音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Bachはなぜ、ゴルトベルク変奏曲第10変奏を「Fugettaフゲッタ」にしたのか?■

2016-07-17 18:01:59 | ■私のアナリーゼ講座■

■Bachはなぜ、ゴルトベルク変奏曲第10変奏を「Fugettaフゲッタ」にしたのか?■
 ~嬉遊部もストレッタもないフゲッタは、神品に比すべき盤石な Fuga ~
 ー第4回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座ー
                2016・7・17       中村洋子

 

 

 


★Bachの「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」は、

三曲ずつ1セットになっています。

各セットの3曲目はカノンです。

これにつきましては、私の訳しましたBärenreuterベーレンライター版

「Goldberg-Variationen」の「序文」と「訳者注」を、お読みください。

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733634
https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733635


各セットの1曲目を見ますと、「Goldberg-Variationen」の、

全体像が浮かび上がります。

例えば、第3番目のセットの最初は「第7番 Gigaジーグ」です。

なぜ、7番がジーグなのかにつきましては、

前回、第3回目のアナリーゼ講座で、詳細にご説明しました。


★さて、第4回のアナリーゼ講座は、第10、11、12変奏です。

Bachは、第10変奏に「Fugetta フゲッタ」というタイトルを、

自分で書いています。


Fugetta とは、小規模なフーガ、または「小フーガ」という

意味でしょう。

 

 


★この第10変奏では、4小節の主題が全32小節の中で、

8回次々と、登場します。

いつもどこかの声部で、主題が奏せられていることになります。

ということは、フーガの緊張感を和らげる効果をもつ

「episode 嬉遊部」が、全く存在しないことになります。

さらに、フーガの華である「stretta ストレッタ」も、ありません。


★この「episode 嬉遊部」と

stretta ストレッタ」につきましては、私の著書

「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」

Chapter 2、 41ページで解説しております。

 

 


★小規模なフーガであるため、「episode 嬉遊部」も

「stretta ストレッタ」もなくて当たり前・・・とも、

思われ勝ちですが、もし、そのような小さいだけのフーガ

であったならば、わざわざ全30変奏の、

ちょうど三分の一に当たる、極めて重要な「第10変奏」に、

Bachはわざわざ、小さく、ある意味で“不完全なフーガ”を、

配置しなかったでしょう。


★7月30日の第4回アナリーゼ講座では、

この4小節のフーガの主題を用いて、

型通りのフーガを作曲しましたら、どうなるかを、試みます。

 


実際に、私が作曲しましたフーガと、Bachの偉大な、

「第10変奏 Fugetta」とを、比較してみます。


★それにより、この「Fugetta」が、盤石なばかりか、

どこからも揺るぎない、あたかも、双葉山の「土俵入り」、

神品に比すべき「土俵入り」のような作品であることが、

分かってきます。


双葉山の「土俵入り」の素晴らしさにつきましては、私の著書

「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり!」の

Chapter 3、91ページで書いておりますので、ご覧ください。


★この「Fugetta」を理解するための、前段として、

Fugaフーガの主題である Subject と 応答Answer について少々、

解説します。


フーガ曲頭にあります主調の主題「Subject」

 

 

を、そのまま「5度」高く移動しますと、

「Answer 応答」は、このようになります。

これを「real Answer 真正応答」と、呼びます。

 

 

 


★しかし、Bachは、このように作曲しています。

 

 

 

★これは、「alteration 変応」の技法を使った応答、つまり、

「調的応答 tonal Answer」とも、異なっているのです。

 

 


★アナリーゼ講座では、まず、

Fugaでの「alteration 変応」の由来と、その意味をご説明をし、

Bachがなぜ、「real Answer 真正応答」も、

「調的応答  tonal Answer」も、採用しなかったか?

そのことにより、この「稀有なFugetta」が、現出したか、

それを、どなたでも納得のいくご説明をいたします。

  

 

   
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