Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ABCD2 スコアは多民族に対する多施設外部評価でも有用

2010年05月09日 | 脳血管障害
TIA患者さんが脳梗塞に移行するリスクを評価する簡便なスコアとして2005年にLancet誌に報告されたABCD2スコアがある.以下の5項目(ABCDD)について点数化し,合計点は0から7点となる.

A: Age(60歳以上,1点;60歳未満,0点)
B: BP(エピソード後の最初の血圧:収縮期140mmHgもしくは拡張期90mmHgを超える,1点;それ以外,0点)
C: Clinical features (臨床症状:片麻痺 ,2点; 麻痺を伴わない発語障害,1点; その他,0点)
D: Duration of symptoms(持続時間: 60分以上,2点; 10~59分,1点; 10分未満,0点)
D: DM(糖尿病あり,1点;なし,0点)

2007年に同じくLancet誌に報告された有用性の評価では,受診より2日以内に脳卒中を起こすリスクは,スコア0~3で1.0%,4~5で4.1%,6~7で8.1%と報告され,とくにスコア4以上では注意を要すると考えられた.しかし有効性を報告した2つのLancet誌論文は同一のTIA レジストリを用いていることや,その後の外部評価での有効性の程度にばらつきがみられるということが問題点として指摘されていた.今回,多民族を対象にした多施設外部評価が報告されたのでまとめてみたい.
 方法はギリシアおよびシンガポールの3つの三次救急病因で行われたprospective studyで,白人およびアジア人を対象にしている.148名のTIA患者にスコアがつけられ,7日後および90日後の脳梗塞発症のリスクが計算された.結果としてはそれぞれ,8% (95%CI 4%-12%)および16% (95%CI 10%-22%)の脳梗塞発症であった.本スコアの有効性をC統計量で評価すると,7日後および90日後では0.72 (95% CI 0.57-0.88) および 0.75 (95% CI 0.65-0.86)となった.

注;C統計量は,ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線下の面積で,0.5~1.0の値をとり,1,0が最善.0.8を超えると一般的に判別良好な指標と言われる.

90日後の脳梗塞リスクをスコア3以上と2以下で分けて層別解析をすると,危険率は7倍の差があった(28%, 95% CI 18%-38% vs 4%, 95% CI 0%-9%).さらに脳梗塞の危険因子,人種,TIAの既往,治療歴を調整したのち,90日後の脳梗塞発症のハザード比を計算すると4.65 (95% CI 1.04-20.84, p = 0.045)であった.

注;ハザード比は一方のグループにおける特定の有害事象(ハザード)が生じる危険性を,他のグループにおける危険性で割ったもの.2群間で差がなければ1になる(上記は95% CIが最低でも1を超えているので有意である).

以上の結果は,異なる人種を含む多施設の検討でもABCD2スコアはTIA患者のtriageに有用であることを示している.スコア3以上の場合,速やかな入院管理が必要であるという現行のガイドラインを支持する結果である.

今回は病棟の若い先生方・学生さんと抄読会で読んだ論文を紹介した.目的は予後評価等を目的とする指標の有効性を考える論文を読み,その統計学を学ぶことでした.ただ論文を読んだのち,TIA患者さんにおけるABCD2以外のリスク、例えば頚動脈狭窄の程度とか心房細動の存在がどのような影響を与えるのか疑問に思った.これについては最近のStroke誌に報告があるので次の機会に検討したい.

Neurology 74:1351-1357, 2010 

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