日々・from an architect

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「声明」大阪中央郵便局は保存・活用を。 「シンポ」外観のみで歴史を保存したという のは幼稚

2009-07-30 18:04:35 | 東京中央郵便局など(保存)

7月17日に行ったJIA関東甲信越支部・保存問題委員会の発表した「声明」と、関連して行ったシンポジウムの概要を報告する。

「声明」
私たち社団法人日本建築家協会 関東甲信越支部 保存問題委員会は。東京中央郵便局庁舎の部分保存という今般の決着に際し、以下3点を広く声明するものです。

(1)建築文化の伝承と発展のためには、都市環境保全を目的とした外観保存のみでは不足であり、建築の価値の中核をなす内部空間を含めた一体性のある保存が本来的かつ不可欠である、ということを、強く訴えます。

(2)今般の事例がモダニズム建築の保存における許容水準として扱われてしまうことの無いよう、保存の意義を自らその実践の方法とともに問い直し、モダニズム建築の持つ価値が広く理解・認識されることをめざして、最大限の努力を行います。

(3)吉田鉄郎がモダニズム建築の完成度をさらに深めた大阪中央郵便局庁舎の保存・活用が必ずや実現するよう、各分野の皆様との対話と協力を推進します。

この「声明」にあわせて、「背景」として声明発表にいたる経緯を記した。
つまり声明をおこなった動機は、「文化庁が重要文化財として検討に値するとの見解を表明し、日本建築学会が「重要文化財をはるかに超える価値がある」と述べた建築(東京中央郵便局庁舎)が、一部を残してオリジナル建築物の大部分が既に失われてしまった事実に、大阪中央郵便局など今後のモダニズム建築の存続と都市景観のあり方に、建築家として危機感を覚えたことによる。

会場にはJIAの主要メンバーを含む会員や、保存活動をしている市民、それにプレス関係者など七十数名が参加した。当日のシンポジウムについては、日刊工業新聞がコンパクト・明解にパネリストの発言を伝えている。タイトルは「大阪郵便局は保存・活用を」。

東京中央郵便局について、郵政サイドが設置した「歴史意匠検討委員会」に参加した鈴木博之教授は、「存続すべきという意見を制度的にもみ消されてしまうその手法に問題があった」との認識を示したとした。
委員会設置がある種の免罪符的に扱われるあり方について、内部からの声がなかなか公式の場で聞こえてこないが、この問題はこれからことある毎に「おおきな声」として訴え続けていかなくてはいけないと思った。
初めから結論ありきといわざるを得ないパブリックコメントの要請、景観審議会等の行政制度に通じる課題ではないかと考える。

ジャーナリストの清野由美さんの「経済合理性というコンセプト自体が時代に合わなくなってきており、その対極にある情緒的なもの、つまり古い建物を保存することで補完することが重要だ」との発言と「外観だけを保存することが歴史の保存だと言う考えは幼稚だ」との批判を紹介している。
僕達建築家にはなかなかこういう言い方は出来ない。これは痛烈な現代文明批判だと得心した。

室伏次郎さんの「ナショナルトラストのような組織が必要だし、選挙の候補者に歴史的建築の保存について問うような具体的な活動が必要だ」と述べたと簡明に伝えている。
さて僕の発言については、「東京は解体されたが大阪だけは残してほしい」「都市再生緊急特別措置法などによりの再開発が可能になったが、新法や法改正に対応する常設の委員会をJIAに設置する必要を感じる」と語ったとこのシンポを総括している。
様々な課題を背負ったシンポジウムだった。

<明日からは、8月1日に行われる愛媛県八幡浜市の「日土小学校」改修工事竣工見学会とシンポに参加するついでに、仲のいい建築家と3泊4日で四国建築巡りをやってきます。
目玉はDOCOMOMOに選定した増田友也の設計した鳴門市の公共建築群と坂出人工都市(大高正人)、香川県庁舎(丹下健三)。それにレーモンドの広見町庁舎や山本忠司の瀬戸内海歴史民俗資料館。
数が多いと目玉だとはいえなくなる!琴平さんにも行ってみたい。帰りは道後温泉に浸かった後夜行バスだ。>


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8 コメント

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「初めから結論ありき」 (Tosi)
2009-08-01 08:11:04
7月4日に世田谷区民会館集会室で開催されたJIA世田谷地域会主催のタウンミーティングでも、複数の参加者から、世田谷区にとって「本庁舎等整備審議会」の設置は「アリバイ作り」にすぎず、実態は「初めから結論ありき」ではないか、という疑問の声が聞かれました。
世田谷区議会議員竹村津絵さん(生活者ネットワーク)のブログによれば、「8月までに答申をまとめるとしていた本庁舎等整備審議会では、6月に突然、建て替えの方向性が示された「答申案」が・・・!? 委員もこの日、初めて見るもので、委員不在、事務局(世田谷区)主導でまとめられた答申案の今後が、おおいに注目されるところです。」
http://takemura.seikatsusha.net/back/item/all/1246428709.html

