相田武文という建築家がいる。
早稲田大学で今井兼次、明石信道に学んで大学院博士課程を終了後、設計事務所を設立、芝浦工大に招かれて学生を指導しながら数多くの建築をつくり、名誉教授として退任して建築に取り組む。現在は教え子を代表にして現役バリバリ、僕はJIA(日本建築家協会)のいくつかの委員会でご一緒してきた。
建築誌に連載している「建築家模様」に登場いただくことになって、身近にある相田建築巡りをしてきた。
僕のイメージの中には「積木の家」がこびりついているが、評論家長谷川尭も相田自身も`線状に空に伸びる列柱群`構成に「ゆらぎ」をキイワードとした建築論を展開してきた。
論考は難解で旨く表現できないが、列柱は壁、そこで醸し出される類例の無い空間を味わうと、「ゆらぎ」というキイワードが僕のどこかで共鳴していることに気がつく。
東京都戦没者霊園内を歩きながら、相田も相田に学んだ建築家も長谷川も指摘していないが、その壁による列柱が、戦没した人の姿に思えてきた。例えばフィリピン・ルソン島で戦没した僕の父がこの壁のどこかにいて、父の2倍以上を生き延びてきた僕を見ながら、かすかに微笑んでいるような気がしてきたものだ。