北欧の巨匠、建築家エーリック・グンナール・アスプルンドの作品集「E.G.アルプンドの建築」出版記念写真展が乃木坂の、ギャラリー「間」で開かれている。
8月22日の夜、出版を記念するパーティがギャラ間の中庭で行われた。何もお手伝いできなかったが、僕も発起人として名を連ねさせてもらったので参加した。アクアビットという40度もある、じゃがいもから作られるアスプルンドの生まれたスエーデンの蒸留酒が振舞われ、写真家吉村行雄さんの親しい友人の奏でる、民族楽器ニッケルハルパの素朴な演奏を聴きながら、吉村さんとアスプルンド論を書いた川島洋一さんを囲んで談笑するという、これぞ吉村ワールドといってもいい和やかで,豊かなパーティになった。
展覧会は、モノクロームで吉村さんがプリントした静かでありながらも人の気配が漂う、吉村さんとアスプルンドの共作といっていいような光と影を見事に捕らえた作品群。だが残念なことにこの展示は8月27日で終わってしまう。
パーティでは建築家の内藤廣さんが「竹中工務店は懐の深い、いい会社ですね!」と、毎年長期休暇をとって撮影に出かける吉村さんをサポートした会社を冷やかして、会場の笑いを誘っていたが、吉村さんは竹中の設計部長を務める、この世界では知られた優れた建築写真家なのだ。
僕とは, JIAの中に「建築家写真倶楽部」という部会を作ったときにお誘いしてから益々親しくなった。一言で言えば、人柄にほれたのだ。
<E.G.アルプンドの建築>
其れはともかく是非お伝えしたいのは、TOTO出版から上程された「E.G.アルプンドの建築」の素晴らしさである。帯には「秘められていた北欧モダニズムの世界」とある。
北欧の建築家というとすぐにA・アールトを思い浮かべるが、アスプルンドは、ミースやコルビジュエとほとんど違わない1885年生まれ、1898年生まれのアールトよりほぼ一回り先輩で、後に親交を深めたが、アールトがアスプルンドの門をたたいたこともあったという。
この本の写真は、モダニズム建築では数少ない世界遺産(勿論スエーデンのDOCOMOMO20選にも選定されている)にもなって大勢の人に知られた「森の礼拝堂/森の墓地」の、雪を抱いた樅の木の中に建つ礼拝堂でスタートする。二本のオーダーの上に、雪をかぶって三角に見える白い屋根の礼拝堂の奥に、ほんのりと赤い灯火の見えるその場の空気感まで感じられる、印象深い写真だ。
解説、アスプルンド論を書いた川島洋一さんは、福井工業大学建設工学科助教授を務める、気鋭の建築歴史の研究者。しかし冒頭に書いた「アスプルンド 生と建築」は、どことなく詩情に富んだ心温まる論考である。アスプルンドがそうさせるのか、川島さんの懐の深さなのか!
数々のエピソードを取り上げながら、北欧のモダニズムの世界に僕たちを引っ張り込む筆力に驚かされる.
一枚の小さな日本建築の写真が掲載されているが、建築の設計に専念し、書き記すことはなく視ればわかるといったアスプルンドの数少ない講演で「日本の建築を念頭においている」と述べたことに触れている。これも驚くことだ。
吉村さんの何度視ても建築家魂を触発される写真をめくりながら、アダムとイブ像のある「スカンディア・シネマ」や、斜光の入る(多分)円形窓のある「カール・ヨーハン学校」に限りなく引き込まれていく僕自身に驚いている。
僕のモダニズム論が揺れ動き始めてしまった。
驚くばかりでしょうがないなあ!とも思うが、ふと思い起こしたのは、1昨年吉村さんが企画して建築写真家倶楽部に呼びかけた「サマーハウス(夏の家)」に泊まるという、アスプルンドツアー。メンバーが二人も行ったのに僕は自分の写真の個展の準備もあっていけなかった。こうなると痛恨の出来事。サマーハウスに泊まれるのも、吉村さんとアスプルンドのご子息との深いお付き合いの賜物、撮りたいという強い思いもあるのだろうが、これ全て吉村さんの人柄のなせる業だとしか言いようがない。
論より証拠。是非この本を手にとって見ていただきたい。勿論買ってください。4000円プラス税です。