小島朋之氏著『鄧小平のいない中国』 ( 平成7年刊 日本経済新聞社 )を、読了。
氏は昭和18年大分県に生まれ、現在慶應大学の教授である。平泉渉氏の動画を見た時と、同じくらいの衝撃を受けた。
日本の生存を脅かす大国が隣にいるというのに、日本は中国を知らなさすぎる、危機意識が無いと、平泉氏が鳴らした警鐘をまた思い出した。
毛沢東は「民族の解放」で中国のカリスマとなり、鄧小平は「経済の解放」でカリスマとなった。次にカリスマとなる指導者がやることは、「政治の解放」だと、小島氏が語る。江沢民氏も胡錦濤氏も、そして習近平氏にもとうとうそれがやれなかった。だから今の中国では「政治の解放」がアキレス腱であり、国を混乱させている根本原因だと言う。
それはちょうど矛盾に満ちた日本の憲法が、国内の混乱の火種となっている状況に似ている。中国では建前としている「社会主義」、日本では建前の「平和憲法」が現実と乖離し、どんな工夫をこらしても矛盾が生じている。
同病あい憐れむという状況にある隣国同士なのだが、日本は横暴な中国を嫌悪し、双方が憎しみの応酬をし合っている。
37年前、鄧小平氏が 来日した時の熱狂的な歓迎と、マスコミの熱い報道を、私は昨日のことのように思い出す。そこから始まった日中の蜜月時代を、氏が説明している。( この本は平成7年、村山内閣の時の出版だ。)
・経済関係も順調で、今後も対中経済協力は拡大しそうである。
・1993 ( 平成5 )年以後、日本は、香港を追い抜いて、中国にとって最大の貿易相手国になっている。
・直接投資も、1994 ( 平成6 ) 年末の累積で、契約ベースでは香港、台湾、アメリカについで第4位であるが、実施ベースでは第2位である。
・政府の経済協力についても、これまで三回にわたり、円借款130億ドル ( 1兆6109億円 ) を中国に供与してきた。
・内訳は
第一次 (1979~1983 ) が、3309億円
第ニ次 (1984~1989 ) が、4700億円
第三次 (1990~1995 ) が、8100億円である。
・さらに三次にわたる、輸銀の資源開発ローンと輸出基地開発計画などが、別途供与された。
・日本の対中政府資金供与はいまや世界一であり、中国が得た公的な対外借款の40%近くを占める。
私は具体的な数字を初めて知って驚いたが、氏の説明はさらに続く。
・日本はこうしたかたちで中国の経済の発展と、開放化に大きく貢献してきた。日本は今後もなお、こうした役割を果たすつもりである。
・1996 ( 平成7 ) 年から始まる、第四次円借款の供与は、その決意の表れである。
・中国側からはこの5年間に、上海・北京間の新幹線建設、上海国際空港の建設など、社会資本整備を中心に、1兆5000億円を非公式に要請していたらしい。
中国はこうした日本からの援助について、国民には何も知らせていない。国民に報道されていれば、現在行われているような一方的な日本批判が、彼らは出来ただろうか。
だが日本国民にも、このような事実が知らされていない。いくら戦争のお詫びだったと言え、日本政府はなぜ国内外に事実を公表しなかったのか。それができない事情があったのだろうか。
小島氏が、次のように説明している。
・借款をめぐる交渉で日本が問題にすべきは、借款供与と軍事力の関係であった。
・中国は当時6年続きで、軍事費を増加させており、軍事力の増強を図っていた。しかるに1990 ( 平成2 ) 年に訪中した海部首相は、「ODAの原則を理解してほしい。」と述べただけで、軍事費の抑制には言及しなかった。
・東南アジア諸国の懸念も踏まえ、軍拡への注意を喚起すべきだったのに、懸念を言及するに留まった。
・1994 ( 平成6 ) 年には、日本政府の抗議にもかかわらず、中国は2度にわたって、核実験を強行した。
・ところが第四次円借款の交渉は、第三次に比較して、年間43%の増額になった。
