日々・from an architect

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国会議員による解体中の東京中央郵便局視察

2009-04-05 11:45:16 | 東京中央郵便局など(保存)

3月31日pm4:00より、超党派国会議員(将来世代のために東京中央郵便局を重要文化財する会・略称)による東京中央郵便局の現場視察が行われた。この視察に僕は、南一誠芝浦工大教授、小林良雄氏(新日本建築技術者集団)、それに数社のプレス関係者と共に参加した。
参加した国会議員は、事務局を担う平沢勝栄、河村たかし、それに松木謙公、石関貴史、佐々木憲昭各氏である。名古屋市長選に出馬する河村たかし氏にとっては、国会議員としての最後の視察になった。

線路寄りの東側ゲートから入った。ほこりを抑えるためにホースで散水しながら、7機の重機によって解体作業が行われており、西側中庭の前面ほぼ6スパンが取り壊されている。室内にあった鉄骨鉄筋コンクリート造の8角形の柱や梁の解体部分の鉄骨や鉄筋がむき出しになって見える。

どんな建築であっても解体の現場は無残なものだ。外部から覗き込んではあせって連絡をくれるこの建築に想いを持つ人に、僕は見ないほうがいいよ、と言ってきた。つくる大勢の人、建築主(企業体、クライアント!)、企画者、技術者、職人、そして建築家がいる。僕はこの中郵の解体現場を見て物言う気はしないが、それでもつくる喜びを共有できないこのプロジェクトとはナンなんだろうかと憮然とした思いに駆られる。

国会議員がこの見学会に対応する日本郵政のCOE斎藤隆司次長に、公表された保存部分の増えた案は、登録文化財として文化庁との合意はできたのかと質問した。合意できていますとうなずいた斎藤氏に僕は、新たに保存することになった線路側の2スパン部分を「曳きや」するんですよね、と確認した。

50億円と言う巨費をついやすると報道されたこのやり方は、その是非を含めて広く社会に伝えられているとは思えない。取り囲んでいるプレス関係者に聞こえるように確認したのだ。
免震装置を入れるために一旦切り離して曳きやして元に戻す。しかし免震装置設置の為に末端部分を1メートルほど敷地内に入れるので角度が変わり、しかもエキスパンションジョイントで繋ぐことになる。これで登録文化財! 重文になる価値を持つ建築を継承したというのが郵政の論理だ。当初のレプリカと同じ発想だ。

「免震」。免罪符のように検討されるようになったこの技術は万全なのか?免震の検討からスタートし、耐震実施をした六本木国際文化会館の事例もある。`耐震補強では難しいのでしょうかね`と斎藤次長に聞いたが、構造の専門家ではないので詳細説明ができないが、そのように聞いていると困った顔をされた。
現状を踏まえて南教授が策定して国会議員に検討依頼した高層化以外の部分の保存改修提案を、国会議員から斎藤次長に手渡し、検討・再考の要請が行われた。
この一年、いや僕がJIAの保存問題委員会の委員長の時から考えるとほぼ10年、中郵の保存活動に関わって学んだことが沢山ある。

その一つ、僕の論理はこうだ。
「重要文化財」の価値ある建築が部分保存では、仮に登録文化財であってもこの建築の価値を残したとは言えず、奇妙な形態になるこの有様は建築の正しい姿とも言えない。少しでも多く残した方がいいに決まっている。だが僕は建築で構成される都市の景観を考える。

丸の内を書いた読売新聞の記者と話をした。丸の内を歩いて改めて観ると変ですよね。残した幾つかの建築の姿は、外国人に冗談でしょ!といわれてしまう風景なのだ。残す部分が少ないとか多いとかの問題ではないのだ。これも試行錯誤しながら再開発がなされてきた丸の内を見てきて学んだことなのだ。
更に重要なのは、この庁舎が様式建築ではなく『モダニズム建築』であることだ。現在(いま)の都市が、「モダニズム建築」とその源流による建築で構成されており、その存在と存続の要の建築がなくなることは、僕たち建築家の起つ位置がなくなることなのだ。

この僕の言う論理は、建築と都市を考える時の命題だ。だが、JIAでも重文の会でも異論がでる。


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2 コメント

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存続の要 (Tosi)
2009-04-06 18:45:24
兼松先生が「現在(いま)の都市が、「モダニズム建築」とその源流による建築で構成されており、その存在と存続の要の建築がなくなることは、僕たち建築家の起つ位置がなくなること」とおっしゃるのはその通りだと思います。
「存続の要」は「鎖の輪」と言い換えることもできると思うのですが、ドコモモ・フランスがインターネット上で公開し、賛同・署名を呼びかけているある保存要望書*のなかで使われている表現(nous priver d'un maillon
essentiel)をもう少し広い文脈に置き換えつつ借用するなら、東京中中央郵便局は、モダニズム建築の確立という、建築の歴史の決定的段階のひとつを日本において体現する代表例なのだから、その30%の「保存」、つまり70%の消滅は、日本で建築とその歴史を理解するために必要不可欠な鎖の輪のうちでも特に本質的なひとつを現在の私たちと未来の諸世代から奪ってしまうことになる、と言えると思います。

*  ペレ兄弟設計のフランス海軍の施設(1928-1956, パリ15区)の保存要望書:
http://www.archi.fr/DOCOMOMO-FR/petition-marine-nationale.pdf
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モダニズム建築の位置付け (penkou)
2009-04-08 10:20:21
Tosiさん
先般からのモダニズム建築に対するTosiさんからコメントを頂いて、私の考えていたことの確認と、整理が出来てきたような気がしています。そして課題も!
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