日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

東京中央郵便局とソウル市庁舎~都市と映画の書割

2009-03-21 18:10:41 | 東京中央郵便局など(保存)

眼が覚め明洞のプレジデントホテルの窓から外を望むと、思いがけず眼の下にソウル市庁舎が見えた。3月14日の朝のことだ。
仮設塀に覆われて薄皮といいたくなる外壁が、内側に組まれた鉄骨に支えられて何とか建っている。中央のシンボリックな塔が残っているがその下部はシートに覆われていて状況確認はできない。聞いてはいたものの、広場に面した魅力的な庁舎に重機が入り、ほぼ全壊という様に愕然とした。瞬時に東京中央郵便局の一部解体の様が頭をよぎる。

DOCOMOMO Koreaの協力を得て、2泊3日で「韓国近代建築ツアー」を企画し、DOCOMOMO Japan26人のメンバー(未入会者もいる)によって韓国を訪れた。
ソウルを中心とした韓国建築の様は魅力的で、いつもの事ながら刺激的で感銘を受けた。同時に考えることも多い。

出発の前「中郵を重文にする会」の運営委員2名と、塩谷文部科学大臣、山内副大臣に重文指定への陳情を重ねた後文化庁に立ち寄り、外壁を主とした一部残した登録文化財では、この建築の価値を継承することにはならないと伝え、議員会館に立ち寄って国会の動きなどをきいた。
しかしその直後、鳩山邦夫総務大臣から登録文化財を受け入れる表明がなされ、政治の判断ではこうなるのだと懸念していた(予測していた)とはいえ、やはり気落ちした。

毎日新聞の記者から「東京中央郵便局」についてのヒヤリングを受け、「闘論」の相手は竹中平蔵氏になったとは聞いたものの、まだ氏の原稿がまとまっておらず、その様子によっては文面に多少手を入れるかもしれないとソウルでの僕の連絡先を聞かれて羽田から金浦へ向った。

出発前の十数日、中郵問題でのテレビや新聞の取材が殺到し時間調整に困惑した。気がかりなのは、日本橋の三菱倉庫も同じような検討がなされているがどう考えるかと東京新聞の記者が事務所に訪ねて来て詳細を知ったことだ。
都の特定街区制度を使って「歴史的建造物の`外観`を保存してランドマークとしての景観を維持し、町並み形成に寄与する」とされるその計画決定が4月にでも中央区でなされるというのだ。中郵とは共通項はあるものの、少し違う課題を突きつけられたような気がした。日本の都市は『今』、後世に対しての大きな課題に直面しているのだと震撼とする。

1年半前ソウルを訪れてDOCOMOMO Koreaの歴史学者に聞いたときには、この庁舎を残して背面を高層化するということだった。
この庁舎は登録文化財になっているが市長が変わり、取り壊しの検討がなされはじめた。驚いた文化財庁は文化財指定には時間が掛かるのでまず「仮指定」をしたという。詳しい経緯は聞き難かったが市は解体を強行した。国(文化財庁)と市の軋轢はネットを通じて知っていたがこの現状を眼で視ると、都市と建築の抱える複雑な課題とその難しさに考え込んでしまう。

この市庁舎は1925年から26年(大正14年―昭和元年)にかけて、岩井長三郎という日本人の建築家が設計した。
建築や都市を考えるのは「文化の問題だ」と僕は言い続け、それは間違っておらずそうあるべきだとは思うものの、中郵の様やソウル市庁舎の現状を視ると、そうばかりと言っていられなくなる。極めて政治的問題なのだ。日本での市民の想いが吹っ飛ぶ恐さにも思い至る。

文化庁は次長が国会で河村たかし議員の質問に答えて公表したように、重要文化財指定に向けて様々な働きかけをしてきたが、登録文化財を受け入れてしまった。
韓国の文化財庁は日本人が設計した社会的に難しいこの建築を仮指定に踏み込んだ。日本でも法的には指定に踏み込むことは可能だが、所有者と価値の共有することは大切だし必要条件だとは思うものの、これも一つの課題としてこれからの都市や建築を僕は考えたいと思う。

3月11日、日本建築学会は、「東京中央郵便局庁舎、大阪中央郵便局庁舎には、国指定の重要文化財の水準をはるかに越える価値がある」と会長の見解を表明した。

「重文の価値をはるかに超える」。
この見解表明は時を経たモダニズム建築によって構成されている都市の、それらの建築がなくなり、残ったとしてもおかしな形態で都市が形成されていくあり方に対する建築界からの危機感表明だと重く受け止めたい。併せて内部空間がなくては「建築」とは言わないことを改めて表明しなくてはいけないのだろうか!都市が映画の書割的であっていいはずがない。

僕は毎日新聞の「闘論・東京中央郵便局の再開発」を帰りの飛行機の中で読んだ。
3月15日(日)の朝刊だ。小泉内閣で郵政民営化担当相、総務相を歴任した、竹中平蔵氏のタイトルは「民間への不適切な介入」。僕のタイトルは「価値伝わらぬ部分保存」。

<写真 ソウル市庁舎 下段・解体作業中>


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3 コメント

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ややずれますが ()
2009-03-23 12:36:36
吉田邸焼失を思うと、人々の善意や法律があっても物理的に消滅させられたらどうにもならんのだ、と再認識しますね。
今回の焼失記事に吉田五十八氏の名前が出てこないのが更に残念です。 いや逆に鎌倉の某邸や氏自邸など吉田建築を無事に守るにはよいことなのか・・・。
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五十八の美意識 (penkou)
2009-03-23 21:05:41
mさん
吉田茂邸は骨太で、自邸の繊細さとは違う五十八の美意識を感じたものです。吉田茂が骨太を望んだのでしょう。焼失の原因がまだわかりませんが、建築の存在を考えさせられます。

先程まで、日経アーキの中郵に関するインタビューを受けていまして、話しながら何が課題なのか、整理が出来たような気もしています。
風邪を引いてしまい、体調万全ではないのですが、かすれ声でも話し始めると思いが溢れてくるものです。
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お大事に ()
2009-03-23 22:45:56
陽気の変わり目なのに超超多忙でらしたせいです、きっと。 お大事に☆
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