■平均律1巻3番は当時の革新的な調性、 異名同音調Chopin「雨だれ」の源泉■
~第3回KAWAI名古屋「平均律第1巻アナリーゼ講座」3番Cis-Dur~
2016.5.2 中村洋子
★初夏の早朝、飛び立っていくハミングバード(蜂雀)の羽音のような
「平均律クラヴィーア曲集第1巻3番 Prelude Cis-Dur 嬰ハ長調」は、
調号に「♯」が7つある、Bach の時代には極めて珍しい、
革新的な調性です。
★しかし、難解な曲ではなく、生きていることの愉悦を
表現しているような曲です。
Bachは、「フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」で、
平均律1巻の前半(7番を除く)11曲の Preludeを、
当時9歳を過ぎたばかりの長男のレッスン用に、まとめています。
★そのうち、5、6、10番は平均律の前半のみですが、
3番はほとんど省略せずに、フリーデマンに与えています。
子供にも、3番 Preludeを楽しみながら弾いて欲しかったのでしょう。
★子供でも容易に弾けるようにするために、
どのように勉強したらよいのか、そのカギは、やはり、
Bachの「Manuscript Autograph 自筆譜」にあります。
★心が躍るような軽やかな曲想は、途切れることなく、
3番 Fuga に引き継がれていきます。
この曲を理解し、容易に弾くためには、和声の理解が、欠かせません。
講座で、分かりやすく詳しくご説明いたします。
★Frederic Chopin ショパン(1810-1849)と、
Bartók Béla バルトーク(1881-1945)の両天才が、
この曲につけた Fingering を見ますと、
両者が Fingering で意図しようとしたことが、驚くほど似ています。
天才を知るのは、天才だけなのでしょうか。
★そのFingering の意図を理解いたしますと、
霧の中から建物が浮かび上がってくるように、
演奏が、立体的に表現されます。
★Chopin ショパンの「雨だれ」(前奏曲Op.28-15)は、
「Des-Dur 変ニ長調」です。
「Cis-Dur 嬰ハ長調」と異名同音調です。
「雨だれ」と、平均律1巻3番 Preludeとは、
非常に多くの共通点をもっています。
★「雨だれ」の源泉は、実は、Bachの平均律1巻3番なのです。
その点につきましても、
Chopinの「Manuscript Autograph 自筆譜」を、
参照しながら、お話いたします。
( Chopin 「自筆譜 」の読み方につきましては、
私の著書≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫
の「chapter 5」に詳しく解説しておりますので、
どうぞ、ご覧ください)
★それでは、 Chopinはどのようにこの「平均律1巻3番Prelude」
を弾いていたのでしょうか。
冒頭1~32小節目までは一見、「8小節単位」の構造にみえます。
1~8小節までの「8小節間」は、右手上声が“ハミングバードの羽ばたき”
のような分散和音で、Cis-Dur (主調)です。
★次の9~16小節の「8小節間」、羽音は左手に移り、
Gis-Dur(嬰ト長調 属調)となります。
17~24小節の「8小節間」は、ハミングバードがもう一度、
右手に舞い下ります。
★17~24小節は、1~8小節に対応し、
1~8小節の「Cis-Dur」を「dis-Moll(嬰ニ短調 下属調の平行調)」
に、移調しています。
25~32小節の「8小節間」も、9~16小節の「Gis-Dur」を、
「ais-Moll(嬰イ短調 平行調)」に移し替えただけのように、
見えます。
★1~8小節の「Cis-Dur」、9~16小節の「Gis-Dur」は、
二つの長調が連続しています。
同様に、17~32小節までは二つの短調です。
★見方を変えれば、1~16小節の長調部分を、17~32小節で2度高く移調し、
短調としたとも言えます。
★この調の変化は、ただ機械的に演奏しだだけでも、
それだけで、十分に美しいです。
★しかし、 Chopinはこの部分を類稀な洞察力で読み込み、
演奏しました。
彼の所持していた平均律クラヴィーア曲集の楽譜への≪書き込み≫が、
それを、如実に物語っています。
★1小節目は、8分の3の拍子の真下に「p」が記され、
1小節と2小節を分ける小節線を、またぐようにして「cresc.」が、
始まります。
★この冒頭8小節の頂点である4小節目の1拍目は、「f」。
しかし、2拍目が始まるや否や、「dim.(diminuendo)」となり、
7小節目で「p」に戻ります。
★1~8小節に対応する9~16小節につきましては、
9小節目には何の強弱記号も付けられてはいません。
それは、7小節目の「p」が、そのまま有効だからです。
★10小節目(2小節目に対応する)に、はっきりとした
「cresc.」が記されています。
頂点の12小節目(4小節目に対応)は、1拍目に、
「f」を記し、12小節と13小節を区切る小節線上から、
「dim.」が始まります。
12小節目は4小節目に比べ、forteの持続時間が長くなります。
★次の「8小節」の始まる「17小節目」は、早くも冒頭17小節目に
「cresc.」が現れ、頂点の20小節目(4、12小節に対応)は「ff」。
★このように観察し、 Chopinの Fingeringを解明しますと、
ほぼ Chopinがどのように、Bachを演奏していたかが、
類推できます。
★これが貴重な ChopinのBachに対する≪アナリーゼ≫
であると同時に、 Chopinの曲を演奏する際の≪要諦≫ともなります。
もちろん、1~8小節に対応する、
譬えようのなく美しい再現部「55~62小節」への書き込みも、
さらに注意深く観察すべきなのは、言うまでもありません。
講座では、それらの分析を詳しく、ご説明いたします。
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■日時 2016年6月29日(水)10:00 ~ 12:30
■会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」
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