日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

牡丹が咲いた

2008-04-29 23:34:02 | 添景・点々

今年も牡丹が花開いた。僕んちの庭に!といいたいが、団地なので我が家の庭ではない。各棟の入り口の周りには、園芸の好きな人達が工夫して様々な花を咲かせているのだ。何もしない僕が張り合うつもりはないが、我が棟の花が一番だ。季節が変わっても花の絶えないのが凄い。
この牡丹があまりにも見事なのでつい自慢したくなった。「私の庭的なるもの」に咲いた牡丹なのだ。
写真を撮っていたら、僕の棟に住む人が出てきた。「この花、石楠花でしょうか、牡丹でしょうか?」えっ!と思わず絶句。石楠花(しゃくなげ)だって?
牡丹ですよ・・と答えたものの声が小さくなった。
じっと顔を見入られた。「あなた、ここに住んでいる人ですか?」

お化粧電車と「私んち?」

2008-04-22 11:53:40 | 添景・点々

4月に入ってダイヤ改正があったが、毎朝乗る電車の時刻はほとんど変わらない。この1年、多分同じ綾瀬行きの準急に僕は乗る。そして、代々木八幡で新宿行きの急行に乗り換える。この急行はあっという間に新宿に着くが、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車だ。でも僕が厚木から乗る小田急線の準急は、数駅間はがらがら電車で「お化粧電車」なのだ。

目の前にアイシャドウを塗っている若き女性が座っている。しまったと思ったがうっかり彼女の前に座ってしまったのだから仕方がない。図書館から借りた松井今朝子の「辰巳屋疑獄」をめくり、雑念を払った。
しかし若き女性はビューラーを取り出し、くるくるとまつげを巻き始め、そのうちマスカラを取り出した。ふと気がついたら口紅を塗り始めている。小説の主人公、丁稚元助があたふたしている。

やれやれと思って若き女性の隣の可愛い娘を見たら、おにぎりを食べ始めた。チラッと目をやったら睨みつけられた。思わず眼を伏せ元助に集中する。物語が少し進み、元助が丁稚から手代になった。松井今朝子のホンなのに、芝居の出てこないこの豪商疑獄物語は息もつかせぬ面白さだ。朝の通勤電車は、僕の読書室・私的空間でもある。

ふと眼を上げるとおにぎりを食べ終わった可愛い娘が、口紅をつけ始めた。隣のお化粧の終わった若き女性は、今度は携帯電話に夢中だ。
翌朝、目の前の40代と思しき女性がクリームを顔に塗り始めた。おやおや。丹念に塗り終わった後、別のビンを取り出した。重ね塗りだ。ふーん、女性は2度クリームを塗るのか?あれ、口紅も取り出した。
彼女たちは毎朝電車の中で、涙ぐましいい作業?をしている。なのに、美しくなったと思えないのも不思議だ。厚化粧とは言えないのでまあそんなものなのか。

建築学会の機関誌建築雑誌の今月号(2008・4)の特集は「拡張する 私んち」である。
この特集をまとめた杉浦久子昭和女子大教授が面白いことを述べている。
「電車の中で化粧に勤しむ人」は、「私の家」という概念からは、少しはみ出した「私の家的なるもの」、まあ、公共と私有の境界が曖昧化している一例で、それは、その家の主の私性がまちに表出する「私んち」?といえる新たな概念だというのだ。

特集では、漫画喫茶やネットCAFEなど様々な事例を挙げながら、今の時代の公共性を論考している。編集長五十嵐太郎さんなどの世代の問題意識ともいえるだろう。今の社会状況を建築サイドから捉えるのに、なかなか興味深い視点だ。

杉浦教授の、特集の取りまとめのタイトルは、「新しい公共性/私性の萌芽」だ。
特集のテーマを、漫画喫茶を調査体験した北川啓介名古屋工業大学准教授と話し合う中で、「公共空間は皆のものである」という感覚は共通しているように思えた、と杉浦教授は書く。
僕にとっての非日常性が、若い世代のなかで日常性に同化していく「私性」。
「電車の中で化粧に勤しむ人」の、彼氏の顔を見たいとか、親や子供の顔を見たいなどとは思わない。ただ漠とした不安を感じるのだ。

「東京中央郵便局を重要文化財にする会」の発足・建築文化を次世代に継承したい

2008-04-13 13:04:53 | 東京中央郵便局など(保存)

3月25日、119人の発起人によって「東京中央郵便局を重要文化財にする会」が発足した。発起人会を開催した会場は、DOCOMOMO100選に選定した建築家海老原一郎の設計した「憲政記念会館」(尾崎記念会館・1960年)の会議室である。建築文化を、次世代に継承したいと願う会が発足するのにふさわしい建築だ。
会場には思いがけず野沢正光さんや、一緒に街歩きをした女性、それにJIA保存問題委員会の副委員長倉澤智さんなど30人ほどが集まってくれた。野沢さんは、立川市庁舎の設計をしている建築家だ。

僕はこの会の設立経緯の説明で、部分保存ではこの建築の価値を継承したとは言えず、保存したと言ってはいけないと述べた。そうなりかねない。それが僕たちの危機感なのだ。
丸の内では、薄皮を、それもレプリカで貼り付けたような銀行協会や、一部保存とは言え、かなりの部分を残してその後を高層化した「日本工業倶楽部会館」、全面保存して重要文化財にして容積のボーナスをもらって同敷地内の建築を超高層化した「明治生命館」などの事例がある。そこで学んだのは、一部保存ではその建築の価値と魅力を保存したとは言えないということである。

