Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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パーキンソン病における「痛み」についてのアンケート調査

2011年10月22日 | パーキンソン病
上記タイトルのアンケート調査をまとめた冊子を著者のおひとりからお送りいただいた.非常に示唆に富む内容で,パーキンソン病(PD)患者さんの診療に有益な情報と思われるのでご紹介したい.なおWEB上でもダウンロードが可能なので,関心のある方はぜひご一読頂きたい.

まずこの研究が行われた背景は,PD患者同士の会話で,痛みが強いので主治医に相談したものの,「PDには痛みがない」と言われ,訴えに耳を傾けてもらえないようなことが少なからずある,つまりPDにおける「痛み」が症状として理解されていないのではないかということが話題になったそうだ.一人の患者さんの言葉がアンケートの末尾に記載されているので引用したい.「なぜ医師は『痛みはないはずだ』というのだろうか.こんなにも大勢の人が痛みを訴えているのにどうして認めてくれないのだろう」

アンケートについてまとめてみる.方法はPD友の会におけるアンケート用紙の手渡しとインターネット・ホームページ上の配信で,回収率は68%.回答総数は27都道府県にわたる502人(男性211人,女性291人).発症後10年未満の患者さんが53.6%であった.痛みの部位は全身を14の部位に分けて記載してもらった.

さて結果であるが「痛みあり」と回答した人はなんと389/502=77.5%!(男性72.5%,女性81.1%).部位は腰部が圧倒的に多く,63.2%の患者さんは腰痛を訴えていた.ついで腕,背中,肩が同数であった.痛みの箇所も複数みられることが多く,70歳代で痛みのあった人(112人)では平均3.2箇所,40歳代(32人)でも平均4.8箇所と多かった.

痛みがひどくなる状況は,薬が切れた時が最も多く64人,ついで同じ姿勢でいるときや立っている時が45人,朝起きた時が28人,からだの曲がり・姿勢異常13人,寝不足・疲れのあるとき13人,常に痛いが11人であった.ジスキネジアは3人であった.

痛みのあるときの対処法は,シップ58人,マッサージ56人,動かない・横になる・じっと耐える・コルセットが55人,ストレッチ・リハビリ・カイロプラクティス・指圧が44人,温める・ホカロン・カイロ・風呂が23人,痛み止め20人,パーキンソン病治療薬14人であった.

著者らは考察として,痛みの頻度は4人に3人と多く,PDの症状としてもっと注目すべきであること,非運動症状の中でも主要症状と考えて良いこと,病歴の短い患者さん・若い患者さんでもみられる症状であること,腰痛は加齢で生じる腰部の合併症にPDに伴う姿勢異常が関与して生じている可能性があることを考察している.

最後に個人的に気がついたことを述べたい.まず痛みの出現する時間は,痛みの原因や治療を考える上で大きなヒントになると思われる.
「薬が切れた時」の痛み → パーキンソン病自体に伴う痛み → オフ時間を減らす抗パーキンソン病薬の調節を行う.
「朝起きた時」の痛み → 朝のオフ症状に伴う痛み → 早朝のL-DOPA内服,もしくは眠前長時間作用するドパミンアゴニストの内服.
「同じ姿勢でいるときや立っている時に痛み」が起こる機序は何であるのかよく分からなかった.「からだの曲がり・姿勢異常」については,一部,抗パーキンソン病薬の増量で軽減する患者さんも経験的にはいらっしゃるので検討しても良いかもしれない.「寝不足・疲れ」はパーキンソン症状自体も増悪させるので生活指導や不眠に対する治療を行う必要がある.

痛みの対処法としてさまざまな工夫が行われていることが分かる.どうすれば痛みを軽減できるのかヒントが含まれているように思う.マッサージ,コルセット,ストレッチ,温める,といったことは痛みで困っている患者さんにお薦めしてもよさそうである.

いずれにしても「痛み」は,患者さんのQOLやADLに運動症状と同等,場合によってはそれ以上の影響を及ぼすことをよく理解する必要がある.


パーキンソン病における「痛み」についてのアンケート調査
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「いのちを生きるとは」 日野原重明先生100歳誕生日ご講演

2011年10月10日 | 医学と医療
第35回日本死の臨床研究会「いのちの支え ―生と死,その苦悩と癒し―」@幕張に初めて参加した.どうしてそのような学会に?と我ながら思うのだが,最近,病棟でがん患者さんの神経障害を診療する機会がいくつかあり,思うことが多かったことや,ブログにも記載したプリオン病の病状告知の問題ALS患者さんの臓器移植と死の選択の論文などがきっかけかもしれない.加えて柳田邦男さんの集大成「僕は9歳のときから死と向きあってきた」を読んだ影響も大きかった(そのなかでこの学会についても知った).死を考えるということは自身の残りの人生のあり方(=生き方)を考えることにほかならないと思っているが,多くの人の話を聞いてみたいという気持ちを持っていた.

