■ショパン「 Preludes Op.28 24の前奏曲」の謎めいた≪2番≫は、何調?■
2017.11.23 中村洋子
★昨日のブログの続きです。
Chopinの「24 Preludes Op.28」の「Nr.2 第2番 Lento」の
調性は何なのでしょうか?
★まず、この曲集の「調性配分」を考えます、
ごく機械的に列記しますと、このようになります。
1番 C-Dur
2番 a-Moll
3番 G-Dur ♯1つ
4番 e-Moll ♯1つ
5番 D-Dur ♯2つ
6番 h-Moll ♯2つ
★このように、13番まで調号の「♯」が1つずつ増えていきます。
13番の「♯6個」をもつ「Fis-Dur」を最後に、
14番から「♭」系の調号に転じます。
14番 es-Moll ♭6つ
15番 Des-Dur ♭5つ
16番 b-Moll ♭5つ
17番 As-Dur ♭4つ
というように、「♭」が1つずつ減っていき、
「24番 d-Moll」は「♭1つ」で全曲を閉じます。
★余談ですが、Bachの「インヴェンション Inventionen」
の初稿でもある
≪Klavierbüchlein für Wilhelm Friedemann Bach
ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集≫は、
「Inventio」という名称ではなく、「Praeambulum プレアンブルム」
であったばかりではなく、曲順も、
C-Dur、 d-Moll(♭1つ)、e-Moll(♯1つ)、F-Dur(♭1つ)、
G-Dur(♯1つ)、a-Moll(0)、 h-Moll(♯1つ)・・・となっています。
★各曲の主音を順に並べますと、
C-Dur の音階が形成されるように、設計されています。
★お話をChopinに戻しましょう。
2番は、調号に「♯」も「♭」もありませんので、
「a-Moll」であるといえましょう。
しかし、その冒頭を聴いた限りでは、およそ「a-Moll」には、
聴こえません。
★ 「a-Moll」 ですと、「ドミナントⅤ」で開始するのが、
常識的でしょう。
2番冒頭の1、2、3小節は、 「E-G-H」の短三和音ですが、
「a-Moll」の「ドミナントⅤ」としますと、
「E-Gis-H」の長三和音になります。
★陰鬱な、冬の雲が重く立ち込めたような、
冒頭1、2、3小節の「G」に 「♯」 がついて「Gis」になる
ということは、ありえないことです。
★この2番を弾く人、聴く人にとって、冒頭1、2、3小節は、
まぎれもなく「e-Moll」でしょう。
そして、前回ブログでご説明しましたように、
6小節目で、重い冬の雲から一条の陽が射し込むように、
「G-Dur」が顔を覗かせます。
★冒頭の「e-MollのⅠ」と思わせた和音を、
「G-Durの Ⅵ」に読み替え、易々と転調する。
★これにつきましては、私の著書
≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の133ページ、
http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/1006948955
「f-MollのナポリのⅡの和音を、b-MollのⅥと読み替えるBachの天才」
を、お読みください。
★この「読み替えの技法」こそ、ChopinがBachから学んだものであり、
そして、あの素晴らしいChopinの和声を創造したのです。
そのカギの一つが「Ⅵの和音」なのです。
★併せて、私の著書の「Chapter 4」 100~134ページも、
お読みください。
★それでは、「e-Moll」から「G-Dur」に転じた後の調性は、
どうなるでしょうか。
8、9小節目は、3、4小節を若干の変化を加え、5度高く移動し、
対応させています。
★Chopinの自筆譜をよく見ますと、ここの部分で推敲を重ね、
和音を消した跡があります。
★この8小節目のみを見ますと、これは「h-Moll」の「Ⅰの和音」に、
聴こえます。
しかし、9小節目は、「D-Dur」です。
即ち、8小節目の「h-Moll」の「Ⅰの和音」を、
「D-DurのⅥ」と読み替えて、またまた「e-Moll」から、
するりと「D-Dur」に転調してしまいました。
★ここまでを、整理しますと、調性の変遷は、
e-Moll → G-Dur → h-Moll → D-Dur となり、
各調の主音を順に並べますと、お行儀よく、3度ずつ上昇していきます。
Chopinが、いかにBachの平均律「序文」を、深く読み込み、
己が芸術に昇華させたことか、よく分かります。
★2番は、全23小節ですが、「a-Moll」の主和音が顔を出すのは、
やっと、15小節目です。
1曲の半ば過ぎてからです。
★もう一度、1小節目に戻ります。
Chopinは何故、「e-Moll ホ短調」でこの曲を始めたのでしょうか。
1、2、3番の冒頭を見ますと、その答えが分かります。
1番は、「C-G-e」の「C-Durの主和音Ⅰの解離配置」、
2番は、「E-H-g」の「e-Mollの主和音Ⅰの解離配置」、
3番は、「G-d-g-h」の「G-Dur 解離配置と密集配置のミックス」。
★1、2、3番の冒頭開始和音を、列記しますと、以下になります。
前回ブログに書きましたように
和音構成のように垂直に並べますと、
「C-Dur ハ長調」の主和音が、形成されるのです。
これを聴き手に強く印象づけるため、Chopinは、2番冒頭の和音を、
「e-MollのⅠ」と、したのでしょう。
★結論としまして、この2番はまず、
Bachの、「調性とは何か」という命題を追及した「平均律第1巻」に、
立脚した曲であることは、間違いありません。
そして、そのChopinのアプローチを解くカギは、
この2番に存在します。
★そう考えますと、この2番について、
冒頭の調号のみを見て、「♯」も「♭」も付されていないため、
「a-Moll」である、と判断するのは早計です。
★では、2番は何調なのでしょうか?
虚心に、Chopinの音楽に耳を傾けるのであれば、
≪e-Mollに始まり、a-Mollに終わる≫と解釈することが、
24曲の全体設計を考えるうえでも、最も適切であると、
私は、思います。
「a-Moll」と決めつけますと、せっかくの Chopin の天才的意図を、
見通すことはできなくなるでしょう。
★来年1月20日の「平均律第1巻1番アナリーゼ講座」で、
これについて、少し触れる予定です。
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