが生じないか調べてみたくなる.
対象は105名のGBS(FSなどvariantを含む)と65 名のC. jejuni腸炎患者(神経症状なし).結果としては,GBSを引き起こした菌株は,腸炎のみ起こした菌株よりCst-II遺伝子を有する率が高く(85% vs 51%),とくにcst-II (Thr51)を持つ傾向が見られた.cst-II (Asn51)を持つ菌株のエピトープを調べたところ,GQ1bを高率に発現しており(83%),他方cst-II (Thr51)をもつ菌株はGM1ないしGD1aを高率に発現していた(それぞれ,92%,91%).さらにこの菌株のエピトープは患者の自己抗体の種類と関連があって,cst-II (Asn51)株に感染した場合,抗GQ1b IgG 陽性率は56%(この遺伝子を持たない場合8%; p <0.001),眼筋麻痺は前者で64%,後者で13%(p < 0.001) ,失調も前者で42%,後者で11%であった(p = 0.001).cst-II (Thr51)株に感染した患者では抗GM1抗体が高率に陽性で(88%;この遺伝子を持たない場合35%; p < 0.001),抗GD1a IgGも前者で52%,後者で24%(p = 0.006),四肢麻痺は前者で98%,後者で71%(p < 0.001)という結果になった. ただし,データを良く見るとこの遺伝子の多型のみで,自己抗体の産生の種類や臨床症状がすべて決定されるというわけではないようで,他の遺伝子の関与や宿主側の要因も関与している可能性も残される.しかし本研究は先行感染後の自己免疫を介した免疫疾患において,分子相同性仮説をきちんと示した最初の疾患ということになり,その意義はきわめて大きいものと言えよう.

Neurology 65; 1376-1381, 2005

追伸;週末から学会にいってきますので,しばらく更新はお休みします.

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MRIにおける微小出血の検出はt-PA適応の除外に役に立つか?

2005年11月05日 | 脳血管障害
脳梗塞急性期においてt-PAを静注できるかどうかは患者さんの予後にきわめて大きな影響を及ぼす.t-PAは適応基準を満足する発症3時間以内の脳梗塞に対しては転帰良好例を有意に増加させるが(Level 1),一方で症候性頭蓋内出血の頻度を有意に増加させる(Level 1).t-PAの適応を考える場合,発症からの時間,血圧,活動性出血の有無,血小板数,抗凝固薬の使用,既往歴(最近の大手術,消化管または尿路系出血,心筋梗塞,頭部外傷または脳卒中の既往,圧迫止血困難な部位の動脈穿刺の有無)などを考慮する必要がある.頭蓋内出血の既往がないことも重要であるが,はたして微小出血の既往となるとどうであろうか?
脳内微小出血の既往はgradient echo (GRE) imagingを用いれば調べることができる.これは微小出血からのdeoxygenated hemoglobinをT2*強調画像においてsignal loss(hypointense lesion)として捉えるわけである.この微小出血は高血圧や脳アミロイドアンギオパチーにおいてしばしば認められる所見と言われており,脳梗塞患者の約15%に見られる.この所見は後に脳出血を来たす危険因子であるとの報告があるが,結論は出ていない.もし微小出血を認める患者さんがt-PAにより出血合併症を来たす確率が高いのであれば,あらかじめGREを施行し,微小出血ありの症例ではt-PA静注の適応から除外すべきである.
 今回,アメリカのt-PAに関する多施設共同研究グループ(DEFUSE study group)から,GREで評価した微小出血の既往が,出血性合併症の危険因子となるかについての研究が報告された.対象は70名の急性期脳梗塞患者 (平均71 ± 29 歳;女性39名).t-PA静注は発症後3-6時間(!)以内に行っている(症例を適切に選びつつ,すでにtherapeutic time windowを伸ばす試みを行っているということ).微小出血はGREにて11名(15.7%)に認めた.これら11名の患者において,t-PA静注前に症候性出血を合併した症例はなかった(一方の微小出血なし群では7/59名(11.9%)に症候性出血あり).また,両群間でt-PA静注後の出血性合併症(症候性,無症候性を問わず)の頻度にも有意差は見られなかった.以上の結果は,GREにおいて微小出血所見を認めても,t-PAの使用は可能であるということを示している.
 現在,t-PAに関してはいかにtherapeutic time windowを伸ばすか?3時間以降に静注可能な患者さんをいかに見出すか?(すなわち出血合併症を来たしにくい患者さんの特徴は何か?)逆に出血性合併症を来たす患者さんの特徴は何か?ということが,このDEFUSE studyを始め精力的に検討されている.t-PAは諸刃の刃であるので,治療に携わるものはとにかくt-PAに関するupdateなエビデンスを熟知する必要があるのではなかろうか?

