始めて手にする作者の本だ。昭和33年、高知県生まれの人物。勧めてくれる方があり、図書館で三冊借りたその内の一冊である。
「祖国アメリカへ特攻した、海軍少尉松藤大治の生涯」、これが本の内容だ。
昭和20年4月、零戦の沖縄特攻によって、23才の若さで彼は生涯を終えた。文武両道に優れ、仲間の誰からも一目置かれていた彼は、周りの誰にも優しく温厚な人柄だった。アメリカ国籍を持つ彼は、軍隊に入らなくても良かったのに、志願して特攻隊員になった。
ほとんど何も語らなかったからこそ、作者は彼の心が探りたくなり、生き残った戦友や親族、知己の話を丹念に拾い、一冊の本にした。
私は保守を任じているが、神州不滅とか万邦無比などという言葉は余り好きでないし、横柄で尊大な軍人というのにも、好感がもてない。松藤少尉は、淡々として生き、淡々として死んだ。特攻隊員として、実際はそうでなかったのだろうが、周りに与える印象は端然とした武士の姿だった。
「多くの出陣学徒たちを取材させてもらう過程で、私が思ったのは、彼らは今の若者と何も変わらない、ということでした。酒を酌み交わし、議論好きで、しかも底抜けに明るい若者たちでした。」
「しかし彼らは自分の家族と、自分たちがいる国を強く愛していました。そのためには、いざとなったら男として潔く振る舞うことを肝に銘じた若者が多かったように思います。」
本の終わりに、作者が綴っている言葉に私は心を動かされた。そして松藤少尉の戦友だった大之木氏の言葉に、感動した。
「私たちは、たまたま1945年のあの時に軍人であり、若者でした。私は、戦友たちの死を無意味だったとか、可哀相だったとか、そういうことは言って欲しくないんです。ただ、ご苦労さん、よくやったとだけ、言ってやって欲しいです。」
祖国を捨てた反日の人間たちには分からなくていいとしても、国を大切に思う人びとには、作者と大之木氏の言葉が静かに伝わると信じたい。