さて,そうは言うものの学会に参加したのは目当てがある.柳田邦男先生,鳥越俊太郎先生,清水哲郎先生のご講演と,そして日野原重明先生!!最近,出版された「日野原重明 一〇〇歳」を読んでいたので分かっていたつもりであったが,あまりのエネルギーあふれるご講演に驚いてしまった.講演前,演題脇にちょこんと腰をかけておられたが,座長に紹介されるやいなや,すたすた登壇し,演題の中央で両手を高々と掲げてガッツポーズ・拍手の嵐!ご講演が始まると演壇を所狭しと動きまわる.ユーモアにあふれる話術に感嘆!Steve Jobsのプレゼン術関係の本は結構読んだが,負けず劣らず日野原先生のプレゼン術からも学ぶことが多々ありそう.とにかく人を惹きつける.90分をまったく長く感じなかった.さてご講演の中で心に残った言葉を列挙する.

こころの言葉が生きていなければならない.そのためには医療者は死なない程度の病気になったほうが良い.病むということはどういうことか分かる.

東日本大震災の津波,間違った情報は命に直結することを示した.われわれは命を失う事件にいつでも直面しうる.つまり「死の刻印」を押されたのが人間.自分の命にいつどんなことがあるか分からない.人間は寿命のある有限の生き物であり,朽ちるもの,朽ちる種として生まれた.

生きていることは生かされていること.これを理解しているのは人間以外にない.与えられて生きている.途中いろいろなことがあっても,命を与えられたことに感謝をできて,人生を終えることが出来れば「終わりよければすべてよし」と思う.

年をとるとシワができるが,笑顔のシワを作って欲しい.

子供たちが大きくなったら,自分の使える時間を人のために使えるようになるよう「命の授業」を行なっている.

日本人の平均寿命は伸び続けている.女性は長生き.夫婦同じ年に死にたいなら8歳年下の夫と結婚すれば良い(笑).

いのちとは,目には見えないが,人間に一番大切なもの.それは自分が持っている自分の時間.いのちも時間も見えないもの.その自分の時間をどう使うか,自分の命の使い方,人への命の使い方が大切.

いのちとケア.いのちには長さと質(深さ)がある.ケアにも冷たいケアと慈悲深いケアがある(dispassionateなケアvs compassionateなケア).Tender loving care(TLC)という言葉がある.テンダーとは愛を形容する最高の表現.その実現のためには自分に何ができるかまず考えること.ホスピスの最高のケアも同じTLC,being with the patients(患者と共にいる)という気持ちが大切.

医療はサイエンスに基づいたアート(技)である(オスラー先生).「理論・知識」「テクノロジー」「患者へのタッチ(技)」という三角形からできていて,とくに最後が大切.

いつくるかもしれない「いのちの喪失」に備えなければならない.日本はスペインについで自殺の多い国.戦争は人の命を奪うものであることを子供に対してよく教育する.「10歳の君へ」伝えたいことは「いのち,時,平和」の3つ.平和への道は,命を大切に思うこと,戦争を防ぐこと,核兵器ほか武装廃止の運動への出発(武器を持たない自衛隊)により達成できる.戦争にNOと言えるこどもを育てたい.

「寿命は神様から戴いた時間だ」.どういうふうに,いつ,だれのために使うかという権利を持っている.勇気ある行動を実践してほしい.

最後にみんなでハッピーバースデイを合唱した.なんとも穏やかな,暖かい気持ちになれるご講演だった.

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MDSJ 2011@東京

2011年10月09日 | パーキンソン病
毎年楽しみにしているMDSJ(パーキンソン病・運動障害疾患コングレス)に参加した.例年,この学会のことはブログに書いているが,朝から夜までみっちり勉強をさせていただける(イブニングビデオセッションのある2日目は21時半までかかった).今年は仲間とともに取り組んでいる「多系統萎縮症の治療と予後」について講演させていただく機会もいただけたし,充実した3日間であった.印象に残ったことをまとめてみたい.


