ブリザール、ダスキエ共著 山本知子訳『ぬりつぶされた真実』( 平成14年刊 幻冬社 )、を読みつつある。
暗殺されたオサマ・ビンラデンの話だ。カザフスタンやウズベクスタンの、豊富な石油と天然ガスをめぐり、アメリカとロシア、サウジアラビアが関与する、利権と宗教がもつれあう複雑な争いが語られている。
アフガニスタンやパキスタンなど国の名前は知っていても、正確な位置関係が掴めていないから、次々と出てくる地名や都市が、頭の中でつながらない。
世界地図を横におき、確かめながら読み進むと、馴染みの無い似たような人名、イスラム教の階層や、宗派名が私の混乱を加速する。そのうえ翻訳者の山本氏が、下手な著述家らしく、日本語として文脈のつながらない部分が多出する。興味深い内容なのに悪戦苦闘で、まだ50頁しか進めない。
こうした本に触れると、わが国の置かれた状況の分かり易さが、新しい発見になる。隣国とのいさかいに怒りを覚える自分だが、タリバンをめぐる、憎悪と流血の歴史に比すれば、穏やかな対立に見えてくる不思議さがある。
日々、殺したり殺されたりしているこれらの国の人びとからすれば、日中韓の係争など、取るにたりない些事なのかも知れない。
尖閣にしても、慰安婦問題にしても、中韓両国がねつ造の横車を押しているだけで、世界にありふれた話に違いない。現にこの本を手にする私にしても、タリバンやオサマのことは、遠い国の無縁な出来事でしかなかった。
たしかに世界は広く、複雑だ。こんな中東の、手のつけようのない謀略と、金と暴力の世界にかかわっているアメリカにすれば、日本と中国・韓国の対立など、喧嘩のうちに入らないのかも知れない。
中国も昔から中東にかかわっており、インドとは何度も武力衝突を繰り返している。敗戦後に武力を放棄し、平和を標榜している品行方正な日本は、こんな悪を相手に勝てる訳がないと、世界の常識になっている。
分かっていないのは、故意に現実から目を背けている敗戦後の日本人だけだ。
224頁になっても、この本のややこしさは腹立たしいばかりだ。「ムハンマド・イブン・サウードと、ワッハーブ派の指導者ムハンマド・ビン・アブド・アル・アッハーブが同盟を結び、」とか、「ファイサル・イスラム銀行グループのダール・アル・マール・イスラーミー銀行が創設された。」など、謎かけの早口言葉みたいな、固有名詞が続々と出てくる。文字を追うだけで精一杯となり、相互の関係の理解にまで届かない。
最後まで読むというのが主義なので、分かろうと分かるまいと字づらを追うこととする。この世にこんな本があるなんて、長生きはしたくないものだ。