すでにかなりきびしい局面に入ってしまったようにも思えますが、JIA世田谷地域会が、区によって推し進められようとしている(設計入札制度時代の第三庁舎等を残して前川作品はすべて取り壊す)新築建て替え案より費用も環境負荷もはるかに少ない大改修と増築という代替案を提示しつつ、世田谷区内で建物や都市景観の保存・保全活動に従事する地域住民、区議、世田谷在住ジャーナリストなどとの連携を深化させていることは心強く思えます。ジャーナリスト高橋ユリカさんも、砧総合支所の旧庁舎や梅が丘駅前の欅広場の存続運動に携わってきた方々も、「以前の同様の場合と比較すると、今回は早い段階から区の動きに対応できた」、「黒木実さんや鰺坂徹さんが世田谷在住だったからだ」と評価していたことが印象的でした。
東京中央郵便局と東京女子大学旧体育館の破壊(紅葉ヶ丘前川國男建築群のひとつで、弘前市民会館との類似点もみられた神奈川県青少年会館も東側隣接地の再開発事業にあわせて取り壊されました)と同じ時期に、神奈川県立音楽堂と日土小学校という、国宝級戦後モダニズム建
築の改修工事が完成したことは朗報といえます。「国宝級だから当然」と思ってしまわずに、とくに八幡浜市民の見識の高さには心から敬意を表さなければならないのだと思います。
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5月ですでに (moro)
2009-08-06 12:38:09
学生達と行く5月の「関西建築研修」時に、既に大阪中郵の入り口は仮囲いで閉ざされておりました。
あれから3ヶ月近く経ちます。現在はどのようになっているのか…。
学生の1人(今年課題を見て頂く3年生)がポツリと言いました。「大阪には大きなビルがこんなに沢山有るのだから、中郵を残したって良いではないか…。」
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日常生活の中で出来ることがあるのだろうか (penkou)
2009-08-07 10:49:54
Tosiさん
アリバイづくり問題はこれからの大きな課題ですね。新宿区長と面談したことがあるのですが、都の景観審議会資料は台車で運ばれてくるほど膨大になり目を通すのも大変、最後は多数決ということにもなりますし、そもそも結論ありきという仕組みは何とかしないと都市がおかしくなっていくのではないでしょうか。
建築はその建築だけを論議すれば良いと言うものではなく、施政やその仕組みにも触れていかないと大切なものが欠落して行く、つまり日常の問題意識と目配りが大切なのですが、一市民としてどうすればいいのでしょうか?中郵を考えていくといろいろなことが見えてきますね。
実は日土も大変だったのです。
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全くね! (penkou)
2009-08-07 10:51:31
moroさん
学生さんの一言。全くそのとおりだと思います。それが原点ですよね!
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日ごろの目線 (penkou)
2009-08-11 11:44:28
tosiさんへ
<追伸>
僕の答えは何を言っているのかわからなかったかもしれませんので追伸を・・
JIAからの保存要望書策定に少しかかわったのですが、結局この建築は大切なので残してほしいと鹿かけないということになりました。僕はそれではほとんど意味を成さない、つまり残して必要な機能を加える、高層化はだめ、では建築が密生して大切な空間が損なわれる、どういうことかといいますと、ねにある分所かに関するさまざまな経緯にも踏み込まなくては意味がない、ほんの一行でも組み込むべきだと述べたのですが、生々しすぎて視点が損なわれるということになりました。
住民や地域の建築家が踏み込まないと部外者の僕たちが言っても伝わらないことだと思うのですが、現状熟知の建築界が言い難いことのようでした。
日ごろの目線が大切なのではないかとぼんやりと考えています。
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世田谷庁舎建て替え問題 (Tosi)
2009-08-13 03:48:21
JIA世田谷地域会が国士舘大学国広研究室とともに準備した代替案は、あくまで事務局側が必要と考える本庁舎の延べ床面積(「少なくても45 000 ㎡程度」)を前提にしたもので、この前提自体に議論の余地がある、という認識は、7月4日のタウンミーティングのすべての参加者のあいだで共有されていました。兼松先生が<追伸>で言われているように、建て替え問題
の根底にあるのは、世田谷区による、三層構造での行政サービスの事実上の見直しとさえ言えるような、支所や出張所の職員や業務の縮小と行政機能の本庁への集中化という問題です。事務局側および建て替えに賛成の審議会委員は、解消されるべきる分散化とは「本庁舎等」が敷地内だけでなく城山分庁舎や三軒茶屋にまで分散していることを指しているのであって、「本庁舎等整備」と三層構造はまったく別の問題であると主張しているようですが、タウンミーティングでは、本庁舎問題と三層構造は密接に関連しているという認識がほぼ共有されており、複数の参加者が、行政機能の本庁への集中化はすでにかなり進行していて、多くの区民が不便を感じ始めていることを指摘していました。
兼松先生が、JIA(関東甲信越支部・保存問題委員会)からの(世田谷区民会館を始めとする庁舎群及び外部空間の保存・再生に関する)要望書の策定のさい、「さまざまな経緯にも踏み込まなくては意味がない、ほんの一行でも組み込むべきだ」とおっしゃったことについては、勇気ある提言だったと思います。もちろん、JIA関東甲信越支部・保存問題委員会としては、踏み込むべきか否かは判断が難しい問題であり、結局断念せざるを得なかったということは理解できます。

[お詫び] 8月1日のコメント中、参加者たちの世田谷在住建築家への評価について述べた箇所で、小林正美先生のお名前を書き忘れていました。たしか高橋ユリカさんが国際文化会館の保存再生事例にも言及しつつ小林先生のお名前を挙げていらっしゃったと思います。
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最新号 (m)
2009-08-23 21:12:02
日経アーキ最新号。
てっきりpenkouさんのコメが何処かに載ってるかと思いました。
先月、横浜地方気象台の安藤忠雄講演会に申し込んであったのに会社都合で行かれませんでした(涙)

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様々な視点で・・ (penkou)
2009-08-24 16:28:04
mさん
保存問題ですか・・
編集者の問題意識もあるのかもしれません。様々な視点でジャーナリズムがこれらの問題を取り上げてくれるといい野田と思っています。三菱一号館は工事中を含めて3回見る機会がありました。いろいろと考えるところもあり、いずれ一文をものにしてみたいものです。
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