パーキンソン病の発症機序は「多因子遺伝+環境要因」.GWAS(genome-wide association study)の結果,多くの疾患感受性遺伝子が見つかったが,そのオッズ比は環境要因(農薬,井戸水など)と同等.むしろ環境要因のほうが大きい.メカニズムの理解も進んで,農薬の代表であるロテノンはαシヌクレインS129残基のリン酸化を促進することも報告された.環境要因と遺伝要因は別個に作用するのではなく,密接に関連している可能性もある.

グルコセレブロシダーゼ遺伝子(ゴーシェ病の原因遺伝子)がパーキンソン病の疾患感受性遺伝子となる機序として,細胞内のαシヌクレイン蓄積作用が有力視されている.

常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子産物PINK1は同じく原因遺伝子産物のParkinの上流に存在し,mitophagy(ミトコンドリアのオートファジーのこと)に関与する.障害を受けたミトコンドリアにPINK1が結合し,parkinを呼び集め,例えば基質としてmitofusin1,2をユビキチン化し,プロテアソーム分解をもたらす.つまり2つの遺伝子の変異はmitophagy不全の結果,ダメージを受けたミトコンドリアの蓄積をもたらすことがわかった(ただし患者剖検脳病理で異常ミトコンドリアの蓄積像が認められておらず,まだウラはとれていない).

パーキンソン病におけるdrug-induced dyskinesiaについて.Peak dose dyskinesia,diphasic dyskinesia,off time dystoniaの3つがある.Peak dose dyskinesiaは頸部・上肢に多いのに対し,diphasic dyskinesiaは下肢に多い.Peak dose dyskinesiaは舞踏運動を呈するのに対し,diphasic dyskinesiaはdystonia, balismus様である.Diphasic dyskinesiaに対するエビデンスのある治療はまだない.理論的にはなるべくL-DOPA濃度を一定に保つことがよさそうだが,実際にはL-DOPA内服回数を増やしたほうが良い人(濃度の一定化を目指す)と,逆に減らしたほうが良い人がいる(dyskinesiaの起こりうる頻度の減少を目指す).Off time dystoniaは早朝に多く,治療としては眠前のアゴニスト,早朝のl-dopa.

すくみ足は狭い所では増強するので,患者指導の一つとして,台所などの狭い場所では,床においてある物をできるだけ片付けて歩きやすくすると行った工夫をしてもらうと有益.

今後,パーキンソン病においても軽度認知症:mild cognitive impairment(MCI)の研究が進む.つまりPD-MCIという概念が導入される.診断基準もMovement disorder society(MDS)から近く公表される予定とのこと.

新規アルツハイマー病治療薬メマンチンはPDD/DLBでも有効という報告がある.

ドネペジルにはパーキンソン病の転倒を有意に減少させるという報告がある.ただし疑陽性の可能性もあり今後の検証が必要(単に注意障害の改善があったのかもしれない).

現在,多くの薬剤の治験が進行中であり,このことはぜひ患者さんにGood newsとして伝えて欲しい.例えばL-DOPA徐放剤,アポモルフィン皮下注・吸入薬,ロチゴチン貼付剤,プレラデナント,抗ジスキネジ薬AFQ056, Fipamezoleなど.一方,disease modifying drug(症状の進行を抑える薬剤)は現状では開発されておらず,今後に期待したい.

CBDとPSPいずれも多様な表現型をとる.CBDに特徴的と思われる一側上肢の高度の筋強剛・ジストニアによる高度の拘縮でさえ,CBDに特徴的な臨床所見とは言えない.

Menkes病と同じ原因病因遺伝子ATP7Aの変異で,残存活性がMenkes病よりも保たれているOccipital horn disease(OHD)という疾患がある.結合織に異常が見られ,後頭骨の下向きに角のような骨性の結合織が生えてくる.その他,失調や関節変形,膀胱憩室などを呈してくる.

Wilson病の治療薬で,Dペニシラミンの問題点は「治療開始初期に症状の増悪」である.一過性でなくそのまま改善しないこともある.このため近年は銅吸収抑制作用のある亜鉛を治療に用いる方が良いと考えられている.

PKAN(Pantothenate kinase-associated neurodegeneration;かつての Hallervorden-Spatz syndrome)は,その原因遺伝子産物PANK2が全身にあるにも関わらず,鉄代謝異常が障害を及ぼすのは神経組織のみ.その機序は今も不明.

新しい常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症SCA36の日本からの報告.原因遺伝子NOP56の非翻訳領域の6塩基GGCCTGリピート伸長により発症.失調は比較的軽いが,下位運動ニューロン徴候(舌,四肢近位筋)を呈する点が特徴.舌の萎縮・線維束性収縮は必発とのこと.

