日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

二人の家(2) 襖の引き手と短冊金物

2007-02-16 10:37:56 | 二人の家

二人の家には四畳半の和室がある。
一間の中に小さな仏壇と押入れがあるだけのシンプルな部屋だ。天井は幅三尺に棹縁を組んだ薩摩葦張りで、建具は総て紙張り障子。障子をあけると仏壇と押入れが現れる仕掛けになっている。仏壇の下には物入れと地袋があり、いずれも鳥の子を太鼓張りにした襖が組み込まれる。物入れは観音開きで地袋は引き違いになっている。

先週の火曜日、襖の引き手と観音開きのための金物を求めて赤坂にある和風金物の老舗を訪れた。清水商店である。ところがシャッターが降りていて店を閉めてしまったのかとドキッとした。店の社長も番頭さんも年配だから。
事務所に戻り番号を調べて電話をした。しかし誰も出ない。思いついてインターネットを開いたら、店を開けているのは月、水、金の週の3日間、時間も10時から3時までと記載されている。ほっとした。

僕の清水商店とのお付き合いは30年以上になる。親しくなった金物製作工場の番頭さんがこの店を教えてくれたのだ。
翌日電話で開けていることを確認して出かけた。昔は木造の仕舞屋だったが鉄筋コンクリート造のビルヂングになっても一階の店の佇まいは変わらない。大きな看板も昔のままだし店の壁を埋め尽くしているついつい溜息の出るサンプル帖は今や文化財だ。

長いお付き合いといっても常に和室を作っているということではないので、細いけれども長くというという感じである。そして僕の使う金物はいつも同じだ。引き手はシンプルな丸型、開きのための金物は短冊金物、俗に言う`ぶらかん`である。漆の焼付けはいつも黄土色の宣徳(仙徳とも書く)になる。
僕は地袋或いは天袋の引き手や短冊金物の大きさを決めるのにためらい、相談に乗ってもらう。今回もまあこれくらいでしょうねと言われてそうねと答える。

留めるビスをつまむ社長の手付きがおぼつかなく、ついやりましょうかと声を掛けた。年を取るとねとうれしそう。そこから話が弾む。いやお店を開けてくれていてほっとしたとつい本音を言う。なにしろ後継者がね、お店の後継者だけではなくて金物を造る職人のことだ。先客の文化財研究所から来たご老人もうなずく。
そのお客さんが、「100個頂戴」という数字にエッと驚く僕に、これもね20年前に造ったものなんですよと社長がいう。仕事が切れたときに、それじゃあこれつくっといてといって、売れるかどうかわからないものを職人の生活を守り技術を伝えるためにやってもらったものだが、需要が減りさすがにそんな余裕もなくなったという。

例えばね、この仙台箪笥の金物、箪笥を買う人がいなくなり金物職人の生活が厳しくなり後継者がいなくなる。今ではこれを作る職人がいないのですよ。清水商店の職人は東京人だそうだ。江戸文化、粋の後継者だ。
在庫がなくなったら店を閉めなくてはいけなくなる。でもこの壁に掛けているサンプル帖はね、後世に残したい文化遺産です、と何だか涙がでそうな話しだ。
このお店は海外にも知られ、吉田五十八のお弟子さんたちも頼りにしているお店。なくなると僕も困る。

こういうエピソードをU夫人に話したらびっくりしたようだ。聞かないとわからない、確かにそうだ。二人の家のこの金物は普段は障子の陰に隠れて見えない。そこがおしゃれだと思う。

二人の家(1) 地鎮祭

2006-10-03 16:59:19 | 二人の家

「二人の家」と名づけた。二人の家、二人が若くは無く中年なのが良いと思う。中年ご夫妻二人だけの家なのだ。

神主さんが神を呼ぶとさっと陽がさした。頭を垂れていた僕は思わず陽の射した空を仰ぎ見た。雲がほんの微かに薄くなっている。ああ神が宿ったのだと思った。
土地の神を鎮め、土地を使うことの許しを得る。そして工事の安全といい家になることを祈る。神主さんは細かいあらゆることを神にお願いする。祝詞(のりと)を聞きながら、日ごろ不信心の僕達が、この時だけなんでもお願いしていいものかと、いつも申し訳ないような気がするのだが、今朝はなぜか心の中でお願いしますといった。
設計者の僕は,最初に刈り初めとしてエイ、エイ、エイと声を出し鎌で盛った砂にたてた笹を刈る。

神主さんの音頭で土器(かわらけ)でお神酒を頂く。お二人に皆でおめでとうございますと杯を掲げる。ホッとするような、晴れがましいようなひと時だ。
二人の一人、Uさんが私もそう感じたと言った。神宿る。思わず顔を見合わせてにこりとする。

台風13号の余波で秋雨前線が刺激をされる中での地鎮祭で、天気が気になっていた。天気予報では午後からは降るかもしれないという。
昨日運動会だったけど、薄日が射してね、日に焼けちゃったとUさんが笑う、Uさんは小学校の校長先生なのだ。昨日も雨かもしれなかった。雨が降ると地が固まり、なんていって其れも良しとするのだが、陽が差すとは。なんだかいい家になりそうな気がしてきた。良い地鎮祭だ。

朝9時からなのに後でやろうと思っていた地縄が貼られている。建物の位置がわかる。良く張れたねと、工事をやる葛西建設の鈴木さんにいう。早く出てきて張ったが、間に合ってよかったとほっとした様子だ。
図面を見ながら位置を測り、Uさんご夫妻と相談して建築の位置を西に20センチ動かす。レベルをセットして隣地や玄関位置と道路の高さ、それに確認申請時の斜線の確認もして、高さの基準、ベンチマークを決めた。

ここにはU夫人の父親の建てた家が建っていた。何とか改修できないかとも考え相談したが、結局建て替えることになった。
周辺の家が密集しているし、道路が狭くて車が入れられず、手壊しと小運搬で手間取った。時折解体現場を覗いてみたが、猛暑の中で電気鋸で柱を切る職人の噴出す汗を見、解体されていくまださほど傷んでいない木材を見ると、つくることの重さを感じる。

やはり狭いですね、とUさんが、なんだか感心したような口調で言う。
そうなのだ。21.7坪の土地に、2階建て延べ25坪の家を建てる。でも杉板を張った塀を高くし、抱え込むような中庭を作ってウッドデッキを貼り、庭も部屋のようなに見え、そういう使い方のできる楽しい家にするのだ。

<写真撮影 山田さん>