どの事例にも、そこに関わった建築家のその建築への想いと、『苦渋と試行錯誤の歴史』が込められている。それを大切に受け止めたいが、現行法規の中で、内部空間の魅力を上手く継承させたと、比較的評価が高い日本工業倶楽部会館を改めて観ても、やはり都市の景観を損ねているといわざるを得ない。建築の正常の姿とは思えない。
明治生命館の全面保存のよき事例を見ると、東京中央郵便局庁舎では、部分保存はありえない選択肢だと思うのだ。
まして東京大空襲で一層欠けた東京駅が、重要文化財にして創建時の姿に復元される。東京駅を出た途端、つまり日本の顔として77年間に渡って建ちつづけて来たこの魅力的な建築の恥ずかしい姿を、次世代や日本を訪れる外国の方に見せたくない。

郵政は、全て解体、部分保存、全て保存して使い続ける三つの方法の検討を、設置した「歴史検討委員会」に委ねて、その答申によって決めると、重要文化財にして保存をと望む超党派の国会議員連の勉強会で明言している。
しかし「歴史検討委員会」は非公開なので、どのように答申されるのかはわからない。
さらに東京中央郵便局を所有しているのは「郵政株式会社」で、歴史検討委員会を設置した、持株会社の「日本郵政」ではなく、基本設計に着手した「日本郵政公社(国)」でもないとのことだ。
国会の委員会で、超党派の国会議員連の、平沢勝栄議員(自民)とともに事務局を担う河村たかし議員(民主)の質問に答えて、文化庁の次長がこの建築を「重要文化財にする」検討をする用意があると述べたが、同席された日本郵政の社長西川善文氏は対処について明言を避けた。誰が、また何処がこの建築あり方の決定権を持つのだろうか。

意見交換を行い、前野まさる東京藝術大学名誉教授を代表に、僕が副代表を、「赤レンガの東京駅を愛する会」の事務局を担当した多児(たに)貞子さんが事務局長を引き受けた。
運営委員には、鈴木博之東大教授や郵政OBの南一誠芝浦工大教授、かつて僕と一緒に保存活動をした建築家の秋山信行さん、元区会議員の木村さん、少壮都市研究者川西崇行さん、街並み保存連盟の山本玲子さん、建築が大好きな小林さえさんなど呼びかけ人が中心となり、それに大学院生の木坂君が加わった。

この会は、既に庁舎の建つ千代田区の区長と区議会議長に、残していくために区の対応を願って陳情書を出した。郵政関係者にも保存要望書を出した。民営化されたといっても、当面株は国が持っている。管轄する増田総務大臣にも提出させていただいた。
僕たちは、超党派の国会議員で組織された「東京中央郵便局を国指定の重要文化財に指定して保存し、若き次世代に継承する国会議員の会」という長い名称の会とも連携をとりながら活動をしていく。
発起人会(設立総会)には、その国会議員の会の事務局を担う自民党の平沢勝栄議員と、民主党の河村たかし議員が駆けつけてくれ、短時間だがこの建築への熱い想いを述べてくれた。

富山テレビのスタッフも現れた。この庁舎を設計した吉田鉄郎の45分番組をつくっているのだ。郵政建築を率いた吉田鉄郎は、富山に生誕したのだ。翌日設立総会の様子が、富山で放映された。
朝日新聞が「東京中央郵便局を重要文化財にする会」の発足を大きく報道してくれた。
「解体か、超高層へ建て替え案・日本郵政」「保存か、重要文化財指定訴え・建築家ら。東京中央郵便局舎 岐路」という明快な問題提起だ。今の僕たちの危機感を伝えてくれた。
毎日新聞も取り上げてくれた。建設通信新聞では「東京駅が復元され、三菱一号館も再生される。そのような流れの中で郵政が逆行するような考えを持つことが信じられない。われわれの運動は歴史に残るものだと思う」と会の設立総会で述べた前野まさる代表の挨拶を書いてくれた。
4月10日、テレビ朝日の「スーパーモーニング」でもこの問題が取り上げられた。
僕は取材を受け、庁舎の前でこの建築の持つ魅力と、容積移転の制度を使って復元される東京駅の事例を話した。今の社会情勢の中で、建築と経済性の問題は避けて通れないからだ。

僕たちは、HPも急いでつくった。学生が力になってくれる。
現在、藤森照信東大教授を始め11名の方が発起人に名を連ねてくださって130名になった。
発起人の方々には許可を得て、賛同者として名を連ねていただくことにし、これからさらに数多くの人々に働きかけをして行きたい。

5月のゴールデン・ウイークに現庁舎の一部業務が移転されることになっている。ことは急を要する。
大勢の人々と建築の価値観を共有したい。声を上げ得ない郵政の関係者とも。だから戦いとは言いたくないが現実は短期決戦なのだ。
かつて建て替えを取りざたされたことのある「東京駅」の保存を願ってつくった「赤レンガの東京駅を愛する会」も、当初はいわば短期決戦的な危機感を持って大勢の市民が立ち上がった。
東京駅は20年を経て重文に指定され、創建時の姿に復元されることになった。赤レンガの会とJRは深い信頼関係が築かれ、バレンタインデイにはチョコレートを持って、多児さんや活動の中心となった女性群が毎年駅長を訪ねて友好関係を継続している。

寒かったが、3月25日には桜がほころび始めていた。東京の桜はしばらくして満開になり、葉桜になった。僕の好きな欅が新緑に包まれた。
東京中央郵便局を重要文化財にする会の女性群が、来年にはチョコレートを持って、西川善文社長を訪ねることができるだろうか。


<「東京中央郵便局を重要文化財にする会」の活動について整理し、このブログにリンクしている僕のHPの『保存・リンク』欄に、掲載しましたので、ご覧いただけると幸いです。
写真:設立総会にて・駆けつけてくれた平沢勝栄議員と河村たかし議員>