・こうして中国はインドネシアを抜いて、日本の最大の援助対象国になった。
・1995 ( 平成6 ) 年1月に訪中した武村蔵相は、さらに20億ドルの、輸銀ローンの実施も約束したのである。
氏の説明によると、中国との蜜月関係をダメにしたのは、李登輝総統の訪日問題であった。広島で主催されるアジア競技大会に、政府が来賓として李登輝氏を招待した。二つの中国を認める結果になるので、中国が激しい反発をし、江沢民氏の辛辣な批判につながった。
「台湾の、政治的な独立は認めない。」
「中国と国交のある国々が、台湾のハイレベルの指導者を受け入れることは歓迎しない。」
と述べ江沢民氏は、日本の負い目を確認した上で、
「日本はかって、中国に大きな災難をもたらした。」
「歴史に対する反省を踏まえて、中国との友好関係を発展させなければならない。」
と結んだ。
日本と中国の激しい対立が、ここから始まっていた。「歴史認識」と言われるだけで萎縮した日本の政治家たちが、中国を慢心させた。水戸黄門の印籠のように、「歴史認識」の言葉に彼らは震え上がった。
多額の金を取られ、礼も言われず、何の友好も育てられず、政治家は何をしていたのかと、聞いてみたくなる。自民党だけでなく細川内閣も、村山内閣も、首を揃えて平身低頭だったから、今日の中国のがあると分かった。
鄧小平氏のいなくなった中国を、カリスマ性のない江沢民氏に統治できるのかと危惧されていた。その江沢民氏を、日本がバックアップした。日本から大金を引き出す力と、日本を震え上がらせる力を国民に見せつけ、江沢民氏は国内の政治的基盤を強固なものにした。
氏の本には具体的に書かれていないが、過去と現在の中国、つまり「鄧小平氏の時代の中国」と「江沢民氏の中国」を見ていれば、それくらいの推測は私にもつく。経済発展するまでは日本を重要視していた江沢民氏が、今は従属国程度にしか見ていない。
「シアターテレビ」で今泉氏が語っていた通りになった。
・現実問題として、今は日本と中国の差は歴然としています。彼らから見ると、日本はもう小さな存在なのです。
・中国のエリートは、もう日本を重要視していないと思います。
東西冷戦の時代には大切にしたが、それ以後は、かって日本を統治した支配者に本家返りしているアメリカと、似た姿をしてきた中国ではないか。
香港の中国返還に際し、江沢民氏の中国とバッテン総統の交渉が、どんなものであったかも、氏が説明している。イギリス側の主導で交渉がされたと、私は思っていたが、事実は逆だった。イギリスの意向も提案も無視し、中国は強引に自己主張をした。中国の利益を前面に出し、何も妥協しなかった。
かっての大英帝国でさえ、鼻先であしらう大国に成長した中国は、こうして過去の歴史の報復と清算をしたのだ。日本の政治家が手玉に取られても、不思議はない。
ここでも私は、平泉氏の言葉を思い出す。
・アメリカも中国も、国益のためならなんでもやる国です。
・いい時はいいんでしょうが、いったん対立すると怖い国ですし、危険な国です。大国の意思一つで、小国がどうにでもなる。これが国際社会ですね。
・だからヨーロッパでもアジアでも、大国に挟まれた小さな国は、必死なんです。国の生存がかかっているという、危機意識が、戦後の日本人には、無くなってしまいましたね。
・アメリカと中国という巨大な覇権国の間に挟まって、日本はどうすればいいのか、こんな危機意識が、政治家にも国民にも欠けています。
日本がこうした状況にある現在、「平和憲法」さえ守れば外国は何もしないと、日本の独立を阻んでいる人々がいる。こうした人々を扇動する「反日マスコミ」がいる。反日左翼の政治家が、野党にも自民党にもいる。
小島氏は、反日左翼勢力に扇動されている「お花畑の国民」に、具体的な数字で間違いを示してくれた。氏の言葉を広く伝えるためには、どうすれば良いのだろう。
私は「みみずの戯言」で呟くしかない。