パーキンソン病やDLBに認める幻視は,ひと,とくに子供の姿であることが多い.面白い事に,東北地方の「座敷わらし伝説」は,これらの疾患におけるこの症状を示していると言う先生もいるそうだ.

パーキンソン病のバイオマーカーとして研究が進められた髄液中αシヌクレイン濃度が,報告によってバラバラであったのは,髄液サンプルにおける血液のコンタミネーションが大きな要因であることが判明している(αシヌクレインは赤血球中に多量に含まれる).またELISA測定系に用いた抗体が報告により異なっていたことも関係したかもしれない.これらの問題を排除しきちんと測定すると,αシヌクレインはPDにおいて減少する.しかし髄液αシヌクレインでPDとMSAの鑑別はできない.髄液αシヌクレインのオリゴマーは逆に増加する.早期診断マーカーになる可能性がある.

PDの嗅覚障害はL-DOPAで改善しない.MSAと比較しても高度である.嗅球でチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性細胞が増えている.しかしTH陽性細胞はαシヌクレイン陽性になっていない.

DLBのうつには,「激越,焦燥,興奮タイプ」と,「アパシー,アンヘドニアタイプ」の2つがある.SPECTでは全例で後頭葉の血流低下があるわけではないので注意が必要.

DLBの精神症状として,有形幻視,実態意識性(姿は見えないが視野の外に気配を感じる),Capgras症状(親しい人が瓜二つの偽物に入れ替わっている),単純性人物誤認(別な人と間違える),幻の同居人(二階に知らない人が住んでいる),実際にはいない身内が家にいる,重複記憶錯誤(本来一つのものが複数存在する),物体誤認(錯視;物を人に間違える.もしくは逆に人を物に間違える)といったものがある.これらをクラスター解析で大別すると「幻覚」「誤認」「妄想」という3つの範疇にわけられる.

DLBの認知障害はアルツハイマー病と比べると病識があり,繰り返し説明すると理解が可能.例えば幻視についての訴えが頻回な場合は,「見えていても声(幻聴)が聞こえなければ悪さはしないので大丈夫」と繰り返すと,納得されて訴えが減ってくる.本人や介護者が幻視を触ってみると消えることも多い.

DLBの誤認に対してはドネペジルは必ずしも効かない.誤認を起こしやすいものがあれば生活の場から取り除く(例えば絨毯の模様を単純なものにしたら訴えが減るなど).
誤認は幻覚ではない,しかし病的な記憶の障害があり,感情が絡んでいるので叱らないようにする(叱ると増悪する).人物誤認は介護者にとっても心理的負担が大きい.

特発性REM睡眠行動障害(iRBD)について.圧倒的に男性に多い.10~20年でPDになることが半数以上で認められる(MSAになることは少ない).中脳・橋被蓋の萎縮を認める症例がある(35%).テンソル画像でも異常が見られる.頭頂後頭葉の血流低下が見られ, DLBの前段階と言える所見.血流低下は経過に従い,進展・拡大していく.

パーキンソン病・運動障害疾患コングレスのビデオセッションは延々21時半まで続いた.不随意運動のプロの先生方がビデオの所見をどう表現し,どう解釈するか興味津々(必ずしも一致せず,不随意運動の見方の難しさを改めて実感する).NMDAR抗体陽性脳炎の2歳児例や,ataxia telangiectasiaの激しい小脳失調とミオクローヌス,頭頂葉病変由来の失調症(parietal ataxia),顎の脱臼後に出現した舌ミオキミアなど勉強になりました.当科の若手のホープ三浦先生の発表(ビタミンB1欠乏にて生じたpainful legs and moving toes)も実に堂々と見事だった(14の演題のなかから来年の世界MDSビデオオリンピックに出す演題を3つ決めるとのこと).

顔面の不随意運動について.眼瞼痙攣の誘発には,軽瞬テスト(軽いまなたき),強瞬テスト(力を入れた瞬き),速瞬テスト(速い瞬き)での開眼しにくさの確認が有用.

眼瞼痙攣では,眼瞼弛緩症(まぶたの皮膚が伸びている)の有無は重要.病歴が長い症例や高齢者で目の皮膚が伸びていと眼瞼痙攣を直しても自覚的改善が不十分となる.

開眼(瞼)失行では,スパスムがはっきりしなくてもボトックスの聞く人が少なからずいるのでボトックス治療を行う.

閉瞼失行という稀な病態もあり,パーキンソニズムや脳梗塞に伴い生じる.開眼できないため前頭筋を使う.

反側顔面攣縮(神経学会の正式用語)は,顔面神経障害で一側に生じる.眼瞼攣縮はジストニアであり,両側に生じる.

