ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

果実酒とジャム

2012-05-15 12:19:40 | 徒然の記

 わが家の庭は、春真っ盛りだ。その中で、ひと際目立つのがサクランボだ。

 つややかな赤い実が、緑の葉っぱの間で、宝石のように光っている。「凄いですねえ。立派な実がたくさんなって。」と、普段なら口も利かない、裏の家の主人が、思わず声をかけてくるほどたわわに実った。

 だが、わが家のサクランボは、夜目遠目傘のうちの美人で、近くで眺めると失望する。無数のカメムシにやられ、実の表面が傷だらけなのだ。

 そのまま食べるにはためらいがあるため、結局ジャムにするしかない。去年も実はなったが、採れた量は、台所のボールに一杯くらいだった。大収穫と喜んでいたのに、今年はその数倍だ。擦り切り一杯のボールにして、なんと四個分あった。しかもまだ同じくらいの青い実が枝に残っているという豊作だ。

 冬の間の、丹精した土作りの結果だと、家内と私にはわかっているが、これこそが庭仕事の喜びだ。

 収穫後のサクランボは、水洗いをした後で水を切り、10対6の割合で砂糖を入れて煮る。出てくるアクを根気よく掬い、焦げつかないように、木べらでゆっくりとかき回す。ジャム作りのボスは家内なので、もっぱら私が力仕事の担当だ。

 こうしてビンに五つのジャムが出来上がった。これで終わりのつもりだったが、翌日見ると、まだたくさんの熟れた実が枝に残っていた。これではもったいないと、似た者夫婦である私たちは、欲を出し、不安定なキャタツに足を踏ん張り、再度実を採ったら、前日以上の量があった。

 果実酒についても、家内がボスなので、半分はチェリー酒にすると彼女が決めた。果実酒用のブランデーと、氷砂糖とレモンを、近所のスーパーへ買いに行った。勿論作業担当の私の役目だ。

 果実酒もジャムも作るには、時間と手間がかかるけれど、やってみれば楽しい作業だ。政治や社会について考えると、暗い気持ちになるが、日々の暮らしには、楽しいことがいくらでもある。

 今の私の心を、悩ませるものがあるとするならば、サクランボを傷だらけにした、憎っくきカメムシ・・、ではない。他でも無い、わが庭の放射能だ。福島原発の事故以来、撒き散らされた放射能が、喉に刺さった小骨のように、常に心にひっかかっている。

 六十過ぎの私たち夫婦に、三十年後の発病は、どうでも良いから、計測するのも面倒になっている。気がかりなのは、近隣に住む、子や孫のことだ。やっかいな放射能に、なす術もない私は、せめて一茶を真似、自家製の果実酒とジャムを前にし、

 「目出たさも 中くらいなり おらが春」・・とでも言いながら、やせ我慢をするしかないのか。

コメント
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