Neurology 65; 1175-1178, 2005

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脳幹と内頚動脈が正しく形成されず自閉症を合併しうる病気

2005年11月03日 | その他
Bosley-Salih-Alorainy Syndrome(BSAS)と呼ばれる病気がある.この病気はサウジアラビアで4家系,トルコで1家系しか報告されていない本当に稀な病気であるが,最近,原因遺伝子が明らかになり,たまたま著者の講義を聞く機会があったのでまとめておく(その著者はBSAの最初の名前,Bosleyなのだが,ハンサムな順番に名前を並べたので私が先頭なのだとジョークを飛ばしていた).
この疾患は,臨床的には先天性眼球運動障害(Duane syndrome),脳幹と内頚動脈の形成不全,感音性難聴を認める.頭部MRIでは,一見,異常がないように見えて外転神経が同定できない.高率に難聴を認めるが,蝸牛・半規管の形成不全が認められる.一側ないし両側の頚動脈孔形成不全や,内頚動脈の低形成~無形成も認められる(この場合,posterior circulationとくにbasilar aが非常に太くに発達していて血流を供給している).両親には異常はない.
著者らはSNP-basedの連鎖解析をサウジの1家系に対して行い(新しい方法),7p15.3-p14.3の8.5-Mb 領域が罹患者でのみホモ接合であることを見出し,その後,マーカーを増やし約300 kbまで候補領域を絞った.その後,BSASの症状がHoxa1 -/- mouse(KOマウス)に似ていることから(このKOマウスは自閉症的表現形質特性を持っている),Hoxa1遺伝子をシークエンスしたところ,175-176insG変異をホモで見つけたわけである(これは蛋白の長さが短くなるtruncating mutationであった).次にトルコの家系では84C-G transversion変異が見つかった.Athabaskan brainstem dysgenesis syndromeというBSASと似た病気があるそうだが,この疾患でも76C-T 変異を認めた(つまりallelic variant).いずれの変異もtruncating mutationで,これらの病気はHOXA蛋白のloss of functionに伴う疾患と考えられる.
 さて,このHoxa1遺伝子だが,動物の形づくりに重要な働きをする「ホメオボックス遺伝子」のひとつであり,その遺伝子産物であるHOXA1は後脳(hindbrain)の発達に不可欠な遺伝子と推測されていた.この病気は確かに稀なのだが,実は原因遺伝子発見の意義はかなり大きく,少なくとも3点挙げられると思う.①これまで哺乳類においてはホメオボックス遺伝子の変異は同定されていなかったが,それが初めて報告された.② HOXA1が中枢神経の発達に不可欠であることも今回,初めて証明された.③自閉症発症に関与する遺伝子である可能性が高まった(レット症候群の原因遺伝子MECP2遺伝子に続き2個目か?).今後,この蛋白のloss of functionがどのような機序で自閉症や種々の奇形に関わっていくのか,とくに遺伝子多型が表現型として現れるのかなど,さらに検討が進められることになると思う.

Nature Genet 1035-1037, 2005

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