ベンジャミン・ミルフォード氏著「ヤクザ・リセッション」( H15年 光文社刊) を、ため息とともに読み終えた。
2年前に、オランダ人特派員である、カレル・オルフレンの著作を読んだ時と同じような、違和感とショックを受けた。彼はわが国を評して、「日本は役人とマスコミに支配された、官僚社会主義国家だ」と言った。
自分は民主主義国家に住んでいると思っているに、どうして社会主義国家と言われるのだろうという強い違和感だった。
けれどもカナダ人記者のミルフォード氏は、もっと露骨に、と断定する。
「日本は、政・官・業・ヤクザに支配された、腐敗国家だ。」「スキャンダルを通して見える日本の姿は、決して民主主義の国ではない。」「欧米のデモクラシー国家にも、腐敗はあるが、日本のように、」「北朝鮮や、イラクの独裁者と共通する腐敗は、ほとんどないと言っていい。」
小泉総理の時代に書かれた本だが、安倍総理となった今でも、そんなに状況は、変わっていない気がする。
「今の日本ほど、内部に矛盾を抱えた国家はないであろう。」「もちろん、西欧の民主主義国家も、矛盾をかかえている。」「しかしそれは、自由・平等という、民主主義の原理に矛盾があるのではなく、」「原理を完全に実行できないところに、生じている問題だ。」「今のアメリカが抱えている、力こそ正義もこれである。」
「日本の矛盾は、その腐敗構造にあって、」「それは、民主主義が機能しないところまで、きてしまっている。」「本当に国を滅ぼすのは、政治や経済ではない。為政者たちのウソや、ゴマカシである。」
「日本政府は、これを、数十年にわたってしているのだ。」「腐り切った官僚組織と、ゾンビ企業群が、ヤクザと癒着し、」「国民を、欺き続けてきた。」「しかし自国民は騙せても、世界は騙せない。」
何ということだろう。私は中国や韓国・北朝鮮を憐れんできたが、同じような目で、日本が見られていようとは、想像すらしなかった。
「いったい、誰と交渉すればいいのか・・・・。」
歴代の米国大統領は、来日前になると、必ず側近にこう聞いた。半分はジョークだが、これを今の日米にあてはめると、こうなるらしい。
大統領補佐官 大統領。明日から日本訪問ですが・・・・。
ブッシュ いったい、誰に会うんだ。
大統領補佐官 日本の首相のコイズミです。
ブッシュ 会ってどうするんだ。
大統領補佐官 握手するだけで結構です。
ブッシュ なぜだ?
大統領補佐官 彼も、それしか出来ないからです。」
何てことだと、眉をひそめる私に、お構い無しに彼が言う。
「日本人は誰しも、自分の国が、民主主義国家だと信じているようだが、」「それは間違っている。」「そんなことを言ったら、世界中で物笑いになるのを覚悟すべきだ。」
「私の見方では、世襲制の 貴族寡頭制国家 、もっとハッキリ言えば 、」「泥棒国家 、である。」「一部の特権階級が支配する国なのに、それが悪いことに、」「一見民主的なシステムで、選ばれるのだから始末が悪い。」
「つまり、政治家には選挙があるが、官僚は、たった一度の国家試験しかない。」「欧米の政治学者なら、私ほどには、言わないだろう。」「 官僚が支配する社会主義国家 、と言う くらいで、お茶を濁すだろう。」
「日本の教科書では、 立憲君主国 となっているので、」「一般の国民の中には、天皇が支配していると思っている人もいる。」「ともかく日本は、欧米の国からは、民主主義国家と思われていない。」「このことを、もう日本人は、キチンと理解しておいた方がいいだろう。 」
彼がワシントンポストや、ニューヨークタイムズの記者のような、反日新聞社の人間なら、無視するが、長年日本に滞在し、日本人を知る人物の言葉なので、考えずにおれなくなる。
これ以上は、いくら引用しても切りがないから止めるが、彼の結論は、「高級官僚」による日本支配の弊害、というところ帰結する。
政治家にも人事権を渡さず、省庁に君臨し、法律を自在に運用し、国家を意のままにする支配者である彼ら。彼らに群がる特定の政治家と、特定の業界のトップと、スキャンダルを握る特定のヤクザたち。これが、彼の結論である。
そのまま認めるには、あまりに情けない話だ。だから、まだ納得はしていない。
していないが、否定する自信もない。なるほどと思う部分があるからだ。
中国や北朝鮮や韓国は、早晩破綻する国家だと、保守の人々が論評し、そうなることを期待していた自分だが、ミルフォード氏の周辺にいる人間たちが、日本をそんな目で眺めているとは・・、こんな驚きがあろうか。
この本は捨てずに本棚に並べ、自分がこの世を去る日が来るまで、実態はどうなのかと、検証を続けたい。知識の空白を埋めてくれる本との出会いは、嬉しく、素晴らしいのだが、今回だけは、嬉しくも素晴らしくもない。
もしかすると、自分自身の頭で考えていると思っていたのも、大きな錯覚だった、のだろうか。釈迦の手の中で、千里を走ったと思い違いをした、悟空のように・・。