■Bachはなぜ、ゴルトベルク変奏曲第10変奏を「Fugettaフゲッタ」にしたのか?■
~嬉遊部もストレッタもないフゲッタは、神品に比すべき盤石な Fuga ~
ー第4回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座ー
2016・7・17 中村洋子
★Bachの「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は、
三曲ずつ1セットになっています。
各セットの3曲目はカノンです。
これにつきましては、私の訳しましたBärenreuterベーレンライター版
「Goldberg-Variationen」の「序文」と「訳者注」を、お読みください。
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733634
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733635
★各セットの1曲目を見ますと、「Goldberg-Variationen」の、
全体像が浮かび上がります。
例えば、第3番目のセットの最初は「第7番 Gigaジーグ」です。
なぜ、7番がジーグなのかにつきましては、
前回、第3回目のアナリーゼ講座で、詳細にご説明しました。
★さて、第4回のアナリーゼ講座は、第10、11、12変奏です。
Bachは、第10変奏に「Fugetta フゲッタ」というタイトルを、
自分で書いています。
★Fugetta とは、小規模なフーガ、または「小フーガ」という
意味でしょう。
★この第10変奏では、4小節の主題が全32小節の中で、
8回次々と、登場します。
いつもどこかの声部で、主題が奏せられていることになります。
ということは、フーガの緊張感を和らげる効果をもつ
「episode 嬉遊部」が、全く存在しないことになります。
さらに、フーガの華である「stretta ストレッタ」も、ありません。
★この「episode 嬉遊部」と
「stretta ストレッタ」につきましては、私の著書
「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」の
Chapter 2、 41ページで解説しております。
★小規模なフーガであるため、「episode 嬉遊部」も
「stretta ストレッタ」もなくて当たり前・・・とも、
思われ勝ちですが、もし、そのような小さいだけのフーガ
であったならば、わざわざ全30変奏の、
ちょうど三分の一に当たる、極めて重要な「第10変奏」に、
Bachはわざわざ、小さく、ある意味で“不完全なフーガ”を、
配置しなかったでしょう。
★7月30日の第4回アナリーゼ講座では、
この4小節のフーガの主題を用いて、
型通りのフーガを作曲しましたら、どうなるかを、試みます。
★実際に、私が作曲しましたフーガと、Bachの偉大な、
「第10変奏 Fugetta」とを、比較してみます。
★それにより、この「Fugetta」が、盤石なばかりか、
どこからも揺るぎない、あたかも、双葉山の「土俵入り」、
神品に比すべき「土俵入り」のような作品であることが、
分かってきます。
★双葉山の「土俵入り」の素晴らしさにつきましては、私の著書
「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」の
Chapter 3、91ページで書いておりますので、ご覧ください。
★この「Fugetta」を理解するための、前段として、
Fugaフーガの主題である Subject と 応答Answer について少々、
解説します。
★フーガ曲頭にあります主調の主題「Subject」
を、そのまま「5度」高く移動しますと、
「Answer 応答」は、このようになります。
これを「real Answer 真正応答」と、呼びます。
★しかし、Bachは、このように作曲しています。
★これは、「alteration 変応」の技法を使った応答、つまり、
「調的応答 tonal Answer」とも、異なっているのです。
★アナリーゼ講座では、まず、
Fugaでの「alteration 変応」の由来と、その意味をご説明をし、
Bachがなぜ、「real Answer 真正応答」も、
「調的応答 tonal Answer」も、採用しなかったか?
そのことにより、この「稀有なFugetta」が、現出したか、
それを、どなたでも納得のいくご説明をいたします。
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