ベル現象は,閉眼の時,眼球が上方にのみ行くとは限らない.

ボトックス注射の合併症の眼瞼出血は,臥位注射を行なって皮下出血をしたらすぐに起こして圧迫すれば止まる.臥位のままにしておくと広がりやすい.

Eyelid myokimiaは他覚的には僅かな動きだが,自覚的には訴え大きい.

舌ジストニアとジスキネジアの鑑別は,定型性やタスク特異性があるのはジストニアと考える.

心因性不随意運動の診断は除外診断ではなく,陽性診断に基づいて行うべき.心因性不随意運動は障害が大きく,慢性化すると障害強く予後不良.しかし治療は精神療法や抗うつ薬を用いるが一筋縄ではいかない. 精神科医との連携必要.治療効果の判定は今後,RCTが必要になる.

心因性不随意運動に関連して,これまで「精神ぬきの神経学」と「肉体ぬきの精神学」が進められてきたが,そろそろ両者のすり合わせが必要だと思われる.

心因性不随運動における舞踏運動は稀(ただしハンチントン舞踏病の家族などでは起こりうる).

心因性ジストニアは長く心因性疾患と誤診されてきたが,事実,神経疾患との鑑別は困難.固定ジストニア(fixed dystonia)は心因性であることが多い(二次性のもので,CBDでは起こりうる).心因性振戦は最も多いタイプで突然出現する.

遅発性ジスキネジア,ジストニアについて.ジスキネジアは四肢や頭部の舞踏病様運動.D2遮断作用が強い薬剤でジスキネジアを生じやすい(リスペリドン,ハロペリドール).逆に受容体に結合してもすぐ離れるものは起こしにくい.5HT2A受容体遮断作用を併せ持つものも起こしいくい(クエチアピン,クロザピン).

ジストニアの内服治療の理論的背景
可塑性の改善・・・・アーテン,L-DOPA
GABA機能障害・・・・セルシン,バクロフェン
症状を取るだけ・・・・ボトックス
精神の安定・・・・SSRI

恒例のCONTROVERSYはディベートである.本年は以下の4つのテーマに対して行われた.
1.孤発性PDは単一の疾患である
2.DLBは大脳に始まり病変は下降する
3.L-dopaはドパミン不足の症状に対していつまでも有効である
4.PANDASは独立した疾患群である
自分の考えによらずに,組織委員会に指定された側(Yes No)に立って意見を述べる.結論が出るわけではないがなかなか楽しい議論が聴ける.

来年は京都です.たくさんの不随意運動を見ることができる非常に勉強になる学会です.ぜひ参加を検討してみてください.

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驚きの・・・むずむず「腹」症候群

2011年10月01日 | 睡眠に伴う疾患
レストレスレッグス症候群(RLS),別名むずむず脚症候群は,その名前を見ても,診断基準のurge to move the legs(足を動かしたい衝動)を見ても脚に症状を来す疾患である.しかし足以外にも,臀部,腕,体幹,顔面に症状を来すことはある.しかし脚に症状はなくお腹にだけ,むずむず症状を来すということはこれまでの常識ではとても考えられない.今回,Spainから腹壁に限局する症状を認めた「むずむず腹症候群」の3例がNeurology誌に報告された.症状の部位を除いて,RLSの診断基準は満たすという.驚いたので早速読んでみた.

症例は3例とも偶然62歳の発症.男性2名,女性1名.合併症として2名に貧血をみとめる.家族歴はなし.罹病期間は1年から14年.いずれの症例も夜になり,じっとしていると腹部の不快感が出現.身体を動かしたい衝動が生じ,動かすと不快感は軽減する.腹部の不快感のために患者はいずれも入眠困難と中途覚醒を来し,さらに周期性四肢運動症も合併した(PLM index 22-35 /h).腹部超音波や脊髄MRIでは異常なし.症状はドパミン作動薬のプラミペキソール(0.18-0.36 mg)にて劇的な改善(症状の改善のために徐々に増量を要した症例あり).

以上の結果より,RLSでは下肢の症状を伴わず腹部症状のみ呈する臨床亜型が存在すると言える.臨床医は診断や治療を誤らないためにも,このような腹部症状により不眠を呈する疾患が存在することを認識する必要がある.ただ個人的には比較的多くのレストレスレッグス症候群の患者さんを担当しているが,腹部のみの人はもちろん,脚に加えて腹部という人も経験がない.このような症例はあまり多くはないのではないかと思われるが,今後,注意して確認する必要があると思われる.

Neurology 77; 1283-1286, 2011
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