音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■イタリア協奏曲1楽章、ゼクエンツが美しさをより明るく輝かす■

2016-07-09 18:37:49 | ■私のアナリーゼ講座■

■イタリア協奏曲1楽章、ゼクエンツが美しさをより明るく輝かす■
~第2回イタリア協奏曲・アナリーゼ講座、構造を初版譜から読み解く ~


                2016.7.9  中村洋子

 

 

 

★これまでのブログで、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

「Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集」第1巻3番に見られる、

Bachの「Sequenzゼクエンツ」について、分析してきました。


★それでは、「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」はどうでしょうか?

第1楽章をみますと、Bach特有の美しいSequenz ゼクエンツが、

すぐに、見つかります。


★例えば、42小節目後半から43、44、45小節目にかけての

Sequenz ゼクエンツです。

 

(注:第1楽章の主調はF-Dur ですが、ここでは属調のハ長調
C-Durに転調しています。)

 

 

42小節目後半「Ⅰ」、43小節目「Ⅳ Ⅱ」、44小節目「Ⅴ Ⅲ」、

45小節目「Ⅵ ドッペルドミナント」という和声です。


各小節の1拍目だけ見ますと、[ Ⅳ - Ⅴ - Ⅵ ]の順になり、

2拍目だけ見ますと、[ Ⅰ - Ⅱ - Ⅲ - ドッペルドミナント]

になります。

ここでもし、機械的に割り振りますと、

[ Ⅰ - Ⅱ - Ⅲ - Ⅳ ]となります。

その場合は、このようになります。

 

 

 

Bachが書いた通りの、42小節目2拍目~45小節目にかけての

Sequenz ゼクエンツの和声要約をしますと、このようになります。

 

 


★もし、45小節目2拍目の和音を「Ⅳ」の和音にした場合、

和声要約は、このようです。

 

 


★この四つの譜例を、ゆっくりと弾いてください

45小節目後半の和音が、「Ⅳ」で「f²」であっても美しいのですが、

そこをもう一工夫し、Sequenz の「fis²」にしたことで、

さらに、絶妙な美しさとなります。

明るい中に、太陽の光がギラッと差し込むかのようです。

 

 


★この「ドッペルドミナント」という和音の詳しい説明は、

私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!≫の、

Chapter 2 の Page 35~36 「ワルトシュタインと月光ソナタの

冒頭を和声分析すると・・・」に、詳しく説明されています。

 

 


★「ワルトシュタインソナタ 」第1楽章冒頭2小節目4拍目~

3小節目にかけての、

「ドッペルドミナント」から「ドミナント」への和声進行が、

「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

第1楽章45~46小節目にかけての和声進行と、

全く同じであることが、よくお分かりになると思います。


★イタリア協奏曲はこうです。

 


  

ワルトシュタインの該当箇所は、ここです。

 

 

そこを和声要約しますと、

 

 

全く同じになります。

 

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■中村洋子 Bach《イタリア協奏曲》アナリーゼ講座
        
~第2回:イタリア協奏曲の 「構造」を、初版譜から読み解く~

・日  時 : 8月10日(水) 午前10時~12時30分
・会  場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
       
(尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)
・予  約: Tel.076-262-8236 金沢ショップ

--------------------------------------------------------------------

★イタリア協奏曲アナリーゼ講座の第1回目では、
Bachの「後期和声様式」についてご説明し、

その和声をどう演奏に活かすかを、具体的にピアノで音にしながら、
耳と頭(理論)で体験していただきました。

第2回は、イタリア協奏曲第1楽章がどのような「構造」で成り立っているか・・・
第3回は、演奏するうえで、これまでの分析をどのように活かすか・・・
についてお話いたします。


★≪tutti(総奏)は強く、soloは弱く弾く・・・≫という、
固定観念に囚われていませんか?

それでは誰が弾いても、同じ単調な演奏となってしまいます。
Bachの豊潤な後期和声様式は、決して貧弱に縮こまったものではないのです。


★「盤石な構成」と「色彩豊かな和音」、
この二つが互いに照らし合うような演奏こそが、

この傑作の真価を発揮できる演奏といえます。
107小節目から110小節目にかけての、

美しい反復進行(Sequenz)を見てみましょう。

★和声進行を支えているバスのみを抽出してみますと、
旋律線を形成します。
これは、実は曲の構造の要であるmotifでもあるのです。

★Bach生前1735年に出版された初版譜を勉強することにより、
作曲家の意図した構造が、しなやかに
浮かび上がってきます。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------
■講師: 作曲家  中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。

・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、
   東京で開催。

 自作品「Suite Nr.1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
 「10 Duette fur 2Violoncelli
チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
  ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler  Berlin) より出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」の
  SACDを、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
   (disk UNION : GDRL 1001/1002)。


・2016年 ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫

  ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~
 (DU BOOKS社)を出版。


・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Barenreiter-Verlag)が刊行した
   バッハ「ゴルトベルク変奏曲」
Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
 「訳者による注釈」を担当。

----------------------------------------------------------------------------------------
第3回 イタリア協奏曲第1楽章 9月28日(水) 10:00~12:30 金沢ショップ
-----------------------------------------------